スズカさんがニュータイプに目覚める話   作:K氏

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 メジロブライトのアクシデントは無かった、いいね?


ニュータイプ(後編)

『さぁ、全ウマ娘がゲートに収まりまして、態勢完了。宝塚記念――スタートしました!』

 

 ゲートが開かれ、一斉に飛び出すウマ娘達。その中で大外枠という、逃げ先行勢にとって距離のロスがある番号であっても、サイレンススズカにとっては関係ない。静かに先頭を取ると、そのまま集団を引き連れて淡々と走り続ける。

 

「……………」

 

 その姿を、じっと見つめる一人の男がいた。

 トレーナーである。

 彼はただ黙って見守る。その目は確かに、己の担当ウマ娘の背中を捉えていた。

 

(大丈夫だ)

 

 確信を持って言える。このレース、スズカは勝つ。例えG1タイトルホルダーが何人もいるような大舞台であったとしても、例え未だG2までしか勝っていない身であるとしても、彼の育ててきたウマ娘は――サイレンススズカは伊達ではない。

 それ以上に彼を心配させたのは――全力を出す事による、脚への負荷。

 だが、それでもトレーナーは、スズカを信じる事にした。

 

(……スズカは無事に帰ってくる。きっと)

 

 トレーナーは祈るように考えながらも、スズカをしっかりと目で追う。

 どのような結末であろうと、決して目を逸らすまいとしながら。

 

『さぁ、今回3番人気のエアグルーヴは6番手から7番手を行きます。おっと、メジロドーベル、少し掛かり気味か?』

 

 今回も目立った逃げウマ娘はスズカ以外不在という状況からか、隊列は縦長気味になっていく。

 その中にあって、ドーベルはなんとかスズカに追従しようとしていた。これまでのレースから鑑みて、彼女を捉えなければ勝てないと判断したからだ。

 ドーベル自身、過去に逃げて勝った経験はあったが、それ故にスズカのそれは別格だと肌で感じていた。

 ドーベルが同級生のスズカとレースで走るのは、これが初めてだ。だからこそ、彼女は過去のスズカのレースを見返し、研究してきた。その上で言えるのは、スズカの走りは現代的にはあまりにも異質で、同時にウマ娘にとっての理想の体現だという事だった。

ペース配分や駆け引きといった言葉は一切なく、ただひたすら自分の力を出し切るだけ。そこに余計な思考はなく、ある意味で純粋無垢と言ってもいいかもしれない。

 しかしそれでいて、見る者の心を強く打つ何かがあった。

 何より恐ろしいのは、マイペースのまま最後まで走りきれるというところ。そして、最後に差しウマ娘に匹敵する末脚を繰り出せるという点に尽きる。

 

 ――しかし、それはメジロドーベルが臆していい理由にはならない。

 

(やってやる! 私だって、メジロなんだ!)

 

 彼女の中で燃える闘志に、体は正直に反応していた。

 

 ーー明らかにかかり気味になっている。このままではスズカについていけなくなる事は目に見えているし、下手すれば最終コーナーでスタミナ切れを起こしかねない。

 そんな状態になってしまえば、最後の直線で追いつこうにも追いつける筈がないのだ。

 

(ドーベル、早まりすぎだ!)

 

 それを後方から冷静に見守るエアグルーヴ。彼女はドーベルと異なり、最後の直線での末脚勝負に賭けているようだった。

 

(スズカの走りは、良く知っているつもりだ。秋の天皇賞から更に出来るようになった事も。ならば、この位置で溜める!)

 

 今までのスズカは、本気ではあったがトレーナーの指示により全力を出せずにいた。エアグルーヴとしてはそこに不満があったのだが、今回のスズカにその枷は無いように見えた。だからこそ今回、エアグルーヴの胸の内は煮えたぎったマグマのような高揚感で埋め尽くされていた。

 かつて一度勝った事があったとしても、エアグルーヴは決して油断も慢心もしない。それもまた、理想の『女帝』の一側面に他ならない故に。

 

『十三人が縦長になって第二コーナーです! 今年も貴方の、そして私の夢が走る宝塚記念でありますが、先頭は一番人気、一番人気! 一番沢山の人が夢を抱いたサイレンススズカが先頭です!』

 

「行けぇえっ!」

「頑張れスズカァアアッ!!」

 

 観客の声援が一層激しくなる。その声援はターフを跨ぎ、向こう正面にまで轟かんばかりであった。

 そんな中にあって、スズカは走りながら精神を集中させていた。

 

(……もう少し……)

 

 スズカの感覚が知らせていた。自身が『領域(ゾーン)』に入る、その瞬間がいつ来るのかを。

 

『さぁ、差が縮まってきた! 差が縮まって来たぞ! サイレンススズカ、それ程大逃げではありません! 間もなく第四コーナー!』

 

 スズカを先頭にした一団は、向こう正面から第三コーナー、そして第四コーナーへ差し掛かる。実況の言う通り、後方集団がスズカを捉えんと前進を開始していた。

 だが、それを把握している筈のスズカに、焦る心は無かった。寧ろ、その集中は研ぎ澄まされていく一途を辿っていた。

 

 ――そして。

 

(――来た!)

