ウマ旅! ~第四回ウマ娘短編合作~   作:サイリウム(夕宙リウム)

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2:ウマ旅 『フクちゃんドトウちゃんのんびりゆらりパワースポット巡り』

 

「トレーナーさんトレーナーさん!」

 

 あるよく晴れた冬の日のこと、担当のマチカネフクキタルが騒がしく叫びながらトレーナー室に飛び込んできた。

 

「見ましたか聞きましたか! 理事長からのありがたーーーーーーーーーいお言葉を!」

 

 聞いたよと頷けば、彼女はプルプルと身体を震わせ感動したと言わんばかりにに両手を天高く掲げた。

 

「これはまさに旅をしろという天からのお達し! 更に旅費が無料! これはまさしくシラオキ様が私にパワースポット巡りをするべしという、天啓!」

 

 最近忙しかったし、年末はレースにも出ないし行ってもいいよと許可を出すと彼女は使い込まれたメモ帳を取り出し、ぐふふと不敵な笑みを浮かべた。

 

「学業成就の太宰府天満宮、脚が速くなると言われ縁結びの神様でもある川越八幡宮、神社巡りでは外せない伊勢神宮に熱田神宮、ウマ娘に加護を与えると言われる賀茂神社や藤森神社!

そして招き猫というラッキーアイテムを祀る豪徳寺や絵マ発祥と言われる貴船神社、さぁ何処に行きましょう!」

 

 立て板に水をかけるようにつらつらとパワースポット列挙してみせたフクキタル。相変わらずそう言った方面にはめっぽう強いが、この努力を少しでもレースに傾けてくれたらと思わずにもいられないけど、好きなことにひたむきなことは良いことだ。理事長からのお知らせによれば2人以上で行くこととの話だったので、誰か誘ってみればと提案してみるとフクキタルはそうですねと言って携帯で友達に連絡を取り始めた。

 だが、手応えの方はあまり芳しくないらしく表情が険しい。

 

「スズカさんは先約、タイキシャトルさんもあまり興味がないようですね。エアグルーヴさんは生徒会で行くようですしキンイロリョテイさんは......え、香港に行くので無理? となるとこれは神頼みをすべし! 今日の星座占い一位は牡羊座、ひつじ、ひつじ......閃きました!」

 

 しばらく唸ったのち何か思い当たる人物が見つかったようで、彼女は何処かに電話をかけ始めた。

 

『はい、メイショウドトウです〜』

「ドトウさん、私と一緒に旅行に行きませんか!」

『りょ、旅行ですかぁ〜?』

「はい! 全国のパワースポットを巡り、各地のありがた〜い力を受け取りに行きましょう! 一緒にどうでしょうか!」

『い、いいんですかぁ? 私、どんくさいですから何かトラブルがあったりするかも』

「ふふん。予想外のことも旅の醍醐味の一つですよ! 私のトレーナーさんは旅慣れしていると言っていましたし、何も問題はありません。大船、いや七福神の宝船に乗ったつもりでどどーんと構えていれば良いのです!」

『そ、それまでいうならお願いします〜』

「はい! では、日程などは一緒に考えていきましょう! それでは! と、いうわけでドトウさんと一緒に行きます!」

 

いいね、と答えると嬉しそうに身体を揺らし始めた。

 

「学園祭の時はお世話になりましたし、パワースポット巡りをしてゆっくりと参道で買い食いしてお守りを買っておみくじを引いて、夜になったら温泉にゆっくり浸かって〜。あー、いいですねぇ、お互いレースもひと段落しましたしその慰労会も兼ねてということで! 我ながらいい思いつきでしたね」

 

 ゆっくりと温泉に浸かった姿を想像してか頬を緩めるフクキタル。去年自分と行った温泉旅行のことを思い出しているのだろうか、しかし突然しょんぼりと耳を畳んでしまった。

 

「となると、全部のスポットは回れませんね。ゆっくり時間をかけて回りたくもありますが、パワースポットは回れば回るほど運気が高まります。ここ最近不運続きだったドトウさんのためにも沢山回りたいのですが、ゆっくり回りたくもあり」

 

 旅行先はたくさん、しかも全国に散らばっている。取れる時間は予定を聞いてみないことにはわからないけれどそれぞれの年末の予定もあるだろうし、3日から4日ほどだろう。どうしたものかと机の上に目を見やると、糖分補給のために買い溜めしてあるキャラメルの箱が目に入った。行き先が複数ある時の決め方には由緒正しいアレがあるじゃないか、と手を叩く。

 

「え、トレーナーさんにいい考えがある、と?」

 

 予定さえわかったら、後の段取りは任せてほしいと伝えるとフクキタルは不安そうにこちらを見た。

 

「え、でも回りたいパワースポットはたくさんありますし、旅行の日程を組むのは大変だって」

 

 大丈夫大丈夫、任せてほしいと胸を叩くと、わかりましたと渋々ながらうなづいてくれた。

 アレをやるためには用意するものがたくさんある。記録用のハンディカメラとバスと列車の時刻表。欠かせないとっておきのアレはどこにしまったかな......

