やはり俺にモテ期がくるのはまちがっている。   作:滝 

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文化祭実行委員長・比企谷八幡の手腕。

 文化祭実行委員会、略して文実。

 その第一回会合のすぐ後、文化祭準備の為の教室残留が解禁された。これによって各クラスやクラブはより力を入れて出展準備を始めることになる。

 同時に文実の方も本格始動するが、活動は定刻午後四時から。それまでの時間はクラスの出し物について参画しているのだが。

 

「い、いやだぁ! ツネ男だけは勘弁してくれぇっ!」

「おいおかしいだろ! 俺にシズ太は無理だって!」

 

 クラスの男子は、プロデュース・バイ海老名ミュージカルの役決めで紛糾していた。

 いや、紛糾というより阿鼻叫喚の地獄絵図か? まあ俺は文実を理由に配役から外してもらっているから関係ない。ついでに観たくもないぞ、この『美男子失格』は⋯⋯。

 ちらりと女子の方を見ると、こっちはこっちで裏方作業の役割決めの真っ最中だ。

 

「次、衣装係って誰かいるかな?」

 

 制作進行の女子生徒が立候補を募るが、互いに顔を見合わせるのみで手を挙げる者はいない。

 正直『人間失格』を元にした作品なら衣装は買ってくればいいんじゃないかと思うが、予算の都合もあるのだろう。それに時代背景を考慮すると、手作りも必要になってくるのかも知れない。

 

「誰か裁縫得意な子いたっけ?」

 

 そうは言っても中々名乗りづらいだろうなとは思う。なんか大変そうだし、自分から得意ですと言い出す人間は稀だ。

 

「ねー沙希。あんたのシュシュって手作り?」

 

 そんな質問を投げかけたのは、意外なことに三浦だった。いつの間にさーちゃんのこと、呼び捨てになったんだろうか。

 

「そうだけど⋯⋯」

「マジ? ちょっと見せてみて」

 

 さーちゃんはそう頼まれると、シュシュを取って三浦に手渡した。

 ポニーテールは解かれ、青みがかった長い髪が広がる。髪を下ろしている姿を見るのは、千葉村ぶりだ。

 

「えー、沙希すごいじゃん! 買ってきたみたい」

「うんうん。これなら小物の自作とかもできそうだねぇ」

 

 三浦と一緒にシュシュを見ていた由比ヶ浜と海老名さんが、口々にその出来を褒め称える。俺も自分で作った物とは気付かなかったから、さーちゃんの裁縫スキルは中々に高いらしい。

 

「沙希、あんた衣装係りやんなよ」

 

 そして鶴の一声とも言うべき、よく通る三浦の声。

 そこまではっきり言われてしまえば、真剣に検討せざるを得ないのだろう。さーちゃんはらしくもなく狼狽(うろた)え気味だ。

 

「でもあたし、衣装なんて作ったことないんだけど⋯⋯」

「大丈夫、普通ないって。なんかほら、困ってたらあーしも手伝うし!」

 

 なんだか、本当に珍しい光景だ。やはり俺たち高校生にとって、文化祭は特別なんだと実感する。

 普段喋らない相手と話すきっかけも増えるし、こういう時にしか育まれない絆というものもあるのだろう。まあ俺はほとんどクラスの方に顔出さないから知らないけどね!

 

「まあ⋯⋯優美子がそう言うなら」

「本当に? 助かるー」

 

 制作進行の子がそう言うと、さーちゃんは照れくさそうに目をそらした。それにしてもさーちゃんまで、いつの間に三浦のことを名前呼びするようになったのか。

 ふと時計を見たら、もういい時間だった。

 文実に行く時には一緒に行こうと由比ヶ浜から言われていたが、盛り上がっている女子の集団に切り込んで行くのは中々ハードルが高い。どうせ外で待ってりゃ来るだろうと、俺は廊下に出て教室側の壁によりかかった。

 

「あ⋯⋯」

 

 ガラリ、と扉が開く。

 由比ヶ浜か? と思って見てみると、そこにいたのはさーちゃんだった。

 

「よう、さーちゃん。なんかすげぇ頼りにされてたな」

「⋯⋯はーちゃん、また見てたの?」

 

 呆れたように溜め息をつくと、俺から少し距離をとってさーちゃんも壁に背をあずける。何か用事があって出てきたんじゃないのかと思ったが、その様子からすると大した用でもないようだ。

 それにしても「また」って何ですかね? そんなに見てないヨ! たまたま目に入っただけだから!

