今回現れた殻獣の群れは非常に大きく、成熟したものであった。殻獣は蟻に近い生態をしており、本来巣となる拠点に母体である女皇がいる。それを守るように兵士やそれが成長した撃刺、砕甲が活動している。
勿論、はぐれ等と呼ばれる物もいるが、殻獣が群れで移動するのは通常、新しい女皇が生まれて複数の兵士と旅立つ巣分けである。そのため数も多くなく、巣分けの群れはほとんどが中隊級程度におさまり、稀にだが小隊級程度になることもある。
しかし、今回の群れは大きくて師団級、少なく見積もっても群級や団級に分類される。砦に駐在している部隊は大隊規模の戦力を保有している。騎操士も顔を知るものは限られた、アルヴァンズと呼ばれる国有数の実力者集団である。そんな彼らが徐々にだが数を減らし、前線が下がっていた。銀凰騎士団が来なければ陥落していた可能性があるほどに。
先にも述べたが、通常巣分けの群れは1体の女皇と少数の兵士で構成されている。しかし、女皇の姿は目の前にある巨樹庭園に隠れているが、砦前の平原を埋め尽くすほどの兵士が存在していた。それだけに留まらず、どこを見ても撃刺や砕甲が目に入ってくる。巨樹庭園から続々と殻獣が湧き出てくるほどであった。
アルヴァンズの奮戦もあって、銀凰騎士団が来る頃には巨樹庭園から出てくる個体はほとんどなく、動かなくなった殻獣も目立ってきていた。とはいえ、長時間全力稼働を続けているために、いつ魔力切れに陥ってもおかしくない状況であった。そんな危険な状況へ駆けつけたのだから、正しく間に合ったと表現するべきだろう。
また、エムリスが獣王轟咆を放った結果、平原の殻獣が半数ほどまで数を減らしていた。彼はそこまで計算していたわけではなかったが砦、平原と綺麗に分かれている状況の第一射としては十分効果的な運用だった。
銀凰騎士団の騎士部隊はエドガー、ディートリヒ、ヘルヴィ率いる三中隊の大隊規模である。砦の残存戦力や技術革新による戦力上昇も加味すれば、十分に対応できる程度になった。
エドガーの第一中隊は堅実な隊風であり、守備が得意な者が多い。補助腕だけであれば直接制御も出来るようになったエドガーは可動式追加装甲を二つに増やしたアルディラッドカンバーに騎乗していた。そんな彼を筆頭に、他の隊を守りつつ一体ずつ確実に仕留めていた。
ディートリヒの第二中隊は好戦的な隊風であり、攻撃が得意な者が多い。ディートリヒは戦闘力の拡充を求めて魔導噴流推進器等も取り入れたグェラリンデに騎乗していた。そんな彼に習って見敵必殺とばかりに戦果を挙げている。
ヘルヴィの第三中隊は挑戦的な隊風であり、変人といわれる者が多い。現状は操縦系の異なるツェンドリンブル専門といっても過言ではない状態で、もっぱら新装備のテストを行っていた。現在は機動力を生かして他隊のサポートとして活躍していた。
それぞれの隊が各々の活躍を見せていた。ちなみに、エムリスは第二中隊と共に前線で暴れ散らかしており、アンブロシウスは第一中隊と共に獣王轟咆を使用せず個別運用を行って大胆ながらも堅実に戦場を動かしていた。
そんな中エルネスティはというと、団長補佐という立場であるオルター兄妹を伴って巨樹庭園にいた。二人の乗機は専用に調整を行ったツェンドリンブルで、彼らの牽く荷馬車に似たものに乗っていた。
平原にいる殻獣は現在いる戦力で十分と判断して、未だ見えない女皇が巨樹庭園にいると予想して討伐に向かったのだ。本来であれば、通常の巣分けの女皇単体でも小隊級である。特殊な事例となる今回は成熟した群れの規模から最低でも大隊級であると思われる。
しかしながら、今彼らの元にある戦馬車によって、ツェンドリンブルの機動力と搭載した魔導兵装、轟炎の槍で三機でありながら中隊規模の戦力を持っている。加えて、エルネスティはエドガー達による消耗やヤントゥネン守護騎士団の支援もありつつ、陸皇亀をほぼ一人で討伐している。要するに機転が利くのだ。
そんな彼の乗機も競作から改造を繰り返し行われており、魔導噴流推進器は勿論、手を飛ばせるようにしたり、魔力転換炉を試験的に二つ積み込んでいたりする。エルネスティ発案の試験武装が多く積み込まれ、既存の枠組みから大きく外れているため、玩具箱と呼ばれているそれは、機能を万全に使用することで小隊相手でも勝負が出来る。なお、各武装をすべて把握してピーキーなそれらを使い切れるのは現状エルネスティしかいない。
そういった事情もあって、戦闘開始からしばらくして団長達がいないことに気がついた銀凰騎士団員も大して心配はしていなかった。