スズカさんがニュータイプに目覚める話   作:K氏

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 はい、今回まさかの登板です。個人的にはメインストーリーの5章はスズカさんスキーとしては100点満点だったのですが、オフサイドトラップ関連のツイートやらを見て思うところがあったので登場させるに至りました。

後、今回はいつもより短いですが、よろしければどうぞ。


オフサイドトラップが来る

「――よし、良いタイムだぞスズカ!」

 

 年も越したある日。トレーナーとスズカは、いつものようにトレーニングに励んでいた。

 

 ……変わった事と言えば。

 

「いい感じ、でしょうか。まだ脚も使えそうですし」

「ああ。距離延長だからな。スタミナの底上げが出来ているのは、良い傾向だ」

「そうですね……ふふっ」

「? どうかしたか、スズカ?」

「いえ。……また、元通りの頼れる大人に戻ったんですね、って」

「……また掘り返す。勘弁して欲しいものだな」

「ふふ、ごめんなさい。……でも」

「でも、なんだ?」

「……たまには甘えてもいいんですよ? あの時みたいに」

 

 悪戯っぽくそう微笑むスズカに、トレーナーは「大人をからかうんじゃない」とそっぽを向く。その顔がどこか赤くなっているように見えるのは、スズカの気のせいか、それとも……。

 

 ともかく、トレーナーとスズカは、あの一件から互いの距離感が縮まっていた。

 まだ信頼しきっているのはスズカからだけという一方的なもの故に、その関係は完全無欠とまではいかないが……それでも、一歩ずつ進んでいけている実感はある。

 それが嬉しくてたまらないスズカは、トレーナーの反応を見るたびに幸せそうな笑みを浮かべるのだ。

 そんなスズカの表情を見たら、トレーナーもまた、嬉しいような恥ずかしいような気持ちになってしまうのだが。

 

(……まあ、今はこれでいいのかもしれない。これこそが――俺の求めていた分かり合いの形、その切っ掛けかもしれないんだから)

 

 トレーナーはそう思いながら、感慨深げに空を仰ぐのだった。

 

「――ほう。随分仲がよろしい事で」

 

 そんな彼らに声を掛ける制服姿のウマ娘が一人。

 

「ん? 君は……」

「あ、確か……オフサイドトラップ先輩、ですよね?」

「おう。最近調子がいい若いのがいるって聞いてね。ちょっくら偵察に来た次第よ」

「……偵察に来てるのに、堂々と来るんだな。というか、君も若いだろうに」

「あっはっは!アタシはそういう奴さ!」

 

 快活に笑うそのウマ娘の名は、オフサイドトラップ。

 

 古くはナリタブライアンが活躍していた時代からトゥインクルシリーズで活躍するウマ娘であり、そのナリタブライアンとも二度戦った事のあるベテランだ。

 ……本人曰く、その結果は「やー! ボロ負けもボロ負けよ!」との事だが。

 しかし、この持ち前の明るさに加え、貫禄溢れる雰囲気を持つ彼女は、後輩たちからの人気も高いらしい。

 さらにその人気の高さの一因として――

 

「あの、また屈腱炎を再発されたとお聞きしたんですが……」

「おっ、耳が早いねぇ。そうさ、面倒な事にこれで三度目だよ」

「……その割には悲観視していないようだが」

「おうともさ。一々こんなのに悩んでちゃ、ウマ娘、やってらんないからね」

 

 そう言いながら、己の脚をポンポンと軽く叩いた。

 

 屈腱炎。それは、走る度に脚部に激痛が走り、最悪の場合走れなくなる病である。

 一度罹れば治らない不治の病とされ、ウマ娘たちにとって最大の恐怖とされている病気なのだ。

 オフサイドトラップもその例外ではなく、デビューから三度もの発症を起こしてしまった。

 本来なら引退してもおかしくない回数発症している彼女は、しかし、それでも辞めるという選択を選ばなかった。

 

 何が彼女をそう駆り立てるのか、それは誰にも分からない。だが、その不屈の精神もまた、人気の一因を形作っていた。

 

「それでぇ? お二人さんはどういう関係なんだい? さっきから見てた感じ、ただならぬ関係って感じだが?」

 

 オフサイドトラップはニヤニヤと、しかし嫌味を感じさせない大人っぽい笑顔で、トレーナーとスズカに詰め寄る。

 

