新型機のツェンドルグ、選択装備の可動式追加装甲他と来て次は盗難防止機構の話に移る。
まずは盗難防止機構の内容を決めようと会議を開いたのだが、案がなかなか出てこなかった。そもそも、そういった仕組みに対して造詣の深い人間がほとんどいなかった事に起因する。
フレメヴィーラ王国、というよりもこの世界において盗難防止の技術は高いとはいえなかった。もちろん、人類が10世紀以上の歴史を紡いできたこともあって鍵は存在する。とはいえ、これはエルネスティが魔法の存在から高度な防犯機構を期待していただけであり、至って普通のことといえる。
この世界の住人にとって魔法とは攻撃手段という側面が強く、生活の充実させる使い方はそうそう考えつかない。加えて言えば、テレスターレで見られるように気質として新規開発の方面が苦手な部分がある。記録にも残らないほど昔、長いこと種族としての生存危機にあったため、全滅を避けようと挑戦や冒険行わなかった結果だとエルネスティは予想している。
閑話休題
そういった背景もあって、会議はエルネスティを中心として進んだ。結果、いくらか詳細な内容になりつつも方針会議を行ったときと同じ光景になっていた。物理的な鍵、魔法的な物理鍵、自爆など現実的なものから空想的なものまで様々なものが挙げられた。
会議の結果、比較的想像のしやすい魔法的な物理鍵ということになった。紋章式認証機構と名付けられるそれは、紋章術式を彫り込んだ鍵とそれに合う鍵穴である。かみ合わないと幻晶騎士を動かす要たる魔導演算器が騎操士の操縦を拒否する仕様だ。過去何度も話に上ったが、エルネスティのように直接制御を行うのは非常に稀な例であり、通常は魔導演算器による補助を受けて操縦を行う。これがないと歩行など、比較的簡単な動きも満足にこなすことが出来ない人間がほとんどである。
単純な話として作業が、“物理的な紋章術式を持つ鍵を作成する”、“魔導演算器に鍵がない場合の魔法術式を追加、変更する”の二つなので、開発方針を組み立てやすかったため選ばれた面もある。また、ただの物理的な鍵とすれば、ピッキングなどのように強引に突破される可能性が高いと踏んだためだ。
より高度な防犯機構を知識として持つエルネスティは複合鍵にしたかったが、まずは防犯意識を浸透させるためにも複雑にしない方が良いと判断した。実際、彼の前世では意識の薄い人間ほど複雑なものは理解する努力もせず使わないという結論に至りがちな事を思い出したためだ。
加えていえば、純粋にパスワードロックなどは入力装置、パスワード保管、参照と開発するものが多く、それなりに複雑で時間も必要だった。
結局、魔法的な鍵という前代未満なものの開発で時間がかかり、人員も少ない事も相まって試作品が出来たのはツェンドルグに魔力転換炉を二基搭載して稼働試験も幾度かこなした頃だった。
仕組みとしては、操縦席の内部に特殊な紋章術式でを施した鍵穴を追加する。これは鍵穴内部で発生する魔法現象のパターンを読み取るもので、対応する紋章術式を施した銀板を差し込むことで認証する。本来ならば、手のひらサイズの紋章術式では魔法の発現は出来ないが、実際に現象を起こす必要は無いため極端な小型化が可能となっていた。
案外早くにできたのでツェンドルグと、選択装備それぞれを担当するエルネスティ、エドガー、ディートリヒに搭載する予定である。試作と言うことで、魔法現象発生有無の2進数、認証開始、機種識別、搭乗者識別として4桁程度の簡素なものとなった。基礎式を混ぜるなりすれば1桁に乗せられる情報量も多くなるが、今回の目的は提案である。そのため開発した自分たち以外にも理解できるように簡素なものとして、説明の時に情報量の増加が難しくないことを話す事になっていた。
余談として、エルネスティが茶目っ気をだして、鍛冶師達もそれに乗っかる形でエドガーに紋章式認証機構の搭載を伝えずに幻晶騎士へのせるドッキリを仕掛けていた。勿論、紋章式認証機構に関心すると共にエルネスティと共謀していた鍛冶師達に雷を落としたのは言うまでも無いが、そこにダーヴィドが混じっていたのにはなんとも言いがたい気持ちになったという。
このときエルネスティはむき出しの銀板ではロマンがないと銀凰騎士団の何あつらえて、銀の短剣に埋め込む形にしていた。エドガー含め、彼の説教に何事かと寄ってきた他の騎操士にこの形は好評であったため、紋章式認証機構の形が正式に銀剣となることが決定した事も追記しておく。