 

 

◇◇◇

 

「不備! 行き先が書いていないではないか」

「なに、行き先は当日に決める? 大丈夫なのか?」

「信頼と実績のある方法? な、なるほど」

「了承! では、引率は任せたぞ!」

 

 

『ウマ旅 申請書

日本ウマ娘トレーニングセンター学園理事長 秋川やよい 御中

 

冬季大旅行 ウマ旅 に申請いたします。

 

旅行先 ーーー

 

申請日2021年12月XX日

 

申請者 マチカネフクキタル

    メイショウドトウ

 

引率 マチカネフクキタル担当トレーナー XXXXX』

 

 

◇◇◇

 

 夜の21時半、新宿駅バスターミナル。

 冬のが肌寒い風が吹き込むなか、集合時間5分前にピッタリと来てくれたのはオレンジ色のシルエット。小さなスーツケースを転がしながら小走りでやってきた彼女は、自分を見つけると服を見せびらかすようにくるりと一回転して見せた。

 

「むふふ、みてくださいトレーナーさん、この完全装備(フルアーマー)を! まさに幸福の化身、ありがたいパワーを取りこぼすことはしませんとも」

「お、遅くなりましたぁ〜」

「いえいえ、まだ5分前ですよ」

 

メイショウドトウも揃ったようだ。しかし頭の上に乗っているのはたぬき?

 

「ヴッフ」

「ひゃわ、すみません離れてくれなくて」

 

一声鳴くと、ドトウの持っていた手持ちカバンの中にすっぽりと収まって顔だけ出してこちらを見ている。大人しそうだし、カバンの中に入ってくれるならなんとかなるだろう。

 

「ところで、何故このような時間に? 皆さんは朝やお昼から行動すると聞いているのですが。というか、行き先も聞いていないのですけれどどうなんですかトレーナーさん」

「そ、そうなんですかぁ?」

「もしかしてもしかして海外旅行とかですか!」

「ふわぁ〜」

 

 色めき立つ2人、寒いのか少しばかりヘンにテンションが高い様子。まぁまぁ、糖分補給に甘いものでも食べなよとキャラメルの箱を2人に渡した。

 

外装がサイコロになった『サイコロキャラメル』を。

 

「......サイコロキャラメル、まさか」

「縁起物なんですか?」

 

 おおよそ察しがついたらしいフクキタルが青ざめるがそんなことはお構いなし。レースも旅も人生も生殺与奪の主導権も他人に握らせるなとどこぞの誰かが言っていたじゃあないか。

 

では行き先は運任せ。パワースポットいっぱい巡ろうね。

 

「ヤッパリィィィィィ!?」

 

 

 

 

ウマ旅 『フクちゃんドトウちゃんのんびりゆらりパワースポット巡り』

 

ウマ旅『運気を身につけろ! パワースポットサイコロの旅』

 

 

というわけで今回の旅の日程(きかく)説明。

 

 今回用意した日程は本日を含め4日間、4日目の夕方には申請締め切り日となるため、それまでに東京はここ新宿駅に到着しなければならない。タイムリミットまで沢山のパワースポットを巡り、神様のありがたーい力を授かり幸福になるおまじないをするのだ。

 まず第一のパワースポット巡り及び開始地点は福岡県の『太宰府天満宮』から。藤原道真公を祀るこの神社は学業成就を願うならばうってつけ。学生らしく勉強に身が入るように祈ろう。参道の梅ヶ枝餅も美味しいぞ!

 

本日の移動手段。

キング・オブ・夜行バス『はかた号』。

移動距離は1100km、所要時間14時間。

 

 というわけでチケットは取ってるしバスはもう目の前に来てるから、とすぐ目の前に停車したはかた号(キング)を指し示す。

 

「なんて事するんですかぁトレーナーさぁん! こんなのって無いですよ! 計画立ては任せろってこれじゃあ無計画で何も考えてないのと一緒じゃあないですか!?」

「す、すく、救いは......」

 

救いはない。ほれ、乗った乗った。

 

「いやですぅ〜〜〜〜あ〜れ〜」

「はわわ〜」

 

→→2時間後(午後11時、静岡SA)

 

眠れた?

