パァン!
栄純「どうっスか、今の球!!」
しかし、クリスの回答は
クリス「バックスクリーンに3連発だな・・・」
だった。
栄純「何故!?」
クリス「バッターは、バース・掛布・岡田だからな。」
栄純「ミットは良い音してるのにー!!」
クリス「人は急激には変化などしない。焦って結果を求めるなと何度も言ってるだろ。」
そう諭すも
栄純「そうは言いますけど・・・メニューはこなしてるのに、俺の持ち味ってのもまだ教えてもらってねーですし・・・」
栄純は不満だった。
クリス「柔軟な関節で、球持ちの良いフォーム・・・。お前ボールをどう握っている?」
クリスのこの問いに
栄純「え・・・ボ、ボール?え、ええっと・・・!」
栄純は答えられなかった。
クリス「成程な・・・何も考えていないのがよく分かった。」
栄純「!」
クリス「握りの深さ・・・指の間隔・・・親指や縫い目の位置・・・ボールの握り方を意識していないがために、毎回リリースポイントがずれる。その不安定な投げ方だから、クセ球になるんだ。」
栄純「え?俺は真っ直ぐ投げてるつもりなんですけど?」
すると
クリス「・・・だが、そのクセ球こそが、お前の最大の持ち味・・・」
とクリスは言った。
これに
栄純「・・・え?」
栄純は疑問の表情を浮かべた。
しかし、クリスは真っ直ぐ見て
クリス「体全体を不足無く使い、上から叩きつけるようなフォームから強烈な縦回転のボールを投げる、速く伸び上がる足立の快速球と全体重を指先に集約し放たれる、重く速い降谷の剛速球。」
クリス「対照的にほんの僅かな指先のズレが、ボールの様々な変化を生み出すキレのあるお前のボール。今まではそれで通用したかもしれんが、ミートポイントの広い金属バットを使う高校野球じゃ、力で押し切られるだろう。」
栄純「!」
クリス「球威も変化球も無い、そんなお前がこのチームで生き残る道はただ一つ・・・そのクセ球を磨き上げろ。」
そう、栄純に言った。
クリス「土台となる身体が、しっかり出来上がり球威が上がれば、お前の球は今以上に暴れる筈だ。」
それを聞いて
栄純(ちょっと待て・・・それじゃあクリス先輩は・・・最初から俺の事を考えてあのメニューを!?)
栄純はクリスがちゃんと自分の事をしっかり見て、考えて練習メニューを作ってくれていた事を知った。
クリス「・・・お前の目標はエースになる事だろう?御幸なら、どんなクセ球でも受け止めてくれるさ。」
栄純「け・・・けど、それじゃあクリス先輩は?」
クリス「フッ・・・引退の迫ってる3年の俺が・・・お前に出来るアドバイスなどこれぐらいなもんだ。焦らず上を目指せ。お前には、まだまだ先があるんだからな。」
そう、クリスは優しく栄純に言い
クリス「アイシングだけは忘れるなよ。」
その場を後にしたのだった。
その夜
片岡(予選まで残り1ヶ月・・・選手の疲れもピーク・・・。そろそろ合宿に入る時期だな。)
そう、片岡は夜のランニングをしながら思っていると
ドン
片岡「?」
どこかで何かが壁に当たる音が聞こえた。
音がした方へ向かうと
栄純「ハア・・・ハア・・・ハア・・・」
栄純が壁に向かってボールを投げていた。
栄純「後10球・・・」
それを見た片岡は
片岡「フォームがバラバラだ。速い球を投げようとして、逆に体が開いてる・・・」
そう栄純に言った。
栄純「ゲッ・・・グラサ・・・」
栄純「い・・・いえ・・・お疲れさんです、監督様・・・」
失礼な事を言いかけた栄純は、咄嗟に言い換え、土下座した。
片岡「ハァ・・・今何時だと思ってる。やみくもな練習は、故障を誘発するだけだぞ。」
片岡「土台作りが大事だと、クリスに言われなかったか?」
栄純「!」
片岡「確かにクリスの要求が理解出来ずに、離れていく投手も沢山いた。だが・・・自身の経験から基礎トレーニングを重視したやり方は・・・決して間違ってないぞ。」
片岡「これ以上キャッチャーの言う事が聞けないようなら、バッテリーを解消した方が良いな。」
これに
栄純「あの人は・・・俺にキャッチャーとして、最初から接してくれてたんです。このまま、持ち味のクセ球を磨け・・・焦るなって・・・。けど・・・このままじゃ・・・俺・・・あの人に何も返せない。後数ヶ月で何が出来るか分かんねぇけど、あの人が引退する前に、少しでも成長した姿を見せたいんです!!」
と恩返ししたいという顔で言った。
それを見た片岡は
片岡(ったく・・・呆れた奴だ・・・。二軍から2人の選手が一軍に昇格できる事など、すっかり忘れているようだな。)
そう心の中で呟きながら首に巻いているタオルを取って
片岡「とにかく無茶な投げ込みは、もうするな。これから自主練をやるなら、シャドーピッチングにしろ!」
片岡「良いか・・・いくら力を込めて投げようが、速い球は投げられん。重要なのは、グローブを持つ手の方だ。」
栄純(え?)
片岡「見ていろ。」
片岡「全身の力を如何に指先に伝えられるか。サウスポーのお前は、その右腕でカベを作るんだ。」
片岡「体重移動した体を支える右足・・・そして、その力を逃さず溜めておく右手のカベ・・・弓矢のようにギリギリまで体のタメを作り、下半身から伝わるそのエネルギーを・・・一気に振り抜く!!」
丁寧に教え、実践した。
栄純(すげっ・・・風が・・・)
片岡「やってみろ。」
そう言い、片岡は栄純にタオルを渡した。
栄純(右手のカベ・・・体のタメ・・・)
栄純「右手でカベを作り・・・振り抜・・・」
栄純も早速やったが
ビターン!
栄純「ゲッ!」
片岡に当ててしまい
栄純「ひーっ!!すいません!!ワザとじゃ・・・ワザとじゃ無いんですー!!」
そう必死に弁明したのであった。
投稿出来ました。
ホント、こうして見てると、クリスさんは素晴らしい選手ですね・・・。
それでは、また。