愛され幼女   作:幸イテ(旧名:kouta)

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平和な舞台は整った。後はほのぼの日常書くだけじゃない!
というわけで短めですが日常編で一作です。
今回は前回頑張ったけど出番あまりなかったヴァイスさんメインです。
難しい部分はほぼ書き終えたかと思うので、
愛され幼女の今後はこういう短編をメインにシフトしていきたいと思います。


短編その1 ヴァイスさんの思い出の味

 

「軍人さん、こんな所に珍しい。何かお探しで?」

「その、だな。異国の調味料を探していてな」

「異国の? これはまた……何て名前ですかい?」

「ショウユ……というのだが」

 

 

 

「ここにもなかったか」

 ヴァイスは落胆の色を隠せなかった。それもそのはず、空振りに終わったのはもうこれで5件目だ。異国の調味料を仕入れているところと言えば大手であろうと、なるべく大きな食料品店を転々としているのだが、これがなかなかに見つからない。

 人と言うものは面白いもので、見つかなければますます欲しくなる。こうなれば丸一日使ってでもと意気込み、ヴァイスは次の店へと向かった。

 街中を徒歩で移動しているとどこも活気に溢れており、戦争は終わったんだとヴァイスはしみじみと思った。自分たちが頑張った結果がこの街並みだと思うと、誇り高い気分になる。かつての世界では一度焦土と化してしまっていたから、感慨深くもなろう。祖国で平和で暮らせるというのは代えがたい幸せである。

 そんな彼が今求めているのは異国の調味料、ショウユだったりするわけだが。ショウユは秋津島皇国の代表的調味料であるが、ヴァイスにとってこのショウユは強く記憶に刻まれていた。いわゆる思い出の味と言うやつである。

 そのショウユをかける相手は芋だ。戦時中の食料と言えば芋、芋と言えばタイヤネン、タイヤネンと言えば食中毒、そういえば彼は今回も脱落していたなぁ、なんだか話がずれてきたので戻そう。とにかく芋は戦時の中の食料としては代表的なものの一つで、その味を食べ飽きていたヴァイスにとっては美味しいものではなかったのだが、その評価を一転する事が起きたのである。

 

 

 それはサラマンダーエアサービスが設立して、ようやく軌道に乗ってきた時の事であった。ZAS社は表向きは航空会社、裏では傭兵稼業というその業務上、機密保持の理由から僻地にある。よって勤務中の食事は会社にある食堂で済ますのが日常となっていた。

 寝泊まりする宿舎も会社の近辺にあり、一種の孤立状態となっているため、社員の間では小腹が空いた時は外に出るなんて事はせず、食堂にあるインスタント食を自分で調理して食べる習慣が出来ていた。

 ヴァイスもその例にもれず、夜中に食堂に行ったわけであるが、その日は珍しくターニャがいた。しかも似合わないエプロン姿で。あり得ない光景に現実逃避しかけたヴァイスであったが、ターニャから声をかけられた事で我に返る。

「なんだ、ヴァイスか」

「社長殿がこの時間にここにいるなんて珍しいですね」

「ちょっと珍しい調味料を手に入れてな。どうにも我慢できなくなった。それにこうした時間でもないと皆寄ってくるだろうからな。こうしてひっそりとやらしてもらってたわけだ」

 なるほどとヴァイスは頷く。確かに社長殿の料理などと聞けばヴィーシャなど泣いて喜びそうだ。他の皆だって少なからず興味は持つはずだ。

「なんていう調味料なんです?」

「ああ、醤油と言ってな。秋津島皇国の調味料だ」

「社長殿の秋津島皇国好きは相当ですね。行った事あるんですか?」

「行ってみたい、とは思うんだがなぁ」

 そう言いつつターニャは小皿に汁を入れて味を確かめる。うんと頷いている事からして納得する味だったようだ。ターニャの家庭的な姿に違和感を禁じ得ないヴァイスであったが、よくよく見ると手際はすこぶる良く、手慣れた感すらある。

 ターニャの凄さは散々思い知ったつもりのヴァイスであったが、ここでまた新たな特技を見せられるなど思いもしなかった。

「しかし社長殿、料理が出来たんですね」

「失礼だな。一応これでも女だぞ?」

「いえ、決してそういうつもりで言ったんじゃ……」

「ジョークだジョーク。まったくお前は相変わらず固いな」

 真面目すぎると言われるヴァイスはからかわれる事は良くあったが、過去と違い今のターニャは、平均的な女性からすれば小柄ではあるものの、美女と言っても良い。上司とはいえ所々に感じる色気にはどぎまぎしてしまう。頬が熱くなるのを感じたヴァイスは慌てて話を料理の方へ移す。

