犬山まなと願いを叶えるミセ 作:店の主
世ニ不思議ハ多ケレド
ドレ程奇天烈奇々怪々ナデキコトモ
ヒトガ居ナケレバ
ヒトガ観ナケレバ
ヒトガ関ワラネケレバ
タダノ現象
タダ過ギテイクダケノ事柄
ヒト
ひと
人
人こそこの世で摩訶不思議な生き物である
「…………」
洋風にも和風にも見える不可思議な建物。その縁側に立つ男は月を見ながら煙管から煙を吸う。
「……最近妖怪共が妙に浮足立ってるらしい」
「良くないのか?」
「良くないねえ……過去に封印され、現代を知らないならともかく、現代まで存在を続けたくせに、今更気に入らないと暴れ出してるそうだ。人間は確かに質が悪いが、妖怪はアヤカシに近い分、人間と同じ事をしてるともっと質が悪い」
酒を煽り、2色の瞳で空を見つめる。
「年号の変わる年も近づいて来た。暫く世が荒れるな………」
「そうか」
「お前は……大丈夫か。ただ、小羽ちゃんには暫く夜を出歩かないように言っておけ。何時でも夢を通して助けられる訳じゃないからな」
「解った、五月七日にも伝えておく」
「そうしろ」
それで言い、とでも言うような男の笑みに百目鬼と呼ばれた男は無表情を貫く。二人は酒を煽り、やはり眼鏡の少年は静かに月を眺め続ける。
「人の世は移ろい、嘗て定めた境界を新たに組み直し始めた。たまったものじゃないのは解るがね」
「たまったものじゃないから、人の世に対して敵意を向けるのか?」
「人が定めた境界を良しとしたのは妖怪達だ。境界の向こう側、理に近い尊き者達でもあるまいに、今更自分達で境界を超えるのは、道理に合わない」
「そしたら、どうなる」
「一度決めた境界を無遠慮に敷き直す人間も、一度人間が役目を負うことを受け入れておきながらやはり自分達で境界を決めるとした妖怪も、何方も相応の傷を負う。海の向こうで、その為の命が生まれていたことになっている」
そう言って何処か遠くを見つめる少年。百目鬼は、その目が見ている先は解らないが、全て見据えているのだろうと今までの付き合いから把握した。
「強いのか」
「邪気の塊みたいなもんだ。お前には、妖怪もそれも相性が良くはある。それを力任せに押し返しちまえるほどのだがな………まあ関わるべきじゃねえよ」
「そうか………」
「小羽ちゃんに、これ渡しとけ」
そう言って、木で出来た腕輪を渡す。
「………祓具か」
「んな大層なもんじゃないさ。ただ、邪気や低級な妖怪、アヤカシから身を護るぐらいは出来る」
「わかった」
「それと、明日夕方また来い」
「珍しいな」
「客が来るからな。俺に出来ないこともないが、お前がやったほうが簡単に済むし、その方が対価も少なくて済む」
見えてる世界が全てじゃない。見えない世界もあるんだ。
カタカタカタ
カタカタカタ
そんな音が、ずっと聞こえる。人の気配はない。
日が沈もうと姿を隠し始め、世界が赤く染まっまた
『誰そ彼』時。夜と昼の中間。嘗ての人々が、人と人ならざる者達の支配する時間の境界として定めた時間。
その黄昏時を、少女は音から逃げるように一人で走る。姿は見えない。だけど、何かがいるという確信がある。
逃げるために、走る。家だ。家に帰って、両親に………!
「………え?」
と、不意に妙な建物を見つける。三日月をもした飾りのある門。背の高い塀に囲まれた和風とも洋風とも取れる屋敷。こんな屋敷、家の近くにあっただろうか?
