ウマ旅! ~第四回ウマ娘短編合作~ 作:サイリウム(夕宙リウム)
うん! 腹を切って詫びるね!
トレセン学園某所某日。ちょうど冬も近づき、いつものちみっこ理事長の思いつきで学園内に「ウマ旅」なる企画がはびこる今日この頃。メジロライアンは悩んでいた。
「…………調子があんまりよくない。」
そう! 彼女自慢の筋肉のキレが良くないのである!
いつもなら『肩に小っちゃいジープ乗せてんのかい!』や『キレてるキレてる! キレすぎてキリマンジャロ!』という掛け声がどこからともなく聞こえてきて彼女の筋肉を称賛するのであるが……、今日はそれがない。彼女自身にも感じる不調は彼女の近くで勝手に応援している筋肉の妖精(おじさん)からもバレバレのようで最近彼女の筋肉にはお声がけがなされていないのである。
なぜかライアンの周りで険しい顔をしている三人の顔より腕の太さが大きいムキムキマッチョマンの妖精。それが見えちゃったせいでお友達と一緒に宇宙猫をしているカフェをよそに、ライアンは悩んでいた。なおもちろんライアンは妖精なんか見えてない。
(限界、なのかもしれない……)
感じるのは目に見えないながらも強大な壁。自身のトレーナーと三年間を走り切り、これからもさらに先へと、と思っていた時にぶつかってしまった壁である。自分もドリームシリーズに参入しある程度の成績収められたが同じ時期に入った子達と比べると少々控えめ。ここからさらに飛躍するためには目の前にある壁を破らなければいけないのだが……
(出来ることは全部やった。でも……)
胸にあるのは燻る不安。これを越えなければおそらく自分は周りに置いて行かれるのではないかというもの。普段の彼女であればトレーナーにすぐ相談するのだが、現在彼女のトレーナーは非常に多忙。URAファイナルズやアオハル杯の運営に携わっている上に今トゥインクルシリーズで走ってる後輩の面倒も持て居る。そのなかで無理やり時間を摘出して自分のためのメニューまで考えてくれているのだ。これ以上自身のトレーナーに負担を掛けたくないし、不安を持たせてしまうことも忍びない。
(と、なるとメジロ家の誰かに相談……)
かといってこのままため込んで爆発すればもっと悪いことになるのは確か。トゥインクル時代の自分であればこのまま一人でがむしゃらに進んでいたかもしれないが、今の彼女はあの時よりも一回り成長している。自身の相棒が頼れないのならば他のメジロ家のウマ娘、姉妹とも呼べる彼女たちに相談したりメジロ本家に在籍しているトレーナーに相談してみるのがいいかもしれない。
「まぁすぐさま家のトレーナーに頼る、ってのはなんだか私のトレーナーが力不足、って思われちゃうかもしれないから後回しにするとして……、誰に相談しよっか。」
思い浮かぶのは同じ時代を走ったマックイーン。家からは距離を置いているけど個人的な付き合いはまだあるパーマー。それかドーベルやアルダン、ブライトと言ったところ。
そんな風に誰に相談しようかと考えながら先ほどまで使っていたトレーニング機器の片づけを始める。考え事をしながらのトレーニングはケガに繋がりやすいし、これ以上やってもオーバーワークだ。ちょうど手も止まったところでキリが良かったのもあり次の人が使いやすいように機器に付着した汗を拭きとる。
「そういえばこの前ブライト、ゴルシに連れられて視聴覚室で徹夜したって言ってたけど何やったんだろ?」
徹夜した次の日からたまに顔が細目で若干神経質に見える男性の顔に変わってたり、『弾幕薄いぞ!何やってんの!』とか『分かっている。気に入らないなら、俺を殴って気を済ませろ!』とか変なこと言い始めたけど大丈夫だろうか?
「ストレスでも溜まってるなら今度お茶会か何かで吐き出させてあげないとなぁ。」
そんなことを言いながらトレーニングルームからタオル片手に立ち去るライアン。とりあえず汗を流しにシャワーに行く様子。
しかしながらその背後の物陰から不気味な音をたてて、そう『ぐぽーん』とかそういう感じの音をたてて光始める二つの十字。新たな標的を見つけたのか彼女が動き始めます。
「マーベラス☆」
「いやぁ……、まさかこうなるとはなぁ……。」
そう! この瞬間ライアンはとっても困っていた!