「ところで一体何を作ってるんです?」

「これか? これは肉じゃがと言う」

「ニクジャガ、ですか?」

「秋津島皇国の家庭料理だな。いわゆるおふくろの味というやつか」

「おふくろの味? ですか……」

「うん? ひょっとして帝国ではおふくろの味という表現は使わないのか? 孤児院育ちだからそこらへん分からんな……失言だったか? いや、でも過去のテレビ番組では……」

 ぶつぶつ独り言を始めてしまうターニャであったが、ヴァイスには何を言っているかさっぱりだったのでそのままぼんやりと鍋を眺める。ふと旨そうな匂いがよぎったのはその時であった。ぐぅーっと情けない音が辺りに響き渡る。

「む?」

 音の主はもちろんヴァイス、の腹である。元から空腹を覚えて食堂にやってきたのだ。そんな時にこのような匂いをかがされたら腹も鳴るというものだ。ヴァイスの今度は別の意味で赤面している様子を見て、事情を察したターニャは心底おかしそうに笑う。

「ハハハ、過去のチョコレートの件と言い、本当にお前は可愛い奴だなぁ」

「しょ、しょうがないじゃないですか! それと甘いのが食べられるのは女性だけの権利ではありません!」

 腹が鳴るのは生理現象なんだからどうしようもない。チョコレートだって美味しいのがいけないのだ。

「それはその通り。だが甘党であればちょうどいいかもしれんな。ヴァイス、皿を用意しろ」

「え?」

「食べさせてやると言ってるんだ。もう出来上がるから早くしろ。米も炊いてあるからお椀も準備してくれ」

「わ、分かりました」

 なし崩しにターニャの料理を食べる事になったヴァイスは慌てて食器類の準備に入る。ヴァイスが食器棚を漁っているとコップが目に入った。食事と言えば飲み物が不可欠だ。ニクジャガがなんたるかを知らないヴァイスはターニャに問いかける。

「社長殿、そのニクジャガに合う飲み物はなんでしょうか?」

「お、流石に気が利くな。甘いものだから酒は正直合わん。それ以外だったらなんでもいいぞ」

「承知しました」

 準備を続けるヴァイスの期待は高まっていた。ターニャの料理をいただくのは初めてであるが、まず間違いなく旨い。先ほどかいだ匂いが証拠だ。あれほど食欲をそそられる匂いは早々ない。さらに味付けは甘めだという。期待するなという方が無理であった。

 そうして食卓に並んだのはご飯と肉じゃがの2品。ヴァイスチョイスの飲み物はなんと緑茶であった。秋津島皇国の料理と聞いて気を利かせたらしい。ちゃっかりターニャの中でのヴァイスの評価がまた上がった。

「本当なら焼き魚とみそ汁が欲しいところだが文句は言うまい」

 ターニャの秋津島皇国好きは筋金入りだ。分からない料理名を聞いて首をかしげるヴァイスであったが、目の前の料理から漂う匂いにいよいよ我慢が出来なくなってくる。

「社長殿!」

「ん? ああ、食べても良いぞ」

「では、いただきます!」

 ヴァイスは己の食欲にまかせて、フォークを豪快に肉じゃがに突き立て、一個まるごと頬張る。その瞬間ヴァイスの中で衝撃が走った。

「どうだ?」

「……うまい!」

 一言で言えば染みわたる味と言えばいいのだろうか? 甘さと旨味が口の中でじんわり広がり、ヴァイスは顔をほころばせる。驚くべきはこのニクジャガのメインとなる原料だ。これはどう見ても芋だ。だがヴァイスの持っている芋のイメージと似ても似つかない。

「社長殿、これは芋、なんですよね?」

「言いたい事は分かる。戦時下と全然違うだろう?」

「ええ、こんなにうまいものだったとは……」

「ふむ、料理の腕を褒められるのも悪い気はしないな。どうせ保存が効くと思って多めに作ってある。お代わりしたいのなら遠慮せず言え」

「分かりました!」

「では私も食べるとしようか」

 ヴァイスとは違い、ターニャは秋津島皇国の食器、箸を器用に使いこなし、芋を切り分けて口へと運ぶ。ターニャとしては久々に行ったかつての日常でしかなかったが、ヴァイスにとっては全く違う。ターニャの一連の動作は洗練されているように見え、美しいとすら思えた。

