ウマ旅! ~第四回ウマ娘短編合作~ 作:サイリウム(夕宙リウム)
私、アグネスタキオンは研究者だ。
結果を予想し、実験を行い、考察、そこからまた次の実験に繋げる。そう、思考する生き物なのだよ。
だから、考える事は嫌いじゃないし寧ろ好きだと言えよう。
だが分からない事もある。そういう状況も嫌いではないのだが、あまりにも煮詰まってしまってね。
「いや長いです…… 結局貴方は何が言いたいんですか」
私の目の前で黒く綺麗な長髪を揺らしながら、コーヒーを飲む私の友人。マンハッタンカフェがそう返事を返してきた。
「そうだよ、今日はカフェに聞きたい事があったんだ」
「珍しいですね。タキオンさんが私に質問だなんて。お友達関連ですか?」
「いやそうじゃない……」
因みにお友達とはカフェが言う「追い越せない背中」だそうで確かにそこに存在しているらしい。私には全く見えも感じもしないのだがね。
っと、確かにそれも気になるが今回はそれ関連ではない。
私はカフェに質問する為に口を開いた。
「今時の子が好きな場所って……どこだい?」
「……はい?」
~~~~~~~~~
話は今日の朝に遡る。
私はいつものように寮には帰らず、もはや半分自室と化したトレセン学園内のラボにて実験を行いつつモルモット君の朝ごはんを待っていた。
お腹が空いた状態では研究も進むに進まない。
モルモット君、早く来ないかなー。
すると、ラボのドアが二回ほどこんこんとノックされた音が聞こえた。
モルモット君はドアをノックする習慣なんてないし、カフェがこんな朝から来るとは思えない。
……となると来客か。はて、生徒会の誰かだろうか。最近は特に問題なんて犯して無いと思うのだが。
「入りたまえ。ドアは開いているよ」
「すみません失礼します」
「……おや、スカーレット君じゃないか。珍しいね」
ドアを開けると、そこに立っていたのは私の後輩であるダイワスカーレット君だった。
スカーレット君は自他ともに認める優等生なのだが、何故か私の事を尊敬しているふしがある。
私に尊敬する要素があるとは思わないのだが…… なんで懐かれてしまったのだろうね。
かくいう私もスカーレット君のことはかなり好きだ。よく髪のトリートメントなどを譲ってあげたりしている。
そんな大切な後輩がわざわざこんなところに来るなんて何かあったのだろうか。出来る事なら協力して上げたいが……
「あ、あのタキオンさんって、年末予定空いていますか?」
「年末……?特に何も考えて無いがどうしたんだい?」
「実はタキオンさんと一緒に旅行に行きたくて!」
「……ほう?」
スカーレット君に詳しく聞いた所、トレセン学園のウマ娘達のリフレッシュという目的で「ウマ旅」なるもものを企画したそうだ。参加資格はトレセン学園の生徒である事で、その条件さえ満たしていれば複数人での旅行が出来るらしい。しかも移動費、宿泊費、食費などは全てあっち持ち。更には旅行の内容や目的も学園からの指定は無し。
かなりの優遇っぷりで裏を疑ってしまいそうになるが、なんとこちらからは旅行の感想文を提出するだけでいいそうだ。他に力に参加したウマ娘達の旅行の感想文を集めて、一つの雑誌にするそうだが……
私が言うのもあれだが、あの理事長なかなかにぶっ飛んでいるねぇ。
とは言え少し疑問が残る。というか一番の疑問なのだが……
「なんで私を誘うんだい? ウオッカ君とかいるだろう」
そうだ。スカーレット君は私と違って交友関係がかなり広く、みんなから好かれている。
わざわざ私を誘う理由もこれといって無いとは思うのだが。
「あいつ……ウオッカはオペラオー先輩と旅行に行くそうです。なんか自分を極める旅とか言ってました」
「ふむ……だが他の子でも」
「タキオンさんがいいんです!」
そう食い気味にスカーレット君に言われてしまった。
私はびっくりして思わず「うおっ」と呟いてしまったが、彼女はそのまま話を続けた。
「いつも私タキオンさんにお世話になってばっかりで、何もお返し出来てないんです!」
私は「別に見返りなど求めて無いのだがね」と言いかけたが、彼女が縋るような目をしながらこちらを見てくる。
あっ、これはダメだ。どうも私はスカーレット君に弱いらしい。
「ダメ……ですか?」
「あ、あぁ私でいいのなら」
スカーレット君が「ありがとうございます!」と笑顔で返事をくれた。
にしてもスカーレット君と旅行か…… 私自身観光目的では旅行などしないのだが、何故だろう。どこか楽しみにしている自分がいるのは確かだ。これは自分自身の事ながらなかなかに興味深いねぇ……
