スズカさんがニュータイプに目覚める話   作:K氏

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 今年最後の初投稿です。
 あと、仕事疲れやら何やらでやって来なかったですが、今作から感想への返信も順次やって行こうと思います。


例えば、こんなデート(前)

「ちぃ、なんなんだよアイツは!」

 

 荒れた市街地を、一体の緑色のロボットが駆け抜ける。右へ、左へと、縦横無尽に走り抜ける。

 その背部ブースターは片方から黒煙を上げており、左腕も肘から先が失われており、あちらこちらに生々しい戦闘の痕が見受けられた。

 

「やられちまった……ゴンドウも、ヤッシュも……」

 

 思い出すのは、つい先程までの光景。

 いつも通りチームで他のマシンを妨害してから勝ちに行くスタイルで、生意気にも一機で挑戦しに来た白い機体を潰そうとした。

 だが――結果はその真逆。

 あっという間に仲間の二機がやられ、残る自分もほぼ半壊状態まで追い込まれてしまった。

 

「クッソォ! こうなったら何が何でもゴールしてやる! そうすりゃ――」

 

 そこまで言いかけた緑のロボットのパイロットだったが、目の前を突き抜ける一条の光にそれを遮られる。

 

 ビルを貫通したビームを見て、パイロットは敵が近くまで来ている事を察する。

 

「畜生! 野郎は何が見えてんの!」

 

 思わずそう叫びながらも、今度は機体を蛇行させつつ、時折ブレーキを織り交ぜながら確実に前へと進んでいく。

 そこへ――

 

「き、来たァ!?」

 

 白い機体が横の道から飛び込んでくる。

 二本のV字ブレードアンテナを持つその機体を見たパイロットは、顔面を引きつらせながら叫んだ。

 

「悪魔めぇ!」

 

 そう叫びながら、残された右腕が握るマシンガンを乱射。

 だが、その弾丸が見えているかのように、白い機体は左右へと避けながらこちらに接近してくる。

 

「イィィィ!?」

 

 パイロットの顔に、明確な恐怖の表情が浮かび上がる。

 と、そこに――

 

『やらせっかよォ!』

 

 白い機体の横合いから、ミサイルが飛んでくる。

 撃破ペナルティでスタート地点から再スタートさせられていた仲間が到着したのだ。

 そして、緑の機体を庇うように、紫の機体がホバーでやって来る。

 

『大丈夫かよケン坊!?』

「あぁ、なんとかな」

 

 パイロットは、額から滲み流れる汗を拭う。

『ここは俺らに任せて、先行け!』

「いや、そうはいかねぇ。二人でやっても、さっきの二の舞。だったらここは、三人で一気に叩く!」

 

 三人組のリーダー格らしい緑の機体のパイロットが、他の二機に指示を出す。

 

『おい、マジかよ!?』

『ったく、仕方ねぇな! 行くぜオラァ!』

 

 残りの二機は驚きつつも、緑の機体の指示に従い行動を開始。

 まずは紫の機体がバズーカを構え、着地しようとする白い機体に向けて発射する。

 だが、それすらも見越していたのか、白い機体はスラスターを利用して斜めに飛び上がり回避。そのまま空中を駆けるようにして接近してくる。

 それを見たミサイルを撃ったグレーの機体が、左手で身体を覆える程の大きさの盾を構えつつ、右手のビームライフルを構え――

 

『なぁッ……!?』

 

 ――る前に、白い機体がブーストを使い、グレーの機体の眼前まで瞬時に到達。至近距離からビームライフルを三発放ち、行動不能に追いやった。

 

『嘘ォ――』

 

 何かを言い終わる前に、グレーの機体は爆発四散。その爆炎の中から、再び白い機体が突っ込んでくる。

 

「ぅ……わぁぁぁぁ!!!」

 

 それを見た緑の機体のパイロットは、恐怖心からかマシンガンを乱射。

 次いで、紫の機体もバズーカを連射する。しかし、その攻撃ですら見えているかのように白い機体は左右に素早く動いてかわしていき、とうとう目の前まで到達してしまった。

 

『まだァ!』

 

 だが、そこで紫の機体のパイロットは機転を利かせ、緑の機体の前に出ると、腹部の拡散ビームを放つ。これは、威力こそないが、その代わり目眩ましとしてかなり有用な武装で、白い機体も流石にこれには怯んだようで、機体が硬直する。

 

『もらったァ!』

 

 その隙を見逃すまいと、紫の機体はヒートサーベルを装備、白い機体に刺突を食らわせようとする――だが!

