knights & magic ~odic theory~   作:Drac

21 / 55
21話

 鍛冶師用の幻晶甲冑(シルエットギア)が作られ始めてからしばらく、工房の一部では混乱が起こっていた。状況として共通なのは幻晶甲冑(シルエットギア)について誰か―主にダーヴィド―が質問を受けているということである。

 

 

~ある教員とダーヴィドの場合~

「ダーヴィド君、幻晶甲冑(シルエットギア)を見せてくれないか?」

「はい。あー、今はうちで使って無いん筈なんでいつもの簡易駐機場(倉庫の一角)にあるはず...」

「ああ、そうじゃないよ。生徒へ多様性を見せるために君の幻晶甲冑(シルエットギア)を参考にしたいんだ」

「あ、ああ。なるほど。わかりました」

「よろしく頼むよ」

 

~ある団員とダーヴィドの場合~

「親方、幻晶甲冑(シルエットギア)の設計図見せてくれない?」

「あ?あー、どこにしまったっけな。こいつが出来上がってからしまい込んでたからなぁ」

「ん?ああ、ちがうちがう。俺のヤツちょっと変にいじり過ぎちゃって配線とかが上手くいかなくてさ、基本を見直そうと思ったんだよ」

「そ、そうか。それだったら保管室に入ってすぐの棚に入ってるはずだ」

「サンキュー親方」

 

 

 

「だー!ややこしいわ!!」

 

 ダーヴィド、悲痛の叫びであった。

 

 事の始まりは鍛冶師用の幻晶甲冑(シルエットギア)が従来の形から離れ始めたことにあった。理由はいくつかあって、例えば幻晶甲冑(シルエットギア)はその名の通り鎧としての役割を持っており、ある程度の気密性があった。鍛冶仕事においてはそれはむしろ邪魔な要素となっていたため、鍛冶師達は自身が使う幻晶甲冑(シルエットギア)の装甲をいくらか外して通気性を確保し始めた。

 他にも一部の鍛冶師が補助腕(サブアーム)の技術を用いて複椀にして作業効率を高めるなど、時間がたつにつれて各々自由に改造を始めた。一応、通気性の確保や事故を防ぐため最低限骨格を残すなど改造内容は似通っている部分が多かった。

 

 そういったことがあって、騎士用の幻晶甲冑(シルエットギア)とは全くの別機種であるという認識が広まっていた。しかし、現在は個別に識別する名称はついておらず区別が出来ない状態であった。

 

 

 

「というわけで、設立以来初めての銀凰騎士団緊急会議を開催したいと思います。では親方、一応議題とかお願いします」

「おう。といっても、騎士用の基本的な幻晶甲冑(シルエットギア)と鍛冶師用の幻晶甲冑(シルエットギア)が判別しにくいってだけだからな。要は適当に名前をつけちまおうって話だ」

 

 そんなこんなあってエルネスティが主催し、ダーヴィドを議長として会議が始まった。...のだが、この会議に参加している人間―エドガーやディートリヒ他、テレスターレ開発時のまとめ役を主とした役職持ち―の誰しもがまともな感性を持ち合わせていない事を忘れていた。

 

~エルネスティの場合~

「団長として第一案を、まず騎士用のものを寿限無...」

「却下だ」

「ぶーぶー」

「前にバトソンからきいたが、流石に本気じゃねぇよな」

 

 前世で某有名だったとても長い名前を出そうとしていて、間髪入れずに止められていた。

 実は以前、アールカンバーやグゥエール、トランドオーケスのように機体の識別名称をつけようと幼馴染み組で話し合うことがあった。最終的には良い案が出なかったために保留となったのだが、何を隠そうこの男、同様の名前を提案していたのだ。ちなみに、流石の幼馴染み四人も長すぎると早々に却下していた。

 

 新型機をテレスターレと命名するなど、ネーミングセンスはあるのに何やらふざけたがるところがあった。

 

~アデルトルートの場合~

「タクサンデキテスゴイブラちゃん!」

「色々と危ないからそれはやめて!」

「え?」

 

 形容詞をつけてどや顔をさらすが、フィーネに即却される。彼女の幻晶甲冑(シルエットギア)が持つ通称の一つ出張所(ブランチ)から来たのだろうが、その略し方は女性としてなんとしても阻止したかった。

 アデルトルートはふざけている訳ではなく、かなり本気で提案していた。彼女の場合、かなり独特なかわいいの基準を持っており、それをもとに命名したがるのだ。その形は長い形容詞と通称名などから頭二文字をつけたものが多い。

 

 ちなみに、テレスターレには“ウデフエテスゴイトラちゃん”という名前を提案していたりする。

 

 

 一例ではあるが、全体的にネーミングセンスがずれている者、ふざけた部分を出す者が大半を占めている。結果、単語をめちゃくちゃにつなげたものなど、まともな名称はなかなか出てこなかった。

 

 

「とりあえず騎士用の方はみんなの案をまとめて“モートルビート”としましょう」

『どこをどうまとめた!?』

「となれば、鍛冶師用のものをどう差別化するかという話ですが、とりあえず他に習ってある程度近しい名称にしましょう」

 

 最終的にエルネスティがまともなものを提案して、それまで出たものよりましだと仮決定した。

 次に鍛冶師用の名称を決めようと声をかける。彼の提案に反対するものはいなかった。近しいものは冠名をかぶせるなどはどの世界でも共通の発想だった。前例として幻晶騎士(シルエットナイト)の現行機であるカルダトアとこれを改修して指揮官となる中隊長等が騎乗するカルディアリアがあった。

 

 そこからそれなりの時間議論を重ね、騎乗者の動きを補助、代行することから冠名を“モート”、鍛冶師用の幻晶甲冑(シルエットギア)はフィーネの運び人(キャリー)からとって“リフト”を追加することになった。

 

 余談だが“モートルビート”と“モートリフト”と名付けられるも、とくにモートリフト側が搭乗者毎に仕様が異なりすぎたため、別の混乱が発生した。モートリフトの基本系を決定するために再度会議が開かれる事を誰も想像すらしていなかった。

 

 

 ちなみに、とりわけ特殊だったのはダーヴィドの幻晶甲冑(シルエットギア)であり、周囲からは重機動工房(ドワーヴズフィスト)と呼ばれていた。彼は鍛冶師中隊の隊長である事を踏まえて、他鍛冶師団員の手本や目標になるべきだと考えた。結果、複椀であったり工房で使用する魔法の大半が出来るという、なんだそれといいたくなる仕様となっていた。流石にそれだけの動作を保証するには小型engine一つでは足りず、エルネスティの助言から複数積んでいる。当時相談したときは、「頭脳を複数積むなんて、正しく機械だから出来ることか」と目からうろこが落ちていた。

 重機動工房(ドワーヴズフィスト)に代表される通称は識別名称としてこれまで通り呼ばれる事となった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。