もし継国縁壱さんのような人が無職転生の世界に居たら   作:ばしお

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3 自由に

ヨリイチの楽しみは人の気配が静かになる夜に月を窓から眺めることだった。

 

だが今宵の夜、月を眺めていたら何やら家の気配が普段とはちがった。

 

 

空気?というべきか、殺気立ったもののような冷たい気配が確かにあった。

 

どこから感じる...?

 

ヨリイチは知覚に集中し、違和感のある場所を特定する。

 

場所は...

 

「父様?」

 

父の寝床の場所だった。

 

決断は即決で部屋から出ようと扉を挙げる。

 

が、そこには鍵がかかっていた。

 

そう言えばいつも自分を部屋から勝手に出ぬよう夜は鍵がかかっているとヨリイチはこの時遅れて気づく。

どうするか一瞬悩み、扉を壊すことを決意。

 

闘気という言葉はこの時ヨリイチは知らなかったが、ヨリイチは生まれた時から感覚で闘気の纏い方を理解していた。

 

手刀を繰り出し、音が出ないように最速で壊す。

静かに扉を倒し、ついでに扉の一部分を切り、魔術で木刀に変える。

 

駆けつける。

 

あたりに明かりはついていない、現在は深夜だ。

 

普段ならば空気は澄んで静かな夜と、よく映える月という趣をささやかな楽しみにできる時間だ。

 

なのに今日は空気がおかしかった。

 

澄んでいなかった。

自分の肌の感覚が鬱陶しいほど事態の状況について警鐘を鳴らしていた。

 

焦りが先行して移動を加速させる。

 

「きゃっ!」

 

角を曲がるとすんでの所でメイドとぶつかりそうになるが紙一重で躱す。

驚かせてしまって申し訳ない...

 

私は後でどうなるのだろうかと一瞬今の出来事で考えたが今は事態の確認が最優先と考え即座に思考を打ち切った。

 

もう一つ角を曲がり、すぐそこに父の寝床がある。

目的の場所についたと当時に扉を開けようとドアノブに手を掛け回す。

鍵がかかっている。

扉を木刀で切り倒す。

「...」

 

杞憂で終わってほしい自分の考えとは裏腹に目の前の現実が非常にも事実を突きつける。

 

 

 

 

 

母様が父を庇い、顔が見えぬように深くフードを被った謎の黒い外套の男の三人の内の一人に切り伏せらせていた。

 

 

扉が壊される音で振り向いた者が二人いた。

 

もう一人は即座に父様を切りつけようとしている。

 

真っ先に、父に襲い掛かり切ろうとしている輩に対して一瞬で間合いを詰め木刀で首を打ち壁に叩き付けた

 

 

人を初めて打ち付ける感触はひどく不快だった。

 

 

 

残りの二人は狼狽し、後ろに後ずさるがすぐさまに武器を持ち直し構えを取った。

 

一人はカウンターを狙うように。

 

もう一人は相手に攻撃の隙を与えないように。

 

だが、他の物が()()()()()()()()()()ヨリイチにとっては何も関係のない事だった。

闘気を纏っているにも関わらず、闘気を感じさせない。

この道理を矛盾したものを体現している事がヨリイチの歪とされている事の一つだった。

故にヨリイチには殺気が一切ない。

 

一人、相手は一つ瞬きをする。

 

その隙に間を詰めて相手の首、手首、腹、足に叩き込んだ。

 

 

 

 

手元に残る感触は不快だった。

 

 

 

 

隣からは明らかにうろたえている一人の姿があった。

が、慌てて剣を自分に向けては振り下ろそうとしていた。

 

相手の剣が上へ構えて一瞬浮いた隙に木刀で顎を、その後に腹、腰、足を順に打ち付けた。

足を払ったことで体を浮かせ、最後に首を打った。

 

 

 

「お…お前…」

 

父が怯えるように声をかけてくる。

父に目線をやり、容態を確認する。

父には怪我は無いようだ。

 

そう即座に判断して、すぐに母の近くの元に寄り、治癒魔術を掛けようとする。

 

すると、母様がそれを拒んだ。

何故?

 

「わたしは…もう…長くは、ありません」

か弱い声でそう言う。

 

そんな事を言わないでほしい

 

「それに…約束…覚えていますか?」

 

家の者の目に触れるところででは無詠唱の魔術は使わない。

きっとその事を言っているのだろう。

こくんと頷く。

 

「そう…いい子ですね…」

 

そう言い、薄く笑いながら頬に触れようとする。

弱々しくなったその手を近づけようと手を取り自分の頬に触れさせる。

その手は冷たかった。

 

「かあさま…守れなくて…ごめんなさい…」

 

自分は無力だった。

 

「ヨリイチ...私のことを母上と...呼んでくださいませんか?」

唐突にそう言った。

 

「...母上...」

 

「はい...」

母は嬉しそうだった。

気に入っている呼び名があったのなら、早く前から呼んであげればよかった。

 

母はそっと手を自分の顔に近づけ私の頬に触れる。

 

母の自分の頬に触れる手が冷たい。

 

母はそっとか細い声で私の名前をよんだ。

 

「ヨリイチ……」

「はい……」

 

「自由に...生きてください」

 

「...はい...」

 

「ヨリイチ...あなたを、いつまでも...愛しています...どうか...元気に...」

 

母はゆっくりと目を閉じた。

満足したように。

 

手が自分の頬から落ちていく。

 

手はとても冷たかった。

 

「...」

 

 

 

「お、あ?よ、ヨミナ...な、なぜ...私を...」

 

ぼんやりとしていたら父が母上の名前を読んで戸惑いの声を上げる。

 

 

しばらくすると護衛方たちがやってきた。

 

「父様!」

 

「ル、ルーク!」

 

「一体なにが...な!?お前..これは一体どういう事だ!説明しろ!」

 

後ろを振り向くと腹違いの兄がいた。

 

私はその問いには答えず、激高する兄の様子をじっとみていた。

 

兄上の所に刺客は来なかったらしく、怪我という怪我は見当たらなかった。

よかった。

 

何人かのものが父の元へより、様態を確認している。

 

母の亡骸を渡し、自分は元居た場所に戻され、扉を固く閉ざされ、扉越しには見張りがついていた。

 

 

 

その晩、部屋には手紙が残されていた。

父には身体を大切にしてほしい。兄には稽古中に邪魔をしてしまった謝罪。あとは自分の世話をしてくれたメイドへの感謝の言葉と、道中迷惑をかけてしまったことへの謝罪。自分は最初からいない者として扱ってくださいと最後には書かれていた。

 

 

 

その晩、ヨリイチは部屋から忽然と姿を消していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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