ウマ旅! ~第四回ウマ娘短編合作~ 作:サイリウム(夕宙リウム)
ミカヅキウサギのヒミツ① 実は、短編投稿遅刻組なのに平然としていた
1230
「なるほどねぇ…」
セイウンスカイ、自室にて。彼女は本日行われた冬季旅行についての資料を見ながらつぶやいた。
普段なら三度の飯より堤防沿いの日向ぼっこを選ぶ彼女だが、珍しくこの企画には目を惹かれた。もちろんこの企画自体が珍しいものではあるが、理事長がああなのでその程度では動じない精神力はトレセン学園の生徒に常備されている…と言っても過言ではないだろう。
彼女にとっては、慰安旅行的側面を持ってることが重要なのだ。
(これもいい機会だし、せっかくだからフラワーにはゆっくりしてほしいなぁ)
説明を受けている最中、ふと普段から世話されっぱなしのフラワーのことが頭に浮かんだ。というか、説明を受けている最中は半分寝ていて、フラワーから改めて説明を受けた。いつもお世話になります。
ともあれフラワーにはゆっくりと心身共に癒されてほしいのだ。そう考えると、自分はむしろ世話になってしまうから邪魔になるだろう。誰かお世話が好きそうな…クリークとか、タマモクロスとか、後は同期のキングとか、その辺を見繕ってあっ旋してやろう、なんて柄にもなく殊勝な考えを起こしたのだ。
ただ、スカイが行かない…となると、フラワーは学園にいるスカイのことが心配になってしまうだろう。つまり、フラワーに誰かあてがいつつ、自分も誰か適当な人と出かける必要があるわけだが…
「知り合いを誘うのもアリだけど、ここはひとつ運を天命に任せるってのもいいかもね♪」
つまり、ルーレットである。せっかくだから行き先もクジで決めてしまおう。そうと決まれば、と早速適当なサイトでクジを作り出すと、「セイちゃんに幸あれー!」などといいつつ、テンションの割には静かにマウスをクリックした。なお、このパソコンはトレーナーの所有品である。恩を返す相手、他にもいるんじゃないか?
さて、結果はどうなったかというと…
「…私を誘われる理由を聞かせていただいてもよろしいでしょうか?スカイさん」
「……あー」
エイシンフラッシュと温泉街巡り。はじまる…よー?
『----・青雲と閃光』 著:ミカヅキウサギ
*
1300
時間は少し巻き戻る。ともあれどうにかしてフラッシュを誘わねばならなくなったわけだが、どうにも接点が見当たらない。声をかけようにも普段どこで何をしているのかも知らないわけで…
「どうしたもんかねぇ…」
いっそのことルーレットをやり直してしまおうか、とも考えたが、それをやるくらいならそもそも最初から自分で相手を決めればいいだけの話。交流を広げる目的もあるのだから、ちょうどいい機会だろう。
とにかくまずは探してみよう。そう決めて、セイウンスカイは学園内をぶらぶらと歩き始めた。
「しっかし…今日はいい天気だねぇ…」
秋も終わりにしては日差しが暖かい。しかも風もない。これは絶好のお昼寝日和だろう。これでお昼寝をしないウマ娘がいるなんて、とてもじゃないがスカイには考えられなかった。
ほら、すぐそこにも木を背もたれに日向ぼっこを楽しむウマ娘が一人…
「って、あれ?…スぺちゃんかな?いやー、わかってるねぇ」
わずかに木陰に見える短く切りそろえた黒鹿毛、だらっとした雰囲気…あれはスペシャルウィークで間違いないだろう。
珍しく日向ぼっこ同士を見つけたのがなんとなく嬉しくて、起こしたら悪いだろうと音を立てないように木の方に近づいた。
それからスカイもまた、同じ木を背もたれにしようと反対側に静かに腰を落として、数分もしないうちに寝息を立て始めたのだった。
*
1400
1時間ほど経っただろうか。そろそろ探さないとね…、とセイウンスカイは立ち上がり、大きく伸びをする。反対側からはまだ寝息が聞こえるが、そろそろ起こすべきだろうか。
一瞬だけ悩んで、声はかけておこうかなと思ったスカイは、あくびを噛み殺しながら声をかけた。
「ねぼすけさーん、お時間大丈夫です、か…?おやおや…」
「……ん」
この子スぺちゃんじゃないじゃん。
反対側に寝ていたのは、まさかのエイシンフラッシュだった。灯台下暗しとはまさにこのことか、と感心したスカイは、しかしどうしたものかとまた悩み始めた。
(確かこの子、結構几帳面な感じだったよね…少なくとも、こんな木陰で寝息立ててるイメージはなかったなあ)
でも、それなら案外私と相性もいいんじゃないだろうか。そう考えてまた嬉しくなったスカイは、いい機会だろうとフラッシュの体を揺さぶって、起こすことにした。
「フラッシュさーん、エイシンフラッシュさーん?ちょいとごめんよー?」
「…は、ぁい?」
体を揺さぶられて目が覚めたのか、今度は小さく返事が聞こえた。
フラッシュは眠そうに目をこすると、スカイのほうを見つめ、それからまわりを見渡すと、途端に表情を変えて、「…!」と声にならない悲鳴を上げてバッと立ち上がった。
「え、どうしたの?」
そんなスカイの問いかけにも答えず、フラッシュはポケットを漁って、目的のものが見つからないのかさらに顔色を青くすると、キッとスカイのほうに振り向いた。
「セイウンスカイさん!すみませんが今の時刻を教えていただけますか!?」
「えっあっ、あのー、午後の2時…15分かな」
「そうです、か……はぁ」
必死の形相で見つめられ、困惑しながらもスカイが時間を教えると、フラッシュは今度はガックリと肩を落とし、小さくため息をついた。
そんな一連の流れを見て、スカイはフラッシュを面白い子だなぁ、と評価しつつ、とりあえず話を聞いてみることにした。
「あのー、セイちゃんまだ話が見えてこないんだけど、何かあったの?」
その質問で意識が戻ってきたのか、フラッシュはハッとスカイのほうに向きなおし、気まずそうに口を開いた。
「すみません、一人でうろたえてしまって…普段はこんなミスをすることはないんですが…」
スカイの頭でまとめると、寝不足だったからついつい寝ちゃった、ということらしい。
そういうことよくあるよね、とスカイは心中で同意したものの、フラッシュはだいぶ落ち込んでしまっているようだ。
「まあまあ、別に何か用事をすっぽかしたわけでもないいんでしょ?」
「…全学園生向けの案内があったと記憶しているのですが」
「まあ大丈夫だって。別に全員参加ってわけでもないし。…あ、そうだ」
スカイは、ちょうどよかったと少ししわが寄った資料をポケットから取り出した。
「はいこれ、良かったら」
「あ、ありがとうございます」
少し無理やり押し付けるように差し出した資料を、フラッシュは萎縮しながらも受け取った。
それにしても…見れば見るほど几帳面そうな顔をしてる。私、この子と旅行ができるだろうか…?
それからしばらく資料だけでは曖昧な部分の説明をしつつ会話を交え、終えるとフラッシュから礼を受けた。話を切り出すなら今しかないだろう。
「ご迷惑をおかけしました、セイウンスカイさん」
「そういう時は…ありがとう、でいいんじゃない?別に私、迷惑でもなかったしさ」
「そうですか…それなら、ありがとうございます。セイウンスカイさん。お世話になりました」
「うん、じゃあ、またあったら愚痴でも聞いてよ」
スカイは、控えめに手を振りながら立ち去る彼女を見送った。それから自虐的な笑みを一つ浮かべると、静かに目を閉じた。
…こういう時は、寝るに限るよね。
*
1830
「あー……あーあ……」
「スカイさん…ホントにそういうとこよ」
夕食時の食堂で、机に突っ伏してうなる、奇妙なウマ娘が一人。われらがセイウンスカイである。向かい側で行儀よく夕食を摂っているキングヘイローには、このウマ娘が(同期の中では周知とはいえ)とんでもないヘタレにしか見えなかった。
意味不明なツッコミを受けたスカイは、のそっと顔だけを上げ、反論を試みる。
「…そういうとこって何さ」
「いっつも肝心なところで尻込みするものね。…フラワーさんに旅行のことを伝える件も、私を通さずとも自分で言えばいいのに」
それができてたら今こうして苦労してない…と反論しようとしたが、それを言ってしまえばキングの言葉も認めることになる。スカイは口をつぐんで、それから静かに夕食を摂り始めた。
しかし、どうしたものか…チャンスを逃してしまった以上、次にばったり会えるとは思えない。
「頑張って誘うしかないかぁ…」
「むしろそれ以外の方法があると思えないのだけど」
正論で殴られたスカイは、うっと声を漏らすもそれ以上は何も言えなかった。
「全く…そんなだからトレーナーにも…あら?」
「ゲホッゴホッ」
何かに気づいたかのように話を止めたキングだが、スカイはそれどころではない。
「ちょ、ちょっと!?こんなとこでなんて話するのさ!まさかこのことトレーナーは知らないよね!?」
「まあまあ。そんなことよりほら、ちょうど話題のウマ娘さんがやってきたわよ。なにか言わなきゃならないことがあるんじゃないかしら?」
「えぇ?話題のウマ娘っていったい誰…」
そう言いながら、身を乗り出した格好のままのスカイがキングの指さした方向を見ると、なんとそこにはエイシンフラッシュの姿が。
「えっと…何かありましたか?セイウンスカイさんのトレーナーさんが何かあったんですか…?」
「いーや何でもないよー!あっそうだフラッシュさん!ちょっと相談があるんだけど!」
悟られる前に何とかごまかそうと必死に大声を出したのが功を奏したのか、それとも相談があるという方に意識を引っ張ることができたのか、ひとまずフラッシュはスカイの話を聞く方向にシフトしたようで、キングから勧められた席に腰かけた。
ここまでくるとさすがに日和ってもいられない。フラッシュには本題を切り出すしかないだろう。
「えっと、それで相談って言うのは…」
「なるほど、それで私と一緒に…」
スカイから(ルーレットで相手を選んだことを除き)事情を話されたフラッシュは、ひとまず納得するような姿勢を見せた。
伝え終わった安心感からか、スカイは無意識にため息をつき、いつの間にか椅子に深く座りすぎていたのを直そうと小さく腰を浮かせた。
「ところで…なぜ、わざわざ私を選ばれたのでしょう?別にそれこそ…お隣にいらっしゃるキングヘイローさんでも…」
「あー……」
スカイは腰を浮かせたまま、机に手をついた格好で動きを止めた。しまった、その辺の理由付け何も考えてなかった。
「どうせあなたのことなんだし、最初に出会ったからとかそんな理由でしょう?ごめんなさいね、スカイさんいつもこうだから…」
「……まあそんなんだけどさー。キングったらまるで私のお母さんみたいな口調だねぇ」
この機会に意趣返しをしてやろうとキングが口を開くが、そうはいかぬとスカイも言い返す。ウララがいないこの場合はキングが若干優勢か。
「ま、これも何かの縁ってことでさ。セイちゃんとも、仲良くしてくれると嬉しいな!」
「そうですね…確かに、交友を広げる、という意味で理事長の名目の一つと合致しますし…よろしくお願いします、セイウンスカイさん」
なんだか真面目そうだなぁ、と一抹の不安を覚えながらも、スカイはフラッシュとコンビを組むことに成功したのだった。
「ねえところでキング」
「また明日ね」
ともかく今日のところは、この邪知暴虐の王を問い詰めねばなるまい。スカイはそう決意したのだった。
*
0900
そうして、互いに連絡を取り合い、互いに休みが取れた数日後のこと。
「ねえ…そこまで細かく決める必要ある?」
「ええ。聞けば取材のための旅行である、とのことです。つまり、私たちは効率的に、かつ魅力を最大限とらえられるようにこの温泉街を回らなければなりませんし、30分刻みのスケジュール調整は当然のことです。むしろもう少し綿密に組み立てたほうがいいかもしれませんね…」
2人はとある温泉街に目的地を定めた。そこまでは良かったのだが、何をはき違えたのかフラッシュはただの取材のために訪れるような、明らかに休まらないスケジュールを組み立て始めたのだ。
セイちゃんののんびりまったり温泉街巡り計画はどこへ……?
これはまずい。明らかにおかしい。しかしスカイには止め方がよくわからない。
「あのさフラッシュさん、これ別に取材がメインじゃないんだよ?もうちょっとゆるーく考えようよ。理事長から休息がもらえたー、って喜んだらいいじゃん」
「…お言葉ですが、セイウンスカイさん。ではなぜその理事長は、『取材』という条件を出されているのですか?休息であるならそれだけを伝えればいいのでは?」
「うえ?あー…それはそのー…ただじゃ休んでくれない子にむけての言い訳づくりみたいなもんじゃないかなー…って…思います……」
とりあえず素直に説得をしてみようとしたスカイだったが、フラッシュの圧に負け次第に語気がなくなり、見事撃沈。このままでは、フラッシュと行く温泉街RTAになってしまう。今思いついたんだけどフラッシュってRTA向いてそうだよね。
しかし何も解決策が思いつかぬまま、適当に相槌を打ちつつ隙を伺うのみとなる。
「ただいまー!あれー、スカイさん!珍しいね!」
スマートファルコン帰寮。
神はいた、そう思った。スカイは後にそう語ったという。
「うーん、なるほどぉ…」
このタイミングを逃す手はない、とスカイが事のあらましを語った後、ファルコンは小さく一言、納得したようにつぶやいた。
「私も温泉に行こうと思ってるんだけど、スカイさんとフラッシュさんが行く場所とはまた違うところなんだよねー…」
そう言いながらも、それでもいいなら、と予定を見せてくれた。
その予定はフラッシュが立てたそれとは違い、のんびりとした、まさに休養のために出かけます、と言った様相のものだ。
どうにかして私たちの旅行計画もこれに近いものにできないだろうか、スカイはまた頭を悩ませる。
それと同時にフラッシュは、ファルコンに質問を投げかけた。
「あの、これではただの休養になってしまっていますが…?さすがに却下されてしまいますよ?」
「……フラッシュさん、これ休養目的だよ?」
「何を言っているんですか、この旅行は観光名所の取材が目的で…」
2人がさっきのスカイの焼き直しかのような会話を続ける。
神は死んだのだろうか、とスカイが思い始めたが、ようやく話が新しい展開を見せた。
「あのね、フラッシュさん。旅っていうのはそもそも計画なんて立てないものなんだよ!」
「へ?そ、そう…なんですか?……確かに、ただ出かけるなら兎も角、旅行の時に分刻みのスケジュールを立てたことはないような…」
「そうそう!旅は道連れっていうでしょ!旅行先にふと立ち寄ったお店でおいしいスイーツを見つける…それが醍醐味なんだよ!」
「それが、醍醐味…?」
段々説得され始めたフラッシュを見て、スカイも好機を逃さずに説得に交わることにした。
「そう!旅行ではそこまで計画を立てない…つまり、フラッシュさんの計画のまま取材に行くと…」
「参考に、ならない……?そんな、まさか私の計画が、そもそも計画を立てることが間違いだったなんて…」
「大丈夫だよ、今からもう一回計画を練ればいいんだ。今度はセイちゃんにも手伝わせてよ、ね?」
こうして今度こそ無事(?)申請を出すことができた。
「ところでスカイさん、今度はいつ逃げシス参加してくれるの?」
「ナ、ナンノコトカナ…」
逃げシスとかセイちゃん知らない。知らないったら知らないのだ。(第二回短編合同の露骨な宣伝)
申請書
日本ウマ娘トレーニングセンター学園理事長 秋川やよい 御中
冬季旅行企画 ウマ旅 に申請いたします。
旅行先 〇〇県〇〇市 〇〇温泉、〇〇宿、道の駅〇〇、〇および周辺施設
申請日 2021年12月××日
申請者 セイウンスカイ
エイシンフラッシュ
旅行期間 12月◇◇日~☆☆日
補足 別紙にて詳細計画を説明いたします。
これより下には何も記入しないこと…
*
1000
「いやー、電車なんて久しぶりだったねぇ」
旅行当日、朝。紆余曲折あったものの、無事に旅行にこぎつけることができた。
スカイもフラッシュも、顔には笑顔が浮かんでいる。
「そうですね…途中何度か耳が出てた時は、バレていないかヒヤヒヤしましたよ…」
「ははは…ごめんって」
「まあ、私も想定以上に窮屈でしたし…先に宿の方に行って、少しくつろぎましょうか」
スカイはそれを聞いて、内心フラッシュがすこしわがままになったことを喜んでいた。この前のままの彼女なら、時間がもったいない、と早速どこかの温泉に取材に行っていただろう。
「いいねぇ、ついでにどこかおいしそうなもの買って、ゆっくりしよう!」
とりあえずは、と目的の宿に足を向け、2人はのんびりと歩きだした。
昨日降ったらしい雪が道端に残っていたり、溶けかけた雪だるまなんかも置いてあったりする。
スカイは何気なくその景色を楽しんでいたが、それらの景色を見るたびに、「どの旅行サイトにもない情報ですね」とか、「なるほど、これが旅行のその時にしか味わえない風情というものですか…」とか、オーバーなリアクションをとるフラッシュを見る方が、スカイにとっては楽しいものだった。
フラッシュがこまめに写真を撮ってくれていたので、スカイは雰囲気をもっと味わおうと、片目を閉じ、腕を後ろに組んでのんびりとした姿勢になり、更にゆっくりとしたスピードで歩く。
コツ、コツ、コツ。
少し肌寒いせいか出歩く人は少ないが、スカイはそれらの音すらも頭から消し去り、自分の靴が石畳をはじく音を、ウマ娘の大きな耳で楽しむ。
左右の、そして奥の方からも、温泉の煙が昇る。心なし、か気温の低さも気にならないような温かさを感じた。
コツコツ、コツコツ、コツコツ。
そこに、もう1人のウマ娘の足音が混ざった。しかしスカイはそれを不快には思わない。
大事な友人と2人でのんびり。これよりもゆったりできることなんて、スカイにはとてもじゃないが思いつかなかった。
「ね、フラッシュさん。私、少し調べてみたんだけどさ」
「はい、なんでしょうか?」
宿前まで来て、スカイは一度立ち止まった。それから頭の後ろで腕を組みなおし、だらっとした雰囲気のままでフラッシュに話しかけた。
「これからは、フラッシュ、って呼んでもいいかな?」
「……は、はい!私も…スカイ、改めてよろしくお願いします!」
一瞬驚いたような表情を見せたフラッシュだったが、そのあとはぱぁっと笑顔を見せてくれた。
私も、少しは歩み寄らないとだし!