 

「それにしても、三浦と仲良かったんだな」

「別によくはないと思うけど⋯⋯」

 

 さっき疑問に思ったことをぶつけると、そんな消極的な答えが返ってくる。

 お互いに下の名前で呼び合っていたら充分仲がいいように思えるんだが⋯⋯。うそ⋯⋯わたしの仲良しハードル、低過ぎ⋯⋯?

 

「千葉村、一緒に行ったじゃん。そこで喋るようになっただけだよ」

 

 なるほど、やはり千葉村がきっかけか。文化祭だけに限らず、イベントごとと言うのは人との距離を縮める効能があるのは間違いないらしい。

 

「ほう⋯⋯。三浦ならもっと早くに絡んできてそうだけどな」

 

 偏った印象かも知れないが、三浦は身近に置く人間を見た目で選んでいるきらいがある。あのトップカースト集団の中にさーちゃんの姿がないのは不思議なぐらいだし、さいちゃんがいないのは一生疑問だ。いや、いたらいたで話しにくくなるからいいんだけど。

 

「確かに同じクラスになった時、喋りかけられたけど⋯⋯。あたし、結衣たちみたいに上手くつるめないと思ってたから、かなりそっけない態度取ってたかも」

 

 なるほどな、と思いつつ、またも呼び方が変化しているのに気付く。さらっと由比ヶ浜のことも名前呼びになっていて、上手くつるめないと言いつつもクラスに馴染んできているように思えた。

 

「あ、ヒッキーここにいた」

 

 ガラリと教室の扉が開いたと思ったら、件の由比ヶ浜が顔を出す。俺の隣にさーちゃんがいることを認めると、不思議そうな顔をした。

 

「何か相談ごと?」

「いや、ただの雑談だ」

 

 壁から背中を離すと、鞄を背負い直す。クラスの方はさーちゃんたちに任すとして、こっちはこっちで仕事がある。

 

「そんじゃ、衣装係頑張ってな」

「あんたもね。実行委員長」

 

 なんで俺が実行委員長になったことを知っとるんじゃ⋯⋯と思って由比ヶ浜を見ると、うんうん頷いていた。情報の出どころはこいつか。

 

「じゃーねー、沙希ー」

「じゃ。結衣も頑張って」

 

 そう言って二人は、小さく手を振り合う。なんだか最近、さーちゃんの表情が柔らかいと感じるのは気のせいだろうか。

 そんなことを考えながら、俺は会議室に向けて廊下を歩き出した。

 

 

   *   *   *

 

 

 さて、文化祭実行委員会である。

 つまりこの場では俺が首長となり、この会議体を取り仕切らなければならない。

 

「えー⋯⋯では今日は、文化祭のスローガンを決めたいと思います」

 

 俺がそう言うと同時に、雪ノ下がホワイトボードに『総武高校文化祭 スローガン』とお題目を書いた。

 さっそく様々な作業に取り掛かりたいところではあるのだが、まずはスローガン──つまり基本的な理念を宣伝文句に落とし込まねばならない。理念が決まれば指針が決まり、指針が決まれば行動につなげることができる。何よりこれが決まらないと告知ポスターその他諸々も作れない。

 

「誰か意見のある人は」

「はいっ」

 

 真っ先に手を上げたのは、昨日と同じく由比ヶ浜だ。協力すると言った言葉の通り、非常に前向きな姿勢である。

 

「えっと、『Have a nice 総武』とかどうかな?」

 

 元気な挙手とは一転、様子を窺うようにそう提案してくる。

 本日一つ目の、ありがたい提案だ。もちろん俺の答えは決まっている。

 

「却っ下」

「なんでだしっ!?」

 

 由比ヶ浜はふんがーと憤るが、ちょっと考えてみて欲しい。

 だってほら、総武の『ぶ』が『ぷ』に聞き間違えられたらいかがわしい感じになっちゃうでしょ?

