元の世界でありふれたマスターは異世界で家族をつくる 作:nightマンサー
今回冒頭にバーヴァン・シーのネタバレあるのでご注意下さい。
妖精騎士トリスタンーーー真名をバーヴァン・シー。
FGO2部6章のストーリー【妖精円卓領域アヴァロン・ル・フェ】にて登場したサーヴァントである。
その言動と行動から登場時からマスター達は「わからせてやる」と息巻いていたが、ストーリーを読んで全てを知ったマスター達は全員こう思ったことだろう。
ーーー誰がここまでしろといった、と。
善良故に何度再誕しても、妖精達に無惨に使い潰される。そんな彼女の為にモルガンがしてあげられたことは、善良とは真逆ーーー悪逆であれと教育すること。
そうしなければ、彼女は生きていくことすら出来ないと、モルガンは考えたのである。
たった一度だけでいいから、幸福に生きて欲しいと願ったモルガンと、モルガンに喜んで貰うために教えられたように悪逆を尽くすバーヴァン・シー。
そんな彼女達の迎えた結末は、余りにも残酷だった。
だからこそ、次があるのならばーーー今度こそ幸せになって欲しいと。
「おいザコ、飲み物なくなったんだけどーーー」
「はい、紅茶でよかった?」
「お、気が利くじゃん」
だから今の俺にとって、バーヴァン・シーからのお願いは全部可愛いしか思わないのだ。
ちなみに先程渡した紅茶やバーヴァン・シーが食べているお菓子はモルガンの魔術で味を再現したものである。
この魔術のおかげで不味い魔物肉を美味しく食べれるとハジメがかなり喜んでいたのを覚えている。
「……お前さっきからずっとニヤけてて気持ち悪いな」
これでもかと蔑んで俺のことを見てくるバーヴァン・シー。どうやら今の俺の顔はかなり、だらしない顔をしているようだった。
「あ、ごめん。その……この光景をずっと望んでたからさ」
現在モルガンとバーヴァン・シーはソファーで寛いで談笑しており、少し離れた机で俺は『魔力貯蔵』で精製した液体を瓶詰めしていた。
モルガンとバーヴァン・シーが一緒に楽しそうに話をしている。これだけで俺の心は満たされていた。
「バーヴァン・シー、そうあれと育ててしまった私に責任がありますが、あまり我が夫を虐めないように。こうして一緒に過ごせているのは、間違いなく我が夫のおかげなのですから」
見かねたモルガンがバーヴァン・シーを優しく諭す。
「そ、それは勿論わかってます、お母様。私にもあの頃の記憶は、あるから……」
そう言うバーヴァン・シーの表情は優れない。
モルガンと同じくFGOの記憶があるということは、妖精国での出来事も全て知っているということだ。
「……今のは失言でした。気分を害させてしまいましたね」
「そ、そんな!お母様は何も悪くない!アイツらが、あの豚共が悪いに決まってる!そして、何も出来なかった私自身も……」
そう言ってバーヴァン・シーは俯いてしまった。
モルガンも何も言わず重い空気になってしまう。
そんな2人を見て俺はーーー
「……っ、我が夫?」
「ちょ、おま、勝手に握るな!」
モルガンとバーヴァン・シーの間に移動し、それぞれの手を握った。
「ただの読み手だった俺が、こんなこと言っても気休めにもならないかもしれない。でも、その……これから先は幸せにしてみせるから」
自分でもかなりカッコつけた台詞だと思ったが、それでも言葉にして伝えた。
「……最も欲しい言葉を、最も欲しい時に言うだなんて。流石、我が夫ですね」
「な、なに当たり前のことを言ってんのよ!お母様の相手なら、それくらい出来なきゃ話にならないに決まってるっつーの!」
モルガンは握った手を優しく握り返して。
バーヴァン・シーも言葉とは裏腹に繋いだ手を振り解こうとはせず繋いだまま。
そこにはさっきまでの暗い雰囲気はなく、ただ穏やかな空間が広がっていた。
「では、今日は
ーーーーーーピシッ
そんなモルガンの一言に、再び雰囲気が壊れた音が聞こえた気がした。
◆
「ま、マジで死ぬかと思った……」
「流石にバーヴァン・シーの前で言うべき内容ではなかったですね」
昨日あれからバーヴァン・シーに宝具であるハンマーとスパイクをチラつかされながら問い詰められた結果、既に自分とモルガンがそういった行為済みであることを白状した。
