救出部隊が合流した後も、銀凰商会の体制はそう大きく変わらなかった。それはとても単純な理由である。
フレメヴィーラ王国の新技術、通称東方様式を保有しているジャロウデク王国製幻晶騎士であるティラントーに対抗するには、同じ技術で幻晶騎士を製造するしか無い。東方様式はそれほど従来機と差を付ける技術だったのだ。
そのため、新クシェペルカ軍に東方様式のノウハウを教えている間、ジャロウデク軍に対抗できるのは銀凰商会のみであった。なお、東方様式の教授はリオタムス国王から「魔獣の対処をしている中、隣国は友好国の方が良い」と許可が出ている。
救出部隊は撹乱部隊に合流し、そのまま仕入れ部隊として、またこれまで通りの仕事を行っていた。連絡網の確保で王族奪還を周囲の貴族へ知らせたり、その王族を狙った部隊の撃退であったりと仕事は多岐にわたる。
現状ティラントーと渡り合えるのが銀凰商会のみということもあって、しばらくは仕事に困ることはなかった。
鍛冶部隊は前述の通り、新クシェペルカ軍へモートリフト含めた東方様式の教授を行っている。単純に対抗手段を増やすための他に、ジャロウデク王国が大々的に戦場でその姿、強さを見せてしまったため、西側諸国でも近いうちに東方様式が主流となることが見えている。であれば、秘匿する意味も薄く、友好国に一歩先んじてもらった方が得になる面もあった。
また、それ以外にも彼らには仕事が山積みなため、仕入れ部隊と分かれている。
「フィーネ、魔導飛槍の進捗はどうだ?」
「進路制御がまだ。重量が大きいんから執月之手より難しい。構造からいじる必要があるかも」
「そうか。バトソンの方はどうだ?」
「形は出来てるよ。ウォールローブの構造自体は簡単だし。これから接続試験だけど、明日には量産を始められると思う」
銀凰騎士団鍛冶中隊のまとめ役といえる三人はいつぞやのように鍛冶場の一角を会議室代わりに話し合いを行っていた。
内容は単純にジャロウデクに対して戦力向上するための技術開発について。一つは飛空船に対抗ほうほうについて。もう一つは従来機の強化装備について。
どちらもエルネスティが案出しを行い、フィーネが対飛空船、バトソンが強化装備の開発主任をしている。面倒見の良いダーヴィドはクシェペルカの鍛冶士達を教育している。
対飛空船武装、名称魔導飛槍は名称にあるとおり投槍を元とした装備だ。まず、触媒結晶を付けた槍を用意する。補助腕にミサイル発射管のようなものを装備し、槍と鋼と銀を一緒に縒った銀線神経擬きで接続する。その銀線神経擬きから魔法術式を送り込んで魔導噴流推進器のように空を飛ばす。前例として、トイボックスやイカルガの執月之手があったために飛ばすところまではそう時間がかからず出来た。しかし、腕を飛ばす執月之手と異なり、かなりの重量を持つ幻晶騎士程大きい槍を飛ばすために執月之手程自由自在とは行かなかった。敵は空を飛んでいるため、多少の進路制御が出来なければ命中も難しいと考えられるため、その試行錯誤中といったところ。
従来機の強化装備、ウォールローブもその名称のとおり、壁のように厚いローブ状の魔力貯蓄量増槽装備である。なぜ魔力貯蓄量を増槽するかと言えば、従来機を簡単に強化するのに補助腕を追加しようという話になったためである。
東方様式の要素は主に二つ。綱型結晶筋肉と補助腕である。板状結晶筋肉も新技術ではあるが、先の二つを支えるために生まれたものであり、東方様式の真価はその二つにあるといえる。
綱型は出力に関わってくるためにどうしても膂力の差が出てしまう。綱型ではない機体で綱型の機体を相手するのは相当の力量差が必要であり、無謀ともいえる。しかし、綱型を搭載するには単純に結晶筋肉の換装だけではなく接続部の強度なども見直す必要があるため、一から造った方が早い。
しかし、補助腕は本来戦闘に幅を持たせる目的で造られたのだが、それだけでなく遠距離攻撃能力の強化という副産物もあった。かつて、エドガー達が四連杖形態と名付けて弾幕を張ったのが良い例だ。専用の魔法術式が必要になるが、構造としてはそれほど複雑でもない。ただ、補助腕は東方様式の燃費が悪くなった理由の一端であり、板状結晶筋肉で魔力貯蓄量自体を増やしたおかげで多少は無視出来た部分がある。単純に従来機へ補助腕を付けたとしても、杖一つを前提として製造されているために燃費問題が発覚した模擬戦よりも早く魔力不足へ陥ることが予想される。
そこで、可動式追加装甲の原案となった外套型追加装甲に大量の板状結晶筋肉と補助腕、操作拡張用の小型魔導演算器を搭載することが強化案として出てきた。魔導演算器の同期にはエルネスティが趣味で作成していた、―まだまだ完成にはほど遠い―幻晶騎士同士を接続する魔法術式を利用した。直接制御で魔導演算器を魔法演算領域の延長として利用した経験があったため、接続自体はそれほど難しくなかった。しかし、重複した魔法術式の処理の扱いなどでどうするべきか悩んでおり、幻晶騎士同士の接続はまだ難しいというのがエルネスティの見解だった。ちなみに、接続魔法術式の開発理由は「将来的に合体ロボが見たいから」という、銀凰騎士団にとって時々あるよくわからない理由だった事を記しておく。
とにかくウォールローブの開発経緯は正式な強化装備ではなく、東方様式のクシェペルカ製幻晶騎士製造までの繋ぎである。そのため、コストより製造期間を優先された面がある。幻晶騎士の魔導演算器に魔法術式を刻んだ方がコストとして良いが、態々魔導演算器を改造するために機体の解体を行うより、小型魔導演算器に書き込んだ方が短い期間で行えて簡単というわけだ。さらに言えば、前者の場合は有事の際動くことが出来ないが、後者の場合ウォールローブが未完成でも時間稼ぎに動くことは出来る。
そんなこんなで出来あがりつつある金型となるウォールローブは防衛戦を想定しているために、機動力を排除して装備時になんとか動ける程度まで蓄魔力式装甲を装備して防御力と魔力貯蓄量を底上げし、従来の形にこだわる必要は無いというエルネスティの教えからより濃い弾幕を張れるように4つの補助腕を搭載していた。
補助腕4つはイカルガという前例があるためにそれほど苦労はしなかったという。