「あっ、タキオンさん! 何処か行きたい所とかあります?」
「いや……特には考えて無かったが……」
「アタシもタキオンさんが行きたい所に行きたいです! 申し込みの締め切りまでにはまだあるので良かったら考えてくれると嬉しいです!」
そう言い残してスカーレット君は私の研究室を去っていったのであった。
~~~~~~~~~
「と、言う訳だよカフェ」
私は今朝あった事をカフェに語り終える。カフェは飲んでいたコーヒーカップをテーブルに置いて、口を開いた。
「はぁ……普通にタキオンさんが行きたい所でいいのでは無いですか? スカーレットさんもそう言ってますし……」
「考えてもみたまえ。私に行き場所を任せて見ろ。博物館とか行き出すぞ」
「それは……確かにスカーレットさんにはとって微妙でしょうね」
いや、スカーレット君だったら意外と楽しんでくれるか?私が解説しながらツアーするのも悪く無いかもしれないねぇ。
私が顎に手を考えていると
「なら今まで行った所で良かった所とかどうです? レースで色んな場所行ってますし」
とカフェがアドバイスしてくれた。
なるほど、今まで行った場所か……
なら、一ついい場所がある。
「ふむ、一つがいい案が思い浮かんだよ。ありがとうカフェ」
「どうも…… お役に立てた様で何よりです」
私がカフェにお礼を言うと素直に受け取ってくれた。
おや? 今なら押せばいけるんじゃないか?
「カフェ~ ここに飲んで欲しい薬があるんだけどお礼に……」
「丁重にお断りします」
うーーん、残念!
~~~~~~~~~
スカーレット君に行き先を伝えたところ、大変喜んでくれた。私もこれには一安心である。
そこからはとんとん拍子で話が進んだ。
学園に行き先と日程を提出。その後スカーレット君と少し話し合って宿と電車の予約や観光地の検索。
一泊する為に必要な服などを準備する。
そしてついに……
「来てしまったねぇ……」
「はい! ですね!」
冬空が綺麗な今日この頃。吐き出す息は白くなるほど寒いが、目に入る風景からはそれ以上の白い湯気があちらこちらから上がっている。
そう、我々が来たのは群馬県、草津にある「草津温泉」である。これまた有名な温泉街の一つだ。
町の中心にある「湯畑源泉」と呼ばれるものがあり、そこから絶えずモクモクと湯気が上がっている。
さて私が何故温泉街をチョイスしたかと言うと、まぁ理由としては単純でモルモット君と一緒に行った温泉旅行が忘れられなかったからだ。
……我ながら単純だとは思うよ。まぁモルモット君と行った所は草津では無いのだがね。
と言う訳で一泊二日の草津温泉旅行だ。
一泊なのは冬季はウマ娘にとってかなり忙しいからだ。多くのG1レースもあるし、スカーレット君や私のスケジュールの都合上で予定を組んだ結果、この日程になったという訳である。
さて、草津についた私たちがまず最初に向かった先は予約した宿であった。
「ほう……これはなかなか」
学園から宿代などが出ると言う事で、取り敢えず評判が良さそうなとこを予約してみたのだが宿が思った以上に豪華だった。スカーレット君も驚いたような顔をしている。
二人でチェックインし、部屋に案内される。部屋もなかなかに豪華で値段相応と言った所か。
荷物を宿に置いて身軽な恰好で外に出る。今の時刻は昼の十一時頃。ちょうど小腹が空く時間だ。今日の昼の日程は歩きながらの観光だった為、スカーレット君と一緒に観光地をぶらぶらする。
スカーレット君はころころと表情が変わって一緒に歩いていてなかなかに面白い。とても感情豊かな子だ。
「タキオンさん、こっちです!」と私の前を歩いている様子を見守る私はまるで親みたいだ。
はて、スカーレット君の母親か…… なんか悪く無いねぇ。
温泉街の風景を楽しみながら昼食も兼ねて売店で食べ歩きとやらをしてみる。
饅頭や団子、ソフトクリームなどなど…… 何故こうも観光地での食べ歩きは普通に食べる食事とは違って味わい深いのだろうか。モルモット君が作ったご飯も美味しいが、こちらはこちらで美味しい。
外で歩きながら違う環境で食べるからだろうか、はたまた隣にスカーレット君がいるからだろうか。
「タキオンさん、あーーん」
「あむ…… ふむ、こっちも美味しいね。ありがとうスカーレット君」
「いえいえ! やばいタキオンさん可愛い……」
スカーレット君が小声でボソッと何か呟いた。少し顔もにやけているがどうかしたのだろうか。
そんな会話をしながら目的も無くあたりを散策していると、おみやげ屋があったので立ち寄っていく事にした。