 

「――な、ァ」

 

 気付いた瞬間、やられていたのは――後ろにいた緑の機体だった。

 

 一体今、何が起きたのか? 答えは単純。

 

 白い機体が瞬時に紫の機体を踏み台にし、そのまま後ろにいる緑の機体を撃ったのだ。

 

『お、俺を踏み台にしたァ!?』

 

 あっけにとられる紫の機体。そんな彼に一切の情け容赦なく、白い機体は振り向く事無くライフルだけを背後に向け、紫の機体を撃ち抜いた。

 

 三機のマシンがあっという間に沈黙させられた中、白い機体は無感動な様子で、そのままゴールへ向かい――

 

 

 

 

******

 

 

 

 

『WINNER! A.R.!』

 

 ――都内某所のゲームセンター。その一角に置かれた大型のゲーム筐体、『モビルランナー3』の周囲は大盛況であった。

 

「うぉー! すげぇ!」

「あの白い機体、何者だよ!?」

「三人相手を一人でやりおった!」

「三対一でもなんとでもなるはずだ!」

「じゃあお前がやって見ろよ」

 

 ゲームで大盛り上がりする人々(大半が男)に一人囲まれ、圧倒されていたのは、緑のメンコを付けた栗毛のウマ娘、サイレンススズカ。

 その服は、緑のスカートに白のジャンバー、そして髪と同じ栗毛色のマフラーと、完全な私服であった。

 

「……凄い」

 

 周りの人々の勢いもそうだが、先程彼が見せた超機動。ウマ娘として、あのスピードに感動を覚えないものはそういない筈だ。

 

「やるねぇ、流石は『白い悪魔』!」

「よせよ、それじゃ蔑称だ」

「おいおい、これでも褒めてんだぜ? もっと喜べよ!」

 

 そんなやり取りが聞こえ、その内片方が聞き馴染みのある声だった為に振り向けば、己のトレーナーが店長らしき人物に絡まれていた。

 所謂『ダル絡み』を受けつつも、トレーナーの顔はどこか満更でもなく。

 

(……ええと、どうしてこうなったんだったかしら)

 

 そんな光景を不思議そうに、かつ微笑ましそうに見つめながら、スズカは記憶を遡る。そう、あれは昨晩の事――

 

 

 

 

******

 

 

 

 

「ど、どうしたんですかスズカさん!? いつもより多く回ってますよ!?」

 

 驚きの声を上げたのは、部屋に帰ってきた同室の後輩、スペシャルウィーク。

 彼女の言う通り、スズカは何か悩むような仕草をしながら、生来の癖らしい左旋回を繰り返していた。それもいつものペースではない。かなりのハイペースだ。

「スズカさん? スズカさーん! あ、あわわ……どうしよう。いつもならちょっと声を掛ければ気付いてくれるのに……」

 

 しかも、当人はその自覚がないらしく、また、スペシャルウィークが帰ってきた事にも気付かず、ただひたすらに考え事をしていた。

 

「よ、よぉ~し! それなら!」

 

 そこで、一つの妙案――と呼ぶには些かありきたりだが――を思い浮かんだスペシャルウィークは、それを試す事にした。

 

 それは――

 

「スズカさんッ!!!!」

「ッ!? す、スペちゃん!?」

 

 シンプルに行く手を阻むというものだった。

 

 

 

 

 それからしばらくして。

 

「……ごめんなさい、スペちゃん。邪魔だったでしょ?」

「いえいえそんな! 私はそこにスズカさんがいてくれればいいので!」

「??? ……よくわからないけど、スペちゃんがそれでいいのなら」

 

 そんなこんなで落ち着いたらしいスズカと、スペシャルウィークは改めて話をしてみる事にした。

 