 

「叩き起こされたんですけど!?」

「口が渇きます〜」

 

トイレはしっかり行くこと。あと口が乾くならマスクつけると良いよ、あげる。

 

「ありがとうございます〜」

 

200円。

 

「お金取るんですかぁ〜!?」

 

冗談だよ。じゃ、また次の休憩に。

 

 

→→→11時間後(翌日午前8時半、佐波川SA)

 

「......」

「......」

 

はかた号は山口県の佐波川SAで2回目の休憩になる。身体を伸ばすついでに記録カメラを回すと、入り口からノソノソと2人が降りてきた。目の隈は2人ともばっちりで髪もボサボサ。うむ、元気そうで何よりだ。

 

「これのどこが元気なんですかぁ」

「お肌が......お目目が.......」

 

 声を荒げる気力もないフクキタルといつもの倍は目を回しているドトウには化粧水を渡して顔に塗るようにジェスチャーしてみせる。もう2回くらい夜行バスにはお世話になると思うから、もし持ってきてたら手持ち鞄の方に移しておいてね。

 

「もう散々ですぅ......」

「というかトレーナーさんはどうしてこうも元気なんですか! 私たちだけ不公平ですっ! もしや、1人広い席をとっているようなことがあれば信頼関係が揺らぎますよっ!」

 

 隣に座っとるやろがい、と返すとぐぬぬと歯軋りするフクキタル。いくら理事長がお金出してくれるとはいえ申請予算内にはしっかりと収めるつもりだ。本音と建前は大事なんだよフクキタル君。それに君たちが辛そうにしてると元気が出るんだ、そう言えばもぎゃーとやり場のない怒りを虚空にぶつけながらフクキタルが元気よく叫んでいた。

 

じゃあ、あと2時間頑張ろう。

 

「す、救いは」

 

ない。

 

→→→→→4時間後(博多バスターミナル→直行バス)

 

「とう、ちゃく!」

「や、やっとつきました〜」

「ヴッフ」

 

 広々とした参道、立ち並ぶ商店と食事処、日本なのに外国人と間違えそうになるほど聞こえてくる外国語。

 学生時代の修学旅行ぶりだが、何も変わっていなかった。

 

「とりあえずまずは腹ごしらえから! そこのお方、梅ヶ枝餅を12個ください!」

「はいよ」

 

 近代化の波か、キャッシュレス対応になっていたのでカード払い。あ、トレセン学園で領収書くださいな。

 

「では冷めないうちに、トレーナーさんも!」

「いただきます」

「いただきます!」

 

 フクキタルに渡されたそれを一口齧ると、香ばしく焼き目のついた素朴な生地にたっぷり入った粒餡の甘さにまず驚く。ほんのりとした甘さと暖かさが冬の寒さで冷えた体に染み渡る。

 

「甘くて美味しいです〜」

「梅ヶ枝というからてっきり梅が入っているのかと」

 

 確か道真公の墓前に餅と梅の枝を供えたのが始まりだとか。梅の枝は折っても花が長持ちするから、平安時代では季節の風物詩として手紙とかにも入れられていたんだ。桜折るバカ梅折らぬバカってね。

 

「博識ですね!」

 

 高等部の古典知識だよフクキタル。そんなんじゃテストで点が取れないぞう。

 

「なんとっ!?」

 

それから我々は太宰府天満宮を満喫した。道真公にお参りをし、他にも祀られている神様にも手を合わせ名所を巡り......そしてあっという間にリミットが来てしまった。

 

→→→→17:00(博多駅)

 

 道真公にお祈りは済ませてきましたね?

 

「バッチリ! これで期末テストも安泰ですっ!」

「えへへ、お守りをたくさん買ってしまいました」

 

たくさんの学業成就守りを見せて喜ぶフクキタルの成績が不安でしょうがないが、それは置いておこう。

 

お二方、運命のダイスロールのお時間です。

そう言いながら鞄の中からパネルとサイコロを取り出した。

 

1 四国に泊まろう 道後温泉(愛媛)

2 お伊勢参りだ 伊勢神宮(三重)

3 こんこんお狐  伏見稲荷神社(京都)

4幕末に思いを 霧島神宮(鹿児島)

5 カキが食べたい 厳島神社(広島)

6 先達の道を辿って 京都上賀茂神社(京都)

 

「おお、これはなかなかのパワースポット。霧島神社というのは聞いたことありませんが、はて」

「たしか、縁結びの神社だったはずですぅ。坂本龍馬さんが初めて新婚旅行をしたとかで有名でした」

「それはなんとめでたい! もし私が結婚した暁にはぜひ訪れたいですね! ところで」

 

 キョロキョロと不安そうに辺りを見渡すフクキタル。確かに冬で陽が落ちるのがはやく辺りが暗いから不安になるのもわかるが、これは多分別の不安だろう。

 

