「えーと…貴方はニンゲン…だよね…? あのカプセルに入っている人間以外はもう居なくなったと思ってたけど…。」
私がどうするべきか悩んでいる間にあちらから接触してきたようだ。驚くべきことにこの黒曜獣は理性を持ち、更には喋ることができるようだ。これはまだ助かると見ていいのだろうか…?
ともかく、こちらからも何か答えなければ。せっかく転がってきた希望を無下にするわけにはいかない。それに、気になる事も言っていた。カプセルに入った人間以外は居なくなったとは…?
「…ああそうだ。君の言う通り人間だ。そういう君は黒曜獣か?
意志を持ち、更には喋れるとは驚きだ。…できるなら襲わないでほしいのだが…?こちらに敵対や危害を加える意図はない。」
「…流石にいきなりそんなことはしないよ。でも警戒はさせてもらう。貴方の着ているその白衣にボクが黒曜獣だと知っている様子…。…つまり暴動の時に争ったニンゲンじゃなくて、ボクたちを造った研究者側のニンゲンということになる。そうだとすればこちらの弱点を知っているかも知れない。それに貴方はボクよりも大きいし、肉体も逞しい…。ボクでも勝てるか分からない…。」
残念なことに相手はあまりこちらを信用していないようで、かなり警戒されている。ここは相手の警戒を解いてこちらが信用に足りる存在であることを証明しなければ…。
「あまり信用されていないようだな…。そうだ。君の言う通り私は君たちを造った側の人間だ。しかし私は先程目覚めたばかりでね。体はあまり動かせないし、何より丸腰の人間が曜獣に勝てる訳がない。例え体格で勝っているとしてもな…。根拠としては怪しいかも知れないが、ボディチェックでもしてみるか?せめて危険物を所持していないと証明したい。…最終手段ではあるが、私に寄生するという手もあるが…。私としては望ましくないからな…。どうかそれ以外で頼む…。」
「…分かったよ。貴方を一旦信用する事にする。…でも最後の提案は魅力的だなぁ…。貴方はとても筋肉質で逞しい…。その上今は弱ってると来たら捕食したくなるなぁ…。」
思いが通じ、何とか襲われる未来は回避できたようだ…が、彼の最後のつぶやきで、つい反射的に睨んでしまった。この状況であんなことを言われたら誰だって警戒するだろう。まあでも彼も黒曜獣ではあるから仕方ないと言えばそうなのだが…。
「じょ、冗談だよ…。そんなに睨まないでよ…。魅力的なのは確かだけど、ボクは寂しがり屋だからね…。折角いい話し相手が見つかったのにわざわざその相手を消すようなことしないよ。」
「そうか…。いや、こちらも睨みつけてすまなかったな…。…やはりこの身体は曜獣達を引き付けてやまないようだな。厚着でごまかそうとも思ったがこれから逃げる機会も増えそうだし、どうしたものかな…。」
思い出す…。あの強化ガラスの向こうからの並々ならぬ視線を。
…あれは気の弱いものであればその場から逃げ出したくなるくらいの気迫だった。苦い思い出だ…。
「へぇ~!そう思うのはやっぱりボクだけじゃないんだね。貴方からは本当に色んな話が聞けそうだ。こんな所で立ち話も何だし、良ければボクがいつもいる図書館に来て話さない?そこなら安全だし、何より貴方は行く当てがないだろうし…。どう…?」
願ってもない話だ。流石にこんな場所では安全に話せないだろうし、何より先に言われてしまったが行く当てがない為、どうしようか悩んでいたところだ。私は速攻で了承し、彼についていくことにした。
「それは嬉しい話だ。君さえ良ければ是非とも頼む。
…だが本当にいいのか?こんな素性の怪しい者を連れて。なにをされるか分かったものじゃないぞ?まあ争ったとして私が負けるだろうが。」
「まさか、本当にそんなことするつもりなら、もうやってるはずでしょ?それにボクと戦ったとして勝てる望みは薄いんでしょ?そんな無謀なことをするほどボクは貴方が愚かには見えないよ。」
「…その通りだ。いや、余計な事を話したな。すまん。
…では…おっと、そういえば君に名前はあるのか?呼ぶときに何かしらないと後々困るかも知れないから聞いておきたいのだが…あるか?」
「名前?ボクはプーロ。"黒曜獣のプーロ"さ!名前の由来は…
っと、それは図書館に着いたときに話そうか。
そういえば貴方の名前は?ニンゲンには必ず名前があるんでしょ?ボクにも教えて欲しいなあ…なんて。」
「私の名前か?…私のなま…え…は…?」
「? どうしたんだい?」
自分の名前が思い出せない…記憶に障害はないと思っていたが、甘い考えだったようだ。おそらく他にも何個か思い出せない記憶があるだろう。とにかく何でもいいから記憶を辿ってみる…。何か…何かないのか?自分の名前に関係のあるものは…。
…ふと、頭の中をよぎった記憶があった。それは同僚であり、
大切な友人のKとの他愛もない会話の記憶…。記憶の彼は…R?私の事をRと呼んでいるようだ。おそらく本名ではない。愛称的な呼び方だろう。だが今はそれでもありがたい。ともかくそれでいこう。私の名は"R"。本名を思い出すまでそれで通していこう。
「大丈夫かい、ニンゲン?…何だかとても思いつめた表情だったけど…。」
彼は随分と優しい。こんな私でも割り切って信用してくれるくらいには…。今は彼のその優しさにつけ込む…といったら言い方は悪いが、利用させてもらおう。そして私は名前を思い出すまでの仮の名前を彼に明かした…。
「あぁ…大丈夫だ。それより、名前だったな…。私の名は"R" 。
…そう呼んでくれ。」
「あーる?Rっていうのかい?…うん。覚えたよ!これからよろしくR!」
「あぁ。こちらからもよろしく頼むプーロ。」
そう互いに言葉にし、握手を交わした。
…以前にも曜獣に触れた機会があったが、その時に感じた事と全く同じ感触だった。ゴムのようで、しかしながら動物の体毛のような、かなりな独特な手触り…。ずっと触っていたいが、不審に思われるため名残惜しいが手を放す。
「さて、それじゃあ行こうか、R。途中で曜獣が出てきても安心して!ボクがやっつけるから!」
「ははは、それは頼もしいことだ。」
そんなこんなで私達はその場所を去った。向かうはプーロの縄張りにある図書館だ。道中、曜獣たちが出てこないことを祈りつつ。
廊下の天井の隅にある監視カメラが作動していることに気づかずに。
「これはこれは…彼が生きていたとは…。驚きだ。…流石に彼なら計画の妨げにならずに済むだろうか…?…いや、まだわからんな。色々と調査しなければ。願わくば我が友人が彼と出会わないことを願って…。」
プーロ接触失敗END
「えーと…貴方はニンゲン…だよね…? あのカプセルに入っている人間以外はもう居なくなったと思ってたけど…。」
私がどうするべきか悩んでいる間にあちらから接触してきたようだ。驚くべきことにこの黒曜獣は理性を持ち、更には喋ることができるようだ。これはまだ助かると見ていいのだろうか…?
…いや、おそらく十中八九襲われるだろう。相手は本能に従って人を襲い、寄生し、体を乗っ取る生物だ。話す価値はあるかも知れないが、相手が黒曜獣だ。私が研究していた当時も未知の多い存在だった。そんな相手に話を持ち掛けたとして応じてはくれても、いずれ同化させられるだろう。
考え抜いた末に、どうせ同化させられるのならばと私は相手に突進を仕掛けた。しかしそれは失敗だとすぐに分かった。体力の戻っていない体で派手に動いたのが間違いで、体は相手に拘束され動けない。
「話し合おうと思ったけど、貴方もほかのニンゲンと同じみたいだね…。…悪いけど同化させてもらうよ…。」
生温かい感触が肌を覆っていく。気付けば体の殆どが黒い液体に覆われている。そのうち意識も朦朧としてきた。感覚がなくなっていく。同化が始まっているようだ。私はもがこうと試みたが、体力は無いに等しく無駄なあがきだった。もう視界にもなにも映らない。
…やがて声が聞こえてきた。
「貴方の体はとても筋肉質で逞しいけど、体力がない状態だったから簡単に寄生できたよ。こんないい獲物は滅多にいないね。それをボクが独り占めできるなんて嬉しい限りだよ。貴方には感謝しないとね…。まあ…もう聞こえているか怪しいけど。この体は有効活用させてもらうよ。」
そうして私は意識を失った…。
数年後…黒曜獣なのにも関わらず目が黒く、非常に筋肉質で、体長も尻尾も大きい黒曜獣が、白く青い目をした曜獣と揃って廃墟群を歩いているのが確認された。二人はとても仲がよさそうに歩き、廃墟群の奥へ去っていったと記録されている。
原作では主人公が曜獣に捕まり曜獣化していく描写が随所にあります。
最後の話はそれをこの小説でもある程度再現してみました。
それのまとめ動画なんかもYoutubeにあります。