やはり俺にモテ期がくるのはまちがっている。   作:滝 

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ドキッ! 女子だらけのお泊り会。八幡もいるよ☆

 やむを得なく千葉ティーを着て風呂を出た後。

 俺の次に一色が風呂に入り、現在は由比ヶ浜が身を清めている。⋯⋯こうやって表現すると入浴シーンを思い浮かべてしまうからよろしくないな。

 

「お、お待たせー⋯⋯」

 

 風呂から出たらしい由比ヶ浜は、何故かためらいがちにそう言いながら戻ってきた。

 由比ヶ浜が着ているのは、犬の足のマークがプリントされたナイトウェア。彼女の誕生日にプレゼントした服だ。トップスはフルジップのパーカーなのに足元はショートパンツスタイルという、寝間着なのにちょっと外行きっぽくも見える出で立ちである。

 

「それじゃあ、私も入ってくるわね」

 

 由比ヶ浜と入れ替わりで、雪ノ下はリビングを出て行った。そうして雪ノ下がいなくなった後も、由比ヶ浜は立ったままだ。

 

「あの⋯⋯」

 

 由比ヶ浜はナイトウェアと一緒に贈ったナイトキャップをその手に持ち、妙にもじもじしている。そういうことするとスラリと伸びた生足に目が行ってしまうので控えて欲しい。

 それにしても、さっきからのこの妙な反応⋯⋯。あれか、俺は着ているところを見るのは初めてだから、感想を言えってことか。

 

「あー⋯⋯。やっぱり似合ってるな。流石俺の見立てだわ」

「その服見つけたのわたしですけどねー」

 

 照れ隠しで言った一言に、一色はシラッとした目をして突っ込んでくる。まあ確かにそうなんですけどね。

 

「え⋯⋯? あ、うん⋯⋯。ありがと」

 

 しかしちゃんと褒めたというのに、由比ヶ浜のもじもじはおさまっていなかった。いや、さっきから本当になんなの君。

 

「ヒッキー、あの⋯⋯。あんまり見られると⋯⋯ほら、あたしスッピンだし⋯⋯」

「へ? あ、あぁ⋯⋯」

 

 そう言えば風呂上がりってことは、そうなるのか。生足⋯⋯じゃない、格好の方ばかり見ていて気づかなかった。

 由比ヶ浜はそう言うが、言われてしまえば気になってより見てしまうというもの。見上げればお団子頭はただのセミロングになって、しっとりと僅かに濡れている。ギャルっぽさはどこかへ行って、その顔はいつもよりずっと幼く見えた。

 何というか、派手さ成分が消えた代わりに美少女成分が増えた感じだ。つまり可愛い。これは正直に言って──。

 

「いい⋯⋯」

 

 思わず呟いた言葉は、ドーラ一族の息子が料理上手な女の子に一目惚れしたみたくなっていた。

 いやこうしていないと可愛くないのかという話だが別に普段からも可愛いと思ってるけどってちょっと待って何考えてるの俺?

 

「⋯⋯え」

「は?」

 

 そして由比ヶ浜も一色も、そんな一言を都合よく聞き漏らしてくれる耳は持ち合わせていないらしく。

 由比ヶ浜は赤面して固まり、一色は「マジかこいつ」とでも言うような表情で俺を見てくる。

 

「い、いいお湯だったか?」

「いや先輩すっごい誤魔化し方しますね⋯⋯」

 

 我ながら無理のあるはったりに、流石の一色も引いていた。引かれ上手の八幡くんに死角はない。いや死角しかなかった。

 一色は顔を赤くしたままの由比ヶ浜に顔を寄せると、何やらヒソヒソと話しだす。いつもみたいに細々と聞こえてくるわけでもないところがガチっぽくていたたまれなかった。ええ、全部俺が悪いんですが。

 しかし普段とのギャップで萌えてしまうのは仕方がないと思うのだ。こっちの方がいいとは言い切れないが、こういう由比ヶ浜だっていいじゃないか。うん、いい⋯⋯。どうでもいいけどリアルで萌えって言っちゃうやつはおっさん認定不可避だと思いました。

 

「あ、雪乃さんおかえりなさい」

「ええ」

 

 またもドーラ一族化したり、なんやかや喋っていると風呂から上がった雪ノ下が戻ってくる。しかし家の中なのにお帰りなさいって妙な感じだなと思いつつ、立ったままの雪ノ下を見上げた。

 ほんのり上気した頬。髪は肩が濡れないようにかアップにされ、化粧が落ちているであろうその顔は──。

 

「⋯⋯?」

 

 ⋯⋯これは一体どういうことだ? 普段と変わらない、だと⋯⋯?