「……どうした?」

「いえ、何て言いますか。長年こうして一緒にいさせていただきましたが、社長殿についてまだまだ知らない事があるんだなと」

「他人を完全に理解したって思うのは完全に妄執だぞ? 人は常々変わり続けるものだからな」

「おっしゃる通りで。今の社長殿は強くてお美しいです」

「ぶーっ!!」

 ヴァイスの思わぬ攻勢にターニャはお茶を拭きだす。世にも珍しいターニャの焦った様子を見てヴァイスは笑みを漏らした。

「これで一矢報いる事が出来ましたかね?」

「き、貴様ぁぁ、上司をからかうとは」

「いえ、普通に本音ですが」

「なにぃぃぃぃぃ!?」

「ここの皆も口には出さないけれどもそう思ってますよ」

「んな……」

 嘘なんて微塵もない。口をパクパクさせているターニャをしり目にヴァイスはもくもくと肉じゃがを食べる。

「くそ、ここで癇癪起こせば貴様の思うツボだな。まったく上司を口説くとは随分と肝が据わったものだなヴァイス」

「私も変わったという事ですね」

 何せ戦争を体験したのだ。栄光の勝利もあった。耐えがたい敗戦もあった。この人の元で本当に色んな事を体験した。肝も据わるというものだ。

 それにヴァイスは知っている。この生涯にわたっての鬼上司は意外にも優しいと。何せ手料理を振る舞ってくれるくらいだ。特に軍という枠組みから外れた現在は、行動と言動が全くかみ合っていない。実際ZAS社設立時に過去の部下全員呼ぶとか狂気の沙汰だ。ターニャの尽力があったからこそ、ヴァイス達は帰るべき場所を得る事が出来た。感謝してもしきれない。

「今度私も料理始めて見ましょうかね?」

「お前が作るとなると甘口カレーとか作りそうだな。ま、前とは違って時間はたっぷりある。趣味を持っても損はないだろう。なんでもやってみるがいい」

「人様に見せられる腕になったら真っ先に社長殿に振る舞いますよ」

「はは、期待しないで待っておくとしよう」

 その後もヴァイスのターニャの肉じゃがを食べる腕は止まらず、何度かお代わりをした彼はこの穏やかな時間を満喫したのであった。

 

 

 今や懐かしき記憶、過去に戻ってきて再度戦時下を体験したヴァイスであったが、兵として大ベテランであっても我慢ならなかったのが食事である。ターニャのニクジャガの味を知っている今のヴァイスにとって、味のしない芋は拷問に近かった。

 芋を食べれば食べるほどニクジャガへの思いは募っていった。だが流石に戦時下は無茶だったので、今になってやっと行動を起こせた次第である。といっても肝心のショウユがなかなかに探せないのであるが。

「ここもないか」

 最初こそ気合十分であったが、空振りも6件ともなると気がめいってくる。まあ手に入ったとしても料理初心者がレシピもない状態で作るはめになるわけだが。ぶっちゃけ手に入ったとしても材料ごと台無しになる可能性大であった。

「諦めるしかないか……しかし食べたいものは食べたい」

 どうするか、と考える事数十秒、後ろから声がかかった。

「なんだ? ヴァイスか」

「これはこれはデグレチャフ少佐、奇遇ですね」

 まさかのターニャご本人の登場である。

「こんなところにいるのは珍しいな」

「ちょっと探し物をしていたんですよ」

「食料品店でか? 自炊でもするのか?」

 自炊はしないが食べたいものはある。そう素直に言うのは憚られるのでヴァイスは適当に理由をつける。

「料理はさっぱりですが……前まであれだけ忙しくしていたので、休暇中何をしていいか分からなくなりまして。時間を無駄にするのもなんですし、試しに始めて見ようかと」

「普通に遊べばいいだろうに……貴様は酒癖が悪いんだったな」

「恥ずかしながらここいらのお店はほとんど出禁です」

 ヴァイスは酒のみの中でも特に厄介な絡み酒の持ち主だ。特に女性に寄って行くときなんかは最悪極まりなく、ただのエロ親父でしかない。ヴァイス本人はその時の記憶は忘れてしまうタイプのため、皆から言われてもあまり信用していなかったのだが、その結果が今である。

