女皇殻獣討伐から凡そ1月後、エルネスティは久方ぶりに故郷の土を踏んでいた。その理由は魔力転換炉の製法を学んでいたからである。
殻獣の殲滅が終わった後、退却準備を進めているとそこにアンブロシウスが話しかけてきたのだ。
曰く、陸皇亀の討伐に始まり、二つの新型幻晶騎士を開発、装備の拡充に今回の女皇殻獣討伐と功績を立て続けに挙げ続ければ、流石に無報酬というわけには行かない。まだとっておきとやらを見れていないのは残念だが、魔力転換炉の製法を学んだ完全なもので我慢する。という話らしい。
そんなこんなで、エルネスティは翌日から砦の奥にある都市、森都へアンブロシウスと衛使と呼ばれた国機研の所長であるオルバーと共に赴いた。
アンブロシウスとしてはエルネスティに通行許可を出して学んでもらおうと考えていた。しかし、エルネスティ自身が学びたかった技術ということもあって学び終えるまでは帰らんと言外に語っていた。故に、アンブロシウス達はエルネスティを森都へ任せて一足先に帰っていた。
なお、銀凰騎士団員―特にアデルトルート―は砦まで赴いてエルネスティの帰りを今か今かと待っていた。
森都から帰ってきたエルネスティは早速とばかりに正式な自分の専用機を設計し始めた。
詳細は省くが、魔力転換炉は精霊銀と呼ばれる特殊な金属にある方法で特別な紋章術式を刻み、触媒結晶を使ってエーテルを魔力へと変換する。重要なのは触媒結晶であり、要は魔力変換を行う魔法現象であるために質が良い者ほど変換効率が上がる。通常の魔力転換炉が一定なのは触媒結晶ごとに紋章術式を調整する必要があり、それを簡略化、安定化させるために質の安定した採掘品を使用しているためである。
そのため変換効率の高い魔力転換炉を作りたいエルネスティが使用する触媒結晶は彼自身が討伐した大型魔獣、陸皇亀と女皇殻獣のものである。国庫に納められていたがアンブロシウスの一声によって銀凰騎士団へ受け渡された。
そんな彼の専用機は通常より長い時間をかけて建造された。エルネスティが自分のために設計した機体であるために、トイボックスで実証実験していた様々な技術をフィードバックして、前世の思いも乗せたため金属内格から外装、魔法術式まで特別製になっている。更には、補助腕の数を増やすなど新たな試みもいくつか存在していたため、通常の工期で収まるわけがなかった。
また、エルネスティ自身が作成する特別な高性能魔力転換炉を搭載するということでエネルギーバイパスなどは魔力転換炉完成ギリギリまで騎操鍛冶師達が喧嘩をし始めそうなほど悩んでいたりした。
そんなこんなで武者のような風貌を持つ銀凰騎士団長機、イカルガが建造された。
イカルガ建造の間は騎士団全体が協力しているといっても過言では無い状態だったため、他の仕事は大してしていなかった。しかし、建造が終われば各々が元の仕事へ戻っていた。その中フィーネはというとある研究を行っていた。それはツェンドリンブル建造時の魔力転換炉稼働停止事故についてだった。そのために、エルネスティが稼働停止した魔力転換炉から触媒結晶を取り出していた。本来は国家機密であるそれをフィーネが知っているのは、エルネスティが帰ってきた頃に遡る。
魔力転換炉の原料を用意するエルネスティに対して彼女は確認を取りに行ったのだ。材料は触媒結晶と精霊銀なんじゃないかと。
触媒結晶に関してはエルネスティが用意したものから連想されたものだが、精霊銀については鍛冶士的視点からであった。戦闘で機体が押しつぶされたとしても魔力転換炉は無事であることが多く、ドワーフでも加工できないとなれば選択肢は限られてくる。とはいえ、魔力変換を行うのに必要な溶媒である血液晶と呼ばれる物などは出てきていないため、根本的な材料しかわかっていないといえるため、罪になるほどではなかった。
それ以前の話として、エルネスティがそれほど隠そうとしていなかったというのもある。魔力転換炉を作成するために団長室として使っている部屋へ堂々と運び込んでいるため、フィーネほどではないがある程度察している者もいた。
そういった理由で、特にこれと言った問題も無く取り出した触媒結晶を取り扱えた。
ツェンドリンブルの頃から暇を見つけては稼働停止理由を知るための実験を行っていた二人は解明したいと考えていたが、エルネスティは団長業務があったため、主にフィーネが実験を行っていた。今回もその延長である。
そうして実験を行う中、エルネスティの発想からあるものを発見して厳密な性質の調査を行おうとしたところで国から再び勅命が下った。
フレメヴィーラ王国がオービニエ山脈を挟んだ西側、西側諸国で最東の唯一の隣国であるクシェペルカ王国がジャロウデク王国と戦争を始めたという情報が入ってきた。魔獣を相手にしている中、背中から刺されないためにもエムリスト共に友好国であるクシェペルカ王国へ調査、必要があれば助力するようにとのことだった。