スズカさんがニュータイプに目覚める話   作:K氏

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クリスマスなので次の話の前に急遽初投稿です


スズカさんがトレーナーさんのサンタになりたい話

 スズカにとってクリスマスと言えば、己の能力が恨めしくなる数少ない行事の一つだった。

 何せ、彼女の『人の想いを受け取る力』は、本格的に覚醒する以前ですらも凄まじかったのだ。

 

『……うん。スズカ、よく寝てるなぁ。よし、今の内に――』

 

 ……だからなのか。サンタの正体が自分の父親だと知り夢が壊れてしまったのも、自然の摂理が如く当然の成り行きであった。

 いや、スズカが本当にサンタクロースを信じていようがいまいが、今回の話には殆ど関係ないことではあるのだが。

 ただ一つだけ言えるとすれば、その日以降毎年12月24日の夜になると、サンタの格好をしてまで娘のプレゼントを用意した父への罪悪感で、スズカはその日1日中胸を痛め続けたという事くらいだろう。

 

 だから、トレセン学園にやってこれたのはある意味でスズカにとっては僥倖と言っても良かった。

 流石のサンタも、学生寮にまで侵入しては来ないだろうから。

(一部のウマ娘がサンタ代わりになってプレゼントを用意したりしているのは内緒だ)

 

 ……さて。では今回の話でどうサンタが関わってくるかと言えば。

 

「サンタなビワハヤヒデ、イエスだね」

「そう言って、ホワイトクリスマスなオグリも好きなんでしょう!?」

「そうでもあるがぁ!」

 

 学園のトレーナーがそんな事を話していたのをたまたまスズカが聞いてしまったのが、そもそもの切っ掛けであった。

 

 ビワハヤヒデだけではない。トレセン学園の宣伝活動やら何やらでサンタのコスチュームに身を包むウマ娘というのが実はかなりおり、かくいうスズカも以前広報の一環でコスチュームに身を包んだものだ。

 その際、同室の後輩で仲の良いスペシャルウィークがスズカを大絶賛し、顔から火が出そうになったのはいい思い出(?)だ。

 

 そこでふと思った。そういえば、今のトレーナーとクリスマスを迎えるのは初めてではなかったか、と。

 そして恐らく、トレーナーは自分のサンタ姿を見せた事は無かったはずだ、と。

 

 二つの事柄が繋がった瞬間、スズカの脳裏に稲妻が閃いた。

 

 

 

 

******

 

 

 

 

「ふぅ……すっかり遅くなったな……」

 

 その日、ライバルと後輩のウマ娘が有馬記念に出ると聞いたトレーナーは、敵情視察も兼ねて中山レース場に観戦に行っていたのだが、何故かウイニングライブまで見る流れになってしまい、そのままライブの終了時間までレース場に滞在し、トレセン学園に戻る頃には日が暮れる……どころか、時刻は9時を軽く過ぎてしまっていた。

 

(しかし……今更ながら、スズカが着いてこなかったのは珍しいな。いつもなら着いてくるんだが)

 

 そう、この日スズカは何故かトレーナーに付き添わず、学園で自主トレに励むと言ってトレーナーを送り出したのだ。

 何かあったのか?とも思ったが、走る事が好きなスズカの事だ、実際その通りなのだろうと思い、中山レース場に向かったのだった。

 

(待っている……なんて事はないか。流石にこの時間じゃな)

 

 一応、時間的に遅くならない程度の練習メニューを渡しておいたのだが、時々スズカは時間を無視して走りたがる癖があった。

 だが、休みなのだから同室のスペシャルウィークが彼女に付き合っているかもしれないという事を考えると、スズカが遅くまでいる可能性は低いのではないかと、そう考えたのだった。

 

(……我ながらなんて女々しい。渡したいものがあるからいて欲しかっただなんて)

 

 そう思う彼の腕の中には、バスケットボールが入りそうな大きさの箱があった。

 

 そうこうしている内に、トレーナー室の前まで来た……のだが。

 

(……? 鍵が開いてる、だと?)

 

 まさか泥棒が天下のトレセン学園に侵入する事はあるまいし――それに盗むようなものも大してない――恐らくはスズカだろう。

 だが、何故まだ此処にいるのか?