 ということはこいつ、素でこんなに美人ってことなのか? 確かに化粧っ気はなかったが、ここまでくるともはやチートだ。生まれながらの美貌で世の女性に中指立てるなんてパンク過ぎる。

 

「湯上がりの私に見惚れてしまった?」

 

 パクパクと絶句してしまった俺を見つめ返してくると、雪ノ下は勝ち気な笑みを浮かべてそう言った。これではまたも雪ノ下の思う壺であろうが、ロクな返しもできそうにない。

 

「あの、ガチな反応はこっちも困るんでやめてもらえます?」

「お、おお⋯⋯。髪の毛上げてんの初めて見たから、違和感あるなって⋯⋯」

「ヒッキー言い方⋯⋯」

 

 一色の助け舟にのっかるように言うが、由比ヶ浜に突っ込まれてしまうあたりやはりロクな返答ではなかった。どうやらこのシチュエーションに、押され気味らしい。

 

「さて、どうしましょうね。寝るにはまだ早いし」

 

 雪ノ下は満足気な表情を浮かべると、皆に向けてそう言った。見上げた先の時計は、二十一時半をまわったところだ。お泊り会のコンセプトが何か知らないが、夜ふかしが定番だろう。そんなに遅くまで彼女たちと語り合うつもりはなかったが、確かに寝るには早すぎる。

 

「あ、じゃあこの前していたやつはどうですか?」

「それいいね。ヒッキーも一緒なら面白そう」

 

 と、由比ヶ浜は一色に賛成するが、俺にしたら何のこっちゃだ。訳知り顔の雪ノ下は、クローゼットの中から見覚えのない箱を出してくる。

 

「人生ゲーム⋯⋯の、最新版?」

「知りませんか? 人気すぎてちょっと前まで中々手に入らない状態だったんですよ」

 

 誰が用意したのかは知らないが、一色はそう解説してくれる。

 人生ゲームとは、いわゆるボードゲームの王様的存在だ。俺だって名前やルールぐらいは知っている。ただみんなでやった思い出がないだけだ。一人人生ゲームは一人で桃鉄をする感じで趣が深いので是非オススメしたい。俺以外の人間が精神的に耐えられるかどうかは知らん。

 

「普通のと何が違うんだ?」

「えっとね、ゴールを目指すんじゃなくて、勝ち負けはフォロワー数で決まるんだよ」

 

 そう言ってやったことのあるらしい由比ヶ浜は説明してくれるが、抽象的でさっぱり分からなかったので一色たちが準備している間に説明書を読むことにした。

 まずプレイヤーには三枚のインフルエンサーカードというものが配られ、そのカードにはツイッターやインスタの絵が書かれている。その絵柄と同じアイテムカードを集めると、インフルエンサーカードに書かれた数のフォロワーが増えるらしい。停まったマスに応じてアイテムカードやインフルエンサーカードが手に入ったり、イベントがあったりする。他にも細かいルールがあるが、最終的にフォロワー数が一番多いプレイヤーが優勝、ということだった。

 

「普通に遊んでも充分楽しめると思うけれど、一つ賭けをしない?」

 

 雪ノ下はそう言うと、俺を見ながら不敵に笑った。

 賭け、という言葉は雪ノ下に似合わないような気がする。しかし由比ヶ浜に勝負をふっかけたり、王様ゲームで外れを引いては悔しがっていたのを思い出すと、勝負事自体は嫌いではないのだろう。

 

「いいですねー。何を賭けます?」

「勝者は敗者に対して一つお願いごとをできる、というのはどう? もちろん、その人の可能な範囲で」

 

 いつかの王様ゲームのようなルールに、俺たちは逡巡する。まあ、クジを引く代わりにゲームをするようなものだろう。

 

「いいんじゃないかな? できる限りのお願いなら」

「そうですね。前と同じ条件なら、わたしも大丈夫です」

 

 由比ヶ浜と一色も、どうやら同じ結論に至ったらしい。ただ一人答えを口にしていない俺に、三人の視線が集まってくる。

 

「⋯⋯ま、いいけど」

「それじゃ、カードを配りますね」

 

 話が決まると、一色はカードをシャッフルし始めた。

 一色が配ってくれたカードは、『鉄オタ』『フードファイター』『やって見た系YouTuber』だ。名前的にも微妙なラインナップだが、対応するアイテムカードを集めた時に得られるフォロワー数も微妙である。

 

「あたし、今回いまいちかも⋯⋯」

 

 由比ヶ浜の手札は『トラベラー』『フードコーディネーター』『子育てブロガー』。得られるフォロワー数は俺と似たり寄ったりなので、つまり俺も最初の引きが良くないらしい。

 

「わたしは結構いいですよー」

 

 得意気にそう言った一色の手札は『メイクマスター』『有名アイドルの娘』『トップオブバーチャルアイドル』だ。トップオブで始まる名前のカードは当たりらしく、増えるフォロワー数も多い。その分集めなければいけないアイテムカードは多くなっているので、それでゲームバランスが取られているようだ。

 

「私も同じくね」

 

 満足気に言った雪ノ下のカードは『トップオブ呟き社長』『評論ドクター』『毒舌司会者』である。どのカードもテレビの中で見たことのある人物を模しており、クレームがつかないか心配になるぐらいだ。それにしても雪ノ下さん、妙にあなたのキャラにあったラインナップですね。

