元の世界でありふれたマスターは異世界で家族をつくる 作:nightマンサー
ーーー時は少し遡る。
ハイリヒ王国王宮内の廊下を私ーーー八重樫雫は歩いていた。現在、この王宮内は暗い雰囲気に包まれていた。
原因は勇者パーティの1人ーーー間桐恵里の失踪。
迷宮攻略の初日にハジメと慎夜の2人が死亡してクラスメイト達の心身に受けた傷がようやく癒えてきた所だというのに、王宮内に居たはずの間桐恵里の失踪。
王宮内の警備の者達からの証言で、少なくとも失踪日に部屋から出ていないことが分かった為か、ハイリヒ国王とイシュタル教皇は魔族に攫われたと結論づけ、箝口令を敷くと同時に王宮内の警備の強化を実施。しかし、人の口に戸は立てられぬのが人の常。貴族達の中では魔族が王宮内に侵入し勇者パーティの1人を始末したという噂が広まっており、私達へ懐疑的な目で見る者が出てきたのだ。
そのことを不安に感じた国王とイシュタルは迷宮攻略を急ぎ、もっと力をつけるようにと勅命してきた。
(クラスメイトがまた居なくなって、傷ついている私達に戦えだなんて……)
ことここに来て漸く、この世界に連れてこられた理不尽さを雫は感じていた。
そんな中、雫はとある理由で心配している人物と話をするために、彼女の部屋へと向かっていた。
部屋の前で警備している王国兵の人に会釈し、部屋の前で声をかける。
「鈴?ちょっと話をしたいのだけど、いいかしら?」
「え、シズシズ?いいよ、入って入って!」
扉が開かれるとそこにはクラスメイトの谷口鈴が寝間着で出迎えてくれた。部屋に通され、侍女に用意して持参した紅茶をテーブルに置いて椅子に腰掛ける。
「それでどしたの、シズシズ?もしかして、恋の相談!?」
「いや、そうじゃなくて……鈴、あなたの事よ」
「鈴の?」
キョトンとした顔で私を見る鈴に意を決して切り出す。
「その、恵里のこと。鈴が1番苦しい筈なのに、いつも通り明るく振る舞っていたから……」
「もしかしてシズシズは、鈴が無理してるんじゃないかって思ってる?」
鈴の言葉に私は頷く。いなくなった恵里は鈴にとって1番仲の良い友達ーーー所謂親友だ。
私だって香織がいなくなったら多分平静を保てないと思う。だからこそ、鈴は無理していつも通り笑顔のムードメーカーでいようとしているのではないのかと考えたのだ。
「大丈夫大丈夫!鈴は見ての通り元気いっぱいだよ!」
そう言って力瘤を作ってみせる鈴からは、確かに無理をしている感じがしない。
「……鈴は、私が思ってる以上に強い人だったのね」
「うーん、多分シズシズは勘違いしてるよ」
「勘違い?」
「だって鈴、エリリンが魔族に攫われたって思ってないから」
鈴の言葉に私は驚く。まさかーーー
「あ、現実逃避してるわけじゃないよ?ただ鈴の中で確信があるだけ」
「……どういう、こと?」
私が疑問に思っていると、鈴は何処から話せばいいかなぁと腕を組んで唸りーーー
「まぁ、シズシズなら多少はいいかな。実は鈴とエリリン……相性最悪だったの」
「……はい?」
そんな切り出しで始まった。
◆
(高校での私達しか知らなかったら、普通そんな顔になるよね…)
シズシズの鳩が豆鉄砲を食ったような顔に私ーーー谷口鈴は笑いを堪えつつ話の続きをする。
「エリリンとは中学から一緒なんだけど、初対面時の会話がもう酷いの。私は普通に挨拶しただけなのに、エリリンってば「そんな八方美人な作り笑いで挨拶してこないで」だったんだよ、酷くない!?」
「えぇ……」
「まぁ、案の定ムカついちゃって最初はエリリン以外の他の子と仲良くなったんだけどね?結局気になってエリリンのこと見てたら、羨ましくなってる鈴に気付いたの」
「羨ましい?」
「エリリンはね、自分にとって唯一大切なものだけあれば、後はどうだって良い吹っ切れた子だった。鈴と違って、寂しいのが怖くて誰にも嫌われない八方美人をする鈴とは正反対だったんだ」
鈴の言葉にシズシズはなんと声をかけたらいいか分からない様子だった。
「そんな時にちょっと切っ掛けがあって、エリリンと色々本音ぶつけ合って口論したんだけど、そっからエリリンとは親友になったの」
「ちょっと待って、口論したのに仲良くなったの?」
「そうそう。相性は最悪だったけど、だからこそ気兼ねなく本音を言い合える仲になったんだよね」
あの時のエリリンとの口論は今でも鮮明に思い出せる。
事を見ていたシンヤンから二度としないでほしいと懇願されるレベルだった。
「実はエリリンと2人の時だと普通に渾名じゃなくて名前で呼ぶし、鈴の事も私って言ってるんだ。まぁ、必ず軽口の言い合いが起こっちゃうけど。だから、シズシズの思ってる親友の関係とは違った形になるのかな?」
私がそう言うと、シズシズは驚きつつも一応理解してくれたようだ。
「だから、私はエリリンの事をよく知ってる。あのエリリンが本当に襲われたなら部屋が綺麗過ぎるんだ」
エリリンの部屋は攫われたとは思えないほど綺麗なままではあり、抵抗の跡が一切なかった。シズシズは抵抗がなかったと思われるだけで、といった顔をする。
「シズシズ、そんな事でって思ってるでしょ?でもね、今のエリリンは死んでも死にきれない目的がある」
「……間桐君の事ね」
「そう。あのエリリンがシンヤンを探すのをほっぽり出す訳がない。だってそれがエリリンにとって唯一無二だから。仮に本当に攫われたならその時、絶対に抵抗してるはずだよ。だから、エリリンはきっと自分の意志で王国を出ていった」
そうして鈴は自分の確信を言葉にする。
「だから、鈴は確信してる。シンヤンが生きてて、エリリンはそれに付いて行ったんだって」
鈴の言葉にシズシズは驚愕した。まぁ無理もないとは思うけれど、
「……親友をそこまで信頼出来る鈴は、やっぱり強いわ」
「ふふん!これでもエリリンの親友ですから!エリリンの事なら、鈴はどこまでも強くなれるよ。それはシズシズも同じだと思うよ?」
「……そうね、私も、香織の為なら強くなれると思う」
そうして鈴とシズシズは