元の世界でありふれたマスターは異世界で家族をつくる 作:nightマンサー
ギルドに入った俺達は辺りを見渡す。
入口正面にカウンターがあり、左手は飲食店になっていて、そこに居た冒険者達が当然のように俺達に注目してくる。
見慣れない8人組という大人数ということで、ささやかな注意を引いたに過ぎなかったが、彼等の視線が女性陣に向くと、途端に目付きが変わった。
ある者は関心し、ある者は門番のように見惚れたりしている。
テンプレ宜しく、ガラの悪い冒険者に絡まれたりーーーなんて事は起こらず、無事カウンターまで辿り着いた。
カウンターには大変魅力的な、笑顔を浮かべたオバチャンがいた。先程同様、ここも美人な受付嬢というテンプレ通りとはいかないらしい。
「両手以上に花を持っているのに、まだ足りなかったのかい? 残念だったね、美人の受付じゃなくて」
俺とハジメの心を読んだかのようなオバチャンの言葉に驚いてしまった。
「すみません、テンプレーーーじゃなくて、所謂お約束みたいな感じを考えてしまって……」
「というか、何でわかったんだ?」
「あはは、女の勘を舐めちゃいけないよ? 男の単純な中身なんて簡単にわかっちまうんだからね。あんまり余所見ばっかして愛想尽かされないようにね?」
そう言われ俺とハジメは苦笑して頷く。
オバチャンも説教臭くなってゴメンねと言葉を続け、1つ咳払いをする。
「さて、じゃあ改めて。冒険者ギルド、ブルック支部にようこそ。ご用件は何かしら?」
「あぁ、素材の買取をお願いしたい」
「素材の買取だね。じゃあ、まずステータスプレートを出してくれるかい?」
「買取にステータスプレートの提示が必要なんですか?」
ハジメが素材の買取を頼むとステータスプレートを出すよう言われたので、気になりオバチャンに質問する。
「あんたら冒険者じゃなかったのかい?確かに買取にステータスプレートは不要だけどね、冒険者と確認出来れば1割増で売れるんだよ」
「へぇ、そうなんですか」
「他にも、ギルドと提携している宿や店は1~2割程度は割り引いてくれるし、移動馬車を利用するときも高ランクなら無料で使えたりするね。どうする?登録しておくかい?登録には千ルタ必要だよ」
ルタというのはトータスの貨幣単位であり、貨幣価値は1ルタが日本でいう1円に相当しほぼ日本と同じ基準なため、大変助かった。
「どうするハジメ?俺としては登録しておいたほうが良いと思うんだけど」
「そうだな、登録しておくか。悪いんだが、持ち合わせが全くないんだ。買取金額から差っ引くってことにしてくれないか?もちろん、最初の買取額はそのままでいい」
「可愛い子が沢山いるのに文無しなんて何やってんだい。ちゃんと上乗せしといてあげるから、不自由させんじゃないよ?」
オバチャンがとてもかっこいい。有り難く厚意を受け取っておくことにし、俺とハジメ、それから恵里の3人はステータスプレートを差し出す。
モルガン達はステータスプレートを持っていないし、仮に発行したら多分俺とハジメ以上にやばいステータスが表示されるから確実に面倒事になる。身分証明書になるステータスプレートがないのは不便かもしれないが、暫く見送ることにした。
戻ってきたステータスプレートの職業欄に冒険者と表記され、その隣に青色の点が付いている。
これが所謂冒険者ランクというもので、1番下が青。そこから赤、黄、紫、緑、白、黒、銀、金の順に上昇する。因みにハジメのように戦闘系天職を持たない者で上がれる限界は黒であるが、成れれば金の冒険者よりも拍手喝采間違いなし位には超希少種である。
「男なら頑張ってそれぞれ金と黒を目指しなよ?お嬢さん達にカッコ悪いところ見せないようにね」
「あぁ、そうするよ。それで、買取はここでいいのか?」
「構わないよ。あたしは査定資格も持ってるから見せてちょうだい」
そう言われ俺とハジメは予め『宝物庫』からバックに移しておいた魔物の素材をそれぞれカウンターに乗せる。
「こ、これは……!」
カウンターに乗せられた魔物の素材を見たオバチャンは驚愕の声を上げた後、念入りに素材を確認していた。暫くして確認が終わったのか、顔を上げたオバチャンは先程の様子とは打って変わった真剣な目で俺達を見る。
「とんでもないものを持ってきたね。ーーーーーーこれは、樹海の魔物だね?」
「はい、そうです」
オバチャンの言葉に俺は肯定を返す。流石に【オルクス大迷宮】の奈落の魔物の素材は面倒事待ったなしであろう。樹海の魔物の素材でも珍しいとは思ったが、他に無かったので出したが、オバチャンの反応からやはり珍しい様だ。テンプレなら奈落の魔物の素材を出して受付嬢驚愕、からのギルドマスター登場で即高ランク認定で注目の的!と言った所だろうか。そこでふと、ここで女性からモテモテにみたいなことを微塵も思わない位には、自分がモルガンに惚れ込んでいる事に気付いて、何とも言えないむず痒さを感じる。
ーーー因みにこの時、妖精眼にて慎夜の心境を把握していたモルガンはそれは大層ご満悦だったそう。
「……そっちのあんたは懲りないねぇ」
オバチャンはハジメを見ながらそう言った。見れば何故かハジメに対してユエとシアが冷ややかな眼差しを向けていた。
「やっぱり、樹海の魔物の素材って珍しいですか?」
「そりゃあねぇ。樹海の中じゃあ、人間族は感覚を狂わされるし、一度迷えば二度と出てこれないからかなりのハイリスク。好き好んで入る人はいないねぇ。亜人の奴隷持ちが金稼ぎに入るけど、売るならもっと中央で売るさ。幾分か高く売れるし、名も上がりやすいからね」
俺の話題逸しに空気を読んで乗ってくれるオバチャン。亜人の奴隷と言った時にシアの方を見たから、恐らくシアに案内させたと納得したのだろう。結果的にシアのお陰で樹海の魔物の素材を出しても、そこまで怪しまれずに済んだようだ。
それからオバチャンは、全ての素材を査定し、買取額は48万7000ルタ。結構な金額を手に入れたが、8人で使うとなると1人当たり6万ルタで人数分の宿や食料等の購入を考えると、また近いうちに素材の買取をしてもらうのがいいかもしれない。
「これでいいかい?中央ならもう少し高くなるだろうけどね」
「いや、この額で構わない」
そうしてオバチャンから買取金を受け取った後、門番に聞いた地図を受け取ったのだが、手渡された地図は中々に精巧で有用な情報が簡潔に記載された素晴らしい出来で無料なのが信じられない位だ。聞けばオバチャンの手作りらしく、天職の書士で趣味で書いてる落書きなのだと。こんなにも優秀なオバチャンが、何故こんな辺境のギルドで受付をしているのかツッコミたくなるレベルである。
「色々とありがとうございます」
「いいってことさ。それより、金はあるんだから、少しはいいところに泊りなよ。治安が悪いわけじゃあないけど、その子達ならそんなの関係なく暴走する男連中が出そうだからね」
オバチャンの忠告にそうします、と俺とハジメは返事をして入口へ踵を返した。モルガン達もそれに追従する。
「ふむ、いろんな意味で面白そうな連中だね……」
誰にも聞こえない位の声量で、オバチャンは楽しげに呟いた。
◆
ギルドを出てから俺達は、受け取った地図に載っている【マサカの宿】という名の宿屋に向かっていた。
地図の紹介文には、料理が美味く防犯もしっかりしており、何より風呂に入れるというのが決め手だった。
宿の中は1階が食堂になっており、そこで食事をしている人達の目をギルドの時と同様、女性陣が掻っ攫ってしまった。お約束になりつつあるそれを無視し、カウンターらしき場所に行くと、15歳くらい女の子が元気よく挨拶しながら現れた。