 色々と思考するも、理由がさっぱり思い浮かばない。

 その内諦めたトレーナーは、静かに扉を開けた。

 

(……? 電気は付いてないのか?)

 

 部屋の中は真っ暗で、人がいるかどうかも分からない。

 とりあえず明かりをと思い、手探りで電源を付けると――

 

「――な!?」

 

 なんとビックリ。部屋中色とりどりに飾り付けされているではないか。

 そして、それを行ったと思しき当人――即ちサイレンススズカと言えば、

 

「すぅ……すぅ……」

 

 備え付けのソファーで、何故かサンタのコスチュームを着てすやすやと眠りについていた。

 

 そんな光景を見れば、この状況がどういう事か、何故スズカが学園に残ると言ったのか、その二つがトレーナーの中で繋がった。

 

(……成程な)

 

 きっと彼女は自分を喜ばせようとしてくれたのだ。今日が特別な日であるように。

 

(全く……可愛らしい事を)

 

 その気持ちが嬉しくもあり恥ずかしくもあったトレーナーは、思わず苦笑する。

 ただ、このまま寝かせ続けるのもどうかと思った彼は、「スズカ」と声を掛けながら、優しく彼女の肩を揺すった。

 

「……ん……」

「ほら、こんな所で眠っていたら風邪を引くぞ」

 

 何度か繰り返すと、やがてスズカの目が開き――

 

「んん……トレーナー、さん……?」

「ああ。おはよう」

 

 しばらくぼんやりとした表情でトレーナーの顔を見つめたかと思うと、急に目を見開き、今度は恥ずかしそうに両手で真っ赤になった自身の顔を挟んだ。

 

「う、嘘でしょ!? 私、いつの間に寝て……え、もう朝……!?」

「落ち着くんだ。まだ夜だよ」

 

………… 沈黙。ややあって――スズカは再び両手で顔を覆い、小声で呟き始める。

何事かとその様子を眺めていると、しばらくして手を顔からは外し――それでも俯かせたままではあるが――スズカはおずおずと上目にこちらを窺ってきた。

 

「その……あのですね、トレーナーさん……」

「なんだ?」

「……メリークリスマス、です」

 

 ……トレーナーは察した。どうやらサプライズは失敗に終わってしまったようだ。スズカの頬は、未だ赤いままだったから。

 

 

 

 

******

 

 

 

 

「……ぷっ、あっはっは!」

「も、もうっ! 笑う事ないじゃないですか!」

 

 あの後スズカから聞いた話によると、真面目にトレーニングをやった後、スズカは急いで部屋の飾り付けをしたのだという。他でもない、トレーナーとクリスマスを祝う為に。

 そして、少しでもクリスマス気分を一緒に味わう為に、わざわざ以前使ったサンタコスチュームを引っ張り出して着たまでは良かったのだが……予想以上にトレーナーがやって来ず、そのまま寝てしまったのだ。

 しかも、行き当たりばったりで唐突に準備を始めたせいで、肝心のプレゼントを用意するのを忘れていたというおまけ付きで。

 

「ふふ……すまない、あんまり君がチャーミングなものだから」

 特に寝起きの顔とか。その事を口には出さず思い出して再度噴き出すと、スズカの視線に羞恥と一緒に僅かばかりの怒りが混ざる。だが――

 

「でも――ありがとう、嬉しいよ。君のその心遣いもそうだけど、俺を喜ばせようと頑張ってくれた事が、本当に嬉しい。最高のサプライズだよ」

 

 そう言うと、スズカの怒りはあっさりと消え去り、ただ照れくさそうにはにかむのだった。

 

「さて……じゃあスズカの頑張りに応えないとな」

 

 えっ、と声を上げたスズカを他所に、トレーナーはあのバスケットボール大の箱をスズカの前に差し出した。

 

「装飾も何もない味気ない箱だが……開けてみてくれないか?」

「あ、はい」

 

 きょとんとした表情ながら、素直に箱を開けるスズカ。

 その中から出てきたのは――

 

「……ボール?」

 

 線が入った緑色の球体だった。しかもよくよく見れば、つぶらな目のような部分も相まって顔のようにも見える。

 

「ただのボールだと思うなよ……っと」

 

