knights & magic ~odic theory~   作:Drac

22 / 55
22話

 時が流れてカルダトアや新入生の受け入れも終わった頃、銀凰騎士団に国王から指令が下った。曰く、新型量産機を開発中の国立機操開発研究工房(シルエットナイトラボラトリ)を筆頭に、見た者をあっと驚かせるもの(機体)を作れ。

 

「それでは皆さん、準備期間は過ぎました。ここからが本当のスタートです」

 

 エルネスティの号令へ静かにうなずく者、豪快に応と答える者、目に闘志を抱く者、十人十色の反応ではあるものの反対的な反応はなかった。

 

「今回は“銀凰騎士団の有用性と設立目的を認めさせる”という副題もついていますので、僕主導でいこうと思います」

 

 一見横暴とも思えるエルネスティの言葉に反論を出す人間はいなかった。銀凰騎士団は今のところ、“エルネスティのために作られた”ためだ。彼の護衛、頭に眠る無数のアイディアを形作る場、というのが設立目的であり、そこに不満を持つ者はいなかった。彼がいなかったらテレスターレは何千年経っても開発されなかったであろう事はこの場の全員が理解していた。

 加えて言えば、エルネスティに影響されて柔軟な思考になり始めているものの、彼ほどの画期的なアイディアを出すには今しばらく時間が必要になることを理解していることもあった。

 

 エルネスティから出た開発目標は、どういう因果かテレスターレ開発時と同じ三つだった。

 

 一つ目は純粋に新機軸の幻晶騎士(シルエットナイト)開発であり、半分以上の人員を導入する予定だ。その形は...

 

『馬?』

「はい。見た目がわかりやすく新機軸で、行軍速度が優秀な機体です」

 

 全長は従来機の1.5倍程度で上半身は人、下半身は馬の御伽話に出てくる架空の魔獣、ケンタウロスの形をしていた。幻晶甲冑(シルエットギア)補助腕(サブアーム)といった突飛なアイディアに振れてきた彼らでも目を疑うようなものだった。

 エルネスティとしては、カザドシュ砦での一見を鑑みて速度に秀でた機体が必要だと感じていた。たとえ機体性能や練度が上回っていても追いつくことが出来なければそれを発揮することは叶わない。砦でも戦闘があったとはいえ、エドガーやディートリヒに援軍がなかったのには到達するのに時間がかかったためでもある。

 

「とりあえず言いたいことはわかった。これまでのことから“人型”にこだわる必要がねぇってのもわかる。だが...なんで“上半身”をつけやがった!?」

 

 その光景に言葉が出ない面々に変わってダーヴィドがエルネスティに問いかける。これまでエルネスティと付き合ってきた面々は今更人型以外を提示されても―新入生に比べて―驚きはなかった。そして、エルネスティの理屈もわかる。どんな強力な兵器も必要な戦場になければ意味が無い。だが、架空とはいえ魔獣を参考にした形に疑問を覚えていた。

 

「速い機体だったら軽くしたり、馬だけでも良かったんじゃないの?」

 

 騎操士(ナイトランナー)の中で一番速く再起動を果たしたヘルヴィが疑問を付け足した。テレスターレの第一テスターということもあってゲテモノ耐性が他に比べて高かったのだ。

 彼女の疑問ももっともなものであった。幻晶騎士(シルエットナイト)に限らず移動速度は重量に比例の関係がある。人型ということもあって移動方法は二本の足を使った歩行であり、別の移動方法が無かった。故に速いと軽いは等価という認識がある。

 移動方法が二本足の歩行という常識を覆して馬というのはまだ理解できた。それは今まで彼らが挑戦してきたことで、足が速くて慣れ親しんだ形が馬であると納得することも出来た。

 しかし、そこに上半身をつける意味はわからなかった。どんな意味を持つのか想像できなかったのだ。

 

「それは...格好良いからです!!」

 

 エルネスティの言葉でその場にいる全員が一様にこけた。まさかいつものお巫山戯の結果なのだろうか。そう考え出したとき、エルネスティがさらに言葉を紡ぐ。

 

「まぁそれは理由の半分くらいで、もう半分は十分な戦闘能力を持たせるためです」

『半分はそれなのか...』

 

 全員でツッコミを入れながらもエルネスティの理屈を聞く。

 軽い機体というのは先のとおり重量、つまり装甲や結晶筋肉(クリスタルティシュー)を相応に削っている。そうなれば撃たれ弱く、膂力の低い機体となってしまい、とても戦闘能力が十分であるとはいえなくなる。

 馬だけとすればどう戦闘能力を持たせるのか、という話になる。戦闘能力が無い場合、移動手段として魔力転換炉(エーテルリアクタ)などの数が限られるものを消費する事になる。騎操士(ナイトランナー)としても魔力転換炉(エーテルリアクタ)等に比べればましだが余裕があるとはいえ無い。

 

 従来のものより大きな体躯であれば、相応の装甲とそれを扱いきる膂力を持つことが出来る。また、馬という形状から地形にとらわれない踏破能力、速度を持つ。

 上半身を人型にすることで従来と同じような戦闘能力を持たせることが出来、騎馬のような働きが期待できる。

 

