極道寺くんは、なんとかさせたい。   作:アニアス

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1話 極道寺くんは幼なじみをなんとかさせたい

4月

花開く桜の木が並んでいる街並み。

スーツを着こなし出勤するサラリーマン、母親に手を引かれてウキウキしながら学校へ向かう小学生、散歩をしているお年寄りなどが歩いている中、一際存在感を放っている男子高校生がいた。

 

ガタイのいい体格にウルフマッシュの金髪。

赤み掛かった目付きが少々悪そうに見え、右耳にはシルバーの十字架のピアスがぶら下がっているだけでなく制服も着崩しており、如何にも不良っぽい見た目をしていた。

 

周りの人たちはヒソヒソと何かを小声で話ながらその高校生から距離を取っている。

しかしその高校生は普段から慣れているのか周囲の視線など全く気にせず、これから入学する高校へと向かいながら呟いてしまう。

 

「まさか俺みたいなもんが、伊旦に通うことになとはなぁ…」

 

これから彼が向かう高校『私立伊旦高校』は県内でも指折りの進学校。

しかし全国から見たら不良高校並みに異質で入学条件が変人やはぐれ者、異端者といった曲者であるということ。

そのため、伊旦高校には個性の強い面子が集まっているのである。

 

「ま、俺としてはどうでもいいけどよ」

 

しかし彼は他とは違うという自覚があるのか伊旦高校に入れたことに疑問など持っておらず淡々とした態度だった。

 

彼の名前は『極道寺 流《ごくどうじ ながれ》』

街のヤクザ『極道寺組』の長男。

ヤクザとはいえ暴力や裏家業には手を出しておらず、喫茶店や建設業などの家業で資金を得ている。

流は小学校まで普通に振る舞っていたが、中学校へ上がるとそこの番長に絡まれたことをきっかけに喧嘩に明け暮れる日々を送ってしまった。

しかし高校生になってからは不良をキッパリ卒業することを決めており、二度と喧嘩をしないことを誓っているのである。

 

そうこうしているウチに流は伊旦高校へと到着した。

校門を抜けると、伊旦高校の上級生たちが部活動の勧誘を行っていた。

流石は進学校ということもあり部活動もそれなりに多いなと思いながら周りを見渡しつつある人を探し始める。

 

「…いねぇな。"アイツ"もう教室行ったのか?」

 

流には幼稚園からの幼なじみがおり小中学と一緒に登校してきたのだが、今日は流がいつもより寝坊してしまったことでその幼なじみが一足先に登校することになったのだった。

 

しかし周りを見渡しても見つけることができず、流は申し訳なさそうにため息をつきながら校舎へと向かっていくのだった。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

それから時間が経過して伊旦高校の1-1の教室。

新しく入学した生徒たちが席に座りホームルームが進みクラスの自己紹介を行っている中、1人の男子高校生『只野 仁人《ただの ひとひと》』は入学した数十分で意気消沈になっていた。

その原因は彼の隣に座っている如何にも美人な女子高生『古見 硝子《こみ しょうこ》』にあった。

彼女は黒いロングヘアに整った美人顔というマドンナ的ポジションを獲得しており周りからの注目を短時間で集めている。

 

そんな月とスッポンの差がある彼女の隣に座っているというだけで嫉妬の視線を集めているにも拘らず、なんも個性もない自己紹介で呆れられてしまう始末。

そのため只野はもう終わってしまったと悟ったのだった。

 

(どうしてこんなことに……)

 

只野が半ば放心状態になっている中、その左に座っていた人が立ち上がった。

次はこっちかと只野が視線を向けると、それは金髪にピアスといった如何にも怖そうな不良男子だった。

 

(うわぁ、なんかすごく怖そうだな…)

 

人を見た目で判断してはいけないがどうしてもそう思ってしまう只野。

そんなことなどお構いなしにその人は自己紹介を始める。

 

「どうも、極道寺流です。趣味はボウリングにダーツにビリヤード。それから何人か薄々気づいてるかもしれないが、俺は極道寺組の長男だ。けど俺の家の事情とか気にせずに仲良くしてくれたら助かる。何はともあれよろしくな」

 

少し上から目線な部分もあったが流に対してクラスメイトたちは拍手を送ってあげた。

拍手を貰えなかった只野も内心流に謝りながら拍手をしてあげる。

 

(見た目で判断してゴメン。極道寺くん…!)