 そう言うと、緑のボールを借り受けたトレーナーは、なんとそれをパカッと開いて見せた。

 そして、何やら弄ったかと思うと――

 

『オハヨー! オハヨー!』

「きゃっ!?」

 

 なんと、ボールが喋りだした。

 

「ははっ、驚いてくれたかな」

「あ、あの、これは一体……?」

「ハロって言うんだ。最近、AIアシスタントってのが流行ってるだろ? だから、俺も昔作ったのを流用して、AIアシスタントとして完成させたんだ」

「……え、作った?」

 

 スズカも、これには驚かざるを得なかった。それなりの付き合いがある中でも色々と不思議な所のあるトレーナーとは思っていたが、まさかこんな事まで出来るなんて。

 

「自慢じゃないが、機械弄りは昔から得意なんだ」

 

 トレーナーもその出来には自信があるのか、普段からは想像もつかない程自慢げに笑って見せた。

 

「こいつは、簡単な会話から家電のオンオフなんかも出来てな。試しに何か話しかけてみてくれ」

 

 そう促されるまま、スズカはとりあえず「ええと、おはよう、ハロ?」と声を掛ける。すると――

 

『今モウ夜ダケドナ!』

 

 と、元気いっぱいの声が響く。

 

「嘘でしょ……凄すぎる……」

 

 トレーナーの技術力を目の当たりにして、驚きを通り越して唖然としてしまう。これでは、もはやなんでもありではないか。

 その後もスズカはハロ相手に、色々な話題を振るものの、それらにハロは全て完璧に反応し、時にはツッコミを入れる。

 

「……ホントに凄いわね」

この反応速度と正確性があれば、確かに生活サポートとしては最高かもしれない。そう思いつつ改めて眺めてみると――丸っこい体型が妙に可愛らしく思えてきた。これを、男のトレーナーが作るとは。

 

『ドウカシタカ?』

 

と、急に声をかけられて少しびっくりする。

 

「ええと、なんでもないわ。……その、これからよろしく、ハロ」

『ヨロシクナ! ヨロシクナ!』

 

 余談だが、このハロ、スズカのいる栗東寮で大人気のマスコットになり、そのあまりもの人気ぶりに自分達もと欲しがった美浦寮の生徒からの要望を受け、寮長のヒシアマゾンがトレーナーにもう一機製作を依頼したとかなんとか。

 

 

 

 

******

 

 

 

 

「わぁ……! 雪……!」

 

 あれから二人だけのささやかな食事を終えた二人が帰路に就くべく外に出ると、空からふわふわと雪が降り始めていた。

 それなりに前から降っていたのか、地面は薄く白みがかっており、歩くと足跡が薄っすらと目立っている。

 

「天気予報じゃ降るかもみたいな事言ってたけど、ここまで本格的になるなんて思ってなかったな」

「……ええ、本当に。ホワイトクリスマスですね」

 

 そう語り合いながら、二人は自然と寄り添う形で歩き出す。

 

「……トレーナーさん」

「なんだ?」

 

 唐突にスズカが話しかける。その瞳には、電灯の光を映しているからなのか、まるで確かな意志の輝きが見て取れるようだった。

 

「来年も、再来年も、ずっと一緒に祝えたらいいな、と思います」

 

 そんな事を語り出す彼女の頬は寒さのせいなのか、それとも違う何かの所為か、微かに赤く染まっているように見えた。

 それに対し、トレーナーも、

 

「ああ。来年も再来年も祝えるよう、俺も頑張る」

 

 と、決意を言葉に乗せる。

 二人の歩む道は、決して平坦なものではないだろう。それは今までも感じていた。だからこそ共に支え合って歩いて行きたい、という気持ちを込めて。

そう語るトレーナーの手を、スズカは唐突にぎゅっと握った。

 

「うおっ!? スズカ!?」

「寒かったので……ダメ、ですか?」

 

 意識してかせずか、上目遣い気味にこちらを伺うスズカに、気恥ずかし気にトレーナーは頬を掻き――

 

「……丁度、俺も寒いと思ってたところさ」

 

 ちっぽけなプライドが邪魔をし、こう返す他はなかったのであった。

 

 

 

 

 ちなみに、手を繋ぎながら帰っているところをスズカを待っていたスペシャルウィークに見られ一騒ぎ起こったのは、また別の話。

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