*
1300
スカイとフラッシュは、一度宿に荷物を置くと、昼食をとって、それから1時間ほど宿屋でゆっくりと談笑をしたのち、温泉街をどう回るかの計画も決めて、今度はお風呂に入るための荷物だけをもって外に出た。
「とりあえず、さっきの足湯にいこうよ。まずは体を慣らさないとね」
「そうですね…事前の予報通り、少し雪も降ってきましたし…体が冷えてしまいました」
先ほどはのんびりと歩いていた2人だったが、今度は少し足早に…油断するとものすごい早歩きになってしまうので、時々フラッシュに袖をつかまれながら…まずは足湯に向かう。
「あー、あったかい!というか熱い!」
足湯にたどり着いたとたん、スカイは半分飛び込むような勢いで靴を飛ばし、水しぶきをあげながら足湯に浸かった。
フラッシュは、あきれたような顔になる、と思いきや、自分でも気づかないほどにわずかに笑うと、スカイが脱ぎ捨てた靴を綺麗にそろえ、その隣に自分を滑り込ませた。
ふとスカイは何かに気づいたかのように立ち上がると、温泉水が出る場所まで足湯を伝い、それからおもむろに手を当てた。
「ちょ、スカイ?何をしてるんですか?」
「まあまあ。今は誰もいないんだし…うわ、漏れた!」
左右の隙間から漏れ出たお湯が、スカイの服の袖を少し濡らした。
「全く、本当に何をしてるんだか…」
「あはは、いいのいいの!フラッシュもやる?」
「やりません」
「わあ、即答…」
子供のころとかやるものじゃん、とスカイはひとりごちた。
*
1600
足湯につかり、それから温泉にも入り、すっかりあたたまった2人は、また散策を再開した。今度は少し遠くの温泉まで、ゆっくり歩きながら行く予定だ。
夕方になり、少しづつ温泉街にも活気が出てきた。黄色く暖かな光があたりを照らし始め、パラパラと降る雪と合わさって、どこか幻想的な雰囲気を感じる。
「少し温度が高いお湯は足湯でも温まりやすい、フラッシュの言った通りだったね」
「まあ…知識だけはありますので」
「あはは、謙虚だなぁフラッシュ……うん?」
何気なく会話を続けていたスカイは、ふとスカートが引っ張られるのを感じた。
尻尾が出ちゃったかな、と後ろを振り向くと、そこには小さな女の子がスカイの服をつかんでいたのだった。
「……えっ」
「……」
少し涙目でうつむいている女の子を見て、迷子だろうとあたりを付けたスカイは、まずはどうするかを相談しようとフラッシュに顔を寄せ、小声で話し始めた。
「…ねえ、フラッシュ。これどうしようか。多分迷子だよね……」
「そうですね…まずはこの子から話を聞いてみましょうか」
そう言って、フラッシュはかがんで女の子に視線を合わせ、少し優しい声音で語り掛ける。
「どうされたんですか?」
「……えっと、お母さんとはぐれちゃって、それで……」
「そうだったんですね…そのお母さんがどんな格好だったかとか、思い出せますか?」
「えと、あの…確か、青色の上着を羽織ってて…」
「あ、違いますね…ここまでどこを通ってきたかとか覚えていますか?」
「え!?えっと……あの……!」
多分フラッシュは、迷子の扱い方のマニュアルか何かに沿って対処してるのだろう。ただ、それでは彼女自身に寄り添ってあげられない。
女の子は、自分が何も言えないとこのまま迷子なのだ、とでも思ったのだろう。少し涙目になり、必死で思い出そうとして、プチパニックに陥りかけている。
見かねたスカイは、そろそろ口をはさむことにした。
「ねえねえ、私セイウンスカイっていうんだけどさ、知ってる?」
そう言ってスカイ、隠していた耳と尻尾を取り出した。それを見てから急に女の子がぱあっと顔を明るくなった。
「知ってる!てれびでみたことあるよ!お姉ちゃんすごいひとだったんだ!」
「そうだよー?セイちゃんはすごいんだ!まあそんなわけで、私に任せときなよ!すぐに迷子も解決してあげるからね!」
「おおー!」
フラッシュは少し不安になった。なるほど、ヒーローが現れたら希望を持つ、というのはどんな物語でもあることだろう。そしてスカイは、まごうことなきスーパーウマ娘。
それに比べ、私はデビュー前の無名ウマ娘…。こんな風に、なれるのだろうか?今は…何か失敗してしまったようで、女の子を不安にさせてしまった。どうすればいいのかわからず、結局スカイがリカバリーしてくれた。
交流がそこまで得意ではないのは自分自身分かってはいるが、このままでいいのだろうか…?