 

「比企谷くん。せっかく出てきた案を潰してどうするの」

 

 そんな益体もないことを考えていると、小さく鋭い声が浴びせられる。いや、うん。ジョークですよ、ジョーク。

 実際由比ヶ浜のオーバーリアクションのお陰で、多少場の空気が和んだ気がする。内輪ノリに寛容な面子で何よりだ。俺なら絶対イラっとしてる。

 

「まあそれは冗談として⋯⋯他に誰か案は?」

 

 そう言って会議室中を見渡すが、応える者はいない。そうなるだろうな、というのは織り込み済みだ。

 では提案が出てこない時は、どうすればいいのか?

 

「じゃあこっちから指名します。宣伝広報部長、どうですか」

「うぇっ⋯⋯?」

 

 まさか指名されるとは思っていなかったのだろう、俺が言うなり一色は変な声で反応する。それと同時に、各担当部長たちに緊張が走った。

 一色がそうというわけではないが、何も意見を言わなかったクセに後から文句ばかり言うヤツはたくさんいる。ならば強制的に意見を収集してしまえばいい。その意見が通る通らないはあれど担当部長は『提案をした』という事実で面目を保つことはできるから、一石二鳥だ。

 

「えー⋯⋯っと。『弾けよう! 総武祭』とか⋯⋯」

 

 一色の考案したスローガン案を、雪ノ下がホワイトボードに書き留めていく。一応、由比ヶ浜案も書いてくれていたようだ。

 

「では次。保健衛生部長、お願いします」

 

 後はこれの繰り返し。各担当部長から出された案が出尽くすと、それに触発されたのかようやく他のメンバーからもちらほらと提案が上がってくる。

 

「これ以外に、他に提案のある人は?」

 

 スローガン案を募って、十分足らず。

 ホワイトボードを見れば、もう半分ほどがスローガンの案で埋まっていた。俺が問いかけてもそれ以上あがってくる手も意見もなく、どうやらこれで打ち止めらしい。

 それではこの案の中から多数決で、――という決め方は安直だ。

 民主主義的だが合意形成としては不完全だし、結果にシコリが残る可能性がある。ソースは俺。小学生の時、俺の出した意見の決をとることなく多数決を終わらせた若宮くん、今でも覚えてるからな(恨)。

 

「それじゃあ、この案の中から選んでいきますが⋯⋯いいと思う案とその理由を上げていってもらっていいですか」

 

 何も言わなければこっちから指名するぞ、と意思を込めた目で室内を見渡した。そしてポツポツと上がってきた意見を、雪ノ下が注釈として書きとめる。

 まったく意見の集まらなかった提案に関してはドロップ。好意的な意見が集まった案に対して、更に議論を重ねていく。何も言わなければ自己責任だ。こうすることで後から出てきそうな不満を潰し、何故その案がいいのかを納得しながら進めることができる。

 

 そうしておよそ一時間以上の議論を費やして決まった、本年度の文化祭スローガンは。

 

 

『千葉の名物、踊りと祭り! 同じ阿呆なら踊らにゃsing a song!!』

 

 

 ──ってなんでこれなんだよ。一番ふざけた案じゃねぇか。

 

「これ、誰の意見だったっけ?」

 

 有志統制部長の男子生徒が首を傾げるが、それに答えられる者はいなかった。

 いや、マジで誰が言い出したんだこれ⋯⋯。このままだと総武高校七不思議が八不思議になるぞ。いや七不思議があるのかどうか知らんけど。

 

 ()にも(かく)にも、これが俺たち文実メンバーの出した結論なのである。

 

「じゃあスローガンはこれで決定ということで、今日はこれで終わります。お疲れ様でした」

 

 その一言で会議室は一気に雑然とした雰囲気になり、メンバーは三々五々に散っていく。

 まったく、仕切り役なんて慣れないことをするもんじゃない。めちゃくちゃ集中していたせいで、脳のエネルギーを使い切ってしまったかのような感覚だ。マッ缶⋯⋯俺にマッ缶をくれぇ⋯⋯。

 

「お疲れ様、比企谷くん」

 

 椅子に座ったまま強張った身体を解していると、雪ノ下はそう声をかけてくる。疲労困憊(ひろうこんぱい)な俺に対して、雪ノ下は何故か満足そうな雰囲気だ。

 

「なあ、マジでこのスローガンって誰の案だっけ?」

 

 ずっと書記をしてくれていた雪ノ下なら知っているかも知れない。

 そう思って聞いたのだが。

 

「⋯⋯⋯⋯」

 

 雪ノ下はにこりと微笑んだだけで、何も言わないのであった。

 

 

   *   *   *

 

 

 文化祭実行委員会が発足されて数日が経過した。

 準備は(おおむ)ね順調だと言える。参加率も悪くないし、行き詰まった時の議論も活発になってきた。組織運営の上では中々上手くいっている自負もあるのだが。

 

「由比ヶ浜さん。これチェックしてもらっていい?」

「あ、はーい」

 

 ──いくつか、気になることがある。

 何故由比ヶ浜が部長を務める会計監査は、男子比率が高めなんでしょうか?

