模擬戦の翌日、テレスターレに携わった人たちが工房の一角、会議室のように使っている場所へ集まっていた。なお、あと一歩というところで魔力不足になったことでヘルヴィはひどく落ち込んでおり、周囲からの声もあって相手をしていたエドガーが慰めるというなんともいえない状況になっていた。
「いやあ、ここまであまり問題なく来ましたけれど意外なところに大きな落とし穴がありましたね」
「まぁ考えてみりゃ当たり前のことだな。一気に強くしたから足りなくなった」
エルネスティのこぼした言葉にダーヴィドが応える。その言葉の通り、一度に強くしてしまったがために魔力が足り無くなってしまった。どうしたものかと頭を抱えるなか、オルター兄妹が疑問をこぼした。
「昔から幻晶騎士って一応強くなって来てるんだろ?今までってどうしてたんだ?」
「いえ、実は過去に同様の問題は発生していないのですよ」
「そうなの?」
「ええ。ある意味今回が異例なことですから」
幻晶騎士はこれまでも少しずつ強化されてきた。装甲材を検討して防御力と機動力をどこまで両立できるか。結晶筋肉を少しでもよくして出力を増強できるか。様々な検討、実験を繰り返している。
そして今回大事になるものが、魔力転換炉が生み出す魔力をどれだけ増やせるか、どれだけ節約できるかという点である。結晶筋肉に焦点を当てて考えてみる。本来、結晶筋肉を改良するという話では、出力の向上と共に消費魔力の削減や貯蓄魔力量の増大が話題に上がる。話は簡単で、考えなしに魔力を消費する調整をしてしまえば綱型を上回る出力は簡単に出せる。しかし、いくつか問題が出てくる。
例えば魔力貯蓄量、結晶筋肉は出力機構であるとともに、魔力を蓄えておく貯槽の役割を持っている。現状、出力を優先する調整をしてしまえば魔力の貯蓄量が少なくなる。結果、稼働時間がまともに無い機体ができあがる。
例えば消費魔力、需要と供給などともいえる事について。単に多量の魔力を消費してしまえば、魔力転換炉の供給が追いつかなくなってしまう。結果、何よりも強い力を発揮するのに、そもそも動くことが出来ない機体ができあがる。
そして、結晶筋肉はこれまでそのまま使用されてきた。そのままの性能が機体性能へと直接関係する状態だったため、消費魔力、貯蓄量、出力を上手くバランスをとって変化してきた。
しかし、今回の綱型は結晶筋肉の使用方法に工夫を加えている。綱状とすることで、伸縮距離を確保したこれは、消費魔力を考えず、出力を求めたということにつながる。これまで問題が発覚しなかったのは“綱型の運用試験としてごく短時間の動作しかしていなかった”、“結晶筋肉の性質、総量が変化していないため、貯蓄魔力量も変化していなかった”という二点があるためだった。
過去に発生した事例を見ても、結晶筋肉を作る段階に発生した話であり、幻晶騎士を造る段階に発生した問題ではない。問題を定義した際、同じものに見えるが、根本的に違う分野ということになり、参考には出来なかった。
とはいえ、いくつか問題解決の策は話し合われていた。例えば、錬金課程の生徒に頼んで出力を落としつつ消費を削減、貯蓄量を増大させたものにする。例えば、より多くの結晶筋肉を搭載して、貯蓄量の増大を図る。しかし、やはりそれらにも問題があった。
出力を落とした結晶筋肉の案は、稼働時間で見れば依然と変わりないほどの試算が出ていた。しかし、出力や強度も依然と同程度以下になり、綱型である必要性、実用性が損なわれていた。
結晶筋肉をより多く搭載する案は、貯蓄量が増える代わりに搭載した結晶筋肉を動かすために消費魔力も増えて、いたちごっことなることが目に見えていた。
「魔力の供給量を増やす事が出来れば一番ですが、魔力転換炉の改造は現実的ではないでしょう」
では、魔力転換炉の出力を増やすのはどうかというと難しい。そもそも魔力転換炉は国家機密の代物であり、分解することもままならない。その前に、かなりの強度を持つ完全なブラックボックスとなっており、戦闘に置いても破損することは稀であった。
仕組みを知らない以上は変更を加える事も出来ない。前世の記憶から永久機関ともいえる魔力転換炉に疑問を抱いて調べてはいるが、やはり国家機密だけあって表面的な事しかわからない。一応、魔力転換炉も破損関係なくいずれは壊れるため、魔力やエーテル以外にも何かあるのではないかと見当をつけているが、わからない以上は検証のしようもなかった。
そうして頭を抱えてるさなか、アデルトルートが発した言葉に全員の耳が傾いた。それはエルネスティの発した言葉の受け売りではあったが、彼自身も頭になかったものだった。
「お得意のあれはどう?形にこだわる必要はないーってやつ」
「...そうですね。確かに今僕たちは綱型という形にこだわり過ぎていたようです」
「全くそのとおりだな。だが、どうする。部位によって使い分けるか?」
「それも良いと思うが、場所によって違うのは騎操鍛冶師として面倒ではないか?」
「色々と問題が出そうですし、それはサブプランということにしておきましょう」
一石を投じられた影響か、先ほどまでよりも議論が過熱していく。そして、これまでの会話の中に解決のヒントが存在することにエルネスティは気がついた。
「魔力貯蓄量の多い結晶筋肉!」
「あ?そりゃさっきやる意味がねえって話だっただろうが」
「いえ、綱型という形にこだわることをやめたのです。でしたら筋肉という形にもこだわるのをやめてみましょう!」
「!なるほど。結晶筋肉の量は増やすが、それは動かさず単なる貯槽として扱う。そういうことだな」
「はい。動かす事無く、より魔力を蓄えることの出来る形状...板でしょうか」
そうこうして完全な増槽としての結晶筋肉の新しい形ができあがっていく。板状結晶筋肉、それが綱型という使用方法に併せて新たにできあがる結晶筋肉の名前となった。
とはいえ、実物の作成には具体的な知識が必要になる。この場にいない錬金課程履修者との連携、開発に時間がかかる。そのため、形になるのは板状結晶筋肉を除いた動作試験、耐久試験が一通り終わる一月ほどたった頃だった。
ちなみに、直感的なアデルトルートが放った言葉に助けられる形となった事に、エルネスティはなんともいえない表情を浮かべていた。そして会議が終わった後、彼女に捕まって問い詰められ、次の日は一日中抱きしめた姿をさらしたという。