 

「それじゃ、ルーレットの出た目で順番を決めましょう」

 

 俺たちはそれぞれルーレットを回すと、出目(でめ)の大きい方から順番を決めた。

 最初から順に雪ノ下、由比ヶ浜、一色、俺の順番である。最初から出目が悪いとかやはり出だしは良くないようだが、ことこういうゲームは最初低迷した方が最終的に勝つのが定番だ。みんなでやったことないから知らんけど。

 

「それじゃ、私から」

 

 雪ノ下がルーレットを回してコマを進めると、インスタの絵が描かれたマスに停まった。

 

『適当に撮った写真がバズった! フォロワー数+二○○万人』

 

 ⋯⋯いやフォロワー数増えすぎだろ。しかも適当って。

 雪ノ下は満足そうに、そのアイテムカードを手札に加えた。雪ノ下が引いたアイテムカードのように、インフルエンサーカードに描かれたアイテムが揃えば、一気にフォロワー数が増えて優位に立てる。

 

「次あたしー」

 

 くるるるっ、と由比ヶ浜がルーレットを回すと、また別の出目が出る。

 

『神レシピツイートがニュースになる。フォロワー数+一○○万人』

「うん、いい感じ」

 

 由比ヶ浜の神レシピ⋯⋯全然想像がつかねぇ。天に召された後に神格化するパターンだろうか? いやまあ三人の中で一番感性がアレだってだけで、料理は上手くなってきていると思うけど。

 

「ではでは、次はわたしですね」

 

 由比ヶ浜がツイートのカードを手札に加えると、次にルーレットを回したのは一色だ。また違う出目で別のマスに止まると、さっきまでとは変わったことが書いてある。

 

『相互フォローを増やそう! インフルエンサーカードを一枚引く』

「ってことで、引きますね」

 

 そう言って引いたカードは『二次元アイドルグループ』だ。トップオブ、という肩書はついていないが、アイテムが揃えばかなりフォロワー数が増えるカードである。

 こうやってインフルエンサーカードを引くことで、元の手札が弱くても巻き返せる、と。さて、いよいよ次は俺の番である。

 

「それじゃ⋯⋯」

 

 くるくるくるっ、と回った出た目の通りにコマを進める。停まったマスに書かれていたのはツイッターの絵だが――。

 

『ブラックジョークがポリコレ警察に叩かれ大炎上。フォロワー数-二○○万人』

 

 っておいいきなり引かれてんじゃねぇか。しかもリアルな炎上理由だし。

 

「流石は比企谷くんね」

「ですねー」

「ヒッキー超言いそう⋯⋯」

「うるせぇよなんでマス目でこんなに言われんだよ⋯⋯」

 

 これ、ゲームだよね? と本気で確認したくなる。まあこうやって盛り上がるのも、このゲームを作った者の思惑通りなんだろうけど。

 気を取り直してゲームを続行するが――それは凄絶な戦いだった。

 雪ノ下が昔の恋人にベッド写真をばら撒かれ、由比ヶ浜がピンボケ写真をアップして無駄にバズり、一色がクソリプを飛ばして炎上した。俺も裏垢に切り替え忘れたままエロ画像にイイネ! を押しまくってフォロワー数が減ったし、ポエム呟きでドン引きされた。その上サイゼで喜ぶ彼女で炎上もしたし⋯⋯ってサイゼ最高じゃねぇか。それで炎上するとか本当になんなんだよこのゲーム。

 しかし基本的にはネガティブなイベントだけではないし、アイテムカードが揃っていけばどんどんフォロワーは増えていく。

 現時点の一位は一色でフォロワー数は五○○○万人。二位は雪ノ下で三五○○万人、三位は由比ヶ浜で二五○○万人。ドンケツは俺でフォロワー数は僅か五○○万人である。いや僅かって数字じゃないけれども。

 

「わたしの独壇場ですねー」

 

 一色はそう言って引いたばかりのアイテムカードを手札に加えると、得意気に笑った。

 確かに一色は引きが良く、圧倒的な強さだ。しかしルールをしっかりと読みこんだ俺は、まだ巻き返しのチャンスがあることを知っていた。

 

「そう上手くいってばかりかどうかは分からんけどな」

「なんですかー、負け惜しみですかー」

 

 うりうり、と実に楽しそうに一色が肘で突いてくる。可愛い。じゃなくて、俺には形勢逆転の道筋が見えていた。

 もちろん、そんなにうまく行くかどうかは分からない。俺は祈るような気持ちを込めて、またルーレットを回した。

 

「⋯⋯来たな」

 

 出目を見て、思わずほくそ笑む。出てきて欲しいそのものの数字が出たからだ。コマを進めると、停まったマスを見て一色はむむっと難しい顔をした。

 

「フォロワーチャレンジのマス、ですか⋯⋯」

「ああ⋯⋯。当然、俺はチャレンジする」

 