 釈然としないところはあるが、十分納得できる内容であるためとりあえずは全員が新型機については理解を示した。なお、新入生は話の半分もわかっておらずなんかすごいことに携われるんだな~という認識が大半だった。

 

 二つ目はカザドシュ砦の件から、盗難防止の仕組みだった。構文技師(パーサー)等、全体から一割程度の人員で行う予定である。

 

「とはいえこれは構想段階の機能ばかりですので、選定や複雑化、量産のための簡略化と根気の必要な作業になると思います。ですから新型機に合わせるのは出来れば、という程度ですかね」

 

 そう言いつつもエルネスティは紋章術式(エンブレム・グラフ)を用いた物理的ロックやパスワードロック、失敗時の自爆など構想をいくつか話した。聞いている側も納得はしているものの、自爆という不穏な単語にそれだけは阻止しなければと同じ感想を持っていた。

 

 そして最後の三つ目は幻晶騎士(シルエットナイト)に多様性を持たせる追加装備だった。

 ただそれだけであれば鍛冶士達も“忙しくなるな”という感想を持つだけに終わったが、話はそう簡単なものではなかった。何を思ったのかエルネスティは補助腕(サブアーム)に合わせた装備だと語ったのだ。

 

 補助腕(サブアーム)を開発した当時、ただ魔導兵装(シルエットアームズ)を保持、照準、魔法を発射すれば良いとしていたが、今回はそれを覆す内容だったためだ。それに困惑するしかない面々であったが、エルネスティはむしろ疑問の表情を浮かべていた。

 

「皆さん、何のために補助腕(サブアーム)を作ったと思ってたんですか」

「え?手を空けつつ魔導兵装(シルエットアームズ)を使うためじゃないの?」

「確かにその通りです。ですが、手を空けるだけならいくらでも方法があります。例えば魔導兵装(シルエットアームズ)を小型化して腕に取り付ける接続部を作れば腕がそのまま照準器になりますし」

『!?』「...?」

 

 エルネスティの言葉にアデルトルートが返す。そんな中エルネスティから出た言葉はその場にいた者に衝撃を与える者だった。

 彼の言葉通り、ただ手を空けつつ魔導兵装(シルエットアームズ)を使えるようにするのは、他にも方法があった。ただ、完全に手を空けて自由に照準をつけられる補助腕(サブアーム)という形に衝撃を受けすぎた、ということもあるがそれしか見えていなかった事実は変わらない。話がわかれば腕等という複雑な形にする必要が無いという結論に至る。

 なお、アデルトルート他一部はよくわかっていない様子だった。

 

「確かにその通りだ。少しばかり考えなしになってたかもな。だが、だとしたら何のために腕なんて複雑な形にした?」

 

 ダーヴィドが代表してエルネスティに疑問をぶつける。一見、無駄なことをしたように見えるが、エルネスティのことを考えれば何か意味があるというのは想像に難くない。

 

「拡張性を持たせるためです。僕、拡張性とか冗長性とか、そういうのがないの嫌いなんですよね」

 

 それに、エルネスティは淡々と考えを語る。良く意味のわからない言葉も混じるが、真剣さは十分に伝わっていた。

 

幻晶騎士(シルエットナイト)、サロドレアは完成されすぎていました。その時点での最高峰を目指すのもひとつの正解だとは思いますよ。しかし、だからこそ後の開発が滞ってしまうんです。実際に僕達は一世代前のサロドレアを元にしていたのにテレスターレの増槽は遅々として進みませんでした。幻晶騎士(シルエットナイト)が100年単位でしか進歩しなかった...出来なかったのも完成されすぎているが故に、新しい姿にするのではなく、全く別の姿を形作る必要があったからだと思います」

 

 話を完全に理解したものはいなかったといえるだろう。だが、そこにかける必死さ、そういったものはその場にいた全員に伝わっていた。

 

 

「まあそれは一回おいといて、目的はカスタムの有用性を示すことです」

「カスタムだと?」

「はい。例えばエドガーさんのアールカンバーのように防御に秀でた機体に調整することですね。今までは外装(アウタースキン)結晶筋肉(クリスタルティシュー)の変更なんかで大がかりにしか出来ませんでした。それが補助腕(サブアーム)を使うことで簡易に行えるとなればどうでしょう」

「なるほど、騎操士(ナイトランナー)の得意分野を生かした機体を労力をかけず作れるというわけだな」

「おおよそその通りです。とりあえず思いつくのは、盾を持たせて攻防をどちらも高くしたり、剣を持たせて四刀流、物資を乗せるラックを背負わせた補給部隊なんかですかね。まあ、補助腕(サブアーム)以外に搭載するものも検討したいですけれど」

 

 結局の話、追加武装の開発は機体に多様性を持たせることで騎操士(ナイトランナー)の実力を引き出すというものなのだ。

 

 

「それでは皆さん。張り切っていきましょう!」

『おー!』

 

 そんなこんな、多少の衝突ともいえない何かがありつつ、銀凰騎士団は本格的に稼働を始めるのであった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。