「まさかまさか、また夜行バスではない、ですよね?」

 

今日は宿の関係もあるし新幹線だね。

 

「その言葉が聞きたかったです!」

 

じゃあ、早く振ってもらって。

 

「よし、それでは参ります! 何が出るかな何が出るかな♪」

 

それはサイコロ任せよ〜。

 

「とぅ!」

 

フクキタルの手から放たれたサイコロは宙を舞いタイルの上を転がって止まる。出た目はなんだと3人で上から覗き込むようにみると。

 

「2、ですね」

「ということは」

 

『2番 お伊勢参りだ 伊勢神宮(三重)』

それでは新幹線で名古屋まで行きますよ。

 

「おや、伊勢神宮は三重県のはずでは?」

 

新幹線通ってないので名古屋で一泊しまければ行けません。朝起きたら普通列車で乗り継いで行きますよ。

 

「結局苦行じゃあないですか、いやだーっ!?」

「お、お宿は?」

 

ビジネスホテル。名古屋駅地下に立派なお宿なんてない。

 

「しゅ、出張じゃあないんですよ!」

 

 というわけで次の便は19時なのでまず2時間待機です。せっかくなので博多の豚骨ラーメンでも食べに行きましょう。博多に詳しいナイスネイチャさんに美味しいところを聞いてきたので任せんしゃい。

 

 

→→→→→(博多駅→名古屋駅。所要3時間、760km)

 

 

「一泊!」

「ですぅ!」

 

おやすみ。

 

 

→→→→→(名古屋駅→近鉄名古屋駅→宇治山田駅→路線バス。所要時間2時間半、130km)

 

「到着!」

「ですぅ!」

 

 参道であるおかげ横丁は後で回るとしてまずは本丸の伊勢神宮から回っていくこととしよう。数年前に行われた遷宮によって殆どの建造物は一新されており、鳥居をはじめこの目の前を流れる五十鈴川の上を渡るこの橋も白木が目に眩しいくらいだ。

 

「トレーナーさん、ドトウさん、鳥居の前ではしっかりとお辞儀をしないといけませんよ。神社は神様のお家なのですから」

「お邪魔します〜」

「失礼したしますっ!」

 

 軽く頭を下げるドトウと深々と90度ビシッと腰を曲げるフクキタル。そこまでかしこまられても迷惑だと思うよ。他の参拝客のことも考えないとそれも失礼にあたるんじゃないの?

 

「あ、これは失敬失敬。では、いざ参りましょう!」

 

ここから先はカメラ禁止なので、カメラもオフにしておかねば。天照大御神の神域で無粋なことは憚られますからね。

 

→→→→→

 

「いやあ、なんというか、神々しい雰囲気を感じることが出来ましたね。これで身体の良くないものが洗い落とされたとそう思いませんか?」

「はい。すごく素敵で、空気もおいしくて。お賽銭もいっぱい投げちゃいました」

「うっかり財布を投げそうになった時はびっくりしましたよ。と、こ、ろ、で!」

 

赤福か伊勢うどん、どっちかな。

 

「両方ですっ! 腹いせにたらふく食べますよ〜!」

「お〜!」

 

 伊勢うどんは1cmの極太やわらかうどんに濃いめの出汁醤油タレをかけて食べる郷土料理。なんでもこの太さの面を柔らかく茹で上げるには1時間もかかるとか。だが茹で続けておくことですぐに出せる利点やつゆではなくタレにすることで食べやすい利点もある。沢山の参拝者に提供するための進化だとか、なんとか。

 普段のうどんと比べるとコシのなさが目立つから好みは分かれるけど、麺がふわもちで美味しいんだ。

 

「博識ですねぇ!」

「美味しそうです」

 

 ドトウが七味を瓶丸ごとうどんにぶちまけた時は心臓が止まるかと思ったが、当然のように真っ赤っかなうどんを啜って美味しそうに見を震わせていたのには驚いた。聞けば辛党らしいのだが、それにしたって限度がないかい?