実はこのカワイコちゃん! 理事長のいつもの気まぐれで開催されたウマ旅の事! さっきまで全く忘れていたのである! もちろん“りゃいあんちゃん”は真面目なので生徒会が実施した説明会に参加はしていた。しかぁし! 彼女は今現在壁にぶち当たって四苦八苦していたところ! そんな企画まるっきり忘れちゃっていたのである!
「マックイーンもパーマーもドーベルも……、というかメジロ家のみんなちょうど同じ時期に旅行に行っちゃうとはなぁ……。」
ちなみに彼女の同室であるアイネスフウジンは妹のことと冬場のクリスマスシーズンでバイトにいそしむため不参加組だった。そのせい、と言ってはいけないがライアンにとって『ウマ旅』に触れる機会があんまりなかったのも忘れちゃった原因と言えよう。
「そういえばトレーニングルームに人が全然いなかったのもそれが理由かぁ……。」
生徒の大半が旅行中と言うこともあり、いつも騒がしい学園もちょっとだけ静か。スマホアプリのグループでメジロ家の子達に話しかけたらみんな旅行中だったライアンもちょっぴりしょんぼりで静か。寮のシャワー上がりで廊下をトボトボと歩きます。
「そういや確か申請期間も旅行期間もかなり長めにとってあったはずだから行こうと思えば今からでもいけるのか……、でもこの時期じゃ大体ペア決まってるだろうし、あんまりなぁ……。」
理事長の御好意、という企画のため申請期間はこの冬一杯まで。つまり今から行先を決めて飛び立つことも可能なのだが今はそんな気分ではない。さっきまで壁をどうやって乗り越えるか考えていたのに急に娯楽に走るのはちょっとなぁ……、という思いゆえだろうか。
「アイネスも今日はバイトでそのまま家の方に帰るって言ってたから今日は一人……。もう大人しく部屋に戻って休もうかな?」
誰にでもいいから悩みを聞いてもらおう、そう思って切り上げたトレーニングだったが聞いてくれそうな友人が軒並み今日はいない。もう諦めて早く寝てしまおうと思いそのまま自室に足を踏み出したその時……!
ぐぽーん
背後から聞こえた不気味な音に反応して後ろに振り返るライアン! が、しかし急激に失われていく意識! 彼女が最後に見たものは輝く二つの十字だけだった……。
「マーベラス★」
ーーーーーーーーー
「っは!」
気が付いて飛び起きるライアン、急いで立ち上がり一面を見渡すがそこは寮の廊下ではなく草原。しかも冬の寒さなんか感じない、むしろ暖かさを感じるぐらい過ごしやすい場所。
「ここはいったい……」
(さっきまで私は寮の廊下にいたはず、それが何でこの草原に!? というかこの空何!? 見たことない景色だし、しかも何故か外なのに暖かい!?)
一瞬誘拐か? と思うライアンであるがセキュリティがしっかりしているトレセンでは考えにくいし、あまり現実的ではない。それにつれていくならもっとかわいいこいるだろうし。それに私が最後に聞いた謎の『ぐぽーん』という気の抜けるような音と最後に見た謎の十字の光。
「それに何故か勝負服になってるし……、えぇ?」
頭の中で?が氾濫しそうになったその瞬間。自分の足元から何か声が聞こえてきます。
「マーベラス★ おはようライアンちゃん!」
足元には何故か二頭身化しているマーベラスサンデーがいた。
「ま、マーベラス、サンデー???」
「そうだよ★ ようこそマーベラス空間へ 」
そう言いながらライアンの足元をくるくると走り回るちびまーべらす。思わず抱きしめたくなるようなかわいさですが、いまだライアンは困惑の渦の中。未だ復活出来ていません。
そんな脳内で赤い✖マークの吹き出しが出てきて『深刻な問題が発生しました』となっているメジロライアンをよそに、我らがマーベラスは経緯を語り始めます。
「みんなウマ旅の企画でわくわくしてるのにライアンちゃんだけちょっと怖い顔してたからずっと観察してたの! そしたら気分も沈んでノットマーベラス⤵だったから……! ライアンちゃんに喜んでもらおうと思ってこのマーベラス空間に連れて来たの! マーベラス☆」
「そうそう! とぉぉぉおっても! まああああう゛ぇるァああァァァス☆ でしょ!?」
未だにエラーを吐き続けるライアンをよそに、勝手に手のひらに乗って説明を始めるミニマーベラス。気が付けば人数も一人から二人に増えています。
ここでライアンは悟りました。『あ、これ深く考えたらいけない奴だ』と。
そう吹っ切れてしまえば話は早い。これでも彼女は“あたあおしるこ”や“歩く少女漫画”と長く付き合ってきた身です。このぐらいなんてことはありません、プロですから。
「あ、うん。そうなんだ。ありがとうね、マーベラスサンデー。」
「「「ノットマーベラス☆★ マーベラスって呼んで 」」」
「あ、うん。」
まったく同じをしながらマーベラスと呼んでほしいことを伝えるちびマーベラス。気が付けば手のひらに乗っている小さな生命体は二人から三人に変化しているではありませんか。さすがにちょっと手のひらの面積が足りなくなってきたので、ライアンは三人を地面に降ろし、彼女たちが話しやすいように芝生の上に腰を下ろします。彼女たちを降ろした時に四人に増えているのは気にしないようにして。
「そ、それで~~、マーベラス空間って何かな? 私さっきまで寮にいたと思うんだけど……」
「うん! トレーニングルームで落ち込んでいるライアンちゃんを見つけたの!」
「でも学園のウマ旅って企画あるでしょ!?」
「もしかしたら誰かと行くかもしれないと思って後ろつけてたの!」
「そしたら一人って聞いたから連れて来たの!」
「とぉぉぉおっても、マーベラス☆彡☆彡」
ひとりひとり順番に答えてくれるマーベラスサンデー。結局このマーベラス空間なるものが何なのかは解らなかったが、五人に分裂するぐらいこちらのことを心配してくれていたのだろう。
「あ~、心配させちゃった感じかぁ……。ごめん……、いや改めてありがと、マーベラス。」
「あ! そういえばこれ! 申請書! ライアンちゃんサインしてもらってもいい?」
そうやって背後に現れた六人目と七人目のマーベラスサンデー。六人目の彼女は母印用の赤い朱肉、七人目の彼女はこの前の説明会で配られた申請書を持ってこちらを向いていた。
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申請書
日本ウマ娘トレーニングセンター学園理事長 秋川やよい 御中
冬季旅行企画 ウマ旅 に申請いたします。
旅行先 マーベラス空間
申請日 2021年12月××日
申請者 マーベラスサンデー
メジロライアン
旅行期間 12月◇◇日
補足 マーベラス☆彡
これより下には何も記入しないこと……
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…………うん。考えたら負けかな? そう思考放棄をしながら自分の名前の隣に母印を押すライアン。そうすると八人目のマーベラスサンデーがどこからともなく現れ、『これで手を拭いてね☆』と濡れティッシュを手渡してくる。もうライアンは『そういうものだ』と考えながら感謝の意を述べながらそれを使った。というかこの申請書で通るのか???
「うんうん……OK! よ~しならこれからマーベラス観光! はっじまっるよぉ~~!!!」
「「「「「「マーベラス☆彡」」」」」」
「……………。」
「ほら! ライアンちゃんも一緒に!」
「え! 私も!?」
「モチロン☆彡 さぁいっしょにぃい!」
「「「「「(マ、)マーベラス☆彡」」」」」
その掛け声と一緒に上にズレるライアンの視界。『ふぇ!』という可愛らしい声と一緒に下を向いてみれば、さっきまでいた八人のミニマーベラスサンデーが自分を神輿に担いで移動をさせようとしています。そしてお膝には九人目のマーベラス。
「え、え! 悪いよ! 自分で歩くから!」
そう言って立ち上がろうとするライアンだったか、いつの間にか彼女の肩に腰掛けていた十人目のマーベラスサンデーに止められる。
「今日はライアンちゃんのためのマーベラス☆スーパーデーなんだからライアンちゃんが主役☆ だからゆっくりしてね!!!」
「で、でも……。」
「いいのいいの♪ ほら! 話しているうちに着いたよ! マーベラス☆広場!」
急ブレーキで止まるライアンのお神輿。さっきまでただ広いだけの草原だったそこは、石畳で舗装された広場になっていた。舗装されている道路の縁にはたくさんの屋台が並べられており、所々に雪で作られたウマ娘の像がいくつも建っている。肌寒さを感じないこの空間で雪像なんか置いたらすぐに解けてしまいそうだが、おそらくマーベラスなので大丈夫なんだろう。
「うわぁ! たくさん屋台があるんだね。……それにたくさんのマーベラスちゃん。」
一瞬気にならなかったが、よくよく考えて見直せば、屋台で売り子をしているのも小さいマーベラスサンデーだし、客になっているのもマーベラスサンデーだ。しかも少し遠くの方に目をやると新しい雪像を作っているのも複数人のミニマーベラスサンデー。というかお神輿に乗せられて横を通るたびに小さいマーベラスサンデーが『マーベラス☆』って挨拶してくるからもうマーベラスがゲシュタルト崩壊してきた……
「ねぇねぇライアンちゃん! 何食べる!? 何でもあるよ!!!」