「あーそれと…」

 

流が座ろうとした時、何かを思い出して言葉を続けようとする。

まだ何か言いそびれたのかと全員が注目する中、流は右の方を振り向いた。

 

「え?」

 

只野は一瞬自分に何か用なのかと思ったが流の視線はその奥に向かれている。

左にいる流は只野よりも奥、つまり右の古見を見ているということ。

どうしたのだろうと只野が戸惑うなか、流が口を開いた。

 

 

 

 

 

「今朝は悪かったな硝子。目覚ましかけ忘れてて寝坊しちまってよ」

 

 

 

『………!!!???』

 

 

 

 

 

古見に話しかけたどころか名前で呼んだため古見以外のクラス全員が目を開いて驚いてしまう。

ただでさえ古見は高嶺の花というポジションであるというのに馴れ馴れしく名前で呼んだ流に憎悪や嫉妬の視線が集まっていく。

 

そんな中、只野は恐る恐る流に話しかけた。

 

「あ、あの~極道寺くん?古見さんとはどういう…?」

 

そんな只野の質問に対して流は淡々と答えた。

 

 

 

「どうって…普通の幼なじみだが?」

 

 

『………うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??』

 

 

 

クラスのマドンナ古見硝子とヤクザの息子極道寺流が幼なじみという関係にクラス中から地獄のような阿鼻叫喚の叫び声が響き渡ったのだった。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

入学式を終えて簡単な説明も終わり午後からは下校時間となった。

しかし1-1は誰も帰ろうとせず古見に話す機会を伺っていた。

ここで話しておけば後々友好的になれるのだが中々その勇気が出せずにいる。

 

全員が躊躇っている中、1人の男子が声をかけた。

 

「硝子。一緒に帰らないか?」

 

そう、幼なじみの流だった。

 

全員は流に対して憎悪の視線を向けるが、古見の幼なじみということでもし手を出してしまえば古見に嫌われてしまう可能性がある。

故に全員が歯ぎしりをしている中、古見が立ち上がり流の方を見る。

 

「……………」

 

古見は何も言わずにジーッと見ていると、流が口を開く。

 

「え?本屋に行きたい?参考書でも買うのか?」

「………」

「あーそういうことか…いいぜ。俺もちょうど漫画買いたかったから都合がいいしよ」

「………」

「気にすんなよ。んじゃあ行くか」

 

一向に喋らない無口な古見と共に流は教室を出ていった。

 

それを見たクラス全員はこう思った。

 

(((なんで古見さんの言ってることが分かるんだ!!??)))

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

その後、本屋へ行った流と古見は目的の本を買って並んで歩いている。

小中学校といつも一緒に登下校している仲でもあり、いつものように話している。

 

「流石は天下の伊旦。噂通り曲者揃いだったな。つーか普通に忍者いたし。なんだよ忍者って、頭イカれてるだろ」

「………」

「あー悪かった悪かった。確かに少し言いすぎた」

「………」

 

端から見たら流が一方的に喋っているようにしか見えないがこれは2人なりのコミュニケーションの1つ。

長い付き合いだからこそできる会話なのである。

 

そんな中、流は古見にあることを聞いた。

 

「…なぁ硝子。今の感じだとどうだ?直りそうか?」

「………」

「そうか、流石にまだ無理か…」

 

実は古見には幼い頃からある悩みがあった。

 

それは人と話すことが苦手ということ。

人付き合いが非常に苦手で家族以外ではマトモに話すことができない。

そのため小中学校の友達も流しかいなかったのである。

 

流も初めて会った時は戸惑ったものの今では古見の顔を見ただけでエスパー並みに言いたいことを理解できるようになったが、古見のコミュニケーション下手までは直せず今に至っている。

 

だから今度の高校生活で古見をなんとかしたいと思っていたのだった。

 

しばらく歩いていると、いきなり古見が立ち止まり流の方を見た。

 

「硝子…?」

「………」(すみません流くん。高校生になっても流くんに迷惑をかけてしまうことになって)

 

どうやら古見は自分が情けないことを自覚しているようで流に謝ってきた。

自力で直すべき問題なのだが一向に直せず、幼なじみに頼りがちになってしまっていることに不甲斐なさを感じているのである。

 

そんな古見を見て流は深くため息をついてしまう。

 

「今さら何言ってんだよ。別に迷惑だなんて思ってねぇよ」

「………」(でも)

「硝子」

「!」

 

落ち込んでいる古見の頭を軽くチョップすると流は続ける。

 

「俺たち友達だろ?友達は頼って頼られたりするもんなんだ。だから硝子のことなんざ煙たがってねぇんだよ」

 

流がもし古見のことを迷惑と思っていたらこうして話してもいないし、寧ろ遠ざけようとする。

それなのに古見と関わるのは、古見が大切な友達だからである。

だからこそ流は、友達として古見のコミュ症を直そうとしているのである。

 

「………」(ありがとうございます流くん)

 

それを聞いた古見は自然にうっすらと笑うのだった。

 

「あ、それじゃあ今度ウチ来るか?近々姉さんがこっち戻って来るんだけど」

「………」(ちょっと遠慮しておきます)

「そう言うなって。姉さん硝子と笑助くんが好きなんだからよ」

「………」(それは分かりますけど、お姉さんは苦手です…)

 

そしてそのままいつも通りの会話をしながら流と古見は下校していくのだった。

 

しかしこの時、流も古見もまだ知らなかった。

この高校生活が2人にとって人生最大の分岐点であるということに………

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