最後に必ずデジたんが尊死する小説   作:コロリエル

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どうも、今更スマブラのDLCを買いました。とりあえず勇者触ります。

別作品、『アグネスタキオン、ダイワスカーレットのトレーナーになる』の本編から五年ほど前の話です。アグネスタキオンは皐月賞後に屈腱炎を発症し、数年後の復帰を目指して治療をしている最中、という状況です。


タキカフェはなんだかんだ五年後も付き合いがあるんですよ(QED)

 

 

「カフェ。これをあげるよ」

「嫌です」

「そんなこと言わずにさぁー。私は君のためを思って作ってきたんだから、飲んでくれよぉー」

 

 

 

 ああ、また面倒くさくなってきた……と、少し酸味が強く出過ぎてしまったブラックコーヒーを啜るのは、漆黒という言葉が似合うウマ娘、マンハッタンカフェ。自分専用のスペースに入ってきた白衣を着たウマ娘……アグネスタキオンの事を訝しげに眺めていた。

 折角の読書の時間を邪魔しないでくれと言わんばかりのうんざりした表情。アグネスタキオンと共にいる時のマンハッタンカフェは、よくこの表情を浮かべていた。

 

 

 

「君のため、ね……本当は自分のために作ったものなのでしょう?」

「全く……つれないなぁ、君は」

 

 

 

 残念だ、と大人しく引き下がる彼女は、トレセン学園に入学したばかりの時に比べて幾分が横暴さが無くなっていた。

 以前ならマンハッタンカフェの目を盗んで勝手にコーヒーカップに薬を注ぎ込んでいただろうし、こうやって断った時に素直に引き下がらなかっただろう。

 

 例の一件以来、彼女は随分と大人しくなった。以前のように他人を巻き込んだ暴走は無くなってきたし、ふと物思いにふけるかのように黙ることが増えた。

 

 

 

「よっと……はぁ、早く普通に歩ける生活に戻りたいものだよ。松葉杖で動けるようになっただけマシだが、ね」

 

 

 

 ソファに立てかけていた松葉杖を手に取り、自らの作業スペースへとゆっくりと進んでいく。彼女の左脚はサポーターでぐるぐる巻きにされており、その下には痛々しい手術跡が残っていた。

 

 左脚屈腱炎。

 

 それがアグネスタキオンが患った病。ウマ娘にとっての癌、不治の病と言われているほどの大病。

 

 無敗で皐月賞を勝った彼女が、全くレースに出ず、トレーニングもせずに研究三昧している理由。

 

 

 

「っつ……」

「……前に痛み止めを飲んでから、四時間経っています。そろそろ効果が切れてくる頃では?」

「あぁ、そうだったね……いやぁ、最近時間の流れが早く感じるんだ。日々が充実している証拠かねぇ」

 

 

 

 彼女は実に楽しそうに、机の中からラベルの無い瓶を取り出し、中身の錠剤を一掴み。

 明らかに上限を超えているとしか思えない量を口に放り込み、更には先程マンハッタンカフェに勧めた薬も口に入れる。そして、傍らに雑に投げてあった既製品の栄養ドリンクを掴み、その中身をあおる。

 

 うぷっ……と、軽くえずくアグネスタキオン。その顔は明らかにやつれているにも関わらず、ずっと薄ら笑みを浮かべ続けていた。

 

 

 

「っかぁ……くっくっく。苦しいねぇ」

 

 

 

 彼女はそう一言言い残すと、既にマンハッタンカフェに興味が無くなったかのように机に向かい、体温計や血圧計を取り出す。薬の副作用の確認を行うためだろうが、今の彼女から正しいデータが取れるのだろうかと、マンハッタンカフェは目を細めた。

 

 アグネスタキオンがデビューするまでは、彼女は腫れ物に触れるかのような扱いを受けていた。ろくに授業に出席しないどころか、選抜レースにも顔を出さず、一時は退学処分まで下りそうになっていた。そんな問題児に声をかける人間など、いるわけも無い。

 

 それが無敗で皐月賞を取った辺りで、周りの評価は変わっていった。当たり前だ、結果を出せば人の評価はコロッと変わる。実際彼女に話しかけてくるウマ娘も増えたし、彼女の奇行も見逃されることが増えた。

 

 しかし、今の彼女を見る皆の目には、哀れみの色が含まれていた。怪我により少し狂ってしまった哀れな天才。有り得もしない夢に囚われた悲劇のプリンセス。

 

 

 

「……最後に寝たの、いつですか?」

「ん? そうだねぇ……覚えていないな」

 

 

 

 そんな彼女と会話する存在など、彼女のトレーナーと、マンハッタンカフェ位のものであった。

 

 煩わしく思う事もあるが、ある程度好いていない相手とこうも日常的に接することなどない。彼女の日常生活がある程度崩壊しているのは今更ではあるが、最近の彼女はもう見ていられない。

 

 

 

「寝ましょう」

「うん……? どうせ限界が来たら眠ってしまうのだから、別にいいのでは?」

「……何を焦っているのですか?」

 

 

 

 焦っている。

 

 今のアグネスタキオンの事を、マンハッタンカフェはそう評した。

 

 彼女は二年後のレースで復帰する計画を自身のトレーナーと立てていた。そう何度も走れる程までに回復する見込みは無く、走れたとしても一、二度が限界……そのたった数度のレースのために、彼女は学園生活を捧げることにした。

 

 今の彼女がすべき事は、少しでも足の調子を良くするために規則正しい生活を送ること。今の彼女は、様々な意味でらしくない。

 

 

 

「……カフェには関係無いだろう。君は今度の菊花賞に出走するのだろう? その準備をすればいいでは無いか」

 

 

 

 アグネスタキオンは振り返ることなく机に向かっている。しかし、明らかに声色からは苛立ちが感じ取れる。

 全く、相変わらず精神年齢が低いんだからと、マンハッタンカフェは大きくため息を吐く。彼女はスっと右手を上げ、合図を送る。

 

 その瞬間、疲れや寝不足や体調不良で苛立っていたアグネスタキオンは、確かな悪寒を感じた。まるで冷え切った手に背中を撫でられたかのような感覚。

 

 

 

「っ……カフェ? 何かしたかい?」

「私は何も? ただ……『お友だち』に、手伝って貰っただけです」

 

 

 

 次の瞬間、アグネスタキオンの身体が宙に浮く。もちろん抵抗はしたが、両手両足、胴体に頭を『ナニカ』にