「…お前、正装なんて持ってんの?」
『へ?ひははくない?はんで?』
「何食ってんの?」
その日の夜、小町の美味しい夕食を食べ終え、さて課題でもやろうかと思っていたその時ほとんど無用の長物と化していた携帯電話が鳴った。久しぶりすぎてなんの音だこれと一瞬焦った。
電話の着信音だと気付いて2度焦った。
我ながら哀れである。
『んぐ…いやごめん、私、和菓子屋でバイトやってるんだよね。だから大福食べてた』
「多分お前『だから』の使い方間違ってるぞ。てか和菓子屋でバイトしててよくそこまで強かに育つな」
まぁ雑草のつくしですから、と自慢げな牧野。その様子を思い浮かべると少し腹が立った。
強かすぎる。
和菓子屋で一体何を学んでいるんだ。
「んでなんて言ったんだよ」
『はむっ。…ん?あぁ…正装なんてどうして必要なの?って聞いたの』
「なんでってそりゃ…金持ちのパーティーなんだから」
『あー…あっでもここに「軽装でお越しください」って書いてるけど』
「あぁ、確かに軽装って書いてるな。だが考えてみろ。牧野はこの学園のボンボン共がジーパンやパーカーを着てくると思うのか」
『うっ…』
電話越しにグゥの音も出ない、という表情をしたのが見えた。
恐らく彼ら彼女らはとんでもない金額のするドレスやスーツを着てくるのだろう。そしてなんでもないような顔で『これは安物で〜』談義に花を咲かせるのだ。
加えて、この招待状。可能性があるとすれば花沢なのだが、だったら直接呼べよという話になるので恐らく違うはずだ。なら次の可能性として、貧乏人の牧野に嫌悪感を抱いている女子による悪戯が考えられる。『安物』談義と共に牧野を馬鹿にしようという算段なのだろう。割とありそうなので今気付けておいて良かった。
…良かった?
何が?
まぁこの学園でなくとも、軽装と言われれば基本的に『それなりに礼儀正しい』服のことを指す。決して文面を鵜呑みにしては行けない。社会の鉄則だ。知らなければ恥ずかしい目に遭うぞ。
まぁかく言う俺も正装なんて安物のスーツくらいしか持ち合わせていない。俺からするとスーツに違いなど見出せないのだがあれくらいの金持ちになると見ただけで分かったりするのだろうか。だとすれば少々心配ではあるが…。
「まぁどうにかして用意しとけよ。確か来週だろ」
そう言って俺は壁に貼られたカレンダーを確認する。本日は金曜日で、パーティーは日曜日らしい。もっと早く招待すればいいのに———いや、それも含めて悪戯なら逆にすげぇな。どうやら向こうには相当な策士がいるようだ。
…雪ノ下?
なわけねぇか。
「じゃ切るぞ」
『あちょっと待って!』
特に用件も無くなったため早急に電話を切ろうとしたのだが、引き止められた。数秒迷ったのち無視するわけにもいかないと思い返し面倒くさそうに「なんだよ」と返した。
『何今の間。絶対無視しようとしてたでしょ。…それでさ、その、あんまりファッションセンスとか無いから土曜日、一緒に服屋に来てくれないかなぁって」
「悪いがその日は忙しいんだ」
『じゃあ十時集合ね』
「人の話聞けよ」
怖いよ、お前。
『え?いやだってアンタの言う用事ってダラダラ過ごすことでしょ?』
「…っ!まぁそうだけど。それを置いておいたとしてもだ。俺にファッションの意見を聞こうとか考える方が間違ってるぞ。ほとんど外出なんてしないしいざするとなっても基本Tシャツかパーカーだし最悪捕まらなければいいと思ってるくらいだ」
『どんな人生を送ったらその領域にたどり着くの?』
「うっせぇな。ほっとけ」
桜なんとかさんに頼めばいいだろ、と俺は提案する。否定するなら代案を。ディベートの基本だ。
『いやぁ桜子はなんかもう用事あるみたいで…』
くそっ、もう根回し済みだったか…。
『ね?お願い!』
「…行くのはいいが俺にアドバイスは期待すんなよ」
ついにあざとさで勝負に出た牧野に根負けした俺はOKを出した。電話の向こうから「よっしゃああああ!」と聞こえるのは聞こえなかったことにしよう、うん。
『じゃあ明日十時に恵比寿ガーデンプレイス 時計広場集合ね!』
「今のよく噛まずに言えた…っておい。…切れた」
面倒臭ぇ。そう思いつつ久しぶりの(初めての?)友人との休日に少しワクワクしている自分がいることには気づかないふりをする事にした。
恵比寿ガーデンプレイス 時計広場。
「…えびしゅ」
……課題やるか。
まさかのいじめ回避ルートか!いやこれパーティで静さんと話す口実無くなるじゃんとお思いの皆様、ご安心ください。何も考えていませんがきっと大丈夫です。
次回、デート(?)回です。感想・評価などお願いします。
松潤繋がりということで99.9の深山大翔を出そうと考えているのですがどうでしょうか
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