スズカさんがニュータイプに目覚める話   作:K氏

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劇薬!アグネスタキオン襲来(前編)

「……君、何の用だ?」

 

「おや、後ろを見ずに私の存在を察知したのか。いやぁ、可能な限り気配を消したつもりではあったんだが」

 

「悪意はないようだが……そんな麻袋を持っていたら、誰だって気になるさ」

 

「……あっはっは! なんだ君は! 後ろに目でも付いてるのか!? 気になる、非常に興味深い! これが噂に名高い――」

 

「御託はいい。用件だけ言ってくれ。俺も暇じゃないんでね」

 

「ああ、失礼。私は――」

 

 

 

 

******

 

 

 

 

 

 その日、トレセン学園でちょっとした事件が起こった。

 

「と、トレーナー、さん?」

「な、なんなんです? 貴方は······」

 

 スズカのトレーナーが若返ってしまったのである。

 

 ……念の為、もう一度言おう。

 

 スズカのトレーナーが、若返ってしまったのである。

 

 順序を追って経緯を説明しよう。

 昼下がり、学園内のとある部屋から異臭と煙の騒ぎが起こった。

 騒ぎを聞きつけた生徒会が部屋に乗り込んだところ――

 

「……このトレーナー――にそっくりな少年が倒れていた、ということだ」

 

 生徒会室にて大まかなあらましを語り終えたエアグルーヴは、心底疲れたといった様子で大きな溜息をついた。

 成る程、少年を見てみればスズカのトレーナーが着用していた青いジャケットをサイズが大きいながら着ているし、顔もトレーナーを十歳程若返らせるとこうなるといった具合の童顔をしている。

 ……密かにスズカが「かわいい……」と呟いたのは内緒だ。

 

 そして、当事者にして部屋の主の片割れはと言えば――

 

「いやぁ! まだテストしていない薬品だったとはいえ、ここまでの効果を発揮するとは思わなかったよ! ふむ、となると後はアレをこうしてーー」

「アグネスタキオン、黙っててくれ頼むから」

 

 科学者然としたウマ娘、アグネスタキオンが興奮気味に口にするのを、エアグルーヴがこめかみを押さえながら止める。

 

「な、なんなんですか本当に……」

 

 一方のトレーナーそっくりの少年は、訝し気に周囲を見渡す。どうやら疑心暗鬼になっているようだ。

 そこで、スズカはふと思いついく。

 

「あの、君?」

「なんです?」

「貴方の名前って――」

 

 そこで、初めて会った時に教えてもらったトレーナーの本名を出す。

 すると――少年は更に不信感を露わにする。

 

「な、なんで僕の名前を……!?」

「そ、その……そう! 確かお父上はトレーナーをやってらしてるでしょ? それで、息子さんがいるって聞いたの!」

「父さんが……」

 

 そう聞いても、少年はまだ警戒心を剥き出しにしたまま。

 どうやら話に聞いていた通り、昔のトレーナーは父親との仲も良くなく、加えてかなり繊細な精神の持ち主だったらしい。これは一筋縄ではいかないかもしれない……。

 スズカは困ったように眉尻を下げて苦笑を浮かべるしかなかった。

 しかし、まさか薬でこんな事になるとは。

 

(……これはこれで……って、私何考えてるの!?)

 

 内心少々掛かり気味になるスズカを、少年は訝し気に見つめていた。

 

「第一……此処、トレセン学園、ですか? なのに貴方達は見た覚えのないウマ娘ですけど……」

 

 その一言に、彼らのいる生徒会室に電流が走る。……タキオンは「成る程、副作用として記憶障害もある、か……」と冷静に振舞っていたが。

 

 何せ、この生徒会室にいる面々……スズカを始めとして、生徒会長にして『皇帝』シンボリルドルフ、副会長の『女帝』エアグルーヴ、もう一人の副会長にして『シャドーロールの怪物』ナリタブライアンと、今では知らぬ者がいない程の有名人だらけだからだ。

 しかしそれを知らないとなると、タキオンの言う通り、記憶に何らかの問題が発生しているのだろう。

 オマケに、トレーナー曰くウマ娘オタクだったのもあり、その辺の違和感に気付かれると少々……どころか、かなり厄介な事になりかねない。

 

 そこで、ルドルフは一計を打つことにした。

 

「……すまない。今生徒会の面々は揃って合宿で出払っていてね……代わりに私達がこうして留守を任されている、という訳なんだ」

 

 そう言い、改めて自己紹介する一同。少年としても一応筋は通るからか、小さく会釈をする。

 ……が、スズカを見た時だった。

 

