knights & magic ~odic theory~   作:Drac

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付近を何回か読み返してたら、地理関係を初めとしてふわっとしか覚えてないことが多いことに気づいてしまった。
小さな間違いは魔法の言葉"二次創作なので"、ということでお願いします。


7話

 ライヒアラ騎操士学園の高等部生は数を半分ほどに減らしながらもなんとか戦闘を続けていた。しかし、たった一撃によって半数の幻晶騎士(シルエットナイト)が倒れ、生き残った中の一人が逃走したために彼らの士気はかろうじて保てている状況だった。

 加えて、彼らは正規の騎士ではなく、未だそれを目指す学生の身分である。長時間深い集中を続けることになれておらず、動きも緩慢な部分が目立つようになってきた。

 

 集団の半数が沈黙している状況は、場合によって全滅判定とされることもある。本来であれば撤退を選択すべき盤面である。

 しかし、未だ学生であるが故の正義感や、責任感などから彼らには撤退の選択肢は浮かんでいなかった。それ以前の問題として、先の攻防で陸皇亀(ベヘモス)の実力は把握していた。一目散に逃走を開始すれば竜巻の吐息(ブレス)やその体躯を利用した攻撃で撃破される可能性があるため、逃走の選択肢は考えないようにしていた。

 

 そんな極限状態では、正規の騎士であろうとも精神的に摩耗するのは当然のことであり、学生である彼らは余計に疲れ果てていた。その隙を突かれ、現在撃破されていない機体でまともに稼働している物はさらにさらに半分ほど減らされていた。

 

 さらに、彼らには一つ懸念するべきことがあった。それは魔力貯蓄量(マナ・プール)と呼ばれる制限時間だ。魔力貯蓄量(マナ・プール)とは、その名の通り幻晶騎士(シルエットナイト)が貯蓄している魔力(マナ)の量を指している。魔力転換炉(エーテルリアクタ)によって魔力(マナ)の生産が行われているが、消費をまかないきれるだけの生産が出来ているわけではない。非稼働時に体内に魔力(マナ)をため込んで、稼働時にはそれを利用する。

 幻晶騎士(シルエットナイト)魔力貯蓄量(マナ・プール)は最大限貯蓄した状態で、およそ2~3時間程度動作を続けられるが、稼働状況や攻撃魔法によって短くなってしまう。今回の戦闘で彼らは全力で戦闘を行うしかなく、すでに魔力貯蓄量(マナ・プール)はいつ動作停止になってもおかしくないほどに減少していた。

 

 誰もが自身の最期を覚悟したとき、森の中から一つの影が飛び出してきた。自分たちの乗る機体と同じ程度の大きさをしており、その全身は深紅に染まっていた。

 飛び出してきた物の正体は、彼らの学友が操る機体であるグゥエールだった。

 

 グゥエールは彼らに一瞥もくれることなく陸皇亀(ベヘモス)に向かって自身の持つ剣で切りかかっていった。その攻撃は偶然にも陸皇亀(ベヘモス)の左目に当たるが、目を覆う甲殻に阻まれて大きなダメージは与えられていなかった。そんなことも気にせず、グゥエールは陸皇亀(ベヘモス)の周りを駆け周り、再び攻撃を仕掛けている。

 

「ディー!戻ってきてくれたのか。今、加勢に...」

 

 いち早く状況を理解したエドガーは、加勢しようとするが動くことが出来なかった。先に述べたように、魔力貯蓄量(マナ・プール)や機体損傷による所もあるが、本質はそこではない。グゥエールの動きが常識外れだったのだ。

 幻晶騎士(シルエットナイト)が通常出せない速度で移動し、あり得ない姿勢で攻撃をかわす。今まで、自分たちが盾を使って被害を抑えていたのに対し、すべて避けることで被害を受けないとでも言わんばかりだった。

 

 はっきり言って、加勢に向かっても邪魔にしかならなかった。多人数での戦闘とは、絶え間ない攻撃など有利な面は多いが、その分周囲を守る不利なども抱えることになる。それを理解した彼らはグゥエールが稼働限界に陥った際に助けに入れるよう魔力貯蓄量(マナ・プール)の回復に務めた。

 

 

「これが幻晶騎士(シルエットナイト)、これが魔獣...僕はいま、ロボットに乗って戦っている!」

 