 しかしながらこうした汚点があったからこそ、『料理を始める』というトンデモ案でも素直に信じてもらえたのだから、何がどう転ぶか分からないものである。

「まあ料理と言うのも悪くないもんだぞ」

 そう言えばなぜターニャがここに来たのだろう。思わせぶりな発言にヴァイスの期待は嫌が応にも高まる。ターニャが持っている買い物かごには生の食材がそのまま入っている。となると答えはほぼ決まったようなものだ。

「デグレチャフ少佐も自炊のためにここに?」

「ああ、ちょっと面白いものが手に入ったんでな。本当は専門家にやってもらいたいところだが、私が食べたいのは異国の料理。下手に任せるよりも自前の方が、まともになりそうなんであえて自炊する事にしたわけだ…ってどうした? 呆けた顔をして」

「その、面白いものとは?」

「ああ、醤油と言ってな。秋津島皇国の調味料だ。いわゆるソースの一種だな」

「!!?」

 こんな偶然があっていいものなのだろうかとヴァイスは驚愕する。食料品店で出会ったからもしやと思っていたが、それが当たるなんて。ただ残念な事にここは食堂ではない。意地汚い話にはなるが、前のようにご相伴に預かりたいと頼んだって無理だろう。

(しかしこのチャンスを逃すのか? 余りにも勿体ない。後からショウユだけおすそ分けしてもらうのはどうだろう? いや、せっかくなら少佐殿のニクジャガが食べたい! でも待てよ? ショウユがあると言ってもニクジャガになるとは限らないじゃないか。でもニクジャガ食べたい。あの甘くてふんわりしたニクジャガをもう一度食べたい……少佐殿ぉぉぉ)

 必死過ぎるヴァイスの心の叫びが通じたのか、ターニャはふと思いついたように言った。

「そういえばこの前グランツの面倒を見てもらった礼をしていなかったな。ヴァイス少尉、自炊すると言っても見たところまだ何も買っていないようだ。せっかくだからこのまま私に付き合え。飲みにも行けないんだ。どうせ暇だろう?」

「よ、よろしいのでしょうか?」

 と遠慮見せつつヴァイスは内心で喝采を上げていた。あの時の俺まじでナイス!! サイコー!! 情け人のためにならずとはまさにこの事だ。ちなみに意味はかつての世界でターニャから習った。

「遠慮はいらんぞ。ただし酒だけは飲むなよ」

「わ、分かりました!」

 こうしてヴァイスは期せずしてターニャにお呼ばれする事になったのである。

 

 

 ちなみに戻ったのはターニャの家、ではなく宿舎だ。平時となってもまだまだ203航空魔道大隊は忙しいため、ターニャも含めて宿舎暮らしである。お金は相当溜まっているが、贅沢な暮らしとは早々いかないのが世知辛いところである。だからといって豪邸に住みたいなど誰も思ってはいないだろうが。

 宿舎の食堂に入るとそこにはヴィーシャが待っていた。

「あれ、ヴァイス少尉ですか? 他の皆と遊びに行ったのでは?」

「こいつは店から出禁くらってるらしくてな。時間持て余していたようなので連れてきた」

 ヴィーシャは出禁と聞いて顔をしかめる。ヴァイスの酒癖の悪さは知れ渡っており、特に女性陣にとってすこぶる評判が良くない。もはや言い訳しようもないのでヴァイスは笑ってごまかすしかできなかった。

「なかなかに運が良いですね。よりにもよってこの日とは……」

「という事はセレブリャコーフ少尉も?」

「ええ、少佐殿の食事はいつも私が出していますからね。今日の夕食は自分で料理するからいらないって言われたので、手伝いする代わりにご相伴に預かる事にさせていただきました」

「なるほど」

 当たり前っちゃ当たり前の話であった。今の生活であればヴィーシャが同伴して然るべきである。一人納得しているとヴィーシャはジド目でヴァイスを見る。

「今回は抜け駆けさせませんよ」

「うぐっ」

 実のところヴィーシャはかつての世界で、ヴァイスがターニャの料理を独り占めしたのを根に持っていた。というのもZAS社の社長であるターニャはいつだって忙しく、彼女が料理する機会はあの夜食以降、一度もなかったのだ。