「どうって……別に普通だろうに。そもそも俺達、そんなに親しくないだろう?」

「細かい事気にしてんじゃないよ男が! それで、どうなんだい?」

「えっと……私達は……」

 

 スズカは少し照れた様子を見せつつ、トレーナーを見上げる。

 それに気づいたトレーナーは、スズカの頭を撫でながら答えた。

 

「大切な教え子さ。それ以上でも以下でもない」

「……ふぅ~ん……そうは見えんが……まぁ、今はそういう事にしといてやるよ」

 

 カッカッカ! と快活に笑うオフサイドトラップ。それを尻目に、スズカはどこか残念そうな顔をしていたのは……トレーナーだけが知る秘密であった。

 

「……それで? それだけを聞きに来たんじゃないんだろう?」

「おっ、分かってるねぇ! そうさ。ちょいと聞いときたい事があってね」

 

 オフサイドトラップは真剣な顔つきになると、トレーナーに尋ねる。

 

「あんたら、今年の秋の天皇賞には出るのかい?」

「秋の天皇賞? 随分先だな……」

「去年はあの景色が見れそうなところまで行ったので、今年こそはとは思ってますが……それが、どうかしたんです?」

「……やー、何。アタシもいずれは出る予定なもんでね。それが聞けただけでも十分ってなもんさ」

 

 あははと笑うオフサイドトラップに、トレーナーとスズカは言い知れぬ違和感を感じた。

 だが――これは彼女の問題であり、自分達が無闇に首を突っ込んではいけないと、互いに目配せしてそう判断した。

 

「それじゃあ、アタシはそろそろ行くとするかね。悪かったね、トレーニングしてるところに」

「あ、いえ。大丈夫です」

「気をつけて帰れよ」

「おう!……若い二人が仲良くしているところを邪魔する、悪い大人になりたくはないんでね!」

「「っ!?」」

 

 最後に爆弾発言を投下し、ウマ娘・オフサイドトラップは去っていった。

 

「……」

「……」

 

 残された二人は、呆然とその背中を見送った後――

 

「と、とりあえず、次は坂路に行くか」

「そ、そうですね!」

 

 何故かぎこちなく動き出し、再びトレーニングを始めるのだった。

 

 

 

 

******

 

 

 

 

(……さぁて。嫌な予感が的中ってわけだが)

 

 うーん、と唸りながら、オフサイドトラップは学園内を歩いていた。

 

(運命的なアレを信じてるわけじゃないが……しかしあいつらが出る気があるってんなら、それはそれで厄介な結末になりそうなんだよねぇ)

 

 実はと言えば、このオフサイドトラップ、スズカのトレーナーが見ていた夢と似たような夢を見ていた。

 大欅の向こう側に差し掛かったところでスズカが故障するという夢を。

 

「ったく、これだから三女神だのなんだのは信用ならないってんだ。アタシに対する仕打ちもそうだが……あんな夢見せて、アタシに何させようってんだい」

 

 オフサイドトラップは忌々しげに呟く。

 あれが、確定で起こるというわけではない。だが、もしもあんな事が起きてしまえば――もし、あのレースで自分が勝ってしまうヴィジョンが実現してしまったら。

 

(……クソッタレ。G1勝つのは夢みたいなもんだがね。だからと言って、こんな形で叶えたいなんて思っちゃいないよ)

 

 オフサイドトラップは、決して運命論者というわけではない。ないのだが……それでも無視できないリアルさが、あの夢にはあった。

 

 だからこそ――彼女は決意を固めていたのだ。

 

「……ま、どの道一ウマ娘のアタシにはどうする事もできないんだ。あーあー! 何らしくなく悩んでんのアタシは!」

 

 そして思い出すのは――偵察と称して見ていたサイレンススズカの走り。

 あの走りには、ウマ娘の根源的な何かを刺激する、そんな魅力があった。

 それは一重に、彼女が走る事を楽しんでいるというのが一目でわかるからだろうか。

レース中に見せたあの笑顔は、紛れもなく――

 

「……へ。そういう奴の方が、倒し甲斐があるってもんよ」

 

 そう呟くオフサイドトラップの顔に浮かんだ笑顔は、さっきまでの人の好さそうなものと打って変わり、酷く攻撃的なものだった。

 

 





 オフサイドトラップのキャラ付け、こんな感じでどうでしょう…?
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