 俺が言った瞬間、僅かに時が停滞する。

 フォロワーチャレンジ──。プレイヤー全員の保有フォロワーを強制的にベットさせ、チャレンジに成功すれば総取り。このゲーム最大の博打要素だ。

 

「そして俺が指定するのは──五倍チャレンジだ」

「え⋯⋯何それ?」

 

 どうやら経験者の由比ヶ浜も、ルールの詳細については見落としていたらしい。

 場に出ているフォロワー数が一億人を超えてかつ自分がトップでない場合は、自分がベットする五倍のフォロワーを各プレイヤーにベットさせることができる。このゲームは総フォロワー数が一億二六○○万人を越えたらゲームセット。最後の最後に残された、一発逆転のチャンスだ。

 

「比企谷くんらしい判断ね」

 

 まるで俺の選択を予想していたかのように、雪ノ下は不敵に笑った。何なら劇画調になって雪乃王になっていた。

 ご理解頂いて何よりだ。しかしその余裕の所以(ゆえん)も、俺は理解している。

 当然それだけのリスクを負わせるのだから、チャレンジの成功要件はシビアだ。トップが指定した数字を当てられなければ、こちらの負け。確率的には俺の方が不利だ。

 

「えーっと⋯⋯わたしが数を指定すればいいんですね? じゃあ八で」

 

 一色が指定した出目は、ルーレットの最大数である八だ。八月八日にかけているのかも知れないが、どの数字であっても勝ち負けの確率は変わらない。

 

「いざ、尋常に──」

 

 勿体ぶってそう言った後、俺は勢いよくルーレットを回した。

 そうして出た、その数字は。

 

「⋯⋯勝ったな」

「ええぇぇっ! うそ、本当に出しちゃった⋯⋯。ヒッキーすごっ」

 

 針が指したその数字は、一色の指定した八であった。どうでもいいけどガハマさん、言葉尻だけ捕まえるととてもエロいので自重して。

 これで一気に全員から二五○○万人ずつ俺の元に移り、俺のフォロワー数は八○○○万人でトップに躍り出る。

 

「驚いた⋯⋯。こんなところで運を使い果たすのね」

「先輩、明日隕石が当たって死んじゃうかも知れませんよ?」

「ちょっと? もう少しオブラートに包んだ妬み方してくれる?」

 

 強運を引き当てたのに酷い言われようだった。誰も神からの誕生日プレゼントだって解釈してくれないのが辛すぎる。

 しかしどう言われても、現時点の優勝候補は俺だ。場にあと一一○○万人のフォロワーが出ればこのゲームは終わる。もちろん、気を抜けないのは確かだった。

 

「次は私ね」

 

 そう言って雪ノ下は、ルーレットを回した。出目の分だけ進むと、雪ノ下のコマが俺のコマと並ぶ。

 これは、つまり──。

 

「では私もフォロワーチャレンジを使うわ」

 

 ⋯⋯と、やはりそうなるのだろう。

 チャレンジは一度きりという制約もないから、俺と同じマスに停まった雪ノ下にもフォロワーチャレンジを使う資格があった。トップでもないから、博打を打って出ることだってできる。

 

「ベットは私のフォロワー一○○○万人、全員よ」

 

 雪ノ下の宣言に、俺は鷹揚(おうよう)に頷いた。こうなったら受けて立つしかない。

 それにしてもフォロワーをベットしてフォロワーを増やすって結局お金みたいな扱いになってない? このゲーム倫理観大丈夫?

 

「なら⋯⋯俺の指定する数字は、三だ」

 

 トップが出目を指定できるというルールに基づいて、俺はそうとだけ指定した。

 果たして雪ノ下は、チャレンジに成功できるだろうか?

 このチャレンジの結果は、雪ノ下の運次第。カタカタとルーレットは回る。皆が固唾を飲んで見守る中、出てきた数字は。

 

「──三、だと⋯⋯」

 

 出目を見た瞬間、俺はがくりと項垂れた。雪ノ下は視界の端で小さくガッツポーズしている。負けず嫌いのん可愛いのん。じゃなくてこいつ、まさか本当にチャレンジを成功させるとは⋯⋯。

 

「ええ、あなたが指定してくれたお陰で、私のチャレンジは成功ね」

「わざと俺に後悔を植え付けようとすんのやめてくんない?」

「えーっ、わたしのフォロワーゼロになっちゃうじゃないですかー」

「大丈夫だよいろはちゃん、あたしもゼロだから⋯⋯」

 

 俺の判断をあざ笑うかのような声音で雪ノ下は言い、フォロワーを接収された一色はわぁわぁと騒ぎ立てる。

 これで由比ヶ浜と一色はフォロワー数ゼロになり、俺は三○○○万人、雪ノ下は一気に八五○○万人となり、圧倒的トップの位置に立っている。

 

「なんかここから勝てる気がしないなぁ⋯⋯」

 

 由比ヶ浜はそうぶつぶつ言いながらルーレットを回し、出た目の分だけコマを進ませる。続いて一色のターンで手持ちのインフルエンサーカードの条件が揃い、増えるフォロワー数は『+一二○○万人』。場に出ていないフォロワーは一一○○万人だったから、これで全フォロワーが出てきてゲーム終了だ。

 

「うー、思いっきり負けたぁっ!」

「仕方ないわ。勝負は時の運と言うし」

「雪乃先輩、めっちゃ勝ち誇った顔で言うことじゃないですよそれ」

 

 何やらまたわちゃわちゃしただした三人を見ながら、俺はふぅと息を吐いた。

 最終順位は雪ノ下、俺、一色、由比ヶ浜。つまり勝者である雪ノ下には、敗者に対してお願いをする権利が与えられる。

 

「で、雪ノ下のお願いってのは?」

 

 俺が言うと、由比ヶ浜と一色は顔を見合わせた後に雪ノ下の方を見た。

 以前の王様ゲームと違うところは、勝者が全員に対して指示ができる点だ。雪ノ下はたまに突拍子もないことを言い出すから、気が気ではない。

 

「そうね⋯⋯。今日使うのはやめておくことにするわ」

「えぇ⋯⋯。それいつ発動するか分からない分余計怖いんですけど」

「んー⋯⋯、まあできる限りのお願いならゲームとは関係なしできいてあげたいし、あたしはいいけど」

 

 ガハマさんったらなんて性格のいい子なの⋯⋯。

 何やら意見が分かれたが、俺は一色と同意見だ。だがお願いの権利がなくても何やかやでやらされる気がしないでもない。

 

「そろそろいい時間だし、寝ましょうか」

 

 言われて時計を見れば、もう夜も十一時を回っている。さっきまで盛り上がっていたせいか眠気はまだないが、きっと彼女たちの夜は長いのだろう。

 今宵、彼女たちは何を語り合うのか。片付けを始めた三人を手伝いながらそんなことを考えていると、不意に雪ノ下と目が合った。

 

「比企谷くん。来客用の布団があるのだけど、よければ寝室で一緒に──」

「別室でお願いします」

 

 何故か敬語で答えていた。っていうか一緒に寝られるわけないだろ。

 そういう提案されると色々想像してしまうので、本当勘弁してください⋯⋯。

 

 

   *   *   *

 

 

 おかしい。

 絶対におかしい。

 

「どうしたの? 比企谷くん」

 

 俺はついさきほど、この国でもっともメジャーな言語であるはずの日本語で、はっきりと寝どころは別室にすべしと申し伝えたはずだ。

 

 なのに何故、客人用の布団が、雪ノ下の自室に敷いてあるのか?

 

「往生際が悪いですね、先輩も」

「まあ、ヒッキーだし」

 

 しかし雪ノ下の横暴とも言える行動に、一色も由比ヶ浜も異を唱えることすらしなかった。

 いや、その感覚ヤバくないか? 俺も一応、男なんですけど。

 

「何か問題でもある?」

「問題しかないんだよなぁ⋯⋯」

 

 どうやら女子たち三人は、多少狭くなろうが雪ノ下のベッドで寝るらしい。そこまではまあいいとして、年頃の男女が同室で就寝というのは倫理上問題があるのではないでしょうか。我ながらまともなことを言っている自信はある。

 

「んー、でも流石にこの状況で何も変なことは起きようがないというか」

「するわけないだろ⋯⋯」

 

 一色の濁した表現に、俺はすぐさまそう返す。あれ、ひょっとしたら安心させる一言よりも危機感を感じる答えの方がよかったか? それはそれで変質者扱いされそうなんだけど。

 

「即答されるのも微妙な気分だね⋯⋯」

 

 由比ヶ浜は由比ヶ浜で何か微妙そうな顔をしているし。

 正解は何なんだよこれ。八幡、モウヨク分カンナイ(思考放棄)。

 

「その気があるなら私は歓迎するけれど?」

 

 ⋯⋯で、こいつはこいつでいつも通り問題発言しかしないんだよな。

 ピキンと固まった由比ヶ浜と一色を視界に捉えながら、俺は毅然として言った。

 

「ぼくおうちかえる」

「比企谷くん」

 

 枕をひっつかんで退室しようと俺の肩を、雪ノ下はそう言いながら掴んでくる。身動ぎするが逃れられない。え、何この子。その細い身体のどこにこんな力があるの?