「ん? 貴方は……」

「?」

 

 じっとスズカを見つめる少年。その真摯な視線に見つめられ続けて、流石のスズカも恥ずかしくなったのか頬を赤らめる。

 

「え、っと……何、かな?」

「貴方は、何処かで……うっ、頭が……!」

 

 唐突に頭を抱え蹲る少年。

 そんな少年のただならぬ状況に、流石に肝を冷やしたのか「いかん!」と飛び出したのはタキオンだった。

 彼女は懐から何かの薬品と思しき液体の入った管を取り出すと、それを無理矢理勢いよく少年に飲ませたのだ。

 

「おい! 彼に何を――」

「少し黙ってくれたまえ。……いいか? 少年。君とスズカ君には、一切の面識はない。いいね?」

 

 その一言を聞き、薬の効果によるもので幾分か落ち着いたのか、ぼんやりとした表情で少年が頷く。

 

「スズカ君、折角だから彼に学園内を案内してあげてはどうかな?」

「おい、いい加減に――」

「いや、いい。エアグルーヴ」

 

 場を持っていこうとするタキオンの行動を問い詰めんとするエアグルーヴを、ルドルフが制する。

 

「いいんじゃないか? サイレンススズカ。彼を案内してあげて欲しい。きっと気に入る筈さ」

「えっと……はい。分かりました」

 

 スズカとしても、これには了承するしかないと思い、少年を連れて部屋を出て行こうとする。

 そんな彼女を、タキオンが「おっと、そうだ」と呼び止め……何かを彼女の耳元で囁くと、そのままスズカを外に追いやった。

 

 二人が部屋を出ていき、ひと時の静寂が生徒会室を支配する。

 

「……さて、アグネスタキオン。聞かせてもらおうか? 色々とな」

 

 そう口火を切ったルドルフの顔は、笑顔ながら凄みがあった。

 これには流石のタキオンも――

 

「いいとも! 聞かせてやろうではないか! 私の成果を!」

 

 ……存外にノリノリだった。

 

 

 

 

******

 

 

 

 

「ジムに、図書室、プールに、さっき行った中庭……これで、一通りは回ったかしら。どうだった?」

「……その、広かった、です」

「…………」

「…………あの」

「な、何かしら?」

「さっきから妙に距離が近いような気が……」

「あ、ご、ごめんなさい! 距離感の取り方に慣れてなくて……あ、あはは……」

「……………」

「……………………」

 

 一通りの学内の施設の案内を終えたスズカ達は、カフェテリアで休憩に入っていた。

 ……と言っても、その空気は酷く重々しいものだったが。

 それもその筈。この二人……そもそも会話が苦手なのである。

 

(え、えぇと、確かに今此処にいるのはトレーナーさんには違いないんだろうけど、でもまだ子供の頃みたいだし……うう、子供相手って何を話せば……!?)

(この人……不思議だ。何処かで会った事のあるような……でも、そこに深入りしちゃいけないって、僕の何かが訴えかけてる……)

 

 現状としては、お互いに相手の様子を窺いながら、何とか話題を探していた。

 しかし、話題を探すのにも一苦労であり……

 

「そっ、そうだ! 確か君、ゲーム好きよね? モビルランナー3!」

「え……好きですけど、モビルランナーはまだ2しか出てないような……」

「あ、えっと、そうよね! 私、ちょっと勘違いしちゃったみたい!」

「……あの、スズカさん。さっきからなんか変ですよ?」

 

 こうやって話題を出せたとしても、少年の記憶との矛盾が生じてしまい、スズカは下手な話題を出せずにいた。ましてや、レースの話題などもっての外だ。

 

『いいかい? 決して彼の記憶に矛盾を生じさせては駄目だ。その矛盾が、彼にどんな影響を及ぼすのか……少なくとも、いい影響ではないのは間違いないだろうからね』

 

 生徒会室から出ていく際のタキオンからの忠告は、確かにありがたかった。ありがたいが……それとこれとは話が別だ。

 

(けど、だからと言ってこのままじゃ駄目……でも……うーん……)

(なんでこんなところで左旋回!?)