「あ~、ホントだね。」
パッと見ただけで定番の焼きそばだったりお好み焼き。ちょっとアルコールの香りがするブドウの歩っとジュースに、はちみつレモンのあったかいの。他にはマックイーンが喜びそうなお汁粉の屋台だったり、大判焼きなどの餡子が使われているお菓子の屋台。それに副会長のブライアンが飛びつきそうな大きな塊のお肉を焼いてるところとか、ソーセージの屋台なんかもある。あ! ふかしたジャガイモやニンジンを売っているところもあるんだ。
「でもそういえば私今お金持ってないよ?」
「大丈夫! はいコレ☆彡」
そうやってもう何人目か解らない小さなマーベラスちゃんが渡してくれたがま口のお財布。中にはマーベラスサンデーのデフォルメされた顔が描かれた金貨がたくさん収められていた。彼女によるとこれ一枚でどんな商品一個と交換できる上に、このお財布から無限にコインが溢れ続けるらしい。
「な、なら……」
お神輿を担いでくれているマーベラスちゃんたちに頼みながら色々な屋台を回る。一緒に行動してくれている子たちのなかに物欲しそうな目で屋台を見ている子もいたのでその子のためにニンジン焼きの屋台に寄ったりもしながら……、そうやって一通りこの広場を見終わったころには私の膝の上はごちそうだらけだった。
「あはは……、ちょっと買いすぎちゃったね。」
「マーベラス★ たくさんあって目移りしちゃうね!」
「そうだ、お神輿担いでくれてるマーベラスちゃんたち? ちょっと開けたところまで移動して降ろしてもらってもいいかな? ちょっと私だけで全部食べるには多いからみんなで食べよ?」
「マーベラス 」
そう答えると、広場の少し外れにお神輿を運んでもらい、そこに降ろしてくれる。お神輿を担いでくれた子と膝と肩に乗っていた子を合わせて十人だったはずのミニマーベラスちゃんはいつの間にかに二十人を超えている気がするがまぁよしとする。それにかなりたくさん買ってしまったのでこれだけの人数がいれば残してしまう心配もないので逆に良かったかの知れない。
「さ、冷めないうちにみんなで頂こうか。」
「いただきマーベラス★」
「「「「「マーベラス☆彡」」」」」」
「ふぅ……、食べた食べた。そういえば何も気にしないでこんなに食べたの久しぶりだなぁ。」
思い返してみれば壁にぶつかってからは、何とかしようとして食事を変えたりとかなり気を付けることが多かった。決してさっきまで食べていたような茶色だったり炭水化物だったり大量のお肉だったりをお腹いっぱいになるまで食べるようなことはなかった。
「やっぱりご飯って大切なんだなぁ……。」
「マーベラス……」
背中を地面に押し付け、横になる。少しだけきつくなったお腹のために楽な体制にするだけのはずが、満腹感のせいか寝転がってしまった。周りには食べ終わった空の容器たちと、同じようにお腹を風船のようにふくらました小さいマーベラスちゃんがたくさん寝そべってる。
「あ~、こうやってゆっくりするのもいいねぇ……。」
「マーベラス……。」
そういえば、私が壁にぶつかったとき。私の心の中にあったのは焦りだけで、こうやって草原に寝転びながらゆっくりするなんて選択肢はなかった。たぶんこの世界に来ないであのまま部屋に戻ったとしてもこんなにゆっくりすることはできなかっただろう。
「それを教えてくれたんだね。……ありがと、マーベラスちゃん。」
「マーベラス☆彡」
「よぉし! じゃあ腹ごなしに雪合戦でもしますか!」
「マーベラスなアイディア! あつマーベラス!」
さっきまで私の肩に乗っていた彼女がそう叫ぶと、広場の方にいたマーベラスちゃんたちがこっちに走り寄ってき、この場で寝転んでいた子達もゆっくりと立ち上がる。気が付けば草原だったはずのこのマーベラス空間は一瞬で雪化粧。
「マーベラス☆パワー!!!」
「おぉ! すごいね!」
「マーベラス♪ じゃあそっちのマーベラスはうまぴょいチームで~~、こっちのマーベラスはうまだっちチームね☆」
「「「「「マーベラス☆彡」」」」」」
「あ! じゃあ私たちはうまだっちチームね!」
「マーベラス☆ がんばろー!!!」
沢山積もった雪を使って二つの陣地を作り上げ、唯一の武器である雪玉を大量に生産する。w他紙がいるチームは体の大きい私がいるためか人数は少なめだけどそれが敗因にはならない。まぁ雪玉の生産率は負けるかもしれないけどね。
「その分私が頑張ればいい話、ね! いくよみんな!」
「「「「「マーベラス!!!」」」」」」
みんな雪玉を両手に持って準備万端。中には作り過ぎた雪玉におぼれている子もいるけど大丈夫だろう。さぁ両陣地から見合って見合って
初め!