 

「お泊り会よ」

「⋯⋯知ってますが?」

 

 俺の知るお泊り会というのは必ずしも寝室を一緒にしなければならないなんてルールはないはずだが、雪ノ下はパワーワードのようにその言葉を振りかざしてくる。こいつ絶対社会人になったらパワハラ上司になるわ。

 

「どうしても眠れなければ、その時は別室でも構わないから」

 

 ようやく俺の抵抗が功を奏してきたのか、雪ノ下の態度が軟化した。そういう条件なら⋯⋯と納得しだしたところで、由比ヶ浜はくすりと微笑んで言う。

 

「なんかさ、お泊り会らしいこともしたいじゃん」

「ですね。今日は一応、特別な日ですし」

 

 その言葉を聞き届けて、ああそうかと腹落ちした。

 きっと彼女たちは、どこまでも俺の誕生日を祝おうとしてくれているのだ。一色の言う特別な日に、男女の垣根という圧倒的な既成概念を取り払ってまで、そうしようとしてくれている。

 やり方は俺にとってドラスティック過ぎる気もするが、こうなればもう押し問答は無用だった。

 

「⋯⋯分かったよ」

 

 そう言って俺が布団の上に座り込むと、彼女たちはふっと柔らかな笑みを浮かべた。やたらに面映ゆくて、全身をかきむしりたくなってくる。

 

「では寝ましょうか」

 

 雪ノ下がそう言うと、女子たち三人はかなり狭そうにしながらもベッドに潜り込んでいく。何となくその姿を眺めてしまっている自分に気付くと、俺はいそいそと雪ノ下が敷いてくれた布団の中に入った。

 ピッ、と電子音がして、照明が落とされる。

 薄茶色になった世界の中で見えるのは、四角い天井。それからベッドからはみ出しそうになっているパンさんのぬいぐるみと、楽しそうな笑顔。

 

「ね、ヒッキー。もう寝た?」

「お前絶対それ言いたかっただけだろ⋯⋯」

 

 一番俺に近い側で横になった由比ヶ浜は、お目々ランランでこちらを見ている。そんな秒で寝られるヤツはのび太くんぐらいしかいないだろ。

 

「もう出てっていいか?」

「ダメだよー。今からが楽しいんじゃん」

 

 もはや楽しくなることは決定事項らしく、由比ヶ浜は俺の提案を華麗に流していた。うん、ガハマさんこういうの好きそうだもんね⋯⋯。

 

「で、何の話します?」

「好きな人の話とかかしら」

「いきなりぶっこむのやめてもらっていいですかね?」

 

 ワクワクした一色の声に、いたずらっぽい雪ノ下の声が答える。何やらツッコミ難い会話が始まっているが、その空気を察知してか由比ヶ浜は「あはは」と笑った後に続けた。

 

「ヒッキーはさ、この部活ってどう思う?」

 

 この部活⋯⋯というのは、言うまでもなく奉仕部のことだ。

 その問いに答えるには、質問が抽象的過ぎる気がする。というか奉仕部自体、抽象的というか活動が曖昧だ。

 

「どう、ってのは?」

「そのまんまの意味だよ。楽しいとか、大変だーとか」

 

 そう言われると、即答できる質問ではない気がした。何というか、一言で言い表せるほど単純ではないのだ。

 

「その質問はまず一色さんに聞いてみたいわね。一番最近入部したわけだし」

 

 答えあぐねている俺に助け舟を出してくれたのか、雪ノ下はそう言って一色に話を振る。

 

「わたしは楽しいですよー」

 

 しかし急に振られたというのに、一色は実に軽快にそう言った。

 

「公然とサッカー部サボれますし、雪乃先輩の淹れてくれた紅茶美味しいですし。もはや我が家って感じですねー」

 

 っておいサボれるって言っちゃったよこの子。

 夏休み前にそれが原因でサッカー部の顧問から余計な仕事を頂戴したばかりなんだが⋯⋯と思ったが、一色らしい答えではあると思う。

 

「⋯⋯だから、安心できます」

 

 そしてひっそりと。

 そんな一言が添えられて、しんと寝室が静まり返った。

 

「何かその、上手く言えないんですけど⋯⋯。分かりますかね?」

「ええ。充分伝わっているわ」

 

 俺の位置からは見えないが、その声音から雪ノ下が一色に微笑んでいる姿が想像できた。

 千葉村の時とはまた違った角度から一色の本音に触れたような気がして、どこか落ち着かない。

 

「由比ヶ浜さんは?」

 

 雪ノ下がそう答えを促すと、由比ヶ浜は「んー」と考え考えし始める。

 

「楽しいっていうのは一緒かな。でも印象はちょっと違くて、友情! 熱血! ど根性! みたいな」

「どこがだよ⋯⋯」

 

 奉仕部にその要素は皆無だろ⋯⋯。

 いや、まったく無いというのは語弊があるし、由比ヶ浜にとっては雪ノ下という親友を得た場所でもあるから間違いではない。しかし後ろ二つ、熱血と根性には違和感しかなかった。

 

「でも、ヒッキーが一番そうじゃない?」

 

 由比ヶ浜はぐるっと身体を回すと、両手で頬杖をつきながら俺を見た。さっきからこいつは、不思議なことばかり言っている。

 

「何でそう思うんだ?」

「だってヒッキー、あんまり顔に出さないけどすごい真剣じゃん。それにちょっと強引だけど何でも解決しちゃうの、ど根性って感じじゃない?」

「違うと思うけど⋯⋯」

 

