プレゼンが終わった後、エルネスティはダーヴィドに引きずられる形で学園長室へと連れ去られていった。
それはエルネスティの提案がこれまでの改造とは段違いであるので許可を取るためだ。幻晶騎士の改造・調整は鍛冶学科の生徒にある程度の自由裁量が与えられている。もちろん監督役の教員がついており都度指摘や助言を行っている。
これまで学園で行われたのは、個々人に合わせた調整や学生制作の試作品使用といった簡易的なものばかりだった。エルネスティが提案したものは幻晶騎士のあり方そのものを変える。綱型だけでも、本当に耐久性・出力が上昇すれば運用規模を見直されるかもしれない。それに加えて背中に増設する腕、仮称補助腕による魔導兵装運用の変化は単体、軍事的問わず運用方法を変えうる。ゆえにダーヴィドは学園側の許可があった方が良いと考え、エルネスティもそれに同意した。
「随分と突飛な話じゃな。うむ、子供の背中を押すのがわしら大人の仕事じゃ。失敗を恐れず思うとおりやってみると良い。ちょうど先日の遠征で幻晶騎士の大半が再建造レベルだそうじゃからな」
学園長で話を聞いたラウリは少し考えた様子を見せるが快く許可を出した。しかし、彼はこれがどれほどの事態を生むのか想像し切れていなかった。一線を退いて長く、何十年も学園運営の書類仕事ばかり行っていたために軍事的な想像力が少々衰えていた。聞いた話も実現すれば儲けもの程度の認識で現実的な提案であると感じられなかった。実際には既存技術の応用が中心であるため夢物語ではなかった。実現すれば一世紀以上無かった新型機の開発という偉業となることまで想像が行かなかったのだ。
許可を得たことでダーヴィドは満足げに学園長室を去ろうとするが、エルネスティがラウリに言葉を投げることで待ったをかける。曰く、幻晶騎士の多くが修理中の影響で訓練の実施が困難ではないかという事だ。
ラウリはその言葉に肯定を返すが、だからといって彼の中にその解決策はない。幻晶騎士の操縦訓練は幻晶騎士を動かす事でしかなしえないからである。そして幻晶騎士の建造には月単位の時間と労力が必要になり、簡単に用意できる者ではない。だが、エルネスティはそれに否と唱える。
「要は幻晶騎士の訓練に幻晶騎士を使う事で問題が発生しているわけです。つまり、幻晶騎士の代替品があれば解決出来ると言うことです」
正直に言えば、話を聞いている二人には言葉の意味がわからなかった。いや、言っている意味はわかるが、その真意をつかめないでいた。そんな二人の様子をみつつ、エルネスティは綱型や補助腕を提案した際の反応から仕方が無いと言葉を続ける。
「先ほど親方には言いましたが、道具なのですから形にこだわる必要は無いのです」
幻晶騎士が10mほどの体躯なのはいくつか理由がある。最大の理由はもちろん大型魔獣との戦闘である。そして、次点で重要といえる理由は魔力転換炉の搭載である。魔力転換炉はそれ単体でもそれなりに大きく、これを抱えて戦闘を行うには巨大な器が必要となる。
大型魔獣との戦闘では魔力転換炉の生み出す強大な魔力が頼りになっている。では、訓練を行うにはどうだろうか。もちろん操縦の訓練を目的としているため、強大な魔力は必要ない。戦闘を目的としていないため、それほどの巨体を必要としない。つまり、10mの巨躯である必要性はほとんど存在せず、小さく作れば事足りる。
小さく作る事が出来ると言うことは、巨躯を操るための演算は必要なくなって想定では人の演算能力で十分まかなえる。つまり魔導演算器も搭載が必要なくなるかもしれない。加えて小型化すると言うことは作成に必要な人数、能力が少なくてすむということでもあり、騎操鍛冶師としても工期の短縮や習熟訓練になるといううまみがある。
「たくよぉ。おめぇ新型機だけじゃなくてそんなのまで考えていたのかよ」
「以前から構想はあったのですけれど、僕の知識的にも状況的にも今がちょうど良いと思いまして」
エルネスティは以前、幻晶騎士に乗るという夢を作って乗るという方向へ変更したことがある。そのときは幻晶騎士欲とでも言うべき彼の欲望が収まった。しかし、時間がたつにつれて乗りたいという意欲は再び大きくなっていた。一日でも早く乗るために様々な案を練っていたが、その多くが現実的とはいえないものだった。
小型化の案もその一つで比較的現実的な部類であった。しかし、設計の知識不足であったり、必要性が感じられなかったために保留としていた。先日、グゥエールを直接制御によって操縦した経験によって、エルネスティは設計に必要な最後のピースを手に入れていた。曰く、2mほどの大きさであれば魔力転換炉や魔導演算器が無くとも負担は人の能力的に大丈夫な範囲になる計算である。加えて、偶発的な事件とはいえ全体が危険な状態に陥ったことから幻晶騎士に頼らない個人の能力を伸ばす必要があると考えた。
いつの間に、どこから取り出したのか小型化した幻晶騎士の設計や取り扱い案についての提案書が二人に向けられていた。思いもよらなかった二つ目の提案にラウリは思い至った懸念事項を言葉にする。
「じゃが、幻晶騎士の改造もするのじゃろう。手が足りぬのではないか」
「学園長、こんだけ簡略化されてたらまだ技術力が整ってない中等部の奴らでも十分だ。指導役として一人二人いりゃあ十分だと思う」
「なるほどの。ゆえに、これが習熟訓練となって騎操鍛冶師の即戦力化ができるというわけじゃな」
エルネスティが新たにした提案は概ね好意的に受け止められた。それに安堵したがゆえに次にラウリから飛び出した言葉にエルネスティはこれからのことを憂い、身をこわばらせるのであった。
「ところで、こっちの方はみんなには説明したのかい?」