決戦は夜に始まった。それはジャロウデク側に起因する。
敵の上空を押さえることによって圧倒的有利に立つ事が出来る飛空船だが、高度を下げる場合がある。例えば搭載している幻晶騎士を地上に降ろすためだ。
高度を下げてしまえば魔導兵装が十分驚異となり、高高度であったとしても援護射撃として投石を行っているために無視出来ない。
単艦であれば多少回避行動をとることが出来るが、集団戦となれば難しい。そのため攻城戦は飛空船が発見されづらい夜に行動を起こし、安全に幻晶騎士を出撃させる事を主目的としていた。
それをクシェペルカ側はわかっていた。それまで度々遭遇戦を行っていたエルネスティがその危険性を訴えたのもあるが、第一にそれは既に使われた戦法だからだ。
普通は一度で戦法の有用性や弱点を見抜くことは難しい。新しく有用な戦法はしばらくの間その力を万全に活用できる。場合によっては100年単位で少しずつ変化しながら使い続けられることもある。本来であればジャロウデクもこの戦法で西側諸国の多くを下す事ができただろう。
しかし、クシェペルカ側には現実創作含めて多くの戦法を知るエルネスティがいる。特にロボットものの創作では戦艦と一緒に運用される事も多く、精通しているともいえる。航空戦力の強みも弱みもその多くを知っていた。彼以外もこれまでの遭遇戦で驚異として認識しており、考案された地対空装備や戦法についても理解を示していた。
故にこそ、クシェペルカ側が勝利するのも必然といえたのだろう。ジャロウデクとしては初めての航空戦力ということもあり、西側諸国を統一するまで一方的な戦火をあげる可能をもつ戦法であるという認識であった。
戦闘に入ろうと言うときに彼らが最初に見たのは周囲を明るく照らす光球であった。エルネスティが魔法で再現した照明弾の類いなのだが、それを知らないジャロウデク軍は混乱に陥った。突然周囲に明かりが付けばそういった事態に遭遇する機会の多い人間でも驚愕するものだ。それが初めての遭遇であればなおさらだろう。頭の回る者は―軍としての特色もあるが―闇夜に紛れるための色をしているのにこれではわかりやすい的になるとよぎっただろう。ただ悲劇だったのは向かってくる一撃が船を沈める可能性があることだった。
魔導飛槍はその役割を十分に果たし、直撃した飛空船のうちいくつかの航空能力を奪った。装弾に幻晶甲冑が手伝う必要であり、幻晶騎士と同程度の大きさになった発射管はツェンドリンブル専用装備のように扱われている。一応補助腕によって保持出来なくもないため、防衛戦で装弾にそれほど苦労しないこともあって数を優先していた。
無視出来ないとは言ったが、一撃で落とされる事は想定外であったために混乱はより深い物になった。通常、幻晶騎士を鎖で下ろして接地出来る程度まで高度を下げるのだが飛空船の乗員は命の危機を少しでも遠ざけるために戦力を少しでもばらまきたい心境になっていた。所謂トリガーハッピーに近い状態で騎操士の都合も考えず、とにかく下ろして敵を蹴散らしてもらい、高度を上げて攻撃のとどかない場所へ行きたかった。そんな状態でまともに着地出来るはずもなく、その多くは戦闘出来る状態ではなかった。
それに加え、レーヴァンティアという東方様式の幻晶騎士が追加されていれたために一方的な戦闘ではなくなっていた。万全であればわからなかっただろうが、先に述べたようにティラントーの多くはまともな着地が出来ず数的優位を持つことすら出来ていなかった。
さらに言えば、この場には空を自由にかけて通常の幻晶騎士と比にならない火力と機動力をもつイカルガがいたことも大きい。イカルガに乗ったエルネスティは魔導飛槍で撃墜出来なかった飛空船も魔導噴流推進器で空をかけて撃墜していた。また、最後には決闘を行うために出てきた指揮官であるクリストバル王子との一騎打ちも危なげなく勝利していた。
結果として、新クシェペルカ軍は大きな被害を出さず、飛空船やティラントーも損傷のない完品を鹵獲することに成功していた。これまでは破損品ばかりだったために進まなかったリバースエンジニアリングが出来るとエルネスティは大喜びだった。
なお、決闘の際にエルネスティはクリストバルから現在の権限以上の待遇で国に迎えるという申し出があったが、エルネスティが素直に現在の権限を答えたところ、そんな馬鹿な権限を持ってる個人がいるかと信じられなかった。