劣勢に陥った竜は一度距離を離し、最後の手段を使用した。その姿は竜の体からあふれ出す魔力によって一回りも二回りも大きくなって見えていた。
距離を離すことが出来たのはエルネスティのとった戦法による部分もある。彼は近接線の大型兵器に対する戦術的強みを理解しているために離されたくなかった。故に、離脱しようとする竜に対し補助腕を用いて完全に固定しようとした。それを確認した竜は体を大きく回転させ始めた。乗員が頭部や中心部に集中している故に竜は無視出来る程度だが、回転の最外端に位置するイカルガは遠心力が大きくかかって身の危険を感じたために咄嗟に補助腕を離した。
とはいえ、搭載している魔導噴流推進器の規模差を考えれば結論はそう大きく変わらなかっただろう。
竜がとった最後の手段とは、端的に言えばジャロウデク製の幻晶騎士に搭載されている、supで魔力転換炉へ直接高濃度エーテルを流入させることだった。違う点といえば、コジャーソが指示を出して複数の魔力転換炉を犠牲に作成した特殊な炉であること。
地上のエーテル濃度を基準に作成された魔力転換炉では高濃度エーテルを魔力変換しても限界があった。故にその限界を超えた魔力変換を行うため、高濃度エーテルを前提とした特殊魔力転換炉を用意した。これを使えばそれまで搭載されていた12基の魔力転換炉以上の魔力を生成出来、外装硬化や魔導噴流推進器など純粋な戦力強化が見込める。
後は純粋な話、魔力転換炉を複数搭載しても魔力をまかないきれない竜を万全に運用するために出てきた案の一つがこれであった。
しかし、最後の手段と言うだけあって重大な欠点を持っている。
飛空船が浮遊する仕組みは高濃度エーテルの持つ浮力を用いている。特殊魔力転換炉を用いるために竜が搭載しているエーテライトも大量に使用するため、純粋に飛空船としての継戦能力が乏しくなる。
しかし、そんなことを言っていられないのが鬼神と恐れられるイカルガである。戦略兵器として製造された竜が特殊であるとはいえ、一機の幻晶騎士に討伐されたとなれば、士気の低下は免れない。また、そんな兵力を手放しにしてはこの戦場で勝利しても撤退、次の戦闘が始まる可能性を考えれば無視出来ない。故に決死の覚悟を持って鬼神を葬らねば竜は幾度となく勝てるかわからない戦いを強いられることとなる。
魔槍や六本腕のことを考えればいずれヴィーヴィルに対抗するための兵器を用意してくるかもしれない。
であれば対等である今のうちに勝負を決める必要がある。というのが船長を兼ねるドロテオの意見であり、船員達も同意見であった。