 そのころグゥエールの内部では、エルネスティが大はしゃぎしていた。学園所持の幻晶騎士(シルエットナイト)拝借(強奪)という、魔が差したでは済まない状況ではあるが、そんなことは彼の頭にはすでに存在していなかった。前世での妄想、そして今世で最大の目標、その一端に触れたことに興奮し、目的が高等部生の援護ということもほぼ忘れて陸皇亀(ベヘモス)へ特攻を仕掛けていた。だが、そのほとんどが体を覆う甲殻に阻まれ、有効打を与えることが出来ないでいた。

 

「やはりデカ物は堅いですね。刃が通りません...となれば狙うのは!」

 

 グゥエールは陸皇亀(ベヘモス)の関節へと向けて剣を振るう。どのように巨大で堅牢な存在であろうと機動性を確保するために駆動部分、つまり関節部はもろくならざるを得ない。人が身につける鎧でも、関節部は装甲で覆うことが出来ず、急所として扱われている。

 しかし、グゥエールの振るった斬撃が陸皇亀(ベヘモス)の身につけた傷はわずかなものであった。

 

「関節まで硬いとは、やはり師団級魔獣というだけはありますね」

 

 陸皇亀(ベヘモス)は山ほどの体躯であり、通常は自身の重量によって身動きすらままならない。それを可能にするのが身体強化(フィジカルブースト)外装硬化(ハードスキン)といった魔法である。自身の身体を自重によって押しつぶされないよう強固にし、活動が出来るよう身体能力を底上げしている。その副産物として、巨大な魔獣であるほど強化されて防御が堅くなる。

 

 しかし、どれほど強力な魔獣といえどその身に宿す魔力(マナ)は有限であり、戦闘を続ければいずれは枯渇する。加えて、どんな存在であろうと生物であることに変わりはない。小さな傷でも無数に存在すれば生命活動すら困難になる。

 

「となれば持久戦による魔力(マナ)不足が狙い目ですかね。こちらが倒れるのが先か、そちらが食い潰すのが先か、勝負といきましょう」

 

 

「ん?...うぅ、こ、ここは...」

 

 しばらく戦闘が続く中、グゥエールの操縦席から声が聞こえてくる。しかし、声の主はエルネスティではなかった。彼はいま陸皇亀(ベヘモス)との戦闘に夢中で声にさえ気づけていなかった。

 

 声の主はこの機体の本来の持ち主、ディートリヒであった。すでに彼が気絶してからかなりの時間が経過しており、すでにいつ目覚めてもおかしくなかった。そこに、通常幻晶騎士(シルエットナイト)が起こす衝撃よりも強い物を何度も受けて目が覚めたのだ。

 

 状況を把握すべく周囲を見渡すと、見慣れた光が目に入った。その光は魔力(マナ)が発するものだった。魔力(マナ)は大量に集まっている時、淡く光る性質を持っている。魔力転換炉(エーテルリアクタ)によって多量の魔力(マナ)を有する幻晶騎士(シルエットナイト)では、その性質を操縦席の明かりの確保や様々な機能に利用していた。

 しかし、覚醒したばかりで頭の回らない彼はさらに周囲を探っていくとやがて、座席の後ろから幻像投影機(ホロモニター)を見た。そこには彼が逃げ出し、気絶する原因となった陸皇亀(ベヘモス)が大きく映し出されていた。

 

「んもっぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 ディートリヒは思わず絞められる鶏のような悲鳴をあげてしまった。

 そして、戦闘に集中していたエルネスティはその悲鳴に驚いたことで操作を誤り、体勢を崩す。しかし、崩れた体制をすぐに立て直し、寸前攻撃をなんとか避けることに成功する。

 

「お、お前!何を考えているんだ!?」

「えーと、説明すると長くなるんですが、緊急事態のため連れてきてしまいました。すみません」

「謝って済む問題か!そもそもどうして戦っているんだ!?」

「あ、そうでした。先輩方を助けようと思いまして、ディー先輩をおいていくのも忍びなくて仕方なく」

 

 ディートリヒは大声で問い詰め、エルネスティもその問いに答える。この間にもエルネスティは何事もないように戦闘を続けている。

 

 話を聞けば、聞くほどディートリヒはエルネスティという存在がわからなくなる。この中等部生は自身の願望も見え隠れするが、自分が惨めに逃げ出した敵に向かって果敢に向かっていった。しかも、その理由の少なくとも半分は自分たち高等部生を助けるためだという。ディートリヒにとって正しく目指していた騎士を体現した存在に感じた。