「え、あ………あれ!?」
と、足が勝手に屋敷に向って進む。
引き寄せられる。己の意思とは無関係に。
「っ!!」
慌ててスマホを取り出し、ネコ娘にメッセージを送る。
「あっ!」
が、歩きながらないじっていれば、うっかり落としてしまった。『たすけて』とは送れた。だけど、返信が来る前に建物の扉を開けてしまう。
「「いらっしゃいませ♡」」
「え……?」
どんな恐ろしい事が待っているかと思えば、出迎えたのは可愛らしい二人の少女。悪魔を模した服のツインテールの少女と天使を模した服のセミロングの少女。
そのまま少女の腕を掴む。
「ワタヌキにお客様っ♡」
「ワタヌキにお客様っ♡」
「え、あ……ま、待って! その、客じゃなくて足が勝手に………!」
グイグイ引っ張られ、慌てて弁明する少女。しかし二人の少女は止まらず少女を部屋まで案内する。
「やあ、いらっしゃい」
「ふにゃ?」
開けた部屋の奥に、大きな椅子があった。その上に座る女物の着物を着込んでいるメガネをかけた少年は膝の上に上体を寝転ばせている少女の首の裏や顎下を撫でており、少女はふとやってきた少女に目を向ける。
「あー! 犬山まな!」
「し、知ってるんですか、私の名前……」
「知ってる。鬼太郎の所のニャニャニャと仲がいいんでしょ?」
「ニャニャニャ………って、もしかしてネコ姉さんの知り合い!?」
「友達!」
と、元気良く笑う少女。知り合いの友人だと聞き、少女の警戒心が薄れる。それを感じ取ったのか少年が目を細め少女の喉や顎を再び撫でてやる。
「ありがとう猫娘。余計な話をせずに済みそうだ」
「ふにゃ〜ん!」
ゴロゴロと喉を鳴らし少年に身体をこすりつける猫娘と呼ばれた少女。
「てっ、猫娘!?」
「にゃ?」
呼ばれたその名に目を見開く。猫娘はそんなまなの反応に首を傾げる。
「種族が似てれば名前も似るぐらいはあるよ」
「種族が、似る? 同じじゃ、ないの?」
「あの子は妖怪。あたしは統べる者。あたし自身はどっちが格上とか気にしないけど、まあ似て非なるものよ」
「似て非なる………?」
「まあ、雨童女ならともかくこの子の前ではあまり気にしなくていいよ」
「お客も来たし、あたしは帰るね。またね、店主代理」
そう言うと猫娘は少年の膝から降り、部屋の外に出ていった。
「さて、それじゃあ君の願いを聞こうか」
「ね、願い?」
「ここはそういう『ミセ』。願いを聞き、対価を貰い、叶える『ミセ』」
「で、でも私願い事なんて………」
「あるだろう? あれから、助けてほしいって………」
「………え?」
ドン!
と、大きな音が外から響く。ガタガタガラガラと耳を劈くような嫌な音も聞こえてきた。
「こ、これ………やっぱり、妖怪の仕業なんですか!?」
「そうだね。よほど君にご執心らしい………」
店主が立ち上がり、移動する。取り残されるのが不安でついていくマナ。何枚かの襖を開け、最後のふすまを開けると庭が見えた。その奥の塀。その、向こう側。
「ひっ!!」
巨大な骸骨がそこにいた。ガリガリと指の骨とは思えぬ鋭い指先で空を引っ掻いている。
「餓者髑髏か。また厄介なのに目をつけられたものだ。しかも封印解けたて………」
「も、もしかして。石碑を倒した、から?」
「それだろうね。君と縁が結ばれ、君を狙った。それで、どうする?」
「え………」
「君は誰かに助けて欲しいと願いミセを訪れた。俺はそれを叶える事が出来る。まあ、助けを待つのも手だけど」
ドンドンと空を叩く餓者髑髏。瞳はないが、空虚な眼孔の奥の赤い光がマナを見据える。
「た、倒せるんですか?」
「まあね。俺だと、少し手間がかかるから、別の奴にやらせるけど」
「だったら偉そうにするなよ」
と、部屋の奥から青年が現れる。まなや店主よりも年上の男性。目つきが鋭い男はギロリと餓者髑髏を睨む。
「それで、どうする?」
「た、対価は払います。だから助けてください!」
「じゃあ、そうだな。その髪飾り、百目鬼……そいつに渡してくれ」
「俺か?」
「助けるのはお前だからな。力も縁もある血の持ち主の持ち物だ。少し加工すれば、あの腕輪よりもよほど上等な護符になる」
「え、えっと………」
マナは困惑しながらも髪をまとめていた札を百目鬼と呼ばれた青年に渡す。
「あっちも焦れてきたみたいだな」
ドンドンと空を叩く巨大な骨。百目鬼は、左手を餓者髑髏に向けると、人差し指につけた木の指輪が溶けるように形を変え弓が現れる。キリキリ弦を引き開放すればパアンと澄んだ音が響き、餓者髑髏の頭に穴が飽き、ひび割れ砕ける。
「─────!!」
「っ!?」
この世のものとは思えぬ悲鳴を上げながら、崩れていく餓者髑髏。それでもなお拳を振り上げ、見えない何かに触れる前に空いた穴に吸い込まれるように消えていく。2つの光が空へ飛んだかと思うと同じ方向に向かって物凄い速度で飛んでいった。