名物赤福の〆にあったかい煎茶を啜ったところで、次のダイスロールの時間でございます。

 

1 お揚げが食べたい 伏見稲荷神社(京都)

2 温泉でゆっくり 下呂温泉(岐阜)

3歴史を学ぼう 賀茂神社(滋賀)

4怪物の足跡を辿って 笠松レース場(岐阜)

5輓バレースが見たくて 帯広レース場(北海道)

6あとはゆっくり 品川駅(東京/ゴール)

 

「手書きなんですね。最初はワープロのカクカクした文字ではありませんでしたか?」

 

流石に全部打ち込んで印刷するのは無理だよ。

 

「デスヨネー。では、ドトウさん振ってみますか?」

「えええいいんですか? 変なところ出ちゃったらどうしましょう」

 

それもまた醍醐味(おいしいヤツ)なので。ささ、ずずいっと。

 

「で、では......」

「さあ、一緒に歌って振りましょう!」

「「何が出るかな、何が出るかな、それはサイコロ任せよ♪」」

「とーう!」

 

 天高く放り投げられたサイコロはクルクルと周り、地面に落ちてピタッと止まった。3人でその出目を覗き込む。ポッチは4つ、つまり出目は『4』。

 

『4 怪物の足跡を辿って 笠松レース場(岐阜県)』

 

「笠松。ローカルシリーズの一つですね」

「あのぅ、パワースポット巡りのはずでは?」

 

 オグリキャップが育った場所ならパワースポットで間違い無いでしょ。大食いの加護を得られそう。

 

「それはまた別の加護では......?」

 

 

→→→→→(伊勢神宮→名古屋駅→笠松駅→徒歩。所要3時間30分、160km)

 

 

「なんと」

「まさかこんなことになっているとは......」

 

 元来た道を引き返し、快速列車に揺られ駅から徒歩数分。そこにあるはずの笠松レース場の入場門は固く閉ざされ、このような注意書きが書いてあった。

 

『レースの公平性を保つため、しばらくレース開催を中止します』

 

「レースの公平性?」

「何かトラブルでもあったんでしょうか?」

 

 確か八百長疑惑があったとかニュースで見たな。もう収まってると思っていたのだがまだだったとは。

 

「下調べ不足じゃないですか!」

「救いはないのですか......?」

「全く、少し離れているうちに。弛んでいるな」

 

 声が聞こえたから横を振り向くとジャージ姿の芦毛のウマ娘が荷物を持って同じように佇んでいた。彼女の制服は高知トレセンのもの、すわ同じ目的で着た不幸な同業かと思い彼女に声をかけると、こちらの正体にも察しがついたようで礼儀正しく挨拶してくれた。

 

「中央からわざわざ来てくれるとは感謝する。途中で高知に移ったからその縁でこんな格好だが、私はここの卒業生なんだ」

 

おや、OGの方だったか。折角だしお茶でもしない? ついでに笠松の話を聞かせておくれよ。

 

「なら友人の所に案内しよう。あそこなら茶も出してくれるはずだ」

 

 

「で、あーしのところに来たと」

「そうだ」

「というか帰ってくるなら準備したのに!」

「すまない。忘れていた」

「忘れんなし!」

「よーう、元気そうで何より」

「アンタは変わらないねぇ」

「息災だな2人とも。最近はどうだ」

 

 案内されたのはトレセン近くのダンススタジオだった。受付で暇そうにだべっていたウマ娘3人に彼女が声をかけると、店員らしい髪を巻いた鹿毛のウマ娘ががワタワタと奥に引っ込んで、残った黒鹿毛の面子をつけたウマ娘と革ジャン姿の芦毛のウマ娘が彼女と親しげに世間話を始めていた。

 

「ああ。すまない。旧交を温めるのに夢中で忘れていた。彼女らは中央からここに旅行に来たらしいのだが、レース場があの様ではな」

「それはご愁傷様」

「ゆっくりしてきなよ。ここいらには何もねえけど!」

「ど、どうも」

 

 一回りほど年上なお陰か萎縮した2人はさておきこのスタジオ受付を見回すと、オグリキャップが目につく。ポスターはもちろん、記念品のカレンダーやパカプチ、自作らしい飾り気に欠けた垂れ幕も目を引く。

『笠松の星 オグリキャップ』

 

少し古ぼけたそれは、おそらく彼女が現役の時の──

 

「あーしたちはオグリと同期だったんだ。一緒に走ったこともある。もう昔の話だけどね」

 

 ところで砂糖はいる? と聞きながら紙コップのコーヒーを差し出してきたのは件の店員ウマ娘だった。ブラックで十分だとジェスチャーしてコーヒーを受け取り一口飲む。やはりというべきか安っぽいインスタントコーヒーは、中央も地方も味が変わらないらしい。それでと無言で続きを促すと、彼女は当時のことを少しだけ語ってくれた。

 

「オグリが中央行った時は盛り上がったんだよね。そん年の入学試験の時なんか教室が足りなくなるくらいにウマ娘が押しかけたの。現役ウマ娘まで試験監督に駆り出して大変だったんだよね」

