ミーナの娘   作:のんのんぶらぶら

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1943年

 

鼻先に塵みたいなものがポロポロ当たっている。何かが焦げた臭いと、異常な静けさ。

 

「……ぁ」

 

ミオナがうっすら目を開けると、鈍色の空。

 

なんでこんなところで寝ていたんだろうと、辺りに目線を動かす。

見えるのは大穴作って崩れた石造りの天井と、粉々になった花瓶や割れた木のベンチ。

 

 

隣にはMiGu25が横たわっていた。軍服はススだらけで、ちょっとガソリン臭かった。

意識が明瞭になるにつれて、状況の不自然さを理解したミオナはとっさに体を起こそうと地面に手をつく。

 

クシャっという音がした。

 

「……これは」

 

それは半分焼けた小汚い新聞だった。

 

WNT 1944年1月号

『アフリカの星、またもや大戦果!アフリカ解放の日は近い』

『戦時国債を買って美しいウィッチを応援しよう!』

『パリに復興の兆し』

 

「なんて…」

 

現代人がみたら鼻で笑いそうなほど露骨なプロパガンダであったが。

 

「1944年!?」

 

ミオナの心を動揺させるには十分な数字がそこには記されていた。

 

「一体なにが……そうだ、魔導レーダーは」

 

ミオナはMiGu25を手で掴んで、引き寄せる。

何だか随分自分の背が低くなったように感じた。ストライカーが確か、自分と同じくらいの大きさだったはずなのに、もう15cmは差があるようだ。

明晰夢のような違和感を覚えたミオナだったが、違和感はこれ一つではなかったので、この時は僅か15cmの差など気にしてはいなかった。

長靴を履くように地面に座ったままストライカーに足を通すと、床に緑の魔法陣が現れる。しばらく経って、魔導レーダーが起動する。

 

「んっ……」

 

僅かにこそばゆい感覚に耐えながら、ミオナは流れてくる情報に耳をすませた。

 

『大本営発表---勇猛果敢なる扶桑軍人は、欧州の地にて大戦果を--』

 

『Unsre beiden Schatten sahen wie einer aus----』

 

『The interest rate on Britannia's war bonds has reached a record high of----』

 

魔導針からは色んな音や物の動きが伝わってくる。

どこの放送からも戦争の雰囲気が感じられた。それは、普段ラジオを聞かないミオナにも分かる違和感。

 

『Wie einst Lili Marleen Wie einst Lili Marleen---』

 

『セレナ--こいつは私が引きつける--そのうちに--離脱---』『そ--な--隊長は--どう--ん--逃げ--』

 

『Schon rief der Posten: Sie bliesen Zapfenstreich』

 

ミオナは優雅に流れるリリー・マルレーンに混じって、随分と物騒な通信を拾う。

カールスラント語だ。ストライカーのエンジン音がするってことは、二人はウィッチではないかと、この時ミオナは予想した。

 

何かと交戦している。

       なぜレシプロ機のエンジン音が?

 なぜブリタニアは戦時国債なんて発行してるんだ?

まさか、本当に第二次大戦時代に来てしまったのか?

 

これは夢か?

 

疑問が多すぎた。

 

「……」

 

とにかく彼女たちは状況を理解する手がかりになるかもしれないと。

ミオナが魔導レーダーの探知範囲を拡大すると、それはすぐに見つかった。

 

「距離は南東38km、飛び回る2つの反応はウィッチで…これは中型ネウロイ?」

 

喉にインカムがついてる癖で、つい状況説明を口ずさんむ。

独り言が多い人は精神病の発症リスクが高いが、ミオナもその例にもれないであろう。

 

「武装は…無し。燃料は……5割くらい」

 

上体を起こして、足に履いたMiGu25を見る。

武装がない。これが不味かった。素手でネウロイと戦うなんて自殺行為でしかないからだ。投石器の無いダビデはゴリアテに勝てない。彼女たち以外にも手がかりが見つかる可能性もある。ミオナは考えることにした。一体、何が最善なのか。

 

『クソ-も-弾が--な--』『隊長--ま---』

 

「今更行っても、助かる保証はない。ママのことを知っているとも限らない」

 

ミオナは立ち上がってR-15-300エンジンに火を入れる。

どうやらミオナは素手でゴリアテと戦うらしい。

 

「別に同情したとか、ヒーローになりたいからじゃない」

 

