knights & magic ~odic theory~   作:Drac

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5話

 エルネスティ達が12歳にり、中等部へ進学していた。

 エルネスティは初等部、中等部と騎士学科へ、アーキッドとアデルトルートも独り立ちするためにも同じく騎士学科へ進んだ。

 バトソンやフィーネはドワーフ族ということもあって鍛冶学科へ進んでいる。最近はエルネスティに影響されて幻晶騎士(シルエットナイト)の設計、開発を行う騎操鍛冶士(ナイトスミス)に興味が出ており、二人とも両親と相談を重ねながら課程を履修していた。

 

 ちなみにエルネスティが危惧していた身長は未だ成長を感じさせることはなく、バトソンと同程度の140cm程度しかなかった。それに対し、オルター兄妹は体躯に恵まれてほかの同級生よりも高く、160cmは超えている。フィーネは130cm程度でドワーフ族の女子として平均的だった。

 

 現在、中等部騎士学科に所属する三人は総合訓練として中等部三学年合同実施の野外演習に参加していた。一年の彼らは野営やそれを軸に連携訓練を行い、後年への備えが今回の主目的となっている。

 実施場所はヤントゥネンという名の街の近くにあるクロケの森で行われる。ここは幻晶騎士(シルエットナイト)が無くとも対抗できる小型の魔獣が多く存在している。中等部の三年生が戦闘訓練を行うためにもほかの大型の魔獣が存在する場所よりも適切なのだ。

 しかし、クロケの森の先には魔獣が支配する領域、フレメヴィーラ王国成立の原因となったボキューズ大森海が存在している。そのため、万が一を考えて高等部騎操士(ナイトランナー)課程の行軍訓練も並行して実施している。

 

 そこへ向かう道中、三人の中で比較的一般的な感性を持つアーキッドは馬車の中で自由に動けないこともあって早々に飽きが来ていた。同じ馬車に乗るほかの生徒も同様にどこか退屈そうにしている。しかし、その場にはほかの二人がいなかった。

 アーキッドが馬車の上に上るとそこに二つの人影があった。もちろんといえばいいのか件の二人だ。

 アデルトルートはエルネスティの足を枕にしながら幸せそうに眠っていた。当の抱き着かれている本人は意に関せずといった様子で景色を眺めていた。

 そこは生徒の荷物や演習機材が詰め込まれており、自由な空間は少ないがのんびりとしている二人には十分だった。

 

「なあエル、暇すぎね~?」

「ですから何か持ってきた方がいいと言ったんですよ」

「本読んだりとかじっとしてんの苦手だし、お前ら荷物少なかったからさ」

「アディはこんな感じですし、僕としては景色を眺めてるだけでも結構楽しめますからね」

「そんなんで満足できんのお前だけだろ」

「そんな僕に合わせたのはどこのどなたでしたっけ」

 

 アーキッドが若者とは思えないエルネスティの言動にあきれ気味の視線を送るが、返された言葉に詰まる。

 目をそらしているアーキッドにエルネスティが懐から本を取り出しつつ声をかける。

 

「僕が持ってきた本を読みますか?」

「体動かしたい気分だけど、まあいいか。なんて本なんだ?」

「錬金術概論・上巻です」

「...いや、それ教科書じゃねえか。何でそんなもん持ってんだよ」

 

 エルネスティが錬金術の教本を持ってきていたのは暇つぶし兼来年以降の準備としてだ。

 

 騎操士(ナイトランナー)課程を履修資格を得るためには成績優秀者となる必要があるため、エルネスティもさすがに好き勝手はしていなかった。とはいえ、十分常識的とは離れた行動をとっていた。

 初等部にで行う課程の大部分は免除してもらって中等部鍛冶学科の騎操鍛冶士(ナイトスミス)課程に参加していた。加えて、最近は高等部の騎操士(ナイトランナー)課程へ顔出ししている。問題児という扱いをされているが、それだけ優秀であり、学園長であるラウリ・エチェバルリアや、幻晶騎士(シルエットナイト)戦闘教官のマティアスの親族ということもあって見逃されていた。

 ただ、crystalや眼球水晶などの特殊部材作成を学ぶ錬金学科の過程までは手が回っていなかった。騎操士(ナイトランナー)課程を優先したのには高等部の予習という意味もあったが、単純に我慢ができなかっただけである。

 

 

 そんなやりとりもありながら、のんびりと数日をかけてクロケの森に到達した。行軍訓練として少し入り込んだところにある開けた場所まで進み、現在は野営の準備を行っていた。