「それで、何かあったんですか? 随分悩まれてるようでしたけど……」

 

 そう問われ、スズカはしばし逡巡すると、恐る恐る口を開いた。

 

「……スペちゃんって、確か今はチームに入ってたわよね?」

「あ、はい! ……正直に言えばスズカさんと同じチームに入りたかったですけど、専属ですから仕方ないですよね」

 

 「あ、でもでも! 色んな人がいて楽しいチームですよ!」とスペシャルウィークは慌てたようにそう訂正した。

 

 ウマ娘のトレーナーにも種類がある。一つは、スズカのように一人にのみ専任してコーチングする専属トレーナー。二つ目は、現在のスペシャルウィークのように複数人のウマ娘を纏めてコーチングするチームトレーナー。そして、それらのトレーナーの補助を行うサブトレーナー。大まかにはこの三種類だ。

 当然、それぞれに良し悪しというものがあり、例えば専属トレーナーは一人のウマ娘に集中してトレーニングを施す事が出来るが、反面レース勝利の際に入ってくる収入はチームトレーナーと比べ減ってしまうし、そもそもスカウトが出来るような実績と実力が無ければ専属トレーナーとして認めてもらえない。その点で言えば、チームトレーナーもスカウトが出来ないとやっていけないが、基本的にウマ娘は「チームに所属しないとレースに出られない」という共通認識がある為、その点で言えば専属トレーナーよりかは広き門と言える。何せ、専属トレーナーになれるような実力者には、相応のウマ娘がやって来るものだ。並大抵のウマ娘や晩成型のウマ娘にとっては狭き門の争いになる。

 一応、やろうと思えば新人でも専属トレーナーになる事は出来るが、それは余程優れたウマ娘がスカウトできた、あるいは逆スカウトされたといった運の良さがつき纏う。

 そうした経験不足を補う制度が、サブトレーナー制度だ。これはチームのみに限られるが、もう一人のトレーナーとしてウマ娘にトレーニングを施す事が可能であり、相応の腕、あるいは事情があればチームを引き継ぐといった事すら可能なのだ。もっとも、後者に関しては殆どのケースが引退する予定のあるトレーナーのいるチームに限定されるが。

 

 閑話休題。

 

 スペシャルウィークの言葉に耳を向けていて、スズカの中にふと、疑問が思い浮かぶ。

 

「……あの人って、専属トレーナーだったんだ……」

「スズカさん!?」

 

 驚くスペシャルウィーク。

 

「そう言えば、私以外のウマ娘をトレーナー室とかで見かけないなって思ってたけど……そういう事だったのね」

「スズカさん……いくら何でも走る事好きすぎじゃないですか……?」

 

 「かもしれないわね」と、スズカは愉快そうに微笑んだ。が、話が逸れそうになっているのを自覚すると、こほん、とわざとらしく咳払いをし、改めて話を進める。

 

「それで、ちょっと聞いてみたいのだけれど、スペちゃんはトレーナーさんとの仲はどうなの?」

「トレーナーさんとの仲、ですか?」

「えぇ。スペちゃんから見て、その……良いのかしら?」

「……?? はい! 凄く良くしてくれますよ! いつも私の事を気にかけてくれていますし!」

「そうなの」

 

 気にかけるというと、やはり北海道から出てきた事だろうかとスズカは想像する。

 元々スペシャルウィークは、周囲にウマ娘がいない特殊な環境で育ったウマ娘だ。

 そういう事もあり、スズカと初めて出会った時、それはもう大はしゃぎだった。

 ただその反面、まだまだ自分以外のウマ娘との付き合い方がよく分かっていない、少し危ういところがあり、そういった所を気にしてもらえているのだろうと、スズカはそう解釈した。

 実際、スズカから見てもスペシャルウィークの距離の詰め方は、なんというか、凄い。

 

「あ! でも、最近はもっと距離感近くなったかなーって思うんですよね!あ、勿論嫌ってわけじゃなくてですね! こう、なんていうか嬉しいっていうか! あ! スズカさんの事も大好きですよ!?」

