knights & magic ~odic theory~   作:Drac

9 / 55
9話

 ライヒアラ騎操士学園の一部は賑わいを見せていた。だが、それは前向きな意味ではなく、どちらかといえば騒ぎといえる。

 

 騒ぎの現場は学園に併設されている幻晶騎士(シルエットナイト)の整備を行う工房だ。先の陸皇事変において破壊された、学園所有の幻晶騎士(シルエットナイト)、サロドレアの修復で大忙しになっている。そこには普段の倍ほどの人間がひしめいていた。

 

 普段は高等部鍛冶学科に所属する騎操鍛冶士(ナイトスミス)課程を履修する生徒が整備している。しかし、今回は中破以上の機体が多く、年に数える程度しか行なわないオーバーホールを全機行う羽目になっていた。騎操鍛冶士(ナイトスミス)課程を履修していない生徒も応援として駆けつけており、中等部生も呼び出すことも検討されていた。まさに猫の手も借りたいといった状態である。

 

 そんななか、大声で人を呼ぶのが聞こえてきた。

 

「親方!ちょっといいか?」

「おう。すぐいく!」

 

 親方と呼ばれたのは、ダーヴィド・ヘプケンという名前のドワーフ族で高等部生の一人だ。

 彼は教官とも遜色のない実力を持っており、世話焼きな性格から鍛冶学科のまとめ役をしていた。また、彼の顔はなかなかの強面で、まさに現場監督というような雰囲気を醸し出しているため、親方と呼ばれている。

 

「またせたな。どうした?」

「グゥエールなんだけど」

「あ?」

 

 ダーヴィドを呼んだ生徒はその用件を伝えようとするが、口から出てきた機体名は本来なら出てくるはずがないものだった。

 

「そいつは一番損傷が激しいから最後だっていっただろ」

 

 彼らの目の前にある機体、グゥエールは他と比べるまでもなく大破や撃破といった状態だった。かろうじて識別が可能なだけで、修理というより新造といえるほどだった。そのため、ダーヴィドの判断で放っておくことになったが、誰もが賛同していた。

 呼び出した生徒もそれに否定はしていなかった。

 

「わかってるよ。概算だけでも出しておいたほうがいいと思ったんだ」

「わかったわかった。終わったんならさっさと他の作業を手伝いやがれ」

「ちょっと待って。こいつなんだか変なんだよ」

 

 忙しい状態で後回しにした仕事に呼び出されたことで、少々いらだった様子で作業に戻ろうとしたダーヴィドを生徒は引き留めた。話を聞けば、彼も興味を持つという確信を持っていた。

 

「こいつをどう思う?」

「どうって、金属内格(インナースケルトン)から壊れてやがる。魔力転換炉(エーテルリアクタ)銀線神経(シルバーナーヴ)がやられたんだろ」

「僕もそう思ったさ。でも、魔力転換炉(エーテルリアクタ)は壊れてない。それにここをよく見てくれ」

「あ?なんだこりゃ」

 

 グゥエールは金属内格(インナースケルトン)が崩れており、これは機体の貯蓄魔力(マナ)がなくなった場合によく起こる現象だった。

 幻晶騎士(シルエットナイト)は魔法によってその身体を維持しており、魔導演算器(マギウスエンジン)にはその魔法が途切れないようにリミッターがかけられている。つまり、魔力(マナ)が貯蓄出来ない故障が発生しないとこうはならない。

 

 魔力(マナ)が貯蓄出来ない故障は、”魔力転換炉(エーテルリアクタ)が壊れて魔力(マナ)を生成出来なくなる”、”銀線神経(シルバーナーヴ)が切れて魔力(マナ)を伝達出来なくなる”というのが代表的なため、ダーヴィドはその二つに当たりをつけて答えた。しかし、呼び出した彼は正解ではないと言い、ある部分を指した。

 そこはグゥエールの崩壊した足、特にそこからこぼれだしている結晶筋肉(クリスタルティシュー)だった。

 

「こいつぁ疲労断裂か」

「そう。この結晶筋肉(クリスタルティシュー)、疲労断裂を起こしているんだ。出発前に全身張り替えたのにだぞ」

 

 そこからグゥエールを改めてみたダーヴィドはさらに違和感を感じていた。

 

(綺麗すぎる。他のヤツは色々とひしゃげて、陸皇亀(ベヘモス)と戦ったのが伝わってくるが、こいつは外装(アウタースキン)に損傷がなさ過ぎる。とても師団級を相手にしたとは思えねえほどだ)

 

 ダーヴィドは新たな違和感を感じるたびに、この機体に疑問...というよりも、興味がわいていた。

 個人的興味を解消するためにも、翌日グゥエールの騎操士(ナイトランナー)であるディートリヒを呼び出して事情を聞き出すことを決めた。

 

 

 

