犬山まなと願いを叶えるミセ 作:店の主
「マル、モロ、運んでてくれ」
「四月一日はどこ行くの?」
「四月一日は何するの?」
「最後の客を迎えに……」
まなに何かあった。その連絡がネコ娘から届き、鬼太郎は大急ぎで現場に向かう。
マナの匂いがするという屋敷に入る、とネコ娘からの最後の連絡を届けたカラスの案内でたどり着いた屋敷、いざ飛び込もうとした瞬間……
「ぐあ!?」
バチン! と弾かれる。何もないハズの空中で、何かにぶつかった。それを見て、目玉おやじが叫ぶ。
「これは、結界か!」
界を結ぶと書いて結界。
空間領域を区切り、外界と内界を断絶させる術。用途も様々で、砂かけ婆などは妖怪が通れぬ結界を張ったり出来る。
「相当強力じゃ………恐らくは砂かけ婆より……」
「それほど強力な妖怪が、まなを閉じ込めたって事ですか?」
「うむ……」
当然、ネコ娘も中にいる。並の妖怪に遅れを取ると思えないが、これ程の結界を張れるとなると並ではない。
「
霊毛ちゃんちゃんこに手を掛けた鬼太郎に、不意にかけられる男の声。見れば門の向こうに一人の男が立っていた。漢服のような、変わった服を着た男は女が好みそうな意匠の紅い煙管を片手に鬼太郎を見据える。
「まなちゃんとネコ娘は中にいるよ。何、とって食いはしないさ。一応助けた側だぜ、俺は」
人間、なのだろうか?
妖怪アンテナに反応はない。無いが、対面しただけで感じる力の圧。何より………
「百余年……そんな期間、人間だったら生きれる筈が………やっぱり、妖怪なのか?」
「ま、人間にも色々居るのさ。幸いこの通り若さは変わらないんでね………昔馴染みに合わせて20代ってことにしてる。秘密だぞ?」
クック、と笑いながら鬼太郎達には良くわからぬ事をいう。昔馴染みなら、その者も百年以上生きているのではないのか?
「俺にとってここはひどくアンバランスな奇跡みたいな瞬間だ。不用意に敵を増やすような真似をする気はないさ………当然、進んで人を傷つけもしない。まなちゃん達も傷付けてない」
「それを信用しろと」
「しなかったら、俺を力づくで排除してみるかい? 普段は店の店主だが、真似事とはいえ術を嗜む相手に領域で手を出すには相応の覚悟が必要だ」
「これだけの結界を張り、不老を手にし、真似事じゃと?」
「本業にしてないなら、真似事と一緒でしょう」
目玉おやじには敬語で接した。鬼太郎は子供、目玉おやじは年上と認識しているのだろうか。
「それに、不老に関しては術で手にした訳ではないので」
「むう………」
「それで、どうする鬼太郎? 上がってくか? 俺としては、お前の噂を聞いてから、色々と話したいこともあるんだが」
「…………本当に、ネコ娘達は無事なんだな?」
「おう」
「………解った、行こう。良いですか、父さん?」
付いてくる気になった鬼太郎を案内する為に背を向ける。
「ああ、そういや自己紹介がまだだったな。俺は四月一日君尋。願いを叶えるミセの、主人をやってる」
男、四月一日はそう言って歩き出す。
「ふわぁ〜。美味しそう……ま、まだ食べちゃ駄目ですか?」
「四月一日が戻って来るまで食べちゃ駄目〜!」
「四月一日が戻って来たら食べていいよ〜!」
目の前に並ぶ美味しそうなご飯。夕飯前、妖怪から逃げる為に走り、退治されればなんだか緊張も解けてお腹が減ってきた上にこれだ。早く食べたいが息ぴったりな二人の少女が止める。双子だろうが?