 何もかもに同意できるわけではないが、由比ヶ浜の言うことは何となく分かった。上手く言語化ができていなくて、感性が独特なだけだ。由比ヶ浜の中での俺の評価が伝わってきて、どうにも面映い。

 

「そうかなぁ⋯⋯。で、ゆきのんは?」

 

 由比ヶ浜はごろんと仰向けになって俺の視界から消えると、雪ノ下にそう語りかける。奉仕部について語るなら、雪ノ下の意見は外せないだろう。

 奉仕部の部長にして、もっとも長く部に在籍しているのは雪ノ下だ。思い入れだって人一倍あるはずだろう。

 雪ノ下は「そうね」と呟くと、少しの間の後に言った。

 

「とても大切な場所で、時間よ。──壊したくないぐらい」

 

 思ってもみなかったキーワードに、時が止まったのが分かった。

 何故雪ノ下は、壊すなんて言葉を使うんだ?

 

「うん⋯⋯。そう、だね」

 

 そっと背中を押すように時を進めたのは、由比ヶ浜の声だった。あまりに言葉少なな雪ノ下の意見に、うまく思考がまとまらない。

 

「比企谷くんは?」

 

 自分の話はこれまで、とでも言うように、天井から跳ね返った雪ノ下の声が降ってくる。

 しかしそう言われたとて、俺の所感など言葉として出てこない。出せるはずがなければ、気付きたくもなかった。

 いっそのこと一番最初に答えたのであったら、適当ぶっこいて煙に巻けたのに、もうそんな小手先の手段は通用しなくなってしまった。

 

 だから、俺は──。

 

「⋯⋯やっぱ寝られんから別のところ行くわ」

 

 煙に巻くのはやめて、真正面から突っ切ることにした。

 

「え、ちょっ⋯⋯」

「ヒッキー?」

 

 寝具を折りたたんでいると、由比ヶ浜と一色がガバっと起き上がる。

 

「比企谷くん」

 

 仰向けになったまま雪ノ下は、顔の向きだけ変えてこちらを見ていた。眠り姫を思わせるその姿に、思わず心臓が跳ねる。

 

「私と同じ、ということでいいのよね?」

「⋯⋯おやすみ」

 

 俺がそう言って背を向けると、ためらいがちなおやすみの声が二つ重なる。

 そしてもう一つ返ってくるはずのおやすみを待たずに、俺は寝室の扉を閉めた。

 

 

   *   *   *

 

 

 リビングに敷いた布団の上で、俺は天井を見詰めていた。

 雪ノ下の家は防音もしっかりしているらしく、寝室から彼女たちの声が聞こえてくることもない。あるいはさきほど交わした「おやすみ」の言葉通りに、もう寝てしまったのだろうか。

 今日は本当に、色々あった。

 さいちゃんとデートして、サプライズで誕生日会まで開いてもらって、間違いなく人生で一番盛りだくさんの誕生日だった。それに何の因果か、女子の家でお泊りなんてしているのだから自分でも信じられない。

 というかそう⋯⋯ここ、改めて考えるまでもなく雪ノ下の家なんだよな。どういう背景があってかは知らないが、雪ノ下が一人で暮らす、彼女の生活が染み付いた家なのだ。

 ただでさえ眠気がなかったのに、それを考え始めると更に頭は覚醒してしまう。しかし人間には睡眠が必要だ。目を開けたままではいずれ来るであろう眠気が訪れるはずもない。

 目を閉じて、仰向けになったまま大きく息を吐く。仕方なく羊でも数えてみるが、それでも眠気はやって来なかった。

 それにしても人は何故、眠れない時に羊を数えるのだろうか? もっと幸福な夢が見られそうな対象を数えればいいのに。よしじゃあさいちゃんを数えようそうしよう。

 

 さいちゃんが一人、さいちゃんが二人、さいちゃんが三人⋯⋯。

 

 は? 最高か?

 テンション上がって逆に眠れんわ。

 

「──」

 

 頭の中でさいちゃんパラダイスが構築されてきたところで、カチャと扉が開く音がした。

 リビングとキッチンダイニングは続きになっているから、誰かが水でも飲みに来たのだろうか。誰かは分からないが、俺が寝ていると思って静かに入ってきたのだろうし、驚かせない為にも寝ている(てい)でいたほうがいいだろう。

 そうして静かに来訪者が出ていくのを待っているのだが、中々物音も扉の開く音も聞こえて来ない。それどころか、足音は段々俺の方へと近付いてくる。

 カサリ、と布団に触れた音がすぐ耳元から聞こえてきた。微かな息遣いも、確かな気配も、しかしそれだけでは誰のものか分からない。

 ひょっとしてこれは──修学旅行の夜あるある、寝ているうちに顔に落書きされて朝起きたら大爆笑案件なのでは? 今日の俺への対応を見ていると、あながちそれも間違いではない気がしてきた。だとしたら、はいどうぞと受け入れるわけにはいかない。