「そ、そう……。ありがとう……」

 

 あまりにも真っすぐで勢いのあるスペシャルウィークの親愛の情に、スズカはやや照れ臭げにはにかんだ。

 そして、そんなスペシャルウィークの様子に絆されたのか、スズカは決心を固めた。

 

「……そのね、スペちゃん。私、トレーナーさんの事が(人柄的な意味で)好きだけど、実はあまりトレーナーさんの事、良く知らないの」

 

 暫しの沈黙が訪れた。そして――

 

「えぇーーーーッ!?」

 

 当然その後、大声を出したスペシャルウィークは怒られた。

 

 

 

 

「……え、じゃ、じゃあスズカさんは、人柄だけでトレーナーさんと?」

 

 「そういう事になるわね」と、あっけらかんとスズカは言ってのけた。

 

「でもでもっ、トレーナーさんですよ!? トレーナーさんなのに、どうして……」

「だって、ほら。私、走る事しか興味なかったから」

「それ堂々と言う事じゃないですよ! おかしいですよスズカさん!」

 

 ぐずったように言うスペシャルウィーク。しかし、それも無理はない。

 何せ、彼女はこれまでずっと走り続けてきたのだ。先頭の景色を見る為に。ただそれだけの為に。それ以外の事は必要ないと切り捨てて。

 だが――それが逆に、彼女を悩ませる要因となっていた。他でもない、自分を見出してくれたトレーナーが相手なだけに。

 別に、自分のトレーナーに対して不満があるわけではない。むしろ感謝しているくらいだし――最近は、彼と共にいると、暖かな気持ちになれるのだ。今まで、感情を読み取る力のせいであまり人と関わりたくなかったから、そんな暖かな気持ちになれる事が、新鮮で、気分がいい。

 それでも尚、こうしてスペシャルウィークに話す程度に、彼女の中でわだかまるものがある。

 そして難題だったのが、スズカはそれが何なのかよく分かっていないという事だった。あまりにも人付き合いをしてこなかったが故の反動とでも言うべきか。

 

「だからね、私、トレーナーさんの事をもっと良く知りたいとは思うのだけれど……正直、どうすればいいのか、分からないの」

「分からない、って――」

 

 スペシャルウィークは絶句した。まさか、自分の敬愛する先輩が、人付き合いになるとここまでポン……もとい、苦手になってしまうとは。

 確かにスズカは、あまり感情を表に出したりしないタイプではあるが……それにしてもこれはあんまりではないか。

 スペシャルウィークは思わず天を仰いだ。

 

(……あれ? ちょっと待つべ?)

 

 そこでふと、スペシャルウィークは思い至ってしまった。

 スズカは今、自分はトレーナーの事が好きなのだと言った。それはつまり、その……恋愛対象、として見ているという事で間違いないはずだ。

 では何故、スズカはそれを直接本人に伝えようとはしていないのだろう? いや、そもそもの話だ。

 スズカは自分の気持ちに気づいているのだろうか? もし気づいていないとしたなら、どうなる? …………。

(※念の為に注釈。上記はあくまでもスペシャルウィークの思考です)

 

「あの、スズカさん。一つ聞きたいんですけど、スズカさんは本当に、その……トレーナーさんの事が"そういう意味"で好き……なんですか?」

 

 恐る恐ると、赤面しながらそう尋ねるスペシャルウィーク。するとスズカは、

 

「そういう意味って?」

 

 と、心底不思議そうな顔で問い返してくる。

 そんなスズカを見て、己の考えが間違っていた事にようやく気付くスペシャルウィークだった。

 

 ほっ、と内心安堵の溜息を吐いたスペシャルウィークは、改めてスズカを見つめる。

 

「す、スペちゃん? どうかしたの?」

「い、いえなんでも! そんな事よりもですよスズカさん!スズカさんの悩みは分かりました!」

「そ、そう。ありがとう」

「はい!……それでですね、私考えたのですが」

 

 スペシャルウィークの瞳に、決意の色が灯った。

 

「スズカさんは、トレーナーさんの事を何も知らないから、もっとトレーナーさんの事を知りたいんですよね?」

「え、ええ。そうね」

「なら、お出かけするというのはどうでしょうか!」

「お、お出かけ?」

「はい! 私もチームの皆さんやトレーナーさんと一緒に買い物に行ったりするんですけど、スズカさんはそういうの行かないんですか?」

 

 そう訊かれ、暫し思案するスズカ。

 

「……ないわね」

「一度も!?」

「一度も」

 

 再び天を仰ぐスペシャルウィーク。だが、これはチャンスと言えるかもしれない。普段ならスズカが先輩だが、これに関しては自分の方が先輩と言えるかもしれない!