「冷めちまうから食えばいいだろ」
「あー! また百目鬼勝手に食べてる!」
「四月一日に怒られる!」
「「四月一日が怒る! 四月一日が怒る!」」
静止を無視して食べ始める百目鬼。そんな百目鬼にマルとモロはきゃっきゃッと笑う。
「別に怒らねえよ。どうせ、叱ったところで死ぬまで直らんしな」
と、襖を開け四月一日が戻ってきた。煙管から紫煙を立ち上らせ、ドカリと座る。
「…………ま、最後の客も来た。口に会うといいけど」
最後の客と聞きネコ娘達が首を傾げていると廊下から新たな影が現れる。
「ネコ娘、まな……二人共、無事か?」
「あ、鬼太郎!」
「鬼太郎……」
入って来たのは鬼太郎だ。無事な二人の姿を見て、胸を撫で下ろす。
「あ、ごめんなさい。連絡忘れてた……もう大丈夫よ」
「えっと、四月一日さんと百目鬼さんが助けてくれたから」
「話はしながらでいいから、飯をくいな。冷めちまう」
「あ、はい…………わ、美味しい!」
と、一口食べて目を輝かせるまな。そんなに驚くほどか、とネコ娘も口に含み、目を見開く。
「ほう! 確かに、こりゃうまい」
「目玉が喋ってる!?」
「喋ってるー!?」
目玉おやじも口(?)にした料理に目(顔)を輝かせ、今気づいたのかマルとモロは目を見開く。確かに目玉に体や手足が生えて動き回るなど珍妙な光景だ。
「本来なら霊毛になってそのちゃんちゃんこの一部になる宿命だろうに………生前は随分と力を持った幽霊族だったんでしょうね」
「ほう、君は幽霊族を知っておるのか」
「まあ、この店はそちら側に近いので色々情報が入ってくるんですよ」
幽霊族。現生人類が誕生する前に存在した、旧人類。魂さえ無事ならいずれ肉体が復活する妖怪とは異なり死後は霊毛と呼ばれる一本の髪の毛を残し消滅する妖怪と部類していいのか些か判断に迷う種族。
「その霊毛を数本いただければ、俺に叶えられる範囲の願いなら何でも叶えられますね」
「何でも?」
「叶えられる範囲なら、何でも」
「な、なんでも……?」
「四月一日が出来るって言ったことは♡」
「出来るの♡」
ぎゅ、と四月一日に抱きつきクスクス微笑むマルとモロ。四月一日は二人の頭を撫でてやる。顔立ちの整った怪しい気配を持つ男が浮き世離れした美少女と密着する姿は、なんとも言えぬ妖艶さを醸し出す。
「それが、今回はまなを助けることに繋がったと?」
「そうなるな」
「も、もし助けを求めなかったら?」
「求められない以上取引ではないから、俺の気分次第だったろうな。それなら、間違いなく俺が俺の為にやることだ」
「「四月一日……」」
と、その言葉にマルとモロが心配そうに四月一日を見つめる。百目鬼も食事の手を止め三白眼で四月一日を見据える。空気が変わった事に気付き、鬼太郎達は戸惑いながら4人を見る。
「大丈夫だぞ。実際それで、四月一日は何人か助けてる。ま、流石に願いをした後にその言い訳は通じなかったけどな」
「ま、もし対価が必要そうだったらきちんと貰うさ。だから安心してくれ………お前もな」
「………解った」
モコナの言葉に百目鬼はそう言うと食事に戻る。四月一日はまだ心配そうに見つめているマルとモロの頬にキスをしてやる。
「マルが先だった♪」
「朝はモロが先だったもん」
「昨日の朝はマルが先だった」
「その前はモロが先〜」
「食事中にじゃれるな………」
キャッキャッと楽しそうにじゃれるマルとモロに仕方ないと言うように微笑む四月一日。
「そういや鬼太郎、妖怪ポストに依頼があればお前は対価を貰わず人を助けるんだったな……」
「全てではないけどね」
「お前に言いたいことはそれだ………それ、やめておけ」
「……………何だって?」
鬼太郎が人を助けるのは、昔世話になった人間との約束。それを否定され、眉根を寄せる鬼太郎に四月一日は違う違う、と笑う。
「人を助けるなとは言わねえよ。寧ろ、俺も人だからな。人ならざる者達の方にこそ顔見知りは多いが、人寄りだ。ただ、力を貸すなら、相応の見返りがなくちゃならない」
スッと目を細め鬼太郎を見据える四月一日。全てを見透かすかのような2色の瞳に鬼太郎が思わず背筋を伸ばす。
「力を貸して、助けを与えたなら、対価を貰わなくてはならない。少ない対価で与えすぎるのも、多くの対価で少しの働きも駄目。過不足なく、対等に、均等に……君の近くにもいるだろう? 少ない対価を払い多くの利を得ようとして、毎度毎度傷を負う者が」
「彼奴のこと? でも、鬼太郎とは……」
「同じさ。受け取らないのは、渡さないのと同じくキズがつく」
「き、傷って……何に?」
まながおそるおそる尋ねると、四月一日は答えを返してくれた。
「現世の軀に、星世の運に、天世の魂に……傷は広がる。軀だけならともかく、運や魂はお前の周りにも広がるし………軀の傷も、周りの心を傷つける」
百目鬼は黙って味噌汁を吸い、マルとモロは抱きつく力を少し強め、モコナは黙り込む。
「さて、食事も終わったしまなちゃんをつけてるもう一人の妖怪にも話をつけるか………マル、モロ、鏡持ってきてくれ。なるべく大きい。割れたら大変だからゆっくりで良いぞ」
「「はーい」」
食器も片付け終え、四月一日がマルとモロに頼むと元気良く走り去っていく二人。まなははっ、と思い出し鬼太郎とネコ娘は首を傾げる。
「もう一人の妖怪?」
「餓者髑髏の他に、まなちゃんをつけてた妖怪だよ………」
「なんか、私が鏡吹いたらついてきたみたいで………」
「鏡じゃと? それは、まさか………」
「ええ、鏡の向こうに住まう妖怪……鏡を通し、こちらを除く………名を、鏡爺」
感想待ってます