入ってみると饅頭などのよくある菓子系のお土産や、謎のストラップなどまぁよくある物ラインナップが揃えられていた。
モルモット君とカフェにお土産でも買っていくか…… 何がいいだろうね。カフェには……まぁ饅頭あたりでいいか。モルモット君にはこの七色に光るキーホルダーでも買っておこう。
「あーこういうのウオッカ好きそう……」
「……本当に君はウオッカ君が好きだねぇ」
「アタシとウオッカはそんなんじゃ!」
そうスカーレット君は否定しているが、楽しそうにウオッカ君のお土産を見繕っている様子では説得力が無い。まぁあえて本人には言わないが。
お土産を買い終えた私たちはそのまま最初にいた宿に帰る事にした。
さてここからがこの旅行のメインイベント。そう温泉の時間だ。
~~~~~~~~~
「これは……」
観光から宿に帰った後、温泉に行こうとした私だったがスカーレット君に止められてしまった。
どうやら、部屋にも個別の露天風呂があるらしいのでそっちに入りませんか?との事。
断る理由も無かったので、私は返事をして部屋についている温泉に先に向かったのだが……
これが部屋についているとは思えないほど広かった。
流石一番評判が良い宿というべきか。
目の前には、先ほどまで歩いていた観光地が街の光で煌煌と光る様子が映し出されていた。
感心する息を漏らしながら、私は髪の毛を洗おうと備え付けのシャンプーを手に取って洗い始める。泡だった髪を洗い流しているとスカーレット君が「失礼します」と言いながらお風呂に入って来た音が聞こえた。
彼女を振り向いて確認しようと、首だけを後ろに回し…でっかいね。いやどこがとは言わないが。
「タキオンさん! 背中洗ってあげますね!」
「本当かい? ならお願いしようか」
スカーレット君に背中を洗って貰った後、私も彼女の背中を洗ってあげたりした。いわゆる洗いっこって奴だ。
しっかり体を洗ってからお風呂に浸かる。肩までつかる時に「ふぅ……」と声が出てしまうのはご愛敬という物だろう。
「いやはや…… 綺麗だね」
「ですねぇ…… 凄い良い所です」
スカーレット君も隣でとてもリラックスしながら浸かっているようで私も少し嬉しくなる。
手で掬ってみると温泉のお湯には少し粘度があり、とろっとしていた。
少し気になるね…… 温泉を試験管に入れて持ち帰ってみようかな。
そんな事を思いながらゆったりしていると、スカーレット君が口を開いた。
「タキオンさん……今回の旅行どうでしたか?」
「ん? いや新鮮な事ばかりで楽しいが…… スカーレット君が誘ってくれなければこんな事してないだろうしねぇ」
「なら良かったです…… 最近タキオンさんがとても疲れているように見えて、それで気分転換になればいいなって」
……はて、最近の私はそんな疲れていたのだろうか。いやでもスカーレット君に心配されるくらいだ。自分でも気づかないくらい疲れていたのかもしれない。前に彼女に休みの大切さを教えたつもりが、逆に今回は教えられてしまったね……
「ひゃぁ!? タキオンさん!?」
「あっはっはっはっ! すまないね、そこにちょうどいい頭があったから撫でてしまったよ」
「もう、タキオンさんってば」
そう言いながらも彼女は耳を倒して、私が撫でやすいようにしてくれる。私に懐くには出来すぎてる子だよ、全く。
確かに私も旅行中に実験とかの事を考えてしまっていたね…… 彼女がせっかく私の為に誘ってくれた旅行だ。たまには何も考えずに純粋に楽しもうじゃないか。それが私がスカーレット君に返せる事の一つだろう。
「スカーレット君、お風呂あがったらちょっとまた歩きにいかないかい?」
「いいですね! 夜の街も綺麗だと思いますよ!」
夜の街に繰り出す二人のウマ娘。うん、年相応らしくていいじゃないか。
この旅行はしっかり私の大切な記録に残しておこう。
~~~~~~~~~
「それでねぇ! 夜の観光地もまた風情があって素晴らしかったよ! いやはやあの風景はカフェにも見せて上げたかったよ!」
「はぁ…… タキオンさんが楽しそうで良かったです。 あとお土産ありがとうございます」
そうカフェが私のお土産に渡したお饅頭をほおばりながらコーヒーを飲みつつそう返事をしてきた。
お饅頭とコーヒーって合うのかね……
「ところで今タキオンさんは何書いてるんですか?」
「ん? あぁこれかい? これは理事長に提出する感想文だよ。そうだねタイトルは…」
Report:『大切な後輩と』としておこうか。
私はスカーレット君と一緒に取った写真を眺めながらそう呟いた。
みなさんこんにちはちみー!(挨拶) 作者は草津温泉行った事ありません!