「いらっしゃいませ、ようこそ【マサカの宿】へ!本日はお泊りですか?それともお食事だけですか?」
「宿泊だ。このガイドブックを見て来たんだが、記載されている通りでいいか?」
ハジメが見せたオバチャン特製地図を見て、合点がいったように頷く女の子。
「なるほど、キャサリンさんの紹介ですね。はい、書いてある通りですよ。何泊のご予定ですか?」
テキパキと宿泊手続きを進める女の子を他所に、俺とハジメはあのオバチャンの名前がキャサリンであった事に、何とも言えない感情となっていた。
「……あの、お客様?」
「あ、ごめんね。えっと、取り敢えず一泊で。それと食事付きで、お風呂もお願いしたいんだけど……」
先に復活した俺がハジメに変わって手続きを進める。
「はい。お風呂は15分100ルタです。今のところ、この時間帯が空いてますが……」
そう言って女の子がお風呂の時間帯表を見せてくれる。8人の大所帯で男女別々に入るから、3時間と長めに取りたいと伝えると、3時間も!?と驚かれた。
「え、えっと、それでお部屋はどうされますか?うちは5人部屋が1番大きくて、後は2人部屋と3人部屋が幾つか空いてますが……」
好奇心が含まれた目で俺達を見る宿の女の子。これだけの大所帯で女性比率高めなら、そういうのが気になるのも無理はないだろう。周囲の食堂にいる人達まで聞き耳を立てている程だ。
「えっと、それじゃーーー「5人部屋と3人部屋を」」
俺の声を遮って答えたモルガンの言葉を聞いて、宿の女の子も周囲もざわつく。恐らく部屋割の内容が気になるのだろう。そういう俺も気になりモルガンに声を掛ける。
「モ、モルガン?それだと男女別々に仕切れないから、3人部屋2つと、2人部屋1つに……」
「?何を言っているのですか、我が夫。私達5人と、ハジメ達3人で綺麗に分かれるでしょう?」
当たり前のことでしょうみたいなモルガンの言い様に、聞き耳を立てていた周囲の人達が一層ざわついた。
「ちょ、お母様!?まさかクソザっ、マスターと一緒の部屋に泊まる気!?」
「家族が同じ部屋に泊まるのはごく自然なことだと思うのですが、バーヴァン・シーは嫌でしたか?」
「嫌なわけない!ただ、その……」
バーヴァン・シーは同じ部屋に泊まることに抵抗があるようでモルガンに言うが、ある意味当たり前な事を言われたのとモルガンと一緒の部屋が嫌でないことで口籠る。ただ、口籠ったバーヴァン・シーとは対照的に周囲は驚愕で満ちていた。
「な、なぁ。さっき赤髪の子、銀髪美人のこと……お、お母様って言ったか?」
「じょ、冗談だろ?あの見た目で一児の母親だって?」
「でも家族って言ってたし……他の2人も、まさか!?」
事実から憶測で尾ヒレがやばい付き方をしており、このままでは色々と面倒事になりそうだと思ったその時ーーー
「そ、それで、ハジメさんに私の処女を貰ってもらいますぅ!」
隣で何やらユエと会話していたシアから、トンデモ発言が飛び出し辺りに静寂が舞い降りた。
流石に唖然としてハジメを見ると頭を抱えていたので、多分ハジメとしても想定外な言動だったのだろう。
尚も一触即発なユエとシアにハジメが拳骨をしその場を収めた。
「騒がせて悪いな。5人部屋と3人部屋で頼む」
「ちょ、ハジメ!?」
「自分だけ逃れられると思うなよ?こうなりゃこの部屋割が1番文句が出ないだろ」
結果いつものチーム編成であるハジメ、ユエ、シア
ーーー通称ハジメチームで3人部屋。
俺、モルガン、恵里、バーヴァン・シー、バーゲスト
ーーー通称慎夜チームで5人部屋に泊まることになった。
因みにお風呂は男女で時間を分けたのに、俺とハジメが入ってる所にモルガンとユエが乱入し、それに続くように恵里達も入ってきて騒がしい風呂となった。
その様子を覗いていた宿屋の女の子は酒池肉林と言って鼻血を吹き出しながら、女将さんに連行されていた。