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俺は優しい女の子は嫌いだ。
ほんの一言挨拶を交わせば気になるし、メールが行き交えば心がザワつく。
電話なんか掛かってきた日には着信履歴を見てつい頬が緩む。
だが知っている、それが優しさだという事を。
俺に優しい人間は他の人にも優しくて、その事をつい忘れてしまいそうになる。
真実は残酷だというのなら、きっと嘘は優しいのだろう。
だから優しさは嘘だ。
いつだって期待して、いつも勘違いして、いつからか希望を持つのはやめた。
訓練されたぼっちは二度も同じ手に引っ掛かったりしない。
百戦錬磨の強者。
負ける事に関しては俺が最強。
だからいつまでも、優しい女の子は嫌いだ。
そんでもって。
俺はそれとは全く関係なしに、牧野つくしのことが苦手だった。
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「だ、だ、だ、だ、誰よあんた。それにあんたも!」
あの叫びを聞かれてしまったからだろうか。彼女は声を震わせながら尋ねた。…いや、叫んでる時点で学校中に響き渡ってると思うんですが。まぁそれを言うと泣き出しそうで怖いのでやめておく。俺は常識があるぼっちなのだ。
「…名乗って欲しけりゃ先に名乗るのが礼儀だろ」
「えっ何あんためんどくさ…」
うるせぇな。確かにこれ実際に使ってる奴なんて見たことないし何なら俺だって初めて使ったわ。そんで俺も面倒だと思う。
「私は牧野つくし」
「ふぅん」
「いい名前じゃん」
俺がどうでも良さげな返事をしたのに対して花沢はいかにも「モテる男子」といった感じのセリフを吐いた。ほら見ろ。牧野さんがメスの顔になってる。顔真っ赤になってるって。おいやめろ花沢。不用意に顔を近づけるな。
「で、でででで!アンタの名前はなんなのよ!」
何とか仕切り直そうとする牧野さん。可愛いと思わないこともない。というか普通に可愛いのだが性格がちょっと苦手だ。もちろん俺が優しい女の子が絵嫌いな理由とは別で、なんというか…申し訳ないがクラスの陽キャとはまた違ったウザさ面倒臭さがある。
「あー…えっと比企谷でしゅ」
「でしゅ?」
「です」
「ははっ…面白いでしょ、この人」
で僕は花沢類ね、と自己紹介も済ませつつ笑う花沢。何が面白いんだよ。その『面白い』には明らかに嘲笑的な意味がこもっている気がするんだけど。
俺は髪を掻きつつ「つーか」と仕切り直す。「さっきの何?」
「そう!それ!」
えぇ…予想していた返答とは違った回答が来たんだけど。
何、今の「よくぞ聞いてくれた!」みたいな表情と言葉は。それが気のせいでないとすればお前は正真正銘の変態だぞ。
「あのさぁ」牧野さんは続ける。「道明寺って知ってる?」
「「あ」」
俺と花沢は寸分狂わぬタイミングで声を漏らした。
あいつ因縁つけすぎだろ。
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「ほう…つまり要約すると『道明寺に突っ掛かったら赤札貼られて学園中にお前の悪口を落書きされた』、と?」
「そういうこと」
「命知らずすぎるだろ、お前…」
「まぁ流石に殴ることはなかったかなぁって」
「「殴ったの!?」」
再び花沢とシンクロした。別に運命なんてもんは感じない。ていうかそんなことよりもこの女子が道明寺を殴ったということのほうが衝撃的すぎる。まさか、そこまでの事態とは…何があったのかは知らんが流石に命知らずすぎないか?尊敬するレベルだぞそれ。んであとは、そうだな…あぁ、それに落書きというのも気になる。いつも他人と関わらないように玄関から入らないし気が付かなかったが…。牧野さんの話を聞く限りかなり外道な内容っぽいので俺にしては珍しく同情した。
「…道明寺、司」俺は特に意味もなくその名前を口に出す。そしてはぁ、と深いため息をはく。
まぁ何はともあれ俺から言えることはひとつだ。
「お前バカだな」