それを聞いたバーヴァン・シーは顔を真っ赤にして宝具は使わなかったものの、俺を無茶苦茶足蹴にして俺がボロボロになったのに満足して部屋に戻っていった。
圧倒的力の差がありながらミンチになってないから、手加減してくれたことは明白だったので何も言うまい。
ちなみにモルガンと行為に及んだ同日、モルガンはユエに頼まれて防音結界を作成する魔導具を渡したとのこと。その次の日の朝、ハジメと俺はお互いに顔を見て、互いが卒業したことを悟った。
「いずれ知られてただろうから、早めに伝えれて良かったって前向きに思うことにしよう」
「そうですね……さて、我が夫。『水鏡』の準備が出来ました」
モルガンの言葉に俺は頷いて応える。
それをみてモルガンは『水鏡』を使用し、俺とモルガンはとある場所に転移した。
◆
「はぁ~、うっざ」
ハイリヒ王国の王城に複数ある客室の内の一室、もはや自室のようだとさえ感じるほど長くいる部屋でベッドに寝転がった私ーーー間桐恵里は日に日に募っていくストレスと焦燥感に悩まされていた。
そもそも勇者パーティのアイツらと一緒にいるだけでストレスなのだが、ここ最近は迷宮攻略速度もかなり落ちていては焦るのも当然だ。
だが攻略速度の低下は仕方ないと言える。
兄さん達の事件があってから暫くして、私達勇者パーティは歴代最高到達点である65階層ーーー兄さんを最後に見た場所であり、ベヒモスの居る階層へ到達しベヒモスを打倒した。
その時周りのクラスメイトやクズ共が何か言っていた気がするが覚えていない。私はその先ーーー兄さんが落ちていったこの階層より下の階層へ意識を向けていたからだ。
そうして漸く兄さんを探せると意気込んだ私の心とは裏腹に攻略速度は低下した。
何せ65階層より先は誰も知らない未踏領域。これまでの迷宮攻略はこれまでオルクス大迷宮に挑んでいた先人達により開拓された謂わば整備された道であったが、ここからは完全に未開の地である。
地図が無いためただ只管階層を探索していく事に加え、出現する魔物の強さもかなりのものであり消耗が激しい。これでは攻略速度が遅くなるのも必然だ。
(焦ってしまってるのも、頭ではわかってる。だけどーーー)
きっと昔のーーー兄さんに会う前の僕の状態なら、この湧き上がる感情も殺せたのだろうかと自問し、馬鹿な問いだと苦笑した。
(兄さんに出会えなければ、今の私は居ないのだからそもそもこの感情が出ることもないのにね…)
兄さんと出会ったあの日ーーー
いずれはこの気持ちを伝えようと思っていたのに、今や兄さんが生きているかすら分からない。そんな悲しみと心細さが綯い交ぜとなって瞳から溢れ出る。
「会いたいよ、兄さん……」
「……恵里?」
唐突に耳に届いた聞き慣れた声と言葉に私は驚き、起き上がって後ろを振り返る。
そこに居たのは一人の男だった。
黒を基調としたシンプルな服装、白い髪が何処となくゲームキャラを思わせる容姿であるが、その顔立ちは変わっておらずーーー
「にい…さ、ん?」
「あっと……その、ただい、ま?」
その言葉を聞いた瞬間、私はベッドから飛んだ。
◆
「ちょ!?えrぐふっ!?」
「兄さんっ!!」
迷宮攻略が終わり、バーヴァン・シー召喚も上手くいき諸々完了したので、そろそろ恵里に生存報告しておこうと思いモルガンに頼んで『水鏡』で迷宮都市のホルアドを経由してハイリヒ王国に転移してもらったのだがーーー
「え、恵里、ちょ、死ぬ、背骨が…っ!?」
「良かった、本当に、生きてて……」
今まさに恵里の手で殺されかけている。
俺もハジメと同じく魔物の肉を食べていたが何故か俺の方はステータスがハジメ程上がらなかった。
どうやらハジメと違って魔物の肉を食べた際に魔力を根こそぎ放出してしまった俺は、魔物の力をほぼ取り込めない体質になってしまったらしい。代わりに魔力の上がりようはハジメ以上である。
多分ハジメより上がっていないとしても恵里相手に筋力値で負けていない筈なのだが、初手の無防備な腹へのダイブでのダメージが結構来てるようだ。
そろそろやばいと思い始めた所で、恵里の身体が俺から離れ宙に浮く。
「そろそろ離れるように。このままでは我が夫の背骨がもちません」
「え、私浮いて…って、誰!?」
ゆっくりと床に下ろされた恵里が浮いた事実とモルガンを見て声を上げる。
「えっとだな……取り敢えず説明するから落ち着いてくれ」
