これは新型機、開発名称ツェンドルグの開発途中に起こった出来事である。
大枠ができあがり、初めての試運転を行うところだった。
ここまで、新入生に紛れた密偵役の騎士団とのパイプ作りであったり、ツェンドルグの操縦系統を作成するためにオルター兄妹がテスト騎操士に抜擢されたりと色々とあった。
それまで大きな問題も無く進んでいたが、いざ運転を始めると数歩進んだところでツェンドルグはその機能を停止し、パーツがいくらか崩れた。
当初はその場にいた全員が呆然としており、騎操士の二人も重大なミスをしたのではないかと狼狽えていた。しかし、改めて原因を探ってみれば至極簡単なものだった。魔力切れ、それもテレスターレの時よりもひどいものだ。
テレスターレはサロドレアからの改造機ということもあって、従来機から大きくそれることがなく、収支が従来機よりマイナスが大きくなる程度だった。事前に魔力を貯蔵しておけば十分に動くことが出来、戦闘中も収支に注意を向けていればプラスにすることも可能であった。
しかし、ツェンドルグは馬と人を合わせた完全な新機軸となっており、大きさだけ考えても身長が従来機の1.5倍ほど、全長で考えれば2倍はくだらない。それだけ巨大化したならば話は簡単であり、外装硬化による構造の維持、操縦、そのほかにも必要な魔力の量が指数的に増加する。
簡単に言えば、速度、膂力を持たせるために巨大化したため、構造維持で魔力がカツカツの状態になってしまった。
なぜこのような事態になったのかといえば、学園の教育課程が関わってくる。それは幻晶騎士が100年単位で世代交代を行う事に起因する。詰まるところ、幻晶騎士は早々変化することがないから魔力の収支に関して“そういえば”という程度にしか触れない。故に、テレスターレ、ツェンドルグと立て続けに魔力収支を意識せず開発していた。
といっても、これは新型機作成が仕事となる銀凰騎士団だから発生したことであり、本来は魔力収支など気にしない。幻晶騎士は何世紀も前から存在しており、その辺りのバランスはフレメヴィーラ王国が出来上がる前から出来上がっていた。故に、ウォートシリーズなどの団長機を造る際の極少人数が気にかけることがある程度だった。
テレスターレは綱型や補助腕によってバランスが崩れ、ツェンドルグは板状結晶筋肉である程度整えたバランスをその巨躯によって崩された。
そして、これはテレスターレと同じ解決方は出来ないと言うことを示していた。テレスターレはその体を動かす結晶筋肉の変化や補助腕による魔導兵装使用頻度の増加、つまり能動的な魔力消費が増加していた。それに対し、ツェンドルグは純粋な巨躯の構造を維持する外装硬化、つまり受動的な魔力消費が増加していた。動かなければ魔力がたまったテレスターレに対し、動かすほどの魔力が無いのがツェンドルグと言うことになる。
加えて言えば、その巨体さからもちろん能動的な魔力消費も増加しているため、機動という意味ではテレスターレ以上の大食いとなっている。ただ、冒頭で述べたように今までに無い形であるため操縦系統も一から作成する必要があり、ひとまず補助腕で魔導兵装を使わない予定であるため、こちらは総合的に微増といえる程度だった。
端的に言えば、ツェンドルグは増槽しようとそもそもそこに入れる燃料が存在していなかった。
そして、他所から燃料を持ってきてもすぐにそこを付いてしまう。
「どうしたもんだかなぁ」
ダーヴィドが愚痴をこぼす。その心はその場にいた全員が持っていたものだった。今回の問題は体躯という以前よりも根本的な部分が問題となっている。となれば、これを解決しようとするには根本的な部分を変える必要が出てくる。
しかし試算ではあるが、魔力の支出をテレスターレ並に調整すると、従来機よりも幾分か小さい体躯にする必要があった。それでは速度、膂力ともに犠牲にする必要があり、開発目的からずれる事につながる。
「仕方ありません。魔力転換炉を増やしてしまいましょう」
『はぁ?』
休憩を挟んでもしばらく解決策が出てこない中で、淡々と本当に仕方なさそうにエルネスティが言葉を紡ぐ。当然、これまでの経験があってもすぐさま理解を示せるはずもなく、その場にいる全員が頭に疑問符を浮かべる。
いち早くその意図に気づいたのは、以前似たような経験をしているダーヴィドであった。
「なるほどな。俺の重機動工房と同じか。機械だから頭だろうが心臓だろうが何個も乗せられる...だが、なんで出し渋りやがった?」
ダーヴィドはエルネスティの考えを他の団員に伝わるように言葉に出した。多くは彼が重機動工房の作成でエルネスティに相談している様を見ていたためすぐに理解を示した。
だが、ダーヴィドはその意図に気づいたと同時、新たな疑問が湧き出てきた。普段であれば、思いついた解決策は提示するエルネスティが珍しく、思いついていたのに提示するのに時間をかけ、仕方なくという風貌だったのが気にかかった。
「だって、魔力転換炉は数が限られていますから」
ダーヴィドの疑問に返したエルネスティの言葉はひどくシンプルなものであった。魔力転換炉は年間でもそう多く製造されているわけではない。ただでさえ、その体躯から建造資材が通常の倍ほどかかっているのに、魔力転換炉まで増やしてしまえば正真正銘二機分の資材で建造していることになる。となればいくつか問題が出てくる。
問題は大きいものをあげて二つ。
一つ目は、普及に対して。それだけの資材を投入してしまえば、扱いとしてはウォートシリーズ以上ともいえる。あちらは資材を選りすぐっているが、建造にかかる工期、資金など様々な部分を見れば少なく見積もっても同等ということになる。エルネスティとしては、銀凰騎士団の仕事が“量産機のために技術検証を行う実験機の作成”であると認識しているため、なんとか出来ない範囲の仕事は出来るだけ避けたかったのだ。
二つ目は、期待値について。参考として、一般に騎馬と歩兵は1:3でとんとんになる戦力差であると言われている。だが、幻晶騎士での前例はもちろん無く、二機分の資材を使うからには最低でもそれだけの戦力にならなければ、純粋に幻晶騎士を二機作った方が良いということになる。魔力転換炉が一つであれば、建造資材を考えなければ魔力転換炉と同数をそろえることが出来るが、二つになればそろえることが出来るのは半分になる。なのに戦力が同等以下であれば本末転倒なのだ。つまり、戦力としての期待というハードルが上がる。
問題があっても今の所はそれしか解決法が存在しない。もちろん、解決を諦めるというわけではない。国機研の量産試作機がいつ出来るのか、いつ招集がかかるのかわからないため、ひとまず完成を目指すというだけである。最適化は完成してからいくらでも出来るのだから。故に、端的に言えばまずはよりよいものを造ろうという意思が共通の強いものとなったとだけ記しておく。
~とある休憩時間の雑談~
「一応他にも案がないわけではなかったんですが現実的じゃないんですよね」
「へぇ。例えばどんなのがあったんだ?」
「普通に見える幻晶騎士を二機つくって、なんやかんや変形、合体させるとか、純粋な馬を造って乗馬の形にするとかですね。でも、合体に関しては今のところ方法が思い浮かびませんし、純粋な馬は格闘能力を持たないので今の形とそう変わらないんですよね。あ、完全自立型にすれば...でもそっち方面勉強してなかったからなぁ...」
「へ、へぇ...あ、ツェンちゃんじゃない見た目はちょっと見てみたいかも」