 

 脳裏で閃く稲妻。そして広がる、あの景色。

 

(……相変わらず、静かで、綺麗な景色)

 

 視界に広がる緑の絨毯と、どこまでも続く地平線。風に靡き、ざわめく草原の音。

 それら全てが、スズカには手に取るようにわかった。

 まるで、この世界を往く風になったかのように。

 

(……でも、これだけじゃ、足りない)

 

 しかし、スズカには分かっていた。此処には、今自分が一番欲しいものが無い事を。

 だから――彼女は、招く事にした。

 

 

 

 

「スズカの奴、『領域(ゾーン)』に入ったな」

 

 いち早く気付いたのは、ナリタブライアンだった。

 ……否、言葉に出さないだけで、その隣にいるルドルフもまた、同時に気付いていた。

 

 彼女らの視線の先には、無心でコーナーを曲がるスズカの姿があった。しかしその姿からは、普段の彼女の持つある種の繊細さや美しさは一切感じられない。

 代わりに感じるのは、圧倒的な存在感のみ。

 他のウマ娘であれば、その存在に呑まれて萎縮してしまうだろう。実際、後方のウマ娘の何人かは、彼女が無意識に放つプレッシャーに怯えているようだった。

 その中にあって、普段と変わらない姿を見せるエアグルーヴやメジロドーベルといったウマ娘は流石と言うべきか。

 とはいえ、全く影響がないわけではないらしく、二人の表情から余裕が消え失せ――内なる闘争心が発露しかかっていた。

 

「……此処からだ」

 

 此処から、彼女の真価が試される。

 ルドルフは見定めるようにレースを……スズカを見守る。

 

 

 

 

 一方その頃、トレーナーには異変が起きていた。

 と言っても、身体に不調が起きただとか、そういった類のものではない。寧ろ真逆の現象が起こりつつあった。

 

(なんだ……? この、暖かな感覚……まるで、『あの子』と触れ合った時のような――)

 

 トレーナーの心の中に、陽の光が差したかのような暖かな感覚が生まれたのだ。

 どこか懐かしく、それでいて胸の内が安らぐような感覚。それが汚れを洗い落とす水流のようになり、先程まで胸に渦巻いていた不安が薄れていくのを感じていた。

 

「……スズカ?」

 

 そう一言呟いた瞬間、トレーナーの視界が白く染まり――

 

 

 

 

「――ここは」

 

 気付けば彼は、広がる草原の上に立っていた。

 右を見ても左を見ても、果ての無い草原が広がるばかり。上を見上げれば、清々しい程に真っ青な空。

 それを見て、トレーナーの直感が働く。

 

「この風景……もしやスズカの?」

「そうです、トレーナーさん」

 

 彼の独り言に反応する声に振り向けば、そこにはスズカが立っていた。

 

「私、ずっとこの景色が見たくて走って来たんです。静かで、どこまでも綺麗で……それに、ここに来れば私は誰よりも自由で、いつまでだって走り続けられるんです」

「……そうか」

「でも」

 

 そう言葉を区切ると、スズカは視線を彼方へと向ける。

 

 そこから溢れ出る、誰かの『声』。

 

「世界って、思ったより広くて――私って、何処まで行っても一人にはなれないんだなって」

 

「……最初、この世界に自分以外の誰かがいるのが、どうしようもなく耐えられなかったんです。此処は私の世界なのに。勝手に私の中に入り込んで来てるように思えて」

 

 スズカの独白に、トレーナーは静かに聞き入る。

 

「でも……違うんです。此処は私の世界だけど、私だけの世界じゃない。誰もが見たいと思う、そんな世界なんじゃないかって思ったんです」

「……そうだな。俺も此処を見ていて、心がスッキリするような気分になる。……そうか、君は俺にこれを見せたかったのか」

 

 トレーナーの言葉に、スズカは感極まるように深く頷いた。

 