 

「いろはちゃん、ホームページ用のロゴできたから、見てくれる?」

「了解でーす」

 

 ついでに一色のいる宣伝広報、二年の男子比率高いのは気のせいかなぁ⋯⋯。ちがうのかなぁ⋯⋯。

 二人が担当部長として頑張ってくれているのは、ありがたいとは思う。その役割の上で会話する相手が増えるのも必定だ。

 しかし、何なんだろうか、この胸のモヤモヤは。⋯⋯はっ! ひょっとして、これが心筋梗塞の兆候──。

 

「比企谷くん」

 

 アホなことを考えている俺に、横から冷ややかな声がかけられる。呼ばれて目が合うと、雪ノ下はふふんと笑った。

 

「男の嫉妬はみっともないわよ。私がいるんだからそれで満足しなさい」

 

 またこいつは、俺が反応に困ることばかり言う。

 しかし雪ノ下が言うことも、まんざら冗談ばかりではなく。

 

「⋯⋯ソウデスネ」

「そこ、代表者名が抜けているわ。ちゃんと確認してから判を押しなさい」

 

 さらっと流して判子を押そうとしたところに、そんな指摘が入った。こうやって雪ノ下は副委員長としてサポートしてくれているから、不満はお門違いというものだろう。

 しかし、この調子じゃどちらが委員長か分かったものじゃない。去年までの議事録を見るに、副委員長は本来他の担当部長が兼任するのが通例らしかった。

 つまり雪ノ下は専任として副委員長という役割を作り出し、自らそのポジションについたのだ。役を降ろされそうになった管理職かよ、こいつ⋯⋯。

 

「おおっ、本当に比企谷くんが委員長してるー」

 

 不意に降ってきた声に、俺は書類から顔を上げた。

 果たしてそこにいたのは、本来ここにいるはずのない人物である。

 

「⋯⋯姉さん」

 

 聞き慣れない声、耳慣れないフレーズに、会議室中の視線が集まってくる。いや、あるいはその存在感にだろうか。

 改めて考えると、規格外のカリスマ性だ。陽乃さんは俺たちの目の前に現れてたった数秒で、周りの人間全ての意識を集めている。声が、立ち振る舞いが、そして容姿が人を惹きつけてやまないのだ。

 

「あのー⋯⋯、なんでここに陽乃さんが?」

「私が声をかけたんだよー」

 

 何でもない風に言ったのは、生徒会長のめぐり先輩だ。ひょっこりと陽乃さんの陰から出てくると、ほんわかした笑顔で言う。

 

「二人とも入学前だったから知らないかもだけど、はるさんが三年生の時に有志でバンドをやったの。それが凄くてね! 今回地域からの参加ってことで、どうかな~って声かけたんだ」

 

 私えらいでしょ、えっへん! とでも言い出しそうなノリで、めぐり先輩は胸を張る。

 地域団体の参加は、集まりが悪ければこちらからお願いしなければと考えていたところだった。確かに出てくれるというのなら、こちらとしても助かる話ではある。

 

「それにしても意外だね」

 

 陽乃さんは腕を組むと、さっきまでとは違った声音で言った。声をかけられた方の雪ノ下は、すっと目を細めてその言葉を受け止める。

 

「私、てっきり雪乃ちゃんが委員長をやるんだと思ってたよ」

「やらないわよ。姉さんの真似をしても仕方がないもの」

 

 雪ノ下の答えに陽乃さんは少しだけ目を見開くと、ふぅんと意味ありげに笑う。

 いつもに増して穏やかではない。とてもじゃないが、姉妹の会話で醸し出される空気ではなかった。

 

「へぇ。でも副委員長をしているんなら、当然それなりの結果を見せてくれるんだよね?」

「それなりなんかじゃないわ」

 