「あの時は大変だったな。トレーナーも仕事量に目を回していた」

「まるでお祭り気分だったよね。オグリと走った時の話をしてって毎日せがまれてさ」

「なんでもないレースもスタンド満員で緊張したよなぁ」

「けど、今はこーんな有様よ。寂しい商店街に人気のない町、挙句に八百長騒ぎ。この凋落っぷり中央のエリート様には予想できなかったかしら?」

「そ、そんなこと言われましても......」

「冗談よ。元々こんな場所だもの。何も変わらないわ」

 

 はん、と鼻で笑って見せた巻き髪のウマ娘が顔を崩して笑い、つられて3人も笑って見せた。

 

「八百長騒ぎも蓋を開けてみれば面白い話よ。3年間掲示板に入ったことのない子に情けをかけて結託したら、嘘をつくのが下手くそですーぐバレたの」

「アレは傑作だったね。なんでもないレースなのにパドックからもう右手と右脚が両方いっしょにでちゃ、トレーナーはすぐ気がつくよ」

「イタズラも反則もこっそりやんないと」

「おーう言うねえ、散々仕掛けてたから?」

「そうそう」

「なんと」

「あらあら」

 

 中央ではまず見ない、考えもつかない発想だろう。中央といえばライバルを蹴落としてナンボの世界だ。個人的に親しくともレース中に一切手加減はしない、情け容赦は控え室に置いていくのがルールだ。

甘えたぬるま湯、といえばそれまでだが、ローカルらしい優しさと温かみに溢れる話じゃあないか。

 

「反則と聞くと悪巧みばかり思い浮かびますけど、そのような裏話が」

「優しい人ばかりなんですね」

「どうだかね。小中高とおんなじような面子なんて顔見知りばっかだもの。あーしらなんて幼稚園からずっと一緒なんだからね?」

「せ、狭い世間ですね」

「田舎ってのはそんなもんよ」

 

 地平線には低い建造物の背後にうっすらと雪が積もる山々が並び、辺りには畑か田んぼが広がる笠松。冬場の農作業なのかビニールハウスをいじる男性がいれば、その彼に通りすがった軽トラックの運転手から声をかけられ親しげに話しているような、隣人との距離感の近いのんびりとした田舎らしい光景があった。

 

「誰も彼も顔見知りばかり。闘争心なんて持ってる方が珍しかったわ」

「オグリなんてモロそうだったろでしょ? 食堂で飯を山盛りにしてハムスターみたいに口に詰め込んで口動かしてんのはかわいかったなぁ」

「あのウサギはそうだったよねぇ」

 

「だが、あいつは強かった」

 

ジャージ姿の芦毛の彼女の言葉には、確かな力があった。

 

「この場所の停滞した空気を払い除け、中央からの目に止まらずとも直ぐにここを飛び出していたろうさ。東海ダービーも間違いなく制していただろう。悔しいことにな」

 

 そこからオグリキャップの笠松時代の話をたくさん聞かせてもらった。入学初日から泥まみれのジャージで登校してきたことやら、専属マネージャーベルノライトとの馴れ初め、学園食堂の食料を食い尽くし今でも何件かオグリキャップ出禁の張り紙がある食堂が少なくないことなど。

 最後にもし会うことがあれば伝えてくれ、と最後に伝言を一つ頼まれた。といっても簡単な言葉だ。

 

『たまには帰ってこい。ここはいつでも待っているからな』

 

 

→→→→→(笠松駅→名古屋駅→京都駅→路線バス。所要2時間、140km)

 

『5 ウマ娘の歴史を辿る 上賀茂神社(京都)』

 

 京都で最古の神社の一つであるという上賀茂神社は、ウマ娘と縁が深いと言う。天皇に奉納した競バ会を移して始まった『賀茂競べウマ』なる神事があったり、代々宮司や禰宜(ねぎ)の1人が芦毛のウマ娘でなければいけないという言い伝えが伝わっている。

 

「中央では全然勝てませんでしたが、競べウマでは負け知らずなので!」

 

 フンス、と胸を張ったのは神山さんと名を変えた元中央選手だったというウマ娘の巫女さんだった。神社のご利益は良縁や縁結び、厄除けなどがあり、『清めの砂』の風習はここの信仰から始まったんですよ、なんて豆知識なんかをフクキタルが鼻息荒く聞いていた。その彼女がまだ巫女さんに食らいついているのは放っておいて、ドトウと一緒に一足お先に参拝だ。

 

二礼二拍手、そして願い事を心の中でいってもう一度礼。この時の願いは人に言うと叶わないなんて迷信があるが、自分の願望を言いふらすのははしたないからそんな俗信が広まったんじゃなかろうかと邪推したくなる。

 

目を閉じてずっと願い事をしていたらしいドトウが不意につぶやいた。

 

「......お願いをすれば、フクキタルさんの脚は良くなるのでしょうか」

 