そうして俺は今までのことを話した。モルガンの事を話すために、前世のことも話した。
正直こんなことを話せば頭が可笑しいと思われるかと思ったがーーー
「出会った頃から大人びてると思ってたけど、そういう理由だったんだ」
「引いたり、しないのか?」
「今だって異世界転移なんて現実離れしたことが起きてるから、前世を覚えてる位で引いたりしないよ。それに、兄さんは兄さんでしょ?」
と言ってあっさり受け入れられてしまった。
これならと思ったが、モルガンが妻であるって方に噛みつかれた。
「妻って、どういうこと!?」
「言葉通りの意味です。私は慎夜を愛し、慎夜も私を愛している。今後は義姉としてよろしくお願いしますね、恵里」
「〜〜っ!!?み、認めない認めない!!」
「お、おい、恵里?」
「私だって兄さんのことが大好きなの、愛してるの!!」
「っ!?!?」
突然の恵里の告白に俺の頭はパンク寸前だ。
だとしても、恵里の告白にどう答えればーーー
「ふむ。では恵里は義妹というジャンルで我が夫の特別で居ればよいでしょう。恋人と妻は別ジャンルとのことですし、多少増えても我が夫の器なら問題ありません」
「「っ!?!?」」
そんなモルガンの言葉にお互いこれまでの説明で疲れていたこともあってか、恵里は一旦義妹ジャンルでいることが決まった。
◆
恵里へ生存報告をしてから更に1ヶ月。オルクス大迷宮を攻略してから約2ヶ月が経過した今日、俺達はオスカーの屋敷の3階の1室ーーー外への転移魔法陣がある部屋に集まっていた。
「さて、準備は全て整ったな」
「慣れ親しんだこの屋敷ともお別れだな」
そう、ハジメの道具作成が概ね完了したため、このオルクス大迷宮から出て別の迷宮攻略へ旅立つことを決めたのだ。
「先ずは他の迷宮の攻略だ。エヒトのクソ神に挑むなら手札は多いに越したことはないからな」
「そ、そうだな」
ユエと恋仲になる前もだが、ハジメはエヒトに対して更に殺意増々になった気がする。
「てか、なんでアタシやお母様までそんな面倒事に付き合わないといけないわけ?」
「バーヴァン・シー。これは私が、一人の母親として自分から手伝うと決めたのです。私としては、バーヴァン・シーも手伝ってくれれば嬉しいのですが……」
「…っ!も、勿論手伝いますわ、お母様!」
余り乗り気ではなかったバーヴァン・シーも、モルガンのちょっとしょんぼりした顔によりあっさり陥落したようだ。
「モルガンさんって綺麗なのに可愛いって反則だよね」
「俺はたった1ヶ月でこの面子に馴染んでる恵里が凄いと思うよ」
俺の言葉に無言の笑顔で返す恵里。
何故恵里が此処に居るかというと、恵里に会いに行ったその日に俺達について行きたいと夜逃げ宣言。
それを俺が了承してこのメンバーに加わることとなったのだ。
その際、転移前から仲の良かった谷口に何も言わなくていいのか聞いたのだが「鈴ちゃんなら多分察してくれる」とのこと。
恵里に会いに行く前に白崎か八重樫にはハジメの生存報告しようかとハジメに言ったのだが、下手に自分達が生きてることが露見しても面倒しかないから日本へ帰る目処が立ってから報告したいとのことで伝えていない。
「それじゃ、行くか!」
ハジメの号令と共に魔法陣が起動し、俺達はオルクス大迷宮を後にした。
閑話 卒業
ヒュドラを倒してから数日後
露天風呂にてーーー
「ハジメ、いる?」
「ちょ、ユエ!?今俺が入ってるから、風呂に入るなら俺上がるね!?」
「大丈夫だよ、ハジメ。私に任せて?」
「待って、心の準備がーーーって!?なんか見えない壁みたいなのがあって出られない!?」
「逃げられないように、モルガンに防音結界を貼る魔導具を借りてきた。それともハジメは、そこまでして私とはしたく、ない?」
「ーーーっ!……そう、だよな」ギュ
「んっ、は、ハジメ?」
「ゴメンな、ユエが勇気だしてるのに、男の俺が逃げちゃ駄目だよな。その、俺もユエと、したい」
「っ!うん、嬉しい」
「ちょ、ユエ?いきなりそんなーーーーーー」
同時刻
慎夜の寝室
「我が夫、夜伽をしましょう」
「ーーーっ!?え、も、モルガン!?」
「大丈夫です、そのための受肉でもありますから」
「嬉しいけど、ちょ、待っーーーーーー」
翌朝
「ハジメ…」
「慎夜、言わなくても伝わるぞ」
「「女って強いなぁ……」」