「さて、国機研との競作から数ヶ月経ったわけですが...」
「エル君誰に話してるの?」
「いえ、誰というわけではなく、なんとなく言わなければならない気がして...」
「?」
なんやかんやで前回の国機研との競作を乗り切り...戦闘の流れ?君たちはもう知っているはずだ。強いて書くならば、余興としてカルダトア・ダーシュとツェンドルグ、テレスターレの模擬戦となって国王の言で引き分けになった。
アンブロシウスが興奮気味に銀凰騎士団の説明も聞かず模擬戦を強行したためにクヌートの胃がいたたまれない事になったが、まあそれはいつもの事だった。そのため、エルネスティが模擬戦に参加したり、魔導噴流推進器で幻晶騎士が擬似的にだが飛行する様をいきなり目の当たりにした王侯貴族達は頭が真っ白になったそうな。
ちなみに、ツェンドルグが牽いていたのは荷馬車と呼ばれる物で、比較的に時間のあいた選択装備班、盗難防止班によって作成された、文字通り巨大な荷馬車である。
この案を出したのは意外にもディートリヒであった。例の陸皇亀から、エルネスティに看過されたのか騎士課程の勉学を学び直し、他の分野もさわりだけではあるが知識を修めようとしていた。そういった経緯もあってかツェンドルグがオルター兄妹を騎操士として可動を始めてからしばらく経った頃、彼がふと口に出したのだ。
「思ったのだが、これは馬なんだよな」
「?ええ、そうですよ。前にも言いましたが、速度と踏破性能を持たせるための騎士であり、馬である形です」
「だったら、馬車もこいつが使えるようなヤツを造って多量の物資を砦間で融通し合えないか?」
そんな会話があったとか無かったとか。
とはいえ、エルネスティにとって目から鱗な提案であった。足の速さで十分アピールポイントとして際立っているように感じていたが、そこに付随した価値が出てきたのだ。
ただ足が速いというだけで、逃げる相手に対して優位に立てる。そして、離れた位置の魔獣被害に対しても駆けつける時間が早くなり、被害を少なくすることが可能である。
そこに加えて、今回の提案である。ただ、荷馬車を造っただけでも十分なおつりが来るだろう。流石に、馬の代わりとする、なんてことは出来ないが、今まで通常の馬車を使って数日、長ければ数週間以上かけて運んでいた物資が1日や2日そこらで届くようになる。
しかも、運搬に費やす人員も騎操士だけにすることも出来る。流石に現実的ではないため、物資管理に数名必要だろうが、これまでよりもずっと小規模に出来るのは確かだ。
エルネスティはその案を即座に肯定して、ダーヴィドに話す際にはさらなる案を出した。ツェンドルグほど巨大な荷馬車であれば、今まで苦労して各地へ運んでいたあれを簡便に、迅速に運ぶことが出来る。
そう、幻晶騎士だ。これまでは国機研を代表とした建造施設から各地へ運ぶのは相当苦労していた。基本的には多少の損耗を覚悟して実際に走らせるか、建造施設では部品の製造だけを行って馬車で運び、現地で組み立てるかだった。
それがどうだろう。荷馬車が完成すれば、完成品を完全な状態で現地まで運ぶことが出来るようになる。さらに、先に説明した早急な救援活動も複数の幻晶騎士で駆け込むことができ、より安全を確保することが出来る。
もしかしたらの話ではあるが、それだけの輸送力を持たせることが出来れば、凡そ300年ぶりとなる森伐遠征も視野に入ってくるだろう。騎操士達も移動は荷馬車に任せて戦闘時まで休息することが可能になる。騎操鍛冶師も幻晶甲冑が出来たことからある程度の自衛能力を持たせることが出来る。
また、建国の切っ掛けともなった以前の森伐遠征では、生き残りも少ないために情報が錯綜しているが、一説では見たこともないような魔獣に襲撃されて部隊を二分されたとか。そんな状態に遭遇しても、通常の馬車を用意する必要も無いため、踏破性能や速度から即座に逃げる事もでき、分断されても物資的に余裕を持てる。
さらに、エルネスティには一つ案が思い浮かんでいた。装甲などを多数加えた戦うための馬車、戦車が出てくる前の戦車、後に名をそのままに戦馬車と名付けられる。
この世界では優秀な遠距離武器である魔導噴流推進器が存在していることもあって、戦車のような活躍も期待できる。
結論を言えば、荷馬車とはそれだけ未来のある技術となるのだ。となれば、改造大好きであるエルネスティが放っておく訳もなく、荷馬車やツェンドルグ側の接続部開発をスケジュールに躊躇無く入れたのである。勿論、一番の被害者となる騎操鍛冶師達は当初困惑したが、しっかりと無理なく休息もとれるよう調整されていたために、もはや無茶ぶりを出してくる団長にどんな表情をすれば良いのかわからなくなっていた。