彼女の呟きにさてなとどっちつかずな返事を返す。私は怪我は神に祈ってもどうにもならないことだけは知っているが、同時に神様はとても気まぐれなこともよく知っている。

 

叶うといいなと呟くと、はいと短く返事が返ってきた。

 

→→

 

「何が出るかな何が出るかな、それはサイコロ任せよ」

「神様仏様シラオキ様、どうか近場ですみますようにっ!」

 

『1 トレセン発祥の地を訪ねて 賀茂神社(滋賀県)』

 

「1! 滋賀県!」

 

そこそこ近いところをひいたね。

 

「伏見稲荷を逃したのは痛いですが......たぬきさんは連れて行けませんからねぇ」

「ヴッフ」

 

 賀茂神社までの所要時間は京都駅から電車で1時間、全く運のいいやつめ。その幸運に免じて京都のいい旅館を予約します。チェックインして荷物を置いてから向かいますよ。

 

「やったーっ!」

「参拝の甲斐がありましたね」

「全くもってその通り!」

 

→→→→→(京都駅→近江八幡駅→路線バス→賀茂神社。40km、1時間20分)

 

「元は戦争のために、ですか。考えたくもありませんねぇ。血を見るのは苦手です」

「ぼぼぼ暴力なんてとんでもないですぅ!」

 

 展示されていた略歴を読んで震え上がる2人。賀茂神社は元々日本最古のトレセンがあり、元はレースのためではなく戦争のためのトレーニングをしていたという。君たちにときどきぶっ飛ばされる人間の身になると納得できるんだけどウマ娘は力も強く脚も速いし、戦争をするにはうってつけだ。いやあ、今がは平和な時代でよかったよ。そうでなかったらウマ娘に立ち向かう勇気なんてないからね。

 

 ここではレースの無事やウマ娘の健康を祈る神社であると言う。熱心にドトウが祈っていたのが印象に残った。

 

 

→→→

 

「おほーっ! 伊勢海老ですよ伊勢海老!」

「アワビなんて食べてもいいんですかぁ?!」

 

どうせ理事長持ちだって考えたら1番高いのでもいいかなって。ちなみに宿泊費は今までの旅費より安いよ。

 

「......そう考えるとバカみたいな移動距離ですねぇ」

 

ちゃーんと帰れるかどうかは君らの出目次第だよ、ファイト。

 

 

→→→→→→

 

『1 ばんえいを見よう 帯広競馬場(北海道』

 

「やってくれましたねトレーナぁああああああああああ!?」

「救いは......救いは......」

 

 試しに一回くらいという2人の言葉にのって見たらこの大惨事。いやあ、1番のはずれをここで引くことになろうとは。6分の1なんてそうそう当たらないと思ったんだけどなぁ。

 

「6の目が出ていたら東京行きだったんですよもぉ!」

「い、移動時間はどれくらいなのでしょうか」

 

 震え声のドトウの質問にルートを思い浮かべつつ考える。確か飛行機を使えば羽田-帯広空港の便があったはず。そこから色々乗り継いでいけばいいけど、飛行機を使わないとなると確か。

 京都駅から東京駅経由で函館-札幌-帯広の乗り換えになるね。東京から函館までが5時間くらいかかるかな。

 

「5時間?! と、考えてもみれば最初の夜行バスに比べたら楽勝ですね。あれを乗り越えた我々ですから5時間くらいなんのそのですよ!」

「あのう、函館から帯広までどのくらいかかるのでしょうか?」

「大丈夫ですよ。どうせ1時間くらいです!」

 

6時間。

 

「......はい?」

 

函館-帯広は6時間かかります。

 

「どどどどどどういうことですか! 青森から北海道なんてすぐじゃあないですか、どうして6時間もそんなケッタイな!」

 

 勘違いしてるようだけどそもそも函館は北海道だし函館-帯広間は450km。北海道の広さを舐めちゃいかんよ。

 

「しょ、しょんにゃあ......」

 

 朝は5時起きで7時には新幹線の中ですよお二方。乗り換え含めて合計13時間、頑張っていきましょう。

 

「ところで移動中の記録はしっかり取っているんですよねここだけ切り取られてもこの辛さがカメラの前の人に」

 

やかましい。

 

→→→→(京都駅→東京駅→新函館北斗駅→南千歳駅→帯広駅。所要13時間40分。1570km)

 

「あ゛あ゛あ゛東京が遠ざかっていぎまずぅ〜」

「......」

 

 ドトウちゃんが疲れすぎて見せられない寝顔してる。彼女のトレーナー用に一枚撮っておこうかな、どう思う?