その掛け声とともに放たれる雪玉たち。私も投げようかと思ったけど……ってほとんど全部私狙い!?
「ら、ライアンちゃん!」
前方から滅多打ちにされるライアン。強い相手を早々にリタイアさせるのは戦術として正しいのだが、みんなマーベラスなせいで考えも狙いも被っちゃった。雪まみれになったライアンを見てさすがにやり過ぎを悟ったマーベラスたちは心配そうに駆け寄ってくる。小さいマーベラスでも投げれる小さめの雪玉だったのでそこまで痛くはなかっただろうけど大丈夫だろうか。
「ぷはぁ! あははは! もう、ひどいじゃないかみんなして狙って!」
心配そうに駆け寄ったマーベラスたちをよそに、雪山から顔を飛び出させたライアンはニコニコ笑顔、一気に投げられたことと、自分が雪まみれなのが楽しくて仕方ない様子。その笑い声に釣られてマーベラスたちも一緒に笑い出します。
「マーベラス 」
「マーベラス♪」
「マーベラス☆」
「マーベラス! あは、あはは、あはははははは」
……………
ーーーーーーーーー
「あはははははは…………、ってあれ?」
廊下に響く、ライアンの笑い声。気が付けばさっきまでいたはずのマーベラス空間はそこになく、寮にある自室に続く廊下。
「あ、あれ?」
さっきまで一緒に遊んでいたはずの小さいマーベラスサンデーも、遊んでいた場所も何もかもなくなっている。あの空間で来ていたはずの勝負服もどこかに行ってしまい、シャワー上がりのジャージに元通り。
「でも、夢なんかじゃない……よね?」
あの世界で食べた食べ物たちの味は覚えているし、まだ夕飯なんか食べてないのにお腹はいっぱい。それにポケットを探ってみれば返し忘れたがま口のお財布。
ま、ウマ娘には解らないことが多いって聞くし、今回もそんな中の一つなんだろう。正直今度このお財布を返すついでにあの空間は何だったのかってマーベラスサンデー本人に聞きたい気もするけど。
「わ! なんだかすごく体の調子がいいや! この前まで感じてた壁が何だったんだって感じ!」
そんなことを思いながら自室に帰ろうと、腕を伸ばした瞬間に気が付く体の柔らかさ。前まで感じていた何かにぶつかっている感じなんか掻き消えて、これからどんどん成長していける。そんな気が体中に満ちている。
「よし! なんだかやる気出て来た! ……誰もいないしちょっと部屋まで走っちゃえ!」
そうやっていつもはしない部屋までの廊下ダッシュ。その足取りはとても軽やかなものでした。
「マーベラス☆彡」
ーーーーーーーーー
そして時間は進みましてトレセン学園理事長室。
「なぁ、たづな。」
「はい。どうかしましたか、理事長?」
そう自分の秘書に呼びかける彼女の机にはマーベラスサンデーによってまとめられたレポートと見たことのない景色を背に笑っているライアンと地面が見えなくなるほどたくさんいるちびマーベラスたち。パラパラとレポートをめくるとその大半がマーベラスで埋め尽くされている。
「マーベラスってなんだ?」
「さ、さぁ?」
ライアンとマーベラスは初めて書きました。
とっても難しかったけどマーベラス☆だったので私はマーベラス★
……これを旅行と言ってもいいのだろうか?