「そこの御者止まりなさい!事と場合によっては...あれ?親方じゃないですか」
「銀色坊主!?お前なんで、いやこの騒ぎはなんだ!?」
「賊が侵入しまして幻晶騎士が奪取されました。おそらく目的はどうやら僕たちの新型機でしょう。内部では朱兎騎士団が戦闘を行っています」
エルネスティはいつものように空気弾丸等を複合して、馬車へ文字通り飛び降りるとそこには見覚えのある人物がいた。その人物、ダーヴィドはエルネスティの登場に驚きつつも様子のおかしい砦に何があったのか尋ねた。エルネスティも馬車が敵でない事を確認したのでとんぼ返りしても良いのだが、友人を見捨てるほど錯乱はしておらず、簡素に状況を説明する。
「そうか...あれはそういうことだったのか」
「あ!荷台にあるのは僕の幻晶甲冑ですね!事情はわかりませんが使わせていただきますよ」
「あ、おいちょっと待」
「それでは砦の応援に向かいますので、親方も気をつけてくださいね」
説明を終えたエルネスティは馬車の荷台に幻晶甲冑、それも自分用に調整された物を発見する。彼にとって幻晶甲冑とは、文字通りの廉価版小型ロボットだった。個人的な事情でロボットとの戦闘に生身での参戦をためらっていた彼は、渡りに船とばかりに即座にそれへ乗り込んだ。そして、親方の話も聞かず一目散に飛び立った。ダーヴィドはいつも通り凶行ともとれる行動に開いた口が塞がらなかったが、すぐに再起動を果たして砦へと馬車を走らせた。
「銀色坊主め、人の話も聞かねぇで!あいつがいったんなら、砦は早くに収拾がつくはずだ。早く行ってあいつらのことを伝えねえと!」
幻晶甲冑を携えて砦へと舞い戻ってきたエルネスティは戦闘に交わろうとしたが一つ問題に当たった。
「これ、どれが味方でどれが敵なんでしょうか」
そう。敵味方の判別が出来ないのだ。通常どうやって判別するかというと、“同系譜の機体であるか否か”が一般的である。しかし、今回は賊による味方機の奪取であり、わかりやすい別系譜の敵機は存在していなかった。
前世のロボットものでよくある判別方法は識別信号と呼ばれる物であった。常に自分がどちらの軍に所属しているか電磁波によって発信するのだ。現実でも、IFFと呼ばれる装置で電磁波通信による敵味方識別を搭載したりする。また、特異なものでは動力系等が特殊な電磁波を出しており、一つ一つを個別に識別するものもあったり、アナログな方法だと戦国時代に旗を背負って所属を示したりしていた。
しかし、この世界ではそういった判別方法は未だ存在しない。フレメヴィーラ王国では魔獣というわかりやすい敵が存在するため、必要の無いことだった。また、西のオービニエ山脈を超えた先にある国々、西側諸国では国同士のいざこざはあるが、正々堂々と戦う事を善としており、敵に似せる等の絡め手は忌避する傾向にあった。
そんな中でエルネスティが出した結論はひどく単純なものであった。
「味方はわからないから攻撃を向けないのは無理。では、敵だと思われる機体だけ狙いましょうか」
今回は味方の判別は難しいが敵の判別だけは可能であるという判断だ。理由は賊の目的にある。無差別な攻撃であるのならば、このタイミングである必要も、テレスターレの保管されている工房を占拠する必要も無い。制圧が目的ならここまで限定的な戦闘を行う理由がない。そして、一つ一つがただの偶然で片付けられるものでもそれが二つ三つと重なれば、それだけ必然である可能性が上がる。
つまり、敵には今行動する必要があって、門付近に限定した戦闘を行う必要がある。故にエルネスティは賊の目的はテレスターレの奪取であると判断して、それをダーヴィドへと話していた。実際、彼らは偶然テレスターレに手を出したと考えるには、特性をあまりにも理解しすぎていた。
だからこそ、十中八九テレスターレには賊が乗っている。そうエルネスティは断言できた。そして、テレスターレの対処が終われば後は簡単な話である。襲撃を開始して最初に攻撃したのが門であることから、敵は逃走経路の確保を行いたかったと考えられる。故に、劣勢になればなりふり構わず逃げ出す、または目的であるテレスターレをどうにかしようとするだろうと予測が立てられる。
そうしてエルネスティは攻撃を開始した。自身より大きい存在との戦闘の要領は陸皇亀の時と同じく、敵の弱い部分を攻め立てるのだ。ましてや今回はこれまでの人生で学び続け、自身が設計・開発に携わった幻晶騎士、弱点は隅から隅まで把握している。
最初の一機は目を狙った。幻晶騎士の頭部には眼球水晶と呼ばれる物があり、これで得た情報を用いて操縦席の幻像投影機に映像を投射している。ともなれば、それは外部から簡単に魔導演算器へ接続できる端子となる。とはいえ、眼球水晶は操作を行う入力装置として作られていないため、本来はここから操作を行うのは不可能と言っても差し支えない。そして、眼球水晶は外装の兜によって攻撃、接触は阻まれる。しかし、エルネスティは本来不可能といわれていた幻晶騎士の直接制御を行っている。つまり、彼の魔法に対する操作能力、演算能力その他は上に振れる方向で普通では無いと言うことだ。さらに、今のエルネスティは少し大きいが人と同じ体躯といえる。故に、情報を取り込むための隙間から手を差し込み、魔導演算器へ接続することが出来る。
そうして、魔導演算器に収められている操作系統の魔法術式を破壊して、ただの木偶へと変えた。念のために眼球水晶を魔法によって破壊して、万一敵の騎操士が直接制御しても外の様子がわからないようにした。しかし、これは奇襲という一番時間を確保出来る場面だからこそ出来たことであり、次からは警戒、妨害がされて成功しない。
次の一機は関節を狙った。陸皇亀も同じだったように、可動部分はどうしても他に比べてもろくなる。膝や手を重点的に攻撃すれば関節を破壊して行動を阻害できる。また、テレスターレの補助腕は構造的に多少の無理があった。本来何もない場所に無理して細腕をはやしているため、直接的な防御力は低い。幻晶甲冑による攻撃でも簡単に固定具を破壊できるほどだった。金属内格から補助腕を前提として造ったならば話は違うが、サロドレアからの発展による脆弱性が迎撃という面で良い方へ転がった。
そうして手を変え品を変え、朱兎騎士団と協力して賊を制圧することが出来た。このとき戦闘に参加していた騎士には、「もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな、と思った」と言っているものもいたが、騎士団が賊の注意を請け負っていたために出せた戦果だった。それをわかっているから、エルネスティも天狗にならず騎士団の反省会に混ぜてもらおうと考えていた。
襲撃の収拾がついたと安堵し始めた所にダーヴィドが追いついてきて、重大な事実を伝えた。
カザドシュ砦に来る道中で奪取されたテレスターレと接敵し、譲渡漏れによって搬送中だったテレスターレと護衛のサロドレア、そして幻晶甲冑二機が戦闘を行っていると。
騎士団は学生をいつまでも危険な目に遭わせないため、エルネスティは学友の危機を助けるため、ダーヴィドから聞いた地点へ向けて即座に出発した。