世話焼きギャルとの物語(仮) 作:こってりラーメン
今まで経験がなかった今井さんとの日直や振られた翌日に告白するなど散々なイベントを終えようやく迎えた安息の土曜日。要するに週末で週明けの月曜日まで今井さんとは関わらなくて済む、ということだ。数日しかないが、とりあえず心の安定を図るには十分だろう。
いや、そんなわけないじゃん。今も絶賛へこみ中だわ。おかげで12時間も寝ちまったじゃねーか。まあ休みの日はいつもそんな感じなんだけど。
時計の短針がそろそろ1を指そうという頃、俺は未だ離れ難い欲求を抱く自身の愛するベッドから抜け出し太陽にその身を晒す。
てかこれ眩しいわ。寝起きにやるもんじゃないわ。なんか起き抜けに太陽の光を浴びると良いみたいな記事読んだけど失明しかけたわ。今後やる時は気をつけよう。
太陽光により未だぼやける視界で自室の扉を開き廊下へと出る。そして階段を降り1階の洗面所へと向かう。その鏡に映るのは眠そうな面持ちの少年。俗にいうイケメンというわけでもなく、かといって不細工というわけでもない、いわゆる普通の少年だ。
しかしこの顔を見てると今井さんに振られたのも実はこの何の変哲もない顔だからで自分とは釣り合わないとか思ったからなのかも、とか余計なことを考えてしまう。
いやいや、今井さんはそんな人じゃない。きっと本当に恋路よりも優先するべきことがあったに違いない。実際彼女は『Roselia』という5人組のガールズバンドに加入しているし。うん、きっとそういうことだ。そうに違いない。
そうやって自分に言い聞かせながら歯磨きと洗顔を終え、昼食を摂るべくリビングに入る。そこには誰の姿もなく閑散としていた。
父さんも母さんも仕事か。土曜日だってのにご苦労なこった。
一般的には両親が仕事をしてくれているからお前は生活できているんだろう、なんて言われるんだろうが俺がまだ精神的に幼いからかあまりその話にはピンとこない。もっと俺が大人になればいつか両親の有難みがわかる日がくるのだろうか。
まあ、いずれにせよ未来の俺が考えるべきことで、感じるべきことで、気づくべきことだ、なんて両親への感謝という子どもの命題をいつかの俺へと丸投げする。
今の俺はとりあえず腹ごしらえだな。何か食べるものは・・・っと。
寝起きから何も口にしていないため空腹感が酷い。とにかく食べるものを、と冷蔵庫を開くが中に入っているのは飲み物や調味料といったもののみ。冷凍庫も然り。
・・・え?マジでなんにもないじゃん。これでどうやって生活してんの三浦一家。驚きだわ。
三浦家の知りたくもなかった冷蔵庫事情を垣間見、その現実に戦慄する。何かを作ろうにも材料はもちろん、冷凍食品すらないためぶっちゃけ詰みだ。焼肉のタレでも飲んどけってことなのだろうか。いや、いくら息子の扱いがひどい母親といえどそれはさすがにないだろう・・・・・・・・・ないよね?
「しょーがない、コンビニ行くか」
てか今日初めてしゃべったんじゃね?俺って心の中で独り言いうのが癖になってるのかも・・・・・・気をつけよう。
「いらっしゃいませー☆」
「さんしゃいーん」
三浦家冷蔵庫空っぽ事件の後、食料確保のため近所のコンビニに向かった。レジにいる店員さんの前を通り、お弁当や惣菜の棚へ一直線。
何にしようかな〜。おっ、焼肉弁当あるじゃん。いや、パスタとかも・・・・・・・・・ていうか素通りしちゃったけど、店員さんなんて?さんしゃいん?え?
よくよく思い返せば何かとんでもない挨拶が聴こえた気がしたので声が聴こえてきたレジの方へと顔を向ける。するとそこには寝起きの俺と同じく眠そうな面持ちの灰髪の美少女が立っていた。
彼女は表情を変えずに再びその言葉を口にする。
「さんしゃいーん」
「いや、サンシャインじゃだめでしょう」
「お〜、モカちゃんの早口挨拶に気づいたのはお主が初めてぞよ〜」
え、嘘だろ。これにみんな気づかなかったのか。いや、いくらなんでも嘘だろ。・・・あ、みんな気づいてたけど言わなかったのか。普通は指摘とかあるだろうに、なんて優しい世界なんだ。
世界の優しさに感動しているせいで灰髪の少女を見る目が気持ち悪かったのか表情が変わらない彼女が少しだけ怪訝な顔をした気がした。それに少なからずショックを受けていると視界の端に見覚えのある茶色が映り、
「な、なんでここに・・・」
「ア、アハハ〜・・・なんで、って言われてもアタシココで働いてるんだよね〜」
何やら適当で掴みどころがなさそうな灰髪の美少女が店員がいたかと思えば、ウェーブがかかった長い茶髪と耳元にはウサギのイヤリング。いかにもギャルっぽいが見た目とは裏腹にキチンと店のエプロンを身につけている見覚えのありまくる美少女もいた。
というか目下俺の悩みの種となっている、今井リサその人であり、エプロンの胸元にある名札に表記されている『今井リサ』という文字が一層目の前の少女が俺の知る今井リサである、と主張しているような気がした。