そう言った瞬間、牧野さんは顔を赤くして口をパクパクさせ始めた。え、まじ?そんなに怒るのは想定外だった。
「はぁぁぁあ!?何よ!アンタには言われたくないわ!」
「初対面で何を知ってんだよ。実は俺のストーカーだったりする?」
「何が悲しくてアンタのストーカーなんてしなきゃなんないのよ」
「だからしてねぇから何も知らねぇんだろうが」
「仲良いね2人とも」
「良くねぇ」「良くないわ」
「「ハモんな!」」
今度は牧野さんとシンクロしてしまった。一般の男子高校生ならならそこに運命性を感じてしまうところだろうが俺は違う。それは偶然だということは把握しているし、よくある話だ。ちょっとハモっただけで『相性いいんじゃね!?』なんて思わない。…ていうかそれ以前に彼女の性格を目の当たりにして、もうこの時点で恋愛感情はゼロに等しかった。むしろマイナスかもしれない。
そして恐らく、相手も同じことを考えている。
悲しいことに。
「…じゃあ俺戻るから」
「帰っちゃうの?」
と、花沢の名残惜しそうな声を背にして俺は立ち去ろうとする。だが「あ、ちょっと待って!」という牧野さんの声でもう一度振り返ることになった。
「あのさぁ、2人とも電話番号交換しない?この学校で話通じる人、少なくて…」
あぁ、なるほど。そういう用件か。
先程の話によると、どうやら彼女も俺と同じように途中から英徳学園に入学したらしい(初め、彼女にそれが原因かもしれない)。そしてそれ故に友人もできておらず、そのうえ赤札も貼られたとなるとかなり孤立しているのだろう。まぁ俺から言わせてみればだから何だって感じだが…普通の人間にはあまりにも苦痛な話だ。それは分かる。ここに至るまで、俺もそうだったから。
だから、ここで断れる筈がなかった。
「ほらよ」俺はポケットから携帯を取り出して牧野さんへ投げる。
それをわっとっと、となんとかキャッチする。良かった。ノリで投げてみたが万が一落ちたらどうしようかと冷や冷やしてしまった。
「…えっと?」
「いや俺交換の方法知らんから」
「あっそう…なんかごめんね?」
謝られた。その反応が一番俺を傷つけていることに気がつけ。
そして牧野さん自身もあまり慣れていないであろう手つきで俺と自分の携帯を操作する。そして完了すると「ありがと」と言って俺にパスしてきた。あぶねぇな。携帯を投げる馬鹿がどこにいるんだよ。
「花沢類は持ってないの?」と牧野さん。フルネーム呼びって…。
「ごめん、今は持ってない」
「携帯しようよ、携帯電話なんだから」
「でも無くしたら困るだろ」と花沢は当たり前のような顔で返した。いや分からんでもないけど。
「うーん…?」
納得したような、納得してないような声を出す牧野さ———いやもう牧野でいいか面倒臭い。ちなみに俺はこういうことを言う花沢に対しては特に何も感じなくなっていた。マイペース。時折俺をイラつかせるときもあるものの、それは彼の魅力だと割り切って考えるようにしている。でなければ花沢と共にいることなんて不可能だ。
「おっけー、じゃあまた今度よろしく」と牧野。
「うん、分かった。…あぁそういえば、僕の番号なら比企谷くんに聞けばいいよ。持ってるから」と花沢。
「えっ!?あ、2人知り合いなの!?」と今更の反応を見せる牧野。
「まぁな。じゃああとでメールしとくわ」
「あ、ありがと〜」と笑う牧野。不覚にもドキリとしてしまう。いや、そりゃ反則だろ…。顔がいいだけに性格が本当にもったいないなぁ…というのは頭の中だけに留めておく。
まぁ何はともあれだ。
こうして、ようやく俺たちは解散できたのだ。本当に息苦しい時間だった———俺は電話帳に唯一載っている家族以外の女性のアドレスを見ながら再びため息を吐いたのだった。
どうなる、俺のぼっちライフ。
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松潤繋がりということで99.9の深山大翔を出そうと考えているのですがどうでしょうか
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