銀凰騎士団と国機研、それぞれで新型機の開発が進み、銀凰騎士団が国王から呼ばれたのは秋を迎える頃だった。期間があいているように見えるが、そうおかしな話でもない。
そもそもの話として、テレスターレの時もそうだったが、幻晶騎士の建造には相応に時間が必要になる。量産というか達であれば複数機を平行して建造し、試行錯誤もないため1、2ヶ月ほどもあれば余裕を持って完成までこぎ着ける。対して、彼らが行っているのは新型機の開発であり、試行錯誤が重要な仕事である。
銀凰騎士団はテレスターレの比ではなく、常識どころか歴史を変える程の機体であり、正直な話呼び出された時でさえ完成したとはいえない状態であった。例えば操縦の魔法術式は形自体が大きく変化しているため従来のものから引き継げるものが少なく、オルター兄妹が操縦しながら作成、最適化を行っている。その作業も大枠は出来上がっているが、戦闘機動などの細部はまだ粗が多く見られた。
国機研は純粋にテレスターレに使われた各種技術の習熟に時間を要していた。会議にてすりあわせを行った際、原理や効果などは把握していたものの、実際に使用、応用出来るかと言えば否としかいえない。よく言うが、知っていることと使える事は全くの別なのだ。初めのうちはテレスターレの複製から始まり、高い操縦性やテレスターレの解消できていない問題の解決策の考案と、長く動いてきた組織としての経験から着実に開発を進めていた。
結果として、量産試作機であるカルダトア・ダーシュが完成したのは夏ごろ、演習を行えるよう数をそろえ終えたのは秋になろうかという時期だった。
そして現在、王都カンカネンにある演習場において件のカルダトア・ダーシュが10機並び、中隊規模の演習を行っていた。
「駆動系には新技術である綱型結晶筋肉を採用しております。ただ、生産性を考慮して使用量を減らしたため膂力は参考機体より低い1.3倍程度の増強に留まりました。しかし、その分こちらも新技術である蓄魔力式装甲を多く搭載することで防御力を増強、各部の重量を調整してカルダトアと同程度の操縦性を確保しております。加えて蓄魔力式装甲の特性により、参考機体より魔力貯蓄量が1.2倍程度増槽されているため、綱型結晶筋肉減量による魔力消費量の削減も相まって稼働時間についても問題を解決出来たと考えております」
観覧席にてオルヴァーから説明を委任されたガイスカがやや早口にカルダトア・ダーシュの解説を行っている。好きものを多く語りたいのはどの世界でも変わらないらしい。
観覧席にいた王侯貴族達は口々に賞賛をこぼす。一応、カルダトアの開発から100年程経過しているとはいえ、新型機の開発間隔として1、2を争うほど短い期間であり、これ以上は口伝で伝わるような逸話でしか聞くことがない。さらに言えば、強化量としてもサロドレアからカルダトアのものより倍以上であり、こちらも類を見ないことだった。
彼らの言葉には純粋な国機研に対する感嘆とともに、そんな様々な意味で歴史的な場面に立ち会えた事に対する歓喜も含まれていた。
ごく少数ではあるが、テレスターレの姿を知る者達も一目で洗練されているというのがわかった。ガイスカが語ったように内部の見えない部分は勿論、外部的にも補助腕の位置などテレスターレと差異が見受けられる。最もわかりやすいのは蓄魔力式装甲だろう。
テレスターレでは内部の構造的にはサロドレアと変わりないため、外装のほとんどは蓄魔力式装甲に変更出来ず各部に抱えるように搭載していた。一見すると着ぶくれているような印象も受け、各部の重量が変化しても機構的に変化していないため、操作性の悪さをより際立たせていた。
対して、カルダトア・ダーシュは先の説明にあるとおり結晶筋肉の量が減少し、内部的に余裕が生まれたため外装のほぼすべてを蓄魔力式装甲に変更出来ていた。付随して各部に搭載する必要がなくなり、見た目的にも重量バランス的にもすっきりとした形になっていた。
「流石は我が国の騎操鍛冶師最高峰の国立機操開発研究工房、見事である」
国王であるアンブロシウスも舐るようにカルダトア・ダーシュを見た後、賞賛のこと場を送る。
「おぬしら、あの機体の力試しを見てみたいとは思わんか?」
だが、次第に空気が変わる。オルヴァー達に贈っていた言葉は次第に、この場にいる人間すべてに向けた言葉へと変化していた。
「力試しを行うに相応しい存在を読んでおる。此度の切っ掛けとなった者達よ」
次第に言葉の意味を理解し、各々がこれから起こるであろう事を察する。
「門を開けよ!来たれ、銀凰騎士団よ!」
国王の言葉に従って守衛が演習場の門を開け放ったと同時、当たりに地響きがなり出した。その場にいる全員が何事かと戸惑いを見せたが、次いで聞こえてきた金属音によって次第に理解する。
これは、国王が呼んだ騎士団による幻晶騎士の行軍であると。
しかし、ややおかしな部分がある。まず、足音が歪な間隔で響いている。幻晶騎士は人を模した存在であり、2足による聞き慣れた間隔で移動する。しかし、今聞こえてくるのはある意味、別の聞き慣れた間隔、足音は4足で疾走する間隔で響いていた。そして、その音量が異常だった。先ほどまで聞いていたカルダトア・ダーシュの音よりも大きく、重い音が響いてきていた。
この音は本当に国王が呼び込んだ相手の者なのか。
そんな疑問が湧き出し始めた頃、先ほど開門した場所から一つの影が飛び込んでくる。それは想定通りの格好に近く、しかしそれとは大きくかけ離れた姿をしていた。
下半身は彼らが想像した馬に近い構造をしていた。
上半身は彼らがよく知る人に近い構造をしていた。
ケンタウロス、御伽話にしか出てこない架空の魔獣を形作るそれは全身を金属で覆い、よく見慣れた車を牽き、よく聞き慣れた結晶筋肉の音を響かせていた。