「かくかくしかじかなので、新型幻晶騎士(シルエットナイト)を作成することになりました」

「いやわかんねえよ。なんだよかくかくしかじかって」

「古来から伝わる説明言語です。というわけでバトソン、幻晶騎士(シルエットナイト)を作れる場所に心当たりありませんか?」

「あるわけねえだろ!」

 

 テルモネン工房からほど近く、エルネスティとバトソンが会話していた。バトソンが家を出ようとしたところにエルネスティが押し掛けてきた状態である。

 

 そんな二人にバトソンと待ち合わせをしていたフィーネが近づいてきて会話に加わる。

 

「おはよう。バト君、エル君何話してるの?」

「フィーネ、おはようございます。実はかくかくしかじかでして」

「なるほどね」

「え!?言ってることわかんの!?」

「ううん。乗っかっただけ」

 

 待ち合わせしていた二人がそろい、目的地へと歩み始め、エルネスティもそれに続く。ふざけ会いながらもエルネスティは二人に事情を話す。

 

 陸皇亀(ベヘモス)との戦闘後、ライヒアラに帰ってきたエルネスティはとんぼ返りするように王都であるカンカネンへと呼び出された。仔細は省くが、そこで国王であるアンブロシウスに気に入られ、エルネスティが考える最高の幻晶騎士(シルエットナイト)を提示することになった。そして、提示した際の対価として幻晶騎士(シルエットナイト)の心臓たる魔力転換炉(エーテルリアクタ)の製法を教授されることになっていた。

 

「うわぁ。さすがエル君すごいことになってるね」

「もう、なんて言えばいいんだか」

「大丈夫です。人生という道に停留所が増えただけですから」

 

 勢いよく問題ないという友人に二人はあきれながらも、いつものことだと納得していた。

 ふと、行き先も聞かずついてくるエルネスティに些細な疑問を感じたバトソンは質問を投げかける。

 

「とりあえず、ついてきてるってことはあれが目的だろ?」

「あれ?とはなんですか?」

「あれ?知らなかったんだ」

「お前らが行った演習で幻晶騎士(シルエットナイト)がたくさん壊れただろ。手が足りないって俺たちにも声がかかったんだよ」

 

 陸皇亀(ベヘモス)との戦闘で学園が所有する多くの幻晶騎士(シルエットナイト)が大破していた。幻晶騎士(シルエットナイト)の生産には大きなコストが必要であり、そうそう使い捨てには出来ない。国としても訓練機を新造するだけの余裕はあまりない。よくよく考えてみれば、修理して再利用することは当然である。しかし、エルネスティにとって寝耳に水であった。

 修復中の幻晶騎士(シルエットナイト)が大量に並んでいる光景を見るためにも、食い気味に二人へつめよって一緒に学園の工房へと向かうことになった。途中、嫌な予感を感じ取ったアーキッドとアデルトルートと合流する。このときエルネスティは出会い頭に捕獲されており、その光景を見ていた鍛冶学科の二人はなぜか”灰色”という言葉が頭に浮かんだ。

 

 

 エルネスティ達が工房に到着すると予想通りずらっと並んでいる修理中の幻晶騎士(シルエットナイト)が出迎えた。その中でも異彩を放つ損傷の仕方をしている赤い機体に気づき、自然とそちらの方へ向かっていた。

 エルネスティが拝借した機体の特徴を聞いていた四人は損傷の理由を察していた。その原因であろう人物へと視線を向けるとどこか恍惚とした表情で機体を見ており、どこか手遅れのように感じた。

 

 ふと、エルネスティは機体で影になっている所で会話している声があることに気づいた。気になったため近づいて確認使用とすると、そこではうずくまるディートリヒとそんな彼に問い詰めているダーヴィドがいた。

 

「親方、どうしたんですか?」

「あ?ああ、銀色坊主か。この赤い機体、グゥエールの壊れ方が妙でな。騎操士(ナイトランナー)であるこいつに事情を聞こうと思ったんだが...」

医務室...悪魔...医務室...

「ずっとこんな感じでな」

 

 ずっと何かうわごとを言い続けているディートリヒと困惑しながらも問い詰め続けようとするダーヴィドにエルネスティ達はこの場所へ来た目的も忘れていた。どうした物かと考えていると、ディートリヒが彼らを認識したようで今まで死んでいた目に生気が戻ってきた。

 ダーヴィドは正気を取り戻したディートリヒに改めて事情を聞き出そうと話しかける。しかし、彼が放った言葉でその場は凍り付いた。

 

「ちょっと待ちやがれ。今なんて言いやがった」

「ん?グゥエールが壊れた時に動かしていたエルネスティに話を聞くために呼んだんじゃないのかい?」

「聞き間違いじゃねぇんだな。おい銀色坊主!?」

「...もしや私は要らぬ事を言ってしまったのか?」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。