 ここは、自分が頼りになるところを見せる場面だ! と。

 

「スズカさん! ここは思い切って、誘ってみましょう! 大丈夫! 話に聞いた感じだと、そのトレーナーさんも付き合ってくれますよ!」

 

 スペシャルウィークは拳を強く握り締め、そう熱弁した。

 

 そんな彼女にスズカは少したじろぎながらも、考える素振りを見せた後、「でも、いいかも」と答えた。

 その答えに、スペシャルウィークの顔がぱぁっと明るくなる。

 

「じゃあ決まりですね! それじゃあどこに行くかなんですけど――」

 

 

 

 

 

 そうして遊びに来たのがこのゲームセンターであり、最初にクレーンゲームで遊ぶ、筈だったのだが――

 

『おうおう兄ちゃん、そんなカワイ子ちゃん連れてどこ行くってんだ?』

『ここで遊びたきゃ、俺達に勝ってからにしてもらおうかぁ!』

『えっ、え? あ、あの……』

『最近噂のランナー狩りか……スズカ、下がっているんだ』

『へ? あ、はい』

 

 そんなよく分からない流れで――トレーナーは自然な流れでゲームの筐体に入り――、あれよあれよという間にギャラリーが増え、そして今に至るというわけだ。

 

「最近はトレーナー業が忙しくてめっきりこれ無くなっていたが……いい調整をしている」

「へッ、ここはランナーにとっての聖地だぜ? その聖地を汚すなんざ、俺が許さねぇ! つーわけでそこの三馬鹿! とぉっとと帰りやがれ!」

 

 店長にそう怒鳴られた三馬鹿と思しき三人組(何故かボロボロになっている)は、「覚えてろよー!」と三流の悪党めいた捨て台詞と共に何処かへ去っていった。

 

「……スズカもすまなかったな。退屈だったろ?」

「い、いえ! 私の知らない世界で、逆に新鮮でした。でも、これは一体……」

「お? ウマ娘の嬢ちゃん、メタルランナー知らねぇのかい?」

 

 そんなものを聞いたのは生まれて初めてである。

 

 そんなスズカに、トレーナーと店長が熱意をもって、かつ丁寧に教授する。

 

 メタルランナー、それはこのゲームに登場する機械仕掛けの走者の事だ。全長約17mのそれは、通常の走行からホバー移動、ジェット推進に至るまで、幅広い移動方法を持ち、更には体中に様々な武器――ライフルやバズーカ、ミサイル、更には遠隔操作のビットまで――を駆使し、相手を妨害しながらゴールを目指す。

 ウマ娘によるレースが主流である現代において、ウマ娘に匹敵する速度を体感できるゲームの一つとして、普通の人間にとってはうってつけのゲームと言えよう。

 

「ウマ娘でもこのスピード感がクセになっちまうのもいるんだぜ! どうだ、ちょっとやってかねぇか!?」

「え、えぇと……」

 

 スピード感。スズカとしては、聞き逃せない重要なワード。

 それを聞いてしまえば、同じくスピードの向こう側を垣間見んとするスズカとしては黙っていられない――が、今回に限ってはどうすべきか悩んでしまう。何故なら、今はトレーナーとのお出かけ中なのだ。

 故に、スズカは指示を乞うように、トレーナーをチラリと見た。

 そんなスズカに、トレーナーはにこりと微笑み――

 

「スズカ、やってみたらどうだい?」

「え?」

「俺もその点に関してはオススメする。それに、こういうゲームはストレス解消にも最適らしいぞ?」

「……そう、ですね。やってみようかしら」

 