 4人前後で1班になってテント設営をしているが、1年生の大半が初めてのテント設営に手こずっている。2、3年生は経験もあって手早く進めていた。

 エルネスティ、アーキッド、アデルトルートの3人で班を組んでおり、エルネスティが的確に指示を出して動き、兄妹が体躯に恵まれていたこともあっていち2、3年と遜色無く素早く設営を終えていた。

 エルネスティは設営を終えるといつの間にか姿を消しており、彼より社交性のある兄妹は他班の手伝いをしていた。

 

 エルネスティはというと、自分の仕事は終わったから心の癒やしとばかりに高等部が幻晶騎士(シルエットナイト)を待機させている場所へと向かっていた。そこには10機ほど、片膝をつく駐機体制をとった幻晶騎士(シルエットナイト)がずらっと並んでおり、威圧感や迫力を感じさせてる。

 恍惚とした様子でそれを眺めている彼に声をかけてくる人物がいた。

 

「おい、...その銀髪はエルネスティか」

「エドガー先輩こんばんは。少々お邪魔しています」

「どうしてここに...ってお前には愚問だったな」

 

 声をかけてきた人物の名前はエドガー・C・ブランシュといい、騎士学科騎操士(ナイトランナー)課程履修者の中でもさらに優秀でリーダー的存在としてたち振る舞っている。エルネスティが騎操士(ナイトランナー)課程の授業へ度々顔を出すために顔なじみとなっていた。

 

「えへへ、すみません。エドガー先輩は待機の担当ですか?」

「いや、先ほどまで順番を話し合っていたんだが、ディーがいろいろと言い出してな」

「ディー先輩がですか?」

「そうだ。待機任務は面倒で、他にもやるべきことがあるとかいろいろとな。仕舞いには今回の遠征訓練の愚痴を言い出す始末だ。ヘルヴィとともに諫めようとしたんだが、なかなかおさまらなくてな」

「確かにディー先輩らしいですね」

「だろう。付き合うのも面倒になったので、気分転換がてらにな」

 

 話に出てきたディーとヘルヴィはエドガーに次ぐ成績優秀者たちである。

 ディーは愛称で、フルネームはディートリヒ・クーニッツという。少々強気な性格をしており、エドガーに対して対抗心を燃やしている。訓練で劣勢になったときは何かと理由をつけて負けず嫌いを発揮する。

 ヘルヴィは、ヘルヴィ・オーバーリという名前で、高等部騎士学科では数少ない女性だ。実はエドガーに対して恋心を抱いているが、エドガーが非常に馬鹿真面目で鈍感なために級友の関係から抜け出せていない。

 

 それからも少しの間二人は話し合っていたが、テント設営が終わって集合がかけられたのをきっかけにそれぞれ戻っていった。

 

 

 翌日、例年通りそれぞれの学年で分かれて演習を行っていた。例えば、1年は前日のテント設営をふまえて、設備を持っていない状況の想定などの実習であったり、高等部生は少しばかり奥地へと進んで、中等部生のための間引きを兼ねた幻晶騎士(シルエットナイト)による防衛訓練であったりした。

 

 例年通りに進む中、今年はどこか様子がおかしかった。はじめに異変に気がついたのは高等部生の教官である。今年は例年に比べ魔獣の数が多かった。

 そんな年もあるだろうとしばらく傍観していたが、その数は減るどころか増える一方だった。加えて、幻晶騎士(シルエットナイト)1機以上で対処が必要な魔獣、決闘級の魔獣が出現した。幸いにも決闘級魔獣の数は少なかった上に、未知の魔獣というわけでもなく、高等部生だけでも十分に対処できる程度だった。

 クロケの森も広いため、決闘級魔獣が皆無というわけではないが、普通今回の演習地のような浅い所に出現することはまず無い。明らかな異常を感じた教官は実戦経験の乏しい中等部を守るために野営地へ後退を指示した。

 

 

 3年生は集団戦を意識した小型の魔獣との戦闘訓練を行っていた。初めのうちは順調に対処していたが、昼時を越えた頃から様子が変わる。それまでは、5や6体で動く小規模な群れとの戦闘を行っていた。しかし、戦闘中に別の群れが合流し、魔獣の数は徐々に増えていた。1種類だけなら、単なる習性として片付けられるが、時がたつにつれその種類も5、10種類と増えていった。異常事態を感じ取った教官の指示によって、近くで個人や小規模を意識した訓練を行っていた2年生と合流をしていた。

 高等部生ならば、将来的に間引きなどで自ら魔獣に戦闘を挑むため、複数種類の群れとの戦闘を視野に入れた訓練も行っているが、中等部では自衛や街の守備を目的に訓練を行うために状況に対処出来ていない。教官も自らも戦闘に加わって必死に指示を出しているが、想定の数倍はあろう魔獣の数、種類に教官達も情報を処理し切れず、徐々に対処が追いつかなくなる。

 

 

 同じ頃、1年生も野営地近くで魔獣の群れに襲われていた。周囲の地形や上級生の頑張りもあって数も強さもそれほどだが、突然のことに準備の出来ていない彼らはパニックを起こしていた。教官もはじめに魔獣が出現した時は冷静に対処していたが、戦闘訓練でないために人数は少なく、魔獣が断続的に来ていたために対応できる許容量を超えていた。

 教官でさえそんな状況であるため、生徒はよりひどかった。小隊規模の戦闘訓練すら行っていないため、周囲ののことなどお構いなしに攻撃を仕掛け、同士討ちの危険もあった。

 

 そんななか、魔獣と生徒達を遮るように飛び出す人影があった。それはエルネスティ、アーキッド、アデルトルートの三人であり、それぞれの持つ銃杖(ガンライクロッド)で積極的に大規模に魔獣を殲滅することで、混乱を収めていた。エルネスティはヴァーデックスで散弾のように魔法を使い、ウィンチェスターで残った魔獣に斬りかかった。アーキッドは一挺のガーンデーヴァに大ぶりの剣を取り付けて比較的大型の魔獣を相手し、アデルトルートは二挺に小ぶりの剣を取り付けて魔法を中心に多数の魔獣を相手していた。

 

 二人の持つ銃杖(ガンライクロッド)、ガーンデーヴァはヴァーテックスと同じく拳銃型の形状で、コンセプトは銃剣のように杖に剣を取り付けるのではなく、逆に剣に杖を取り付けるように変化していた。ウィンチェスター、ヴァーテックスは専用の刀身を取り付ける必要があるが、通常の剣の柄に装着できるようになっていた。そうすることで銃を知らない人に扱いをイメージしやすくしており、二人はそれを証明していた。

 

 三人の活躍により、教官達にも余裕が生まれ生徒達をまとめ始め、混乱は次第に収まっていった。

 アデルトルートは初めての実践で活躍出来たことで調子に乗り始めた。エルネスティは前世の知識からそういった慣れはじめや全能感が危険であることを知っており、彼女に注意を行った。アーキッドも同様の感覚を持っていたが、二人のようすを見てすぐさま気を引き締め直していた。

 

 

 事態は次第に収まりを迎えていった。はじめに高等部が野営地に到達することで、1年生に安堵を与えて戦線を安定させた。幻晶騎士(シルエットナイト)と決闘級未満の魔獣の対比は大人と子供のようで、強力な兵器であることを改めて感じさせた。

 野営地と1年生の安全が確保出来たところで高等部生と、1年生で活躍していた一部の生徒で集団が戦闘しやすい開けた場所で2、3年生が戦闘しているであろうと予想をたてて、2、3年生の演習場所からほど近い場所へ向かった。彼らの予想通り、2、3年生は開けた場所で戦闘を行っていた。1年生に比べて集団戦の訓練を行っているが、長時間の戦闘で疲弊している様子であと少し遅れればどうなっていたかはわからなかった。

 

 2、3年生を襲っていた魔獣を殲滅した後、再び野営地に戻って教官達は今後の方針を話し合っているが、すでに日が暮れてもまだ続くほど長引いていた。異常事態が発生していることは明らかだが、全容の解明が必要か、すぐさま撤退するべきかと大いにもめていた。

 幸いにも夕飯前には話し合いが終わり、翌日の明け方にヤントゥネンへ向かうことが全員に伝えられた。

 

 その場にいる全員が翌朝の出立に備えて休む準備を始めるが、どこかいやな予感を抱えていた。

 

 翌日、夜が明けようかというとき、予想だにしていない存在が見張りの目に入ってきた。誰もが考えないようにしていたであろう、異常の原因、その正体が現れたのだ。

 それは師団級魔獣、つまり安定して討伐するには四桁を超える幻晶騎士(シルエットナイト)が必要になる存在だった。彼らの目に入った魔獣の名は陸皇亀(ベヘモス)といい、師団級が攻め込んでくるのはフレメヴィーラ王国建国後はじめてのことだった。

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