 

「乙女の尊厳を守るつもりはないんですか?! 鬼! 悪魔! たづなさん!」

 

それ本人に言わないでよね絶対。酷い目を見るよ。

 

→→

 

「いつぞや行った札幌レース場は羽田から飛行機でひとっ飛びだったというのにどうしてこう変わらない景色を窓から眺める羽目に」

 

 そりゃレース控えてるわけじゃないからね。いくらでも疲れても構わんなら安い方を選ぶってわけよ。

 

「この疲労困憊っぷりを見てなんとも思わないんですか? 慈悲の心の持ち合わせはどこに」

 

いやだって飛行機怖いんだもん。二度と乗らないあの鉄の棺桶。

 

「そういえばトレーナーさんは飛行機が苦手でしたね」

 

金輪際のりとうない。

 

→→→

 

「東北は冬景色ですねぇ」

「駅弁美味しいですぅ」

 

だからといってワゴンの中全部買い占めるには食べ過ぎじゃないかい?

 

「こうでもしないとやってられません」

 

あっはい。

 

→→→→

 

千歳で1時間ほど乗り換え待ちです。乗り逃すと2時間待ちだからぜっっっっっっっっっったいに時間厳守で。では一時解散。

 

「今からでも間に合うので千歳空港から帯広空港にしませんか?」

 

絶対にノウ!

 

 

→→→→→

 

えー、現在時刻は20時でございます。目的地の帯広レース場最寄りの帯広駅前ですね。ご感想は。

 

「なにも! みえま! せん!」

「真っ暗で寒いですぅ」

 

 というわけでさっさと宿を取って寝ますよお二方。こんな寒いところにいられるか! トレーナーはあったかい毛布にくるまって寝るんですよ。ついさっき予約したホテルで一泊してまた明日!

 

 

→→→→→

 

朝。北海道の冬は寒い。

 

「ぶえっくし!」

 

乙女心のかけらもないくしゃみだねえ。

 

「もう取り繕うほど体力もないんですよ。どこかの誰かさんのせいで」

 

担当ウマ娘と信頼感の揺らぐ音がした。まいいや。んで本日の予定ですが今日で締め切りなんで如何なる手段を使ってでも東京に帰ります。

 

「......ほえ?」

「終わり、なんですか?」

 

 どうにも減便やらなんやらでばんえいレースを見るとどうも帰りが翌日になってしまう事が判明しました。背に腹は替えられないのであらゆる手段を使って期日までに帰れるようにします。ですが、

 

「ですが?」

「で、ですが?」

 

ルールには従ってもらいます。というわけで先にサイコロを振りますよ。

 

『1 とにかく帰ろう 帯広空港→羽田』

『2 いいから帰ろう 帯広空港→羽田』

『3 とりあえず帰ろう 帯広空港→羽田』

『4 せっかくだから 宗谷岬』

『5 自然を満喫 知床半島』

『6 最終手段 帯広駅→陸路で東京駅』

 

「地雷が3つほど混じってますが?!」

「どうしてなんですか!?」

 

だって外れ枠がないとサイコロの意味がないじゃないのよ。八百長はレースでも御法度でしょ? 旅の期日は忘れてましたでゴリ押せば理事長は誤魔化せるからね!

 

「そ う い う 問題ではないでしょう?!」

「あうあうあう......」

 

 ぜーはーと肩で息をするフクキタルの手を取り、いつものサイコロを乗せる。レッツ・ダイスロール♪

 

「ええいこうなったら後は野となれ山となれ! シラオキ様私に力を、うおおおおおおおっ!」

「お、お願いしますぅぅぅぅぅ!」

 

2人の祈りをのせて、紙のダイスが空を舞う。

 

その、出目は果たして。

 

「2」

「2、ですぅ」

 

2。

 

『2 いいから帰ろう。 帯広空港→羽田』

 

ひこうき。

 

→→→→→(帯広競馬場→帯広駅→帯広空港→羽田空港。所要2時間50分。870km)

 

やだ飛行機怖い引っ張らないで誰か助けてぇ!

 

「チェック間に合わないので担いで行きますよドトウさん!」

「はい〜」

 

嫌だぁぁぁああああああああああ!!!!!!!

 

 

 

 

→→→→→

 

総移動距離 約4730km

総所要時間 約42時間50分。

 

 報告書に顛末と以上のことを書いて旅の様子も収めたSDカードと一緒に提出すると、首を傾げた理事長が質問してきた。

 

「疑問! これは旅というより移動ではないだろうか!」

 

私もそう思います。二度とやりませんこんなこと。

 

 

 





騙して悪いが、好きな子ほどちょっといじめたくなる。
ちなみに交通費だけで計算したところ1人10万近くです。

コロナが終わればこんな旅がしてみたいですね。
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