女皇との戦闘が始まってしばらく、ここまであえて弱点を避けていたが、今は「成果は得られた」とばかりに弱点へ向けて攻撃していた。
とはいえ、巣分け以外で女皇と戦闘を行うことが少ないために孵卵殻以外の弱点はあまり知られていない。今回も巣分けの戦闘ではあるが、規模が巣の殲滅戦と同程度といえる。それ以前の話で大隊級を超える魔獣は素の外殻強度が高く、外装硬化による強化で攻撃自体が非常に通りにくい。故にこそ数の力で対抗する必要があって、それに小隊規模で挑むエルネスティ達が異常なのだ。
孵卵殻への攻撃はすぐにおさまった。それは想像よりも早くに攻撃した器官が破裂したためである。エルネスティ達の持つ知識はカルダトアが通常の魔導兵装を使用した時のものであり、固定兵器だった轟炎の槍が想定以上の破壊力をもたらしたためだ。
孵卵殻を破壊された女皇は倒れ込みしばらく動かなかったが、傷を負った野生生物がどういう行動をとるかは火を見るより明らかである。攻撃を仕掛けてきた存在である戦馬車を執拗に追いかけ始めた。一方、エルネスティ達は倒れ込んだために討伐したかと勘違いを起こしたが、女皇が立ち上がった際に慌てず気持ちを上手く切り替えた。
とはいえ、陸皇亀程ではないが見上げるほど大きな女皇は重しとなっていた孵卵殻が無くなったためかなり身軽になっていた。それこそ戦馬車とチェイスを繰り広げられるほどに。
このままいたちごっこを続けていてはらちがあかないと、エルネスティは斬獣剣の一つを抱えて宙へと踊り出した。魔導噴流推進器やワイヤーアンカーを仕込んだ補助腕を利用してするすると木登りを実行する。
女皇は戦馬車を攻撃してきた相手であると認識して執拗に追いかけているため、認識外から攻撃を仕掛けようという話だ。案の定、女皇はトイボックスに目もくれず戦馬車を追いかけ続けていた。
ただ、木登りを終えた時点でトイボックスに残された時間はそう多くなかった。トイボックスの燃費はそんなによろしくないのだ。魔導噴流推進器を長い時間をかけて改良、使い方を考えても大食らいなのに変わりは無い。競作時の一発芸止まりともいえる状態から改善されているのが、彼らの努力を物語っている。
結論、オルター兄妹の動きに決着がかかっているといえる。
オルター兄妹が上手いこと女皇を誘導し、エルネスティの近くを通ったときに戦局は大きく動いた。トイボックスが再び宙へと踊り出し、今度は重力方向へ大きく加速して女皇の甲殻の隙間へ斬獣剣を突き立てた。
エルネスティのとる戦法は陸皇亀との戦いとそう変わらない。関節などのどうしても堅く出来ない部分へ攻撃を仕掛けるのだ。違う点と言えば、陸皇亀の時は長期戦を見越した累積ダメージを与えていたのに対し、綱型結晶筋肉によって上昇した膂力、斬獣剣の重量、魔導噴流推進器の推力を存分に使った一撃必殺のダメージを与えたのだ。
とはいえ、それで死亡するほど簡単な相手ではない。大きくのけぞったが多少動きが鈍くなった程度で、女皇の目はトイボックスへと標的を変えていた。しかし、ここで忘れてはいけないのがオルター兄妹である。
今強烈な攻撃を与えたのはエルネスティだが、二人の牽く戦馬車にはまだ強力な魔導兵装である轟炎の槍が残っている。今までは分析として狙っていなかったが、関節へ集中放火すれば簡単に破壊できる程度の火力は持っているのだ。
女皇の命運はここで分かれた。純粋にトイボックスと戦馬車に強力な攻撃方法があったということもあるが、女皇はそのどちらにもへ殺意を向けた。腹に抱えた幼体の分、戦馬車の方が幾分殺意は高いが、集中を複数のものに割いたのだ。
状況は二兎を追う者は一兎をも得ずということわざのとおりとなった。一方へ意識を割けば他方が順に関節を破壊する状況へ陥った。
数分後、すべての足関節を破壊されて地に頭を垂れた女皇はその頭部を十分に速度をつけた斬獣剣の一撃によって砕かれた。
余談だが、今回の女皇は後日旅団級相当であると分類された。それに大した反応を示さないエルネスティに対し、団員他の見る目がこれまで以上に残念な目になった。