巨大な黄色の魔法陣が足元に展開されて、ジェットに当てられた地面の石畳は溶解していき、風圧によって破片や埃は飛び交う。

 

(…私は、私に出来ることはやりたいと思っています。ウィッチにもなったのもそのためだと思うんです)

 

「……ママに言った言葉を嘘にはできない」

 

そうミオナが言って、ストライカーに魔力を込めると、体は一瞬で崩れた天井の隙間から外へ出る。10秒も経つと、ミオナがさっきまでいた廃墟は、もう小指の先くらいの大きさだった。ミオナは到着を優先するため、高度1000mを維持して目的地まで一直線に加速していく。

 

『こちらドーリス!ネウロイに遭遇したが振り切れない!聞こえてるのか!クソ!』

 

次第に目標が近づくにつれて、通信の内容も明瞭さを増していく。

 

『シールドが!?』『隊長!』

 

爆発音がして、前方に赤い光が見えた。もうすぐそこだ。

 

『セレナ!』

 

火を吹いて落ちていくストライカーと、少し上を落ちる金髪の少女。

ミオナは架空翼をエアブレーキ代わりに、少女の落下速度に合わせながら接近する。

 

--ギュィィィィイイ

 

急激な減速に魔導エンジンが唸るような音を上げる。

 

『この音は一体っ、まさかウィッチ!?』

 

この速度では良いネウロイの的になるはずだったが。

『隊長』と呼ばれていたウィッチは機転が効くらしい。

ミオナがセレナを回収する間、命懸けでネウロイを引きつけていた。

 

(捉えた)

 

自分より二回り大きい身体を両手に支え、それに負荷がかからないように高度を落とす。ミオナは下方の森にゆっくり着陸、金髪のウィッチを木陰に下ろす。

その時、ウィッチと目があう。

 

「天…使…?」

 

意識を朦朧とさせたウィッチはそんなことを呟くと、目を閉じて、意識を失った。

ミオナはこの症状を良く知っている。魔力切れだ。

ミオナがウィッチのインカムを外して、自分の耳に入れると、酷く必死な声が聞こえた。

 

『セレナ、セレナ!』

 

『彼女は比較的安全な場所へ避難させました』

 

セレナと呼ばれるウィッチの肩から小銃を離しながらそう言った。

 

『よかった……よかったが、こっちも限界だ、うわっ!』

『早く来てくれ!』

 

隊長の悲鳴を聞きながら、銃の状態を確認する。

 

(MP40シュマイザー、残弾は…何とかなりそう)

 

『了解しました。私がネウロイを引きつけます。その隙に後方へ退却してください』

 

ミオナは話しながら上昇を開始する。高度はすぐ隊長に追いついた。

 

『はぁ…はぁ…了解!』

 

余裕のない声がそう答えると同時に、数本のネウロイのレーザーがこちらに向かって走る。ミオナが隊長を庇うようにシールドを展開していると、『隊長』は高度を落としつつ、ミオナとすれ違う形で後方へ移動していった。

 

---キィィイイイイイイイ

 

その様子が気に食わなかったようで、ネウロイが威嚇するように音を発し数本のレーザーがミオナを襲う。

ミオナはそれらを全て避けながら接近する。

 

タタタタタタ

 

すれ違いざまにネウロイの胴体へMP40を連射。砕けた外装の内側からコアが見えた。

 

ミオナはこのネウロイを知っている。

こいつは兵学校の教本にも載っているほど凡なネウロイだ。

コアの位置から攻撃パターンまで全て判明しているし、60年代であればまずこいつに苦戦するウィッチはいない。

……それでも気分が優れなかったのは。

レシプロを装着したウィッチ二人がこの絶滅危惧種に苦戦させられていたという事実。それがより一層ここが1944年であると思わしめたからだろう。

 

(やっぱり44年なのかな…)

 

ネウロイがコアを庇うように旋回し、レーザーを放ち距離を取ろうとする。

ミオナはジグザグ動いてレーザーを回避し、急旋回。

再びネウロイとすれ違う形になった。

 

「…スゥ」

 

ミオナは息を止めている間に、全ての弾をコアへ打ち込む。

コアが砕けると同時に、ネウロイは白い結晶となって散る。

ミオナはシールドを傘に飛び散る破片を防ぐ。気がつくと鈍色の雲は晴れていて、少し若い青空が顔を出した。

 

「まだ朝だったんだ…」

 

そんあことを呟いて、撤退していく二人のウィッチを眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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