「フラッシュ、行くよー?」
「…へ?どこにでしょう?」
しまった、つい思考に集中して、話を聞いていなかった。
「じゃあ、付いてきてね!セイウンスカイ号、しゅっぱーつ!」
「しゅっぱーつ!」
気づけば、女の子を肩車したスカイが、小走りで道を駆けだしてしまった。フラッシュも慌ててそれを追いかけ、並走の格好に移る。
「あの、どこに向かってるんですか?」
「んー?」
フラッシュのその質問に、スカイはいったん視線をそらして考えるようになって、それから笑ってこう言った。
「決まってない!」
「それでいいんですか!?」
「大丈夫!きっと上手くいくから!」
「……私は、そんな風には考えられません」
小走りになりながらもうつむいたフラッシュに、スカイは表情を変えず、笑ったまま話を続けた。
「別にそれでいいんだよ、フラッシュ。私が楽観的にバカなことを言う横で、現実的に物事を考えてくれてるフラッシュが、セイちゃんにとってのフラッシュだからさ」
その言葉に、何か言おうとフラッシュが口を開いたとき、女の子が「お母さん!」と声をあげたのだった。
*
1900
「いやー、案外早く見つかってよかったねぇ」
「……そうですね」
宿に戻って、2人で一息ついた。
フラッシュは、先ほどまでの少し暗い雰囲気がなくなったものの、まだどこか悩んでいるようだった。
「……決めました」
「ん?」
と思いきや、何かを決めたらしく、今度はキッとした表情になった。
さっきから何を考えているのか、スカイにはよくわからなかった。
「私も、もう少しいろいろなことを…そう、時間だけにこだわるんじゃなくて、広い視点を持ってみたいと思います!」
「ほうほう…でも、フラッシュもここのとこ、少しずつでも変わってきてると思うよ?」
「そうですか?」
疑問を示すフラッシュに、スカイは肯定の意思を伝えようと深くうなずいた。
「ゆっくりでいいんだよ、何事もさ。焦ってもいいことなんてないんだから」
「それは、私を変えることもですか?」
「そうだよー?まあでも、フラッシュがどうしても不安っていうなら…」
「セイちゃんが特別に、手伝ってあげるよ!」
クスリと笑ったフラッシュは、「よろしくお願いします」と丁寧に頭を下げた。
*
----
ーー天皇賞(秋)、フラッシュ〇度目のG1勝利!
「うーん、フラッシュも一躍時の人、かぁ。遠くに行っちゃったなぁ……」
トレセン学園、食堂でテレビを見ていたスカイは、そうつぶやいた。
あれから、フラッシュもトレーナーを見つけ、二人三脚で順調に栄光への道を突き進んでいる。最近はめっきり声がかからなくなってしまい、一抹の寂しさを感じている。
一方、スカイは少しスランプ気味である。…これじゃどっちが先輩かわからないなぁ、と自嘲気味に笑った。
ープニ。
ふと、後ろから頬をつつかれた。
「…フラッシュ」
クスクス、と手を口にあて、小さく笑うフラッシュ。どうやら彼女がつついてきたみたいだ。
「私はすぐ後ろにいますよ。スカイ」
「はいはい…別に、そういう意味じゃないって分かってるくせに…」
「ええ、私は融通の利くウマ娘ですからね。それくらいわかりますとも」
「それもそういう意味じゃないなぁ…」
全く。かわいげのない後輩になった…と思いながらも、スカイの顔には微笑みが浮かんでいた。
フラッシュもすっかり砕けたなぁ、と感心したスカイ。教育のたまものである。
ふと、今のフラッシュはどんな反応をするのか気になった彼女は、フラッシュに向けて提案をしてみることにした。
「…ねえ、フラッシュ」
「なんですか?」
「今度、一緒に旅行行かない?何だか久々に温泉に行きたくなっちゃった」
「……奇遇ですね、実は私も、同じことを言おうと思ったんです」
あなたともう一歩、歩み寄るために。
「ここは30分以内の滞在を厳として、次の場所に行くべきです!」
「……もうちょっとゆるく行こうよぉ」
……歩み寄るために!
キミも短編を書かないか?
ミカヅキウサギです。遅刻魔です。セイウンスカイとエイシンフラッシュのからみ、うまく書けていたでしょうかいませんねありがとうございます。
でも、これだけは伝えたいんです。
スカイとフラッシュの絡みって案外アリだよね…
それはそれとしてサトノダイヤモンドは可愛くて格好よくって強くって最高ってことだけ覚えて帰ってください。