綱型と補助腕、そして幻晶甲冑と名付けられた小さい幻晶騎士の提案をしてから数ヶ月ほど時が流れた。
エルネスティの機具とは裏腹に幻晶甲冑の提案はダーヴィドとラウリ以外にもすんなりと受け入れられた。鍛冶学科の人間としては、腕を増やしたり筋肉そのものを変えたりするより常識的という認識になったのだ。
しかし、そこで一つ問題が起こった。簡単に言うと、誰が何に割り振られるのかという話だ。開発とは、一度にすべて行うことは少ない。話は簡単で、問題が発生した際に変更が多いと原因がわからないためである。電球の実験で考えるとわかりやすいかもしれない。
電球と電源、それをつなぐコードで電気の働きを直感的に確認するものである。これをより長時間光を発生させようと、電球をLEDなどに変え、電源をより長く電気を発生させる物に変え、コードをより電気を通しやすい物に変える。このとき逆に光が発生しないと、どれが原因で光らないのか、はたまた組み合わせの問題なのか、非常にわかりにくくなる。
幻晶甲冑は元々が単体であり、綱型と補助腕はそれぞれが異なる機能になるため、開発は三つに分けられた。そこでどれを担当するかという話で殴り合い直前まで加熱したのである。いつまでたっても話が終わらないとダーヴィドが一声で喧噪を沈めた。最終的に、幻晶甲冑は中等部を中心に、綱型は幻晶騎士の全身が対象のため高等部を中心に、補助腕は背中の腕に加えて魔導演算器を変更するということで魔法術式や紋章術式を専門にする構文技師志望を中心に配置することに決まった。
話がまとまれば早い者でそれぞれ一月もしないうちに試作や技術的な完成を見せた。しかし、やはり新技術というものは問題がつきものであった。
まず、幻晶甲冑は小型であるということと新技術が少ないということで2週間ほどで試作ができあがった。しかし、エルネスティにとって想定外だったのが操縦だった。
直接身にまとう形になるため、幻晶騎士より肉体的な操作が必要になる。そこまでは想定内だったため良かったが、流動的に動かすための演算が問題であった。エルネスティは人間の能力的に2m程度であれば十分に演算がまかなえると考えていた。しかし、これは理想的、平均的な話であり実際にはぎこちない動きをするのが精一杯であった。
幻晶騎士は魔導演算器に演算の大半を任せているため、上級魔法の中でも演算難度が低いもの程度だった。しかし、演算の総量が少ないとはいえ、それをすべて演算するのは戦術級魔法に匹敵するかと思うほどの難度であった。上級魔法である身体強化がもとであるため、これも仕方の無いことであった。
結果、まともに扱えるものではないと1月ほどで開発陣の大半は他プロジェクトの手伝いであったり通常授業を受けたりしていた。なお、エルネスティ他一部で細々と開発は続いていた。
次に、綱型は変更が簡易なために幻晶甲冑と同程度の時期に試作ができあがった。編み込み方による出力や強度の変化なども調べ、最終的に出力2倍、強度10倍程度になった。試しにヘルヴィの機体であるトランドオーケスの腕を綱型で修復したところ、性能試験用のダンベルみたいなものを片手で持ち上げた。これは本来、幻晶騎士が全身を使って持ち上がるものであり、出力の向上は満足のいくものであった。しかし、その腕は嫌な音を響かせて部材を散弾のように弾き飛ばした。出力が大幅に向上したために、従来の固定方法、金属内格の素材では耐久力が足りなかったのである。結果、幻晶騎士全身の固定方法、金属内格素材の模索といった根気の要る作業が長いこと続いた。しかし、学生である彼らに満足のいくものは出来ず、不足分は外装硬化の出力を上昇させることで対応した。
最後に、補助腕はすべてが初めての試みであったために一番時間がかかった。一応腕をつけてまっすぐ撃つだけならそれほど時間はかからなかった。しかし、そこから収納・展開機能の追加、エルネスティがどこからともなく持ってきた照準機能と腕の動きの連動といった、魔導演算器の魔法術式開発に多くの時間を要した。また、綱型が強力過ぎる故に筋肉の位置や固定位置の変更によって、補助腕の固定部が移動する必要が出た。開発終了時には死線をくぐったかのような目つきをしていたという。彼らが言うには、考えられないほど効率化されたエルネスティ製の魔法術式を解読するのと模倣にひどく時間がかかったそうだ。
そんなこんなあって現在、綱型と補助腕を搭載した新型試作機、旧トランドオーケスが完成していた。テレスターレと名付けられたその機体に、作業に携わった人たちはそれまでの苦労もあってか勇猛な雰囲気を感じていた。
腕や足、補助腕単体と言った部分的な動作は想定通りのだった。しかし、実際に全身を動かした場合、組み合わせている部分に問題が発生する可能性がある。また、動作する機体に補助腕を搭載した際の照準精度を調査、修正する必要がある。
綱型を検証した際の装甲が弾け飛ぶ様子が脳裏によぎったのか、実働試験に参加している人たちは注意深く様子を伺がっていた。しかし、そんな不安をよそに試験は何事もなく終了していく。単体だけで無く、全身をうごかし、騎操士によって照準をつけて法撃を放つ。
綱型の出力増強による操作性の悪化や照準精度の甘さなど問題は残っているが、数ヶ月に及ぶ苦労が形になったことで鍛冶学科の人間を中心に歓喜にわいていた。
そんな様子に当てられたのか、ヘルヴィは試作機完成記念に戦闘試験として模擬戦をしようとエドガーへ宣戦布告していた。ディートリヒなどがその様子を茶化していたが、エドガーが対戦相手の座を譲るといった途端に口を閉ざした。進んで馬に蹴られたい人間はそういないということである。
その場にいた誰もが自分たちで作り上げた新型機の性能に興味があった。試験としても戦闘時の弱点把握など有意義なことも多く、反対意見は出てこなかった。しかし、現在のテレスターレは綱型で発生した事故のこともあって外装他装甲のほとんどが外されていた。そのため、突貫工事として既存の装甲をテレスターレ用に加工した。しかし、その作業に1月ほどかかっており、エルネスティは巨大兵器としてのスケールを感じていた。
満を持してヘルヴィが操るテレスターレとエドガーが操るアールカンバーの模擬戦が行われた。しかし、模擬戦の結果はなんともいえない結果となってしまった。
おおよそは満足の行く試合ではあった。綱型による出力増強は歴然とした者で、終始テレスターレが力負けする場面はなかった。補助腕による法撃も想定以上のものであった。純粋に遠距離攻撃がしやすくなっただけでなく、近距離においても牽制や意識外の攻撃としては働いていた。
しかし、それらが逆に大きな弱点とかしていた。収縮距離の増量による出力の増強はそのままより長く収縮しなければ以前と同じ動作を行えないと言うことであった。また、補助腕による法撃が簡便になった事で以前より頻度が上昇していた。この二つのことは、同時間の稼働に対する消費魔力が増えることを指し示していた。
結果、模擬戦はテレスターレが優位に進めていたが、決着がつくあと一歩というところでその動きを止めた。模擬戦を見学していた者達は状況を理解できず静まりかえっていたが、エルネスティの一言で一様になんともいえない表情をさらしていた。
「ああ!魔力切れ!」