 スズカの言葉に、トレーナーと店主が笑顔になる。

 

「んじゃ、早速やって見なぁ! 大丈夫、操作自体は簡単さ。慣れれば操作が増えるってだけでな」

「店主、そんなんじゃ駄目だよ。……大丈夫。俺が教える。君のセンスなら、すぐ掴めるさ」

「あ、はい。よろしくお願いします」

 

 この後、滅茶苦茶プレイした結果、スズカはメタルランナーのスピード感にハマる事になったのだが、それはまた別の話。

 

 

 

 

******

 

 

 

 

 ――某県某所の湖畔にある、一軒のコテージ。

 

「ここに、彼女が?」

 

 エアグルーヴにそう尋ねられた老人は、無言でコクリと頷いた。

 ありがとうございます、と綺麗に一礼をした彼女は、コテージへと向かう。

 

 しばらく歩き回り、目的の人物を探す。そして見つけたのは、コテージのベランダに置かれたベッドの上で静かに眠る、褐色のウマ娘の姿だった。

 

(……これが)

 

 その姿を見て、彼女の脳裏に浮かんできたのは、とある光景であった。

 

『好きよ。走る事』

 

 そう言って、嬉しそうな笑みを浮かべて駆け出す彼女。

 

『夢を与えられる事が、嫌いな人がいて?』

 

 年頃の少女とは思えない程に、大人びた笑みを浮かべる彼女。

 

『私ね――』

 

 誰かの為に。そして何より――自分の為に走り続ける、そんなウマ娘の姿がそこにはあったのだ。

 ……だが、今目の前にいるのはそんな彼女とは全く違う存在だった。目の前にあるのは、まるで抜け殻。

 

「……今のは?」

 

 脳に直接映像を映し出したかのような、そんな奇妙な感覚。

 その源がこの眼前の少女だと、エアグルーヴの本能がそう訴えかけた。

 

 その時。

 

「……お客様、かしら」

 

 少女が、瞳を閉じたまま口を開いた。

 

「ッ!」

「驚かせてごめんなさい。でも、もう目が覚めてしまったわ。せっかく気持ちよく寝ていた所なのに……」

 

 ゆっくりと起き上がるその姿は、やはり今垣間見た映像の中とは比べ物にならないほど弱々しいものだった。

 

「……失礼しました。私は――」

「エアグルーヴさん、でしょう?」

「……私の事を、ご存知で?」

 

 いや、知る筈がない。何故なら此処は、()()()()()()()()()()()なのだから。

 

 あくまでも困惑を仮面の奥に押し隠し、気丈に振舞うエアグルーヴに、褐色のウマ娘はゆったりと微笑みかける。

 

「私、勘は良い方なのよ」

「……そう、でしたか」

「それで? 貴方は何をしに来たのかしら?」

「…………」

 

 言葉が、出なかった。

 この状態の彼女に何を言えばいいというのだろうか。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 エアグルーヴは苦虫を嚙み潰したような、苦々しい表情を浮かべる。折角、聞くべき事を頭の中で纏めてきた筈なのに。

 

「……分かってるわ。聞きたいのでしょう? 彼の事が」

「……!」

 

 エアグルーヴの表情が驚愕の一色に染まる。

 

「それはいいのだけれど……その前に一つ、答えて欲しいの。いいえ、答えないと、教えてあげられない」

「……何、を」

「何故、そんなにも彼の事を知りたがるのか」

 

 そう訊かれたエアグルーヴは、しかし、元ある勇壮な顔を見せる。

 

「……決まっている。スズカが、私の友人が()()()()()()()()()だ。そして――そんなスズカを、私は倒したい。倒す事で、私は世のウマ娘全てに『理想の女帝』たる姿を示す」

「――――」

 

 その一言で、まるで全てを察したかのように、褐色のウマ娘は瞳を閉じた。

 

 そして、再び目を開けると――

 

「……良いわ。話しましょう。あれは――」

 

 




 後半へ続きます。はい、デート感無くてすみません……慣れてないんだ、こういうの。
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