 完全に私怨であるがヴァイス自身、例えばケーリッヒやノイマンが先に食べていたとしたら、絶対嫉妬していたと思うので、ヴィーシャに強く出れず困ったように頬をかいた。

「ま、いいでしょう。実はちょっと仲間が欲しいなと思っていたところなんです」

「というと?」

「私はこれから少佐殿の準備を手伝います。料理は多少覚えはありますから。でもその間誰か帰ってくる事もあるかもしれません。そうなると……」

「そういう事か」

「ええ、少佐殿の料理は皆食べたいはず。もしも皆にばれたらここは……」

「地獄と化すな。分かった。調理中の見張り役は引き受けよう」

「宜しく頼みます!」

 ここに悪魔の協定が結ばれた。普段は寛容な二人もターニャの料理となれは悪魔にもなる。何せ203魔道大隊はその名の通り大隊で大人数だ。いくらターニャが料理できようともプロの調理人ではない。全員分一気には作れないのだ。彼女の料理にありつけるのは選ばれし者のみなのである。ターニャ大好きランキング上位ランカーの二人がその権利を手放すわけがなかった。

 

 

 そして調理が始まっておよそ一時間、誰かが帰ってきたなどという問題は特に起きず、ヴィーシャからお呼びの声がかかる。期待を胸に食堂へと足を踏み入れたヴァイスの目の前には夢にまで見たものがあった。そう、肉じゃがである。

「おお……ニクジャガだ……またこの目で見れるなんて……」

「これが……夢にまで見た少佐殿の……」

 二人から感嘆の声が漏れる。目の前に出されたそれは湯気が立っており、旨そうな匂いが鼻腔をくすぐる。ヴィーシャなんかはすでによだれを垂らしていた。さらに言えば今回は肉じゃがだけではない。

 前は夜食だから控えめであった。だが今回はれっきとした夕食である。ヴァイスが耳にしていた焼き魚、みそ汁なるものとも対面できたのである。ちなみにコンプリートしたはずのターニャであったが、今度は「後は漬物があれば……」などと言っていた。

「ツケモノ、ですか?」

「要はピクルスのようなものだな。まあいい。今回はこれで十分だ」

「ではいよいよ……」

「ああ、食べるとしようか」

「はい!」

「ぜひ!!」

 帝国に『いただきます』の習慣はなかったが、二人はターニャがやったのをそのまま真似る。そして言い終わった瞬間、二人は速攻で料理を口の中へとかけこんだ。

 長い時を経て再度巡り合う事が出来た肉じゃがの味は最高であった。感動の再会にヴァイスは震える。思わず出かかった涙をこらえ、あの甘くて優しい味を堪能した。一方でその横ではヴィーシャがすごい勢いで食べていた。今の彼女はまるで頬に種を詰め込んだリスだ。そう、彼女は意外と大食漢なのである。

「そう、この味だ! この味を求めていたんだ!!」

「はふっはふっ」

「二人とも凄い食欲だな」

 ターニャは呆気にとられた様子で二人の食べっぷりを見ていた。「旨いから当たり前です」、そう返そうとしてヴァイスがターニャに向き直ったが、ふと彼女が優しく微笑んだのを見てしまい言葉を失った。

 かつてターニャは肉じゃがをおふくろの味と言ったが、今になってようやく理解できた。目の前にいるターニャはかつてとは違いまだ幼女であるが、今の彼女は慈愛に満ちた母親そのものであった。そう、肉じゃがはまさしく母の味なのだ。

 ふとヴァイスの脳裏にあの時言った言葉がよぎり、己の感情に任せるままそれを口にした。

「やはり少佐殿は強くて美しいですな」

「んな!?」

「ちょっ!?」

 ヴァイスのいきなりの女性として褒める発言にターニャとヴィーシャが固まる。決して悪い言葉ではなかったがタイミングが最悪だ。二人きりならともかくとして、こういう場でも軟派な発言してしまうのがヴァイスがヴァイスたる所以である。

 

 この後ひと悶着あったのだが、きちんとターニャの料理は完食しましたとさ。

 

 後にこの事実を知った203魔道大隊の面子(+レルゲン)が、ターニャの料理を求めて血みどろの争いを繰り広げるようになるのは、もう少し後の話である。

 

 

 




肉じゃが、美味しいですよね。


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