 

 ……結局のところ、スズカには少年とウマが合う話題など思いつく事が出来ずにいた。

 

「……ごめんなさい。こういうの、あまり慣れてなくて……」

「スズカさんが謝る事じゃないですよ。僕だって、その、こういうのは苦手で……」

 

 再び訪れる痛々しい沈黙。周囲のウマ娘達もこの雰囲気には流石に参っているのか、徐々にその場から離れていく。

 

 この時間が永遠に続くかと思われた、その時。

 

 

 

 

「あら~? 見慣れない子がいますね~」

 

 

 

 

「……!? プレッシャー!?」

「この暖かで、幼い感じ……スーパークリーク先輩?」

 

 ある意味で救世主がやって来た。

 

 

 

 

******

 

 

 

 

「……つまり、トレーナーが望んで同意したので実験に及んだ、と?」

 

「そうだとも。私とて鬼でも悪魔でもなければ畜生以下の下種でもない。その辺りはきちんとしているつもりさ」

 

「しかし、何故スズカのトレーナーを? ただ若返らせるだけなら他にもいるだろうに。······いや、実験に賛同するという訳ではないが」

 

「それを答えるには、まずこの薬のコンセプトから説明する必要がある」

 

「コンセプト?」

 

「ああ。元々この薬品は、『如何にしてウマ娘の全盛期を取り戻す、あるいは維持するか』を主眼に置いていてね。所謂アンチエイジング効果のあるものをふんだんに取り入れているのだよ」

 

「……話が読めん。それがどうスズカのトレーナーと関係ある?」

 

「まぁ聞きたまえよ副会長殿。これの効果は見ての通り、ウマ娘のみならず人間をも若返らせる事に成功したというわけだ。······で、だ。エアグルーヴ君、君は確か、彼の経歴を調べていたね?」

 

「······何故それを?」

 

「こちらにも情報網というものがあってね。まぁそれはさておき、あのトレーナーはかつて、かの『白き流星』のトレーナーだったと言う。更に言えば、当時の彼は素人同然、にも関わらず、『白き流星』がジュニア級のG1を獲ったことで素人ながらG1トレーナーの仲間入りを果たした······随分出来すぎてると思わないかい?」

 

「······何か不正をした、と?」

 

「そうは言わない。でなければ、スズカ君の成長ぶりに説明が付かないからね」

 

「確かに、トレーナーの腕はそのままレースに出るウマ娘に影響を及ぼす。故に多少の誤魔化しなど通用しない」

 

「そう。そこでだ。私はこの件について、二つの仮説を立てた。一つは、そもそもトレーナーとしての素質があったというもの。そしてもう一つは――トレーナーとウマ娘、この双方の関わりによる影響によるもの」

 

「前者はともかくとして、後者は一体……?」

 

「簡単に言えばトレーナーとウマ娘の相性。それが良好であった場合に双方にもたらす『()()』の事さ。ま、多くのトレーナーやウマ娘は、そんなもの考えもせずトレーニングとレースに明け暮れているがね」

 

「『何か』、か……随分曖昧だな」

 

「仕方ないだろう? これは現行の科学では説明できない事象なんだ。で、私は最初、その『何か』がウマ娘にだけもたらされるものだと思っていたが……いやはや、良い出会いをした。彼に質問して、それが否だと気付けた」

 

「……まさか、スズカのトレーナーに何かあるのか?」

 

「あったとも。最初の出会いからそうだ。私は訳あって彼を背後から袋でくるんで私の部屋にご案内して差し上げようとしたのだが……彼はそれに気付いていた」

 

「……この際貴様のやろうとした事には目を瞑るとして、それはただ勘がいいだけなのではないか?」

 

「勘がいい! そう、それもまた発揮される『何か』の恩恵の一つなのだろう。だがそれだけではない。反射神経の向上、更には彼の証言と金鯱賞での彼の動きを合わせて考慮すれば、軽度の未来視のようなものが出来る可能性がある。もっとも、彼によれば昔よりも衰えたそうだが」

 

「……ちょっと待て、未来視だと? 何を馬鹿な……」

 

「しかしだね、エアグルーヴ君。金鯱賞のラストでスズカ君が倒れる際、彼女のトレーナーはそれよりも早くターフに侵入していた。これは、彼女が倒れるのを事前に分かっていなければできない事だと思わないかね?」

 

「それは……そうかもしれんが……」

 

「更に特筆すべきは、彼は人の感情をある程度読み取り、さながら読心術のような事が出来るという事だ。どうだね? 想いを受け取り走るウマ娘としては、これ程気になる能力はないだろう!? そこで、私は彼が言う全盛期に戻す事で、彼の本来持っていた能力が如何ほどかを確認しようと試みたのさ!」

 

「……確かに興味深くはある。話を続けてくれ」

 

「会長!?」

 

「おお! 分かるかね!?」

 

「ただし――きっちりと書いてもらうぞ、反省文は」

 

「えー」

 

「えーではない!」




 ギャグって、書くの難しいね、バナージ……
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