「倒せたのか?」
「ああ」
「簡単だな」
「弱ってたってのもあるが、
「違うのか?」
「違うね。肉体を滅ぼすのが退治屋なら、魂を送るのが祓い屋。あれは成仏できなかった者達が寄り集まり、他の誰かを巻き込もうとするのが形を取ったものだ。だってのに、一度妖怪になっちまった魂を送ってやる術がこっちはねえ。その魂が自分の意志で未練を断ち切ったなら別だがなあ」
ふぅ、と煙を吐きながら呟く少年。その煙が餓者髑髏の居た所まで伸びるとクルクル渦を巻く。その渦が少年の手に戻ってきた。
「それは?」
「取り込まれ、戻れなかった者達から送ってくれた礼だとよ。こっちは、迷惑かけた君へ」
と、白い欠片を2つ握る。
「削れて消えてなくなるまで、良くないものから君を守ってくれる。持ってるといい」
「え、で……でも………」
「受け取ってやってくれ。それが、彼等への供養になる」
「……………」
その瞳に込められた強い意志に、マナは欠片を受け取る。
「入れるための袋を用意してあげよう。ついでに、ご飯も食べていくといい」
「え、でも……」
「親御さんからの許可は取ってある。一先ず、鏡の向こうのお客さんを説得するまで帰らないほうがいい」
「か、鏡?」
「拭いたろう? 大きな三面鏡………それも、妖怪が関わってる物だから」
「え、それって………ま、まだ妖怪に狙われるってことですか?」
「ああ……」
先程の餓者髑髏を思い出し、ぞっと見を震わせる。
「なんだ客に料理を振る舞うのか! じゃあ豪華だな! 酒も用意しろ〜!」
「わっ! な、なにこれ、可愛い!」
と、少年の言葉に反応するようにウサギのような謎の黒い生物が現れた。
「そいつはモコナだよ。妖怪でもアヤカシでもない。まあ害はないから安心してくれ。それとモコナ、子供がいるんだ。酒は出さねえ」
「ええ〜!?」
「別に問題ないだろう」
「未成年で酒飲んでたお前の価値観で応えんな。その子が寝たら出してやるよ。支度手伝え」
「うひょーい! すぐに準備するぞ四月一日〜!」
と、モコナと呼ばれた生物は屋敷の奥へと消えていった。
「ワタ、ヌキ? ………あ!」
──ワタヌキにお客様っ♡
──ワタヌキにお客様っ♡
と、入り口の少女達の言葉を思い出す。
「そういえば、自己紹介がまだだったね。俺は四月一日君尋、願いを叶える『ミセ』の店主代理をしている」
少年は、四月一日君尋はそう言って何処か影のある笑みを浮かべた。
「それと、良くないものじゃないけどそれなりに強い力を持つ者が入り込んだな。彼女にも食事を振る舞うとしよう」
「え?」
「───まな!」
まなが首を傾げた時、聞き覚えのある声が聞こえた。振り向くと彼女が慕う女性が居た。
「ネコ姉さん!」
「猫?」
「妖猫だな……」
マナからの『たすけて』と言うメッセージを見て駆けつけた彼女の目に映るのは、女物の着物を着た人とは異なる気配を持った男に、弓で武装した目つきの悪い男。冷静さを欠いているネコ娘は、鋭い爪を伸ばす。
「まなから離れなさい!」
「!!」
すぐさま弓の弦を引こうとする百目鬼。その威力を知るまなが顔を青くして百目鬼の前に立ち四月一日がネコ娘に片手を向けた。
「っ!?」
ピタリと空中で動きが止まるネコ娘。指一本動かせず、目だけが四月一日達を睨んでいる。
「ネ、ネコ姉さんまって! 違うの、この人達は助けてくれて!」
「………まな? それは、どういう………」
「………………」
四月一日が指を軽く動かすとネコ娘が地面に落ちる。名前通り猫のような身軽さで着地すると、四月一日達を警戒しながらまなを抱き寄せる。
「はじめまして、ニャニャニャのネコ娘。情報屋の猫娘から話はかねがね」
「………あの子の知り合い?」
「ええ………」
「…………そう。ごめんなさいね、『たすけて』って連絡きてから、返信が無かったから」
「え? あ、そうだ! スマホ!」
と、まながネコ娘にメッセージを送ったあとスマホを落とした事に気づいて叫ぶ。同時にドタドタと廊下の奥から走る音が聞こえてきた。
「はいスマホ」
「はいスマホ」
「あ、ありがとう」
スマホを持ってきくれたマルとモロに礼を言い、礼を言われた二人は四月一日に抱きつく。
「マル、モロ、客が増えた。8人分、食器の用意してくれ」
「「あーーーい♡」」
「8人?」
「君がカラスに連絡した子も、そろそろ来るからね」
四月一日君尋
眼鏡の似合うお兄さん。成長して怪しい色気を会得した
モコナ
兎みたいなマスコット。酒が大好き
マル&モロ
四月一日が大好きな二人の少女。
ドラマCDを聞く限り何方も自分の方が四月一日に可愛がられていると思っている
百目鬼
大学教授の助手。高校生ぐらいの女の子が知り合いにいる
感想待ってます