 

「⋯⋯おい」

「⋯⋯っ!」

 

 ぱっと目を開くと、思っていたより近くに雪ノ下の顔があった。鼻先に息がかかるぐらいの距離感に、思わずかすれた声が出る。

 

「⋯⋯何してんの」

「い、いえ⋯⋯」

 

 驚いた表情で雪ノ下は身を起こすと、薄闇の中でも分かるぐらいに頬を染め出した。

 今の状況から考えると、ひょっとして⋯⋯。いや、流石にない。言い切れないけどなしよりのなしだ。

 

「その⋯⋯別にキスしようとかそんなつもりはなくて⋯⋯」

「お、おう⋯⋯」

 

 って考えないようにしてたことなんで言っちゃうかなぁこの子!

 そもそも恥ずかしがるならやるなよな⋯⋯。こっちまで顔が熱くなってくるわ。

 

「あなたの寝顔をもっと近くで見たいなと思っただけだから」

「あぁ、はい⋯⋯」

「⋯⋯本当よ?」

「もういい、分かったから」

 

 俺はそう言うと、布団の上で身を起こした。

 こんな調子では、とても眠れる気がしない。立ち上がってソファに座ると、その隣に雪ノ下も腰を下ろした。

 本当に俺の顔を見に来ただけなのか、雪ノ下の口から語られる言葉はない。耳が痛くなるほどの静けさが、否応なくお互いの存在を誇張してしまう。

 

「あー⋯⋯。その、ありがとな。誕生日会、開いてくれて」

 

 何かを誤魔化すようにそう言うと、雪ノ下と目が合った。俺の言葉が意外だったのか、いつもより少しだけ瞳が大きくなる。

 

「ひょっとして雪ノ下の言い出したことだったのか?」

「いえ⋯⋯。由比ヶ浜さんが小町さんから誕生日が近いことを聞いて、誕生日会をやろうって言い出したのよ。それに一色さんも乗り気で⋯⋯」

「⋯⋯そうか」

 

 いやうん、その言い方だと「私は不本意だったけど」みたいに聞こえるんですが?

 まあ家族以外に祝われないのはいつものことだから別にいいんだけど。⋯⋯ってあれ? 俺が雪ノ下の家に泊まるってこと、親に言ってないな?

 連絡がないってことは小町から事情を説明したってことなんだろうが、一体どういう説明をしたのだろう。わたし、気になります!

 

「なんか巻き込んじまったみたいで悪いな。会場まで提供してもらって──」

「ち、違うのよ」

 

 俺の声音から申し訳なさを察したのか、雪ノ下は言葉を遮るとあわあわと言い繕う。

 

「別に祝いたくないわけではなくて、本当なら二人きりでお祝いしかったというだけの話よ。勘違いしないでくれる?」

「お、おぅ⋯⋯」

 

 なんだこいつツンツンしながらデレてきだしたぞ⋯⋯。本当、反応に困るからやめて欲しい。

 

「でも⋯⋯」

 

 ふっ、息を吐くと、雪ノ下は幾分落ち着きを取り戻した声で言う。

 

「こうして二人きりの時間が作れたから、よかった」

 

 薄闇の中で向けられた微笑みは、言葉が出なくなるほど美麗だった。

 さっきと大して言っていることは変わらないのに──いや、だからこそ心臓がうるさくて、どうしようもない。

 

「ねえ、比企谷くん。寝る前に一つだけいい?」

「⋯⋯ああ」

 

 雪ノ下はそう言って立ち上がると、そっと俺の肩に手を置いた。

 不意のスキンシップに反応する暇もなく、雪ノ下の顔が近付いてくる。

 

 

「お誕生日おめでとう。あなたが生まれてくれて、本当によかった」

 

 

 そして耳元で、ぽしょりと。

 耳をくすぐるような甘いささやき声が、脳に麻酔をかける。ぼんやりした思考では、ロクな返事も浮かんでこない。

 

「おやすみなさい」

 

 それだけ言うと、雪ノ下はリビングを後にした。

 残された俺は、もう返す相手もいないというのに、未だに返事を探し求めている。

 

「もう、誕生日終わってんだけどな⋯⋯」

 

 ほらやっぱり、まともな返事なんて思いつきやしない。

 ソファの背もたれに身体をあずけて、天井を仰ぐ。

 今夜はいったい何時になったら眠れるのだろう。

 

 誰も答えを持たない問いを胸に、俺は目を瞑るのだった。

 

 






 ということで、二話続けて八幡の誕生日の話でした。
 作中のゲームは令和版の人生ゲームを元にしてますが、ルールやらマスの項目やらは好き勝手に弄ってます。
 ちなみに私のTwitterアカウントですが、目次に書いておいてもあんまりフォロワー数増えてないので人生というゲームに負けそうです。べっ、別にフォローして欲しいなんて言ってないんだからねっ!

 さて、次回もまだまだ夏休み。花火大会のお話です。
 引き続きお楽しみください。
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