電子の海に住まう者   作:くろひつじ

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届け物(朗読用小説そのいち・1500文字程度)

 その少女は、蒼空と海の狭間で笑っていた。

 

 

 雲ひとつ無い晴天。

 陽射しをさえぎる物はなく、まどろむような温もりが世界を満たしている。

 はるか遠くで(たわむ)れている鳥たちは、柔らかな風に呼ばれて来たのだろうか。

 わいわいと賑やかな様子が微笑ましい。

 その内、一羽がすうっと翼を広げて降りていく。

 それに釣られて視線を下げると、そこには透明感の高い海が広がっていた。

 白い波が(きらめ)めいていて、たまに魚が跳ねる姿が見える。

 揺らめく海底の岩肌には、色とりどりのサンゴ礁。

 赤、黄色、白、ピンク。まるで夜会の淑女達のように美しく、その隣を優雅に泳ぐ魚たちは、まるでダンスパートナーのようにも思える。

 

 そんな心安らぐ光景に癒されていると、水平線の向こうから、何かがやって来るのが見えた。

 目を凝らして見ると、空や海とはまた違う、青い何かだ。

 まるで音速を超えるような勢い――否。

 実際に音速の壁を物理的に突破しながら、青はひたすら前に進んでいた。

 

 次第に明らかになる姿。

 全体的に流線的で、愛くるしい青いボディ。

 つぶらな瞳と黄色いくちばし。

 大きな二対の手ヒレが特徴的だ。

 空を飛ぶことが出来ず、代わりに海での活動に特化した鳥。ペンギンだ。

 

 しかし、あれをペンギンと断言しても良いのだろうか。

 あれは世に知られるペンギンと大きく違う点が二つもある。

 

 一つ目に、ペンギンは「音速を超える速度で海上を走ったり」しない。

 そもそも地球上にそのような生物は存在しないだろう。

 て言うかどうやって走ってんだあれ。

 

 そして二つ目。

 こちらの方が重要な気もするが、そのペンギンは。

 

「まぁーにぃーあぁーえぇー!!」

 

 なんかめっちゃ叫んでいた。

 

 ペンギン……なのだろうか。

 うん。まぁ、ペンギンなのだろう。

 よく見るとペンギンの着ぐるみを着た少女に見えなくもないが、以前それを指摘した時に恐ろしい目にあったので、アレはペンギンとしておこう。

 

 楽園のような光景に、盛大な水しぶきを上げながら襲来したペンギンは、小さな島へ上陸すると、背負っていた使い捨てロケットをその場に放り捨た。

 なるほど。アレを使って水上を走って――うん、どんな理屈なのかな。

 ペンギンは更に、何やらゴソゴソすると。

 

「よいしょっ!」

 

 どこからともなく、デスクトップパソコンを取り出した。

 いやマジで、どこから出したよ、いま。

 

「機材良し! 回線良し! 応募作品良し! 間にあった!」

 

 ふう、と額をぬぐう動作をした後、パソコンの前にちょこんと座って、マウスを操作しだした。

 あれもどうやってマウスを持ってるんだろうか。

 どうにも謎に満ち溢れたペンギンだ。

 

 まぁ、あまり人のことは言えないけど。

 

「よし! 私は今日も可愛い!」

 

 モニターに映る自分を確認して、キラっと決めポーズを取るペンギン。

(作者注・朗読時は実際にポースをお取りください)

 

 確かに可愛いけど、何やってんだろう。

 まぁ良い。私は私の仕事をしよう。

 

「こんぺんぎーん。お届け物ですよー」

「うわぁっ!?」

 

 上空から声を掛けると、まるで漫画のようにその場で飛び上がる。

 相変わらず反応が面白いな、このペンギン。

 

「は!? え、ひつじさん!? 浮いてる!?」

「はいどうも。お届け物ですよ」

 

 両手で胸元を抑えながら見上げてくる自称ペンギンに、そっと電子郵便物を渡す。

 どうも、と受け取ったのを確認。これで私の仕事は完了だ。

 さて、では可及的速やかにこの場を去ることにしよう。

 

「では私はこれで――」

「ちょっと待ってください」

 

 あ。捕まった。やめて、引っ張らないで。

 

「……どこから見てました?」

「何のことでしょう。私は何も見ておりませぬ」

「……見てましたよね?」

「いや、ちょ……普段か弱いのに、何で今だけこんなに力強いんですか」

「……口封じを、しないと!」

「いやあああ! 食わないでえええ!」

 

 じたばたもがく。最近マジで狙われすぎだろ私。

 なんで郵便で言った先に、必ずジンギスカン鍋用意されてんだよ。

 おかしいだろ、世界。

 

「冗談ですよ。でも本当に口外しないでくださいね?」

「分かってますよ。誰にも言いません」

 

 当然だ。こんなこと誰にも言えやしない。

 私の口からはとても語れない。

 というか、語る必要はないし。

 

「あれ? ていうかそれ、何を持ってるんですか?」

「え? あぁ、これはですね」

 

 すっと、手にしたものを掲げて見せる。

 

「録画アプリ起動中のスマホです」

 

 画面を見せると、ピシリとペンギンが固まった。

 

「むー! なにしてんですか!?」

 

 腕をブンブン振って抗議してきても可愛いだけなのに、そこに気付いていないのがこのペンギンの素晴らしいところだ。

 

「いやぁ。一人のファンとして、推しの尊さを世間に知らしめようかと」

「消してください! 消してください!」

 

 うおっ!? 力強い!?

 このままだと引きずり落とされる!?

 

 くそ、こうなったら最後の手段だ。

 

「とりゃあ!」

 

 用意してあったフリップを取り出して、目の前に掲げて見せる。

 対ペンギン用決戦兵器。この日の為に用意した、特製の代物だ。

 と言ってもまぁ、パソコンで画面をスクショしただけなんだけど。

 

 そのフリップに描かれているのは、暗い交差点と交通安全の看板。そしてその真ん中には。

 

『つぐのひ』

 

「いやあぁぁぁぁぁあ!」

 

 今だ! 脱出!

 

 隙を突いて空高く飛びあがると、翼を持たないペンギンは、ぴょんぴょん飛び跳ねながら抗議して来た。

 

「こら! それはおいて行って!」

 

 必死に飛び跳ねる姿を十分に録画。よし、これで応援隊に良い土産が出来た。

 あとはこの戦場から離脱するのみ。

 

「それではまた。アディオス!」

「あ、ちょっと! むー! 待ってって……」

 

 おう。ちょっと待とうかレディ、その手に持った使い捨てロケットを、どうするつもりかね?

 

「言ってるじゃないですかぁ!」

 

 直後。私の視界は巨大な鉄塊に埋め尽くされた。

 

 

 

 その少女は、蒼空と海の狭間で笑っていた。

 モニター越しに語り掛ける相手は、たくさんの視聴者たち。

 可憐な声で読み上げるのは、様々な想いが込められた作品たち。

 たくさんの幸せを届ける為に。

 ペンギンは、いつまでも幸せそうに、笑っていた。

 

 

 

作者:天野蒼空ファンノベル作成委員会

執筆代理人;くろひつじ

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