 静かに雪ノ下は立ち上がると、陽乃さんと対峙した。

 いつの間にやら会議室中の会話はやみ、誰もがことの顛末を見守っている。

 

今までで一番(・・・・・・)の文化祭にして見せるわ。だから協力してね、姉さん(・・・)

 

 ――それはまるで、宣戦布告だった。

 陽乃さんにその認識はないだろうが、この場にいる面子は厚木の発言で雪ノ下の姉が過去に実行委員長をしていたことを知っている。その姉に向かって『今までで一番』にして見せると言ったのだ、雪ノ下は。

 

 そして、それを受けた陽乃さんはと言うと。

 

「⋯⋯ふふっ」

 

 堪えきれない、と言った調子で、笑っていた。

 

「ふ⋯⋯っ。あはははっ⋯⋯っ! いいよ雪乃ちゃん、いくらでも(・・・・・)協力してあげる」

 

 対する姉の答えは、まさに余裕綽々。自分が力を尽くしたところで、過去の栄光は揺るがないと言っているようなものだ。

 対峙するその姿は、さながら仁王像のようだった。皆が固唾をのんで、雪ノ下姉妹を注視している。

 

「じゃあ進行具合を見てみよっかなぁ。ガハマちゃーん、元気~?」

 

 しかし場の緊張など、まるで無視して。

 陽乃さんは柔和な態度と声音になると、ふらりと由比ヶ浜たちのいる机に歩いていく。

 何だか、どっと疲れた。姉妹喧嘩とも言えぬ雪ノ下たちのやりとりは、見るものの精神力さえ奪っていったようだ。

 陽乃さんが目の前から去ると、立っている意味をなくした雪ノ下は椅子に座る。雪ノ下は雪ノ下で、何を考えているんだか。

 

「⋯⋯⋯⋯」

 

 そう思って雪ノ下の方を見ると、無言で見つめ返される。

 ⋯⋯何故か、メチャクチャ不満そうな顔で。

 

「⋯⋯何だよ、その目」

 

 いや、俺にその表情を向けるのはおかしいでしょ⋯⋯。バチバチやってたの君たちだし。

 

「分からないの?」

 

 マジで意味分かんねぇなこいつと見つめ返していると、責めるような声音でそう問うてくる。

 しかし、今のやり取りの中で俺が批難される意味はさっぱり分からない。

 

「全然分かんねぇよ。俺にもっと気張れってか?」

「違うわ」

 

 思い当たる節を言ってみても、即座に否定されてしまう。

 えぇ⋯⋯何この子、面倒くさ⋯⋯。

 ノーヒントで分かるかい、と肩をすくめると、雪ノ下はジト目で言った。

 

「姉さんのこと、名前で呼んでいたわ」

「⋯⋯は?」

 

 呼んでたか? ⋯⋯うん、呼んでたかも知れない。だって名前呼びしないと追い出すって、花火大会の時に脅されたからね。

 

「そうかも知れんけど⋯⋯。それが何でお前の不機嫌に繋がるんだよ」

「私も名前で呼んで欲しいって、一番最初に言ったのに。私のことは、まだ名前で呼んでくれないのに」

 

 グサグサと責めるように、言葉を突き刺してくる雪ノ下。

 確かに言ってましたねぇ⋯⋯。あと「まだ」って言うと、いつか名前呼びになるのは決定事項にみたいに聞こえるのでやめてください。

 

「⋯⋯アホなこと言ってないで、仕事に戻るぞ」

 

 真面目に取り合ってちゃ、身が持たない。

 俺が目の前の書類に視線を向けると、雪ノ下は溜め息めいた息を吐く。

 

 

「⋯⋯いつか呼んでもらうから」

 

 

 ──本当こんなの、身が持たねぇわ。

 宣言めいたその声を封じ込めるように、俺は聞こえない振りで書類に判を押すのだった⋯⋯。

 

 






 ということで、ジェラシー八幡と嫉妬のんでした。

 八幡がスローガン決めで取った手法はコンセンサスゲームで取られるやりかたです。最近では学校教育でも取り入れられているようですね。

 さて、まだ続く文化祭編。
 青春ラブコメ物での文化祭は大事なイベントなので、もう少し話数を使います。
 引き続きお楽しみ下さい!
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