ヴィーヴィルがクシェペルカ軍本陣へ特攻を仕掛けている中、誰しもが意識の外に置いていた存在がいた。
航空戦力である飛空船は、クシェペルカ側は竜対策に追われていたこともあってジルバヴェールのみである。また、ジャロウデク側もイカルガや魔導飛槍によって大戦初期のような空を覆うほどの量が存在していない。また、ジャロウデクとしては防衛戦と言うこともあり、考え無しの行動をとることも難しい。
始めにあったヴィーヴィルとジルバヴェールの対峙以外は両軍ともに見せ札として動いていた。つまり、多少気を向けていても注意を向ける程意識を割いているものがいなかったのだ。
そんな中本陣へ迫るヴィーヴィルへ立ちはだかったのはジルバヴェールであった。
通常であれば質量兵器として突撃する、決死の特攻を防ぐ事は難しい。魔導噴流推進器や垂直投射式連装投鎗器があるとはいえ、通常の飛空船とほとんど差が無い。それが重量も、自由度も通常より遙かに高いヴィーヴィルとの対比ともなれば、難度は幾段も上昇する。
しかし、結果として防衛は成功した。それは三つの要因による物だった。
一つ目の要因は動力。飛空船は船体の上に幻晶騎士の上半身、騎士像と呼ばれる物を搭載している。これに風のarmsを搭載することで、帆船のように操舵を行う。そのため、飛空船の動力は騎士像に搭載されている魔力転換炉でまかなわれている。
対し、ジルバヴェールは魔導噴流推進器を持つために騎士像による起風装置を必要としない。ただ、突貫工事の結果で方式としては騎士像と近い形になっている。具体的に言えば、ジルバヴェール内部には格納庫が存在しており、そこへオルター兄妹のツェンドリンブルを二機駐機させて、動力として扱っているのだ。どこぞの電池扱いされた黄色い可変ロボットみたいな物である。
つまり、多少の知識があれば動力経路から切り離して再び一機体として動かす事が可能であり、エルネスティに教示され、ツェンドルグ系列の魔法術式を完成させたオルター兄妹には簡単なことだった。
二つ目の要因は操縦。ヴィーヴィルはコジャーソ作ということもあって、飛空船のように竜騎士像と呼ばれる箇所が存在していた。しかし、通常の飛空船とは違い、動力としてではなく操縦系統としての役割を持っていた。本来であれば、誰しもが想像するように船橋で全体を統括し、各部へ指令を出すことで操縦する。ただ、ヴィーヴィルは輸送船としての役割も持つ通常の飛空船と違い、純粋な戦闘艦である。そのため、搭乗員が死傷しても少人数で運用できるよう、竜騎士像で簡易的な操縦が出来るように設計されている。
イカルガによってヴィーヴィルは大破状態となっており、船長であるドロテオが竜騎士像へ移ることでなんとか動かしている状態である。
飛空船として必要の無い部分、土壇場で急に動き出したそれを見た時、アーキッドは感覚として二つ目の要因を理解した。
エルネスティと違って純粋なこの世界で生まれ育った彼だが、エルネスティによる英才教育によってそういった定番をある程度、知識として持っていた。
クシェペルカ軍旗頭であるエレオノーラに騎士の誓いをし、個人的な感情もある彼が勇気を出すのに総時間はかからなかった。
何が起こったかと言えば単純、ヴィーヴィルに近づいたジルバヴェールからアーキッド用のパーソナルカラーを施されたツェンドリンブルが飛び出し、ヴィーヴィルの体を駆け上がった。道中の固定砲台として動いていた騎士像のようなもの、アンキュローサは垂直投射式連装投鎗器やイカルガとの戦闘によってその殆どが破壊されており、竜騎士像まで邪魔をする物はいなかった。
最後には―幻晶騎士や騎士像と同じ―竜騎士像の搭乗部へと自身の持つ槍を突き立て、ヴィーヴィルを物言わぬ鉄の塊へと変えた。
そのままではヴィーヴィルの進路は変わらず、航空能力を持たないツェンドリンブルにのったアーキッドはクリストバルと同じように墜落死してしまっただろう。
しかし、その場には大出力を誇る魔導噴流推進器を持つ存在が二つ、イカルガとジルバヴェールがいた。アーキッドはエルネスティに救出される形で、乗機を失いつつも命を拾うことが出来、イカルガとジルバヴェールによって抵抗する力を失ったヴィーヴィルはその進路を大きくずらし始めた。