 

「これは、騎士を目指していながら逃げてしまった罰なのかな?」

 

 不意に、ディートリヒは感じたことをそのまま口に出してしまった。敗北もない完璧な騎士を目指していた身として、目標を打ち砕かれたような感覚だった。

 ただ口に出た独り言故に想定していなかったエルネスティから言葉が返ってきた。

 

「騎士であっても、逃げてもいいとは思いますけどね」

「え?」

「人間は死なないため、守るために戦っているんです。戦いのために死ぬなんて本末転倒でしょう。問題はその逃走が持つ意味じゃないですか?」

 

 ディートリヒにとってエルネスティの放った言葉はすぐに理解出来る物ではなかった。その真意を聞くためにも、もう一度エルネスティに疑問を投げかける。

 

「意味だって?」

「ええ。力を蓄えるため、仲間と力を合わせるため、仲間から遠ざけるため、!おっと危ない。とにかく、意味のある逃走は勇気ある行動と同義だと思いますよ。最後に勝てばいいんですから。すみません、ちょっと操作に集中します」

「...」

 

 正直、ディートリヒにとってエルネスティの言葉に黙るしかなかった。今まで彼の中で騎士とは、誰にも負けず、逃げず、勝ち続ける存在であった。それ故に、普段は自身の負けを認められず、今回一人逃げ出したことで自分のことをあきれ果てていた。

 

 惨めでもいい、情けなくてもいい、ただどんな行動であろうと、覚悟を持って挑むことが騎士たる資格だ。ディートリヒにとってエルネスティの言葉をそのように捉え、同時に今回の無意味な逃走を恥て次につなげろといっているように感じた。

 

 ただ、もちろんエルネスティにそんな意図はない。純粋に落ち込んでいる先輩を励まそうとしただけである。しかし、ディートリヒはエルネスティにたいし何か大切な物を感じ取っていた。それを確認するためにも、静かに戦いの行方を見守る。

 

 

 そこからさらにしばらくグゥエールと陸皇亀(ベヘモス)の戦闘は続いていたが、横やりを入れる存在が現れた。陸皇亀(ベヘモス)の横っ腹に数多の魔法攻撃、一般的に法撃と呼ばれるものが直撃する。

 攻撃の主は幻晶騎士(シルエットナイト)であったが、エルネスティ達が普段から見慣れたサロドレアではなかった。カルダトア、フレメヴィーラ王国が所有する幻晶騎士(シルエットナイト)、その現行機であり、その場には最低でも大隊規模はいた。そして、その合間からは所属を示す旗がはためいており、待ち望んでいたヤントゥネン守護騎士団であることを示していた。

 

 高等部生と陸皇亀(ベヘモス)の戦闘開始から考えても2時間程度で、ライヒアラ騎操士学園の遠征隊から報告を受けて到着するにはいささかはやい。騎士団がこうもはやく到着出来たのにはもちろん理由がある。

 ボキューズ大森海には、決闘級を超える魔獣が跋扈しており、国境を越えようとする魔獣に対処するため、国境付近には所々に砦が建設されている。数日前に国境を越えようとする陸皇亀(ベヘモス)を確認しており、最寄りのヤントゥネンへ知らせていた。そのとき砦に務める騎士の大半は追い返そうと奮闘したが力及ばず手傷を与えたものの壊滅状態に落ちいてしまった。

 最寄りとは言っても、通常であれば2、3日以上かけるほど距離があいている。運悪く、ライヒアラ騎操士学園の演習とすれ違う形になっており、ヤントゥネンが事態を把握したのは昨日夜も更けた頃だった。

 

 事態を把握しても、即座に行動できる訳ではない。特に、今回は人類史で見ても稀にしか現れない師団級であり、一騎士団での討伐は無謀ともいえた。しかし、師団規模の幻晶騎士(シルエットナイト)を集めるにはあまりに時間が足りなく、どれほどの被害が発生するかわからなかった。そのため、避難経路の設定や王都への伝令といった討伐や撃退が出来なかった場合の備えを行っていた。結果、出発できたのは夜が明ける頃だった。

 

 砲撃を受けた陸皇亀(ベヘモス)は瞬間ひるむが、そちらへは見向きもせずグゥエールへの攻撃を続ける。これまで散々こけにしてきた上、今まで負ったことのないほどの痛みを与えた赤い存在に危機感と怒りを覚え、他は目に入っていなかった。

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