「それを知ることが出来たのは、貴方のお陰です、トレーナーさん」

「俺の?」

「はい。貴方は覚えてないでしょうけど、貴方の瞳に写る私を見て、思い出せたんです。私がここまで来れたのは、貴方が私に希望を見出だしてくれたから」

「スズカ……」

「だから……ありがとうございます。私の我が儘に付き合ってくれて」

 

 スズカは深々と頭を下げる。

 その姿を見て、トレーナーは悟る。

 自分が求めていたのは、思うがままに楽しく走る、そんなスズカだった筈なのに。

 結局、自分はスズカの怪我への恐れから、彼女の可能性を信じていながら、その幅を狭めていたのだと。

 

「……あ、今謝ろうとしましたね?」

 

 だが、そんな彼の罪悪感を読み取ったのか、スズカは先手を打ってトレーナーに詰め寄る。

 

「隙あらば罪悪感を抱く。貴方の悪い癖です」

「……そういう性分なんだ。すまない」

「また謝った。……トレーナーさんはもっと素直に生きてください!」

スズカは頬を膨らませて抗議の声を上げる。

 

「素直に生きられる程若くないんだよ、俺は」

「……ならせめて、私にだけは素直になってください。そうでないと怒っちゃいますよ?」

「それは勘弁願いたいな」

 

 トレーナーが苦笑すると、スズカもつられて笑う。

 

「……一応言っておきますけど、私、不自由だなんて思った事ありませんから。だってトレーナーさん、限界を超えるなとは言いましたけど、走るのを楽しむなとは言いませんでしたし」

 

「寧ろ、感謝してるんです。私を私らしく走らせてくれて。だから、その恩返しがしたいんです。貴方が希望を持って下さった、私の走りで」

 

「貴方の抱える不安も、貴方が抱いた絶望も。私の走りで全て、吹き飛ばして見せますから」

 

「そして、伝えたいんです。私の『楽しい』を」

 

 スズカは確固たる自信と共に宣言する。

 その姿に、トレーナーは思わず目を細めた。

 

(……ああ)

 

 なんて眩しいのだろう、スズカは。

 

 そよぐ風が、トレーナーの頬を撫で、スズカの美しい栗毛色の髪を靡かせる。

 

 そんな風に乗って、『声』が大きくなっていく。それは、もうすぐこの時間が終わる事を意味していた。

 

「……もう、平気なんだな」

「はい。まだ少し慣れませんけど……トレーナーさんと同じように応援してくれてるって分かりましたから」

 

 そこには、数多の『声』に苦しむ孤独な少女の姿はなく。

 

 そこにいるのは、今自分が作れる『希望』を届けようとする、可能性に満ち溢れた一人のウマ娘だった。

 

「だから、見ていてください。私の走り」

「ああ。ゴールの先で待ってる。だから――全力で行ってこい」

 

 それ以上、彼らの間に言葉は不要だった。

 スズカは振り返る事無く、その場から走り去る。

 

「……全く。敵わないよ、スズカには」

 

 その背中を見送りながら、ポケットに手を突っ込むトレーナー。

 彼女は成長していた。自分の手を離れ、何処までも。

 だが、それでいいのだ。

 彼女がどこまで行くのか、見てみたいという気持ちが湧き上がる。

 

 ……同時に、見るだけなら外からでも見れるという事も。

 

『それが若さってものなのかもしれないわね』

 

 ――唐突に、そんな声が耳に届く。

 

 スズカではない。だが、聞き覚えのある、懐かしい声。

 

「――君は、まさか――」

 

 それを確かめる前に、トレーナーの視界は再び白に染まり始めた。

 

 

 

 

『――先頭は、サイレンススズカ! リードがまだ4馬身から5馬身で第四コーナーのカーブ!』

 

 誰もが、スズカの圧倒的勝利を信じて疑わなかった。だが、実際はそうはなりそうになかった。何故なら――

 

『おおっと、後続も差を詰めてきたぞ! 最終直線、サイレンススズカ逃げ切れるか――!?』

 

 スズカの走りは、見る人に希望をもたらし――同時に、走るウマ娘達の闘争心をより燃え上がらせる。

 

(……何故だろう。私は今、スズカに追い付けないかもしれないと考えてしまっている。なのに……)

 

 エアグルーヴの思考が、自然と引き延ばされていき、焦燥感が薄れていく。

 

(……でも、なんでだろう。胸が暖かくて……)

 

 ドーベルの胸の内で、高揚していく何かがある。

 

『走る事が――()()()()()()()()()!』

 

 スズカと共に走る全てのウマ娘の中に、同時に、共通して生まれた想いがあった。

 

 

 

 

「……ルドルフ、コイツは」

「ああ。これは――新鮮だ」

 

 上から見下ろすルドルフの口元が孤を描きだす。だがそれは、本能の暴走による、凶暴性を伴った笑みではない。もっと純粋な、走りを楽しもうという笑み。

 

「……ふ。参ったよ。私の完全な思い過ごしだ。では、改めてこう言うべきかな」

 

「――ようこそ、サイレンススズカ。『領域(ゾーン)』へ」

 

 『皇帝』シンボリルドルフは、新たなる到達者を、敬意をもって祝福した。

 

 

 

 

 最終直線、後続のウマ娘がどんどんスズカとの差を詰めていく。

 それを分からないスズカではない。だが――それ以上に、彼女の胸の内を『楽しい』という感情が埋め尽くしていた。まるで身体中が弾けるような感覚。レースの最中だという事も忘れて叫び出したくなる衝動を抑えきれない程に。

 

「あはっ!」

 

 気づけば口から漏れ出たのは、そんな歓喜の笑い声だった。

 

 体に当たる風。地面を踏みしめた時の感触。蹄鉄の音。そして、周囲に轟く歓声。全ての要素が、今の楽しさを加速させる!

 

『外からエアグルーヴ! エアグルーヴも差を詰めてきた! ここで先頭入れ替わるか!?』

 

 感じる。後ろから追ってくるエアグルーヴの気配を。

 普段の彼女からは信じられない程、走る事を楽しんでいる彼女の感情を。

 

(……そう。貴方も、楽しいのね)

 

 それが、例えスズカの『領域(ゾーン)』、あるいは能力から影響されたものだとしても。

 

 自分以外のウマ娘もまた、『走る楽しさ』に身を委ねているという現実が、たまらなく嬉しい。

 

(でも――先頭は、絶対に譲れないッ!)

 

 後ろから迫る想いが、逆にスズカの脚を力強いものへと変えていく。

 

『だが、先頭は譲らない! 先頭はサイレンス、サイレンススズカ! その脚色は衰えない!』

 

 更に加速するスズカを追うように、後方のウマ娘達もまた加速する。

 だが――それでもなお、今の、全力のスズカには届かない。

 

『――行け、スズカ!』

 

 代わりに届くのは、自分が最も信頼する人の『声』。

 その『声』が、彼女の限界、その極地を振り切らせる――!

 

 再び、スズカの脳裏に稲妻が閃いた。今までよりも大きく、強く。

 

 次いで、身体中の隅々に至るまで、電流が迸る。

 

 心臓の鼓動が更に早くなり、身体中を血が巡り、身体を動かす筋肉が躍動するのを感じる。

 

 そして――

 

『サイレンススズカ、今ゴールイン! 『逃げて差す』走りで、見事グランプリを制しました! サイレンススズカ、これでG1初制覇です!!!』

 

 気付けば、彼女はゴール板を通過していた。

 

 その瞬間、スタンドからはそれまで以上の大歓声が鳴り響いた。

 

「すげぇ……すげぇぞスズカァ!」

「圧倒的勝利もいいけど……こういう競り合いもいいわよね!」

「私、なんだか走りたくなってきちゃった!」

「凄い……私もいつか、あんな風に……」

 

 人間、ウマ娘問わず、全ての観客が熱狂の渦に飲み込まれていく。

 

 一方スズカは、走りによって得られた熱の余韻に浸るように、ただ観客席を見渡していた。

 

 ――ああ、気持ちよかった。

 

 今のスズカは、満ち足りていた。いや、満ち足りるという言葉では足りない程の幸福感に包まれていた。

 それからスズカは、観客席に立つトレーナーの姿を見つけ、笑顔で駆け寄っていく。

 

「……! トレーナーさん!」

「グッドラン、スズカ」

 

 そしてトレーナーも、観客と同じ熱を心に忍ばせ、笑顔でスズカを迎えるのだった。

 

 

 

 

 ……そんな中、ただ一人。

 

「……成る程。彼女にとって『領域(ゾーン)』はあくまでも前座でしかなく、その真価は彼女自身が元から持つ能力の強化……いや、二つの相乗効果により両者が凄まじい高まりを得、彼女の意思を広げる事にある、か」

 

 努めて冷静に、己の昂りを抑えながらそう呟くのはアグネスタキオン。

 その昂りが己の知識欲によるものか、それともスズカの影響によるものなのか、タキオン自身にも判断がつかずにいたが。

 

「……だが、これで確信は得た。スズカ君は間違いなくニュータイプだ。それも良性の。……この胸の高鳴りは、以前記録したそれとは明らかに違う。あの時は能力を暴走させていたに等しい状態のようだったが、今回は制御下に置いたものと見て間違いない!」

 

 言葉を紡ぐ度に彼女が興奮していっている事は、誰の目から見てもよく分かった。

 そんな時、隣から視線を注がれているのに気づき、タキオンは居住まいを正す。

 

「……コ、ホン。それで? 君はあの状態にまで至ったスズカ君を本気で相手するつもりなのかい? オフサイドトラップ君」

 

 そうタキオンに問われたウマ娘――オフサイドトラップは、その結論を聞いてもなお、好戦的な笑みを浮かべていた。

 

「当たり前だろ? 寧ろあんな奴を相手に出来るなんて、アタシってばなぁんて幸せ者なんだろうねぇ」

「……その精神はまるで理解できないが、まあいいさ。好きにするといいよ」

 

 そう言って肩をすくめると、タキオンは踵を返してその場を後にし――

 

「おいおいおいおい待ちなってセンセイ! アタシはまだアンタの答えを聞いちゃいないよ!」

 

 ――ようとしたところを、オフサイドトラップが引き留める。

 

「……はぁ。何度も言うが、私としてはオススメしないよ? 屈腱炎を三度も発症しながらG1に……スズカ君に挑むだなんて」

「馬鹿言うんじゃないよ、センセイ。アタシには分かるんだ。これが最後のチャンスだって」

 

 オフサイドトラップの言葉を聞き、タキオンはその表情を真剣なものへと一変させる。

 それは競技者としてではなく、一人の研究者としての眼差しだった。

 

「……仮に協力したとして、私にメリットがあるとでも? 自殺行為に等しい君の行いに」

「あるとも。流石のオタクでも、屈腱炎を三度発症してもなお走るウマ娘なんて、会った事ないだろう? それで十分じゃないかい?」

 

 「特に、アンタのプラン的には」と付け足しながら、オフサイドトラップは笑う。

 その一言を聞いたタキオンは、深い溜息を吐く。

 

「……まぁ、良いだろう。どの道、私が損する事はないのだから。だが、私の作る鎮痛剤は少々……いや、かなりキく。それでもいいのであれば、協力しよう」

「おっ、そうこなくちゃねぇ!」

 

 こうして、二人のウマ娘が手を組んだ。

 一人は、己の野望の為に。もう一人は己の勝利の為に。

 

 

 

 

 一方、その頃。観客席の別の場所で。

 

「やっぱり、あの子もそうなのね」

「…………」

「あら、もう行くの? ウイニングライブぐらい見ていけばいいのに」

「………………」

「ふふ、そうね。見たいものは見たわ。……相変わらず、せっかちさんだこと」

 

 一組のウマ娘達が、ひっそりとその場を去っていった。

 

 

 

 

 

 そして、また別の場所にて。

 

「お兄様、スズカさん、凄かったね!」

「ああ、そうだね」

 

 スズカの走りに感激した様子のライスシャワーに、金髪のトレーナーは静かに同意した。

 

「だが、君も負けてはいない。そうだろう?」

「そう、かなぁ」

「そうとも。君の脚さえ治れば、ね」

 

 そう、彼の言う通り、ライスシャワーの脚には包帯が巻かれており、彼女が今走れない事は一目瞭然だった。

 

「だから、今は治す事に専念するんだ。いいね?」

「……はい、お兄様」

「よし、いい子だ」

 

 そう口にした金髪のトレーナーは、ライスシャワーの頭を優しく撫でる。撫でられたライスシャワーも、満更ではなさそうな顔を見せた。

 

(……さて、彼女は目覚めた。後はアレを渡すだけか)

 

「……皮肉なものだな。この私が、敵に塩を送るというのに喜ばしく思うなど」

「? 何か言った? お兄様」

「いいや、何も。……帰ろうか、ライス」

「はい!」

 

 そうしてまた一組、トレーナーとウマ娘が帰っていくのであった……。

 

 




 というわけで、スズカさん、ニュータイプに完全に目覚めるの巻でした。
 それに伴い、タイトルも「ぽい何か」ではなくなります。
 なお、今作におけるニュータイプは若干宇宙世紀のそれとは異なる感じに仕上げてますが、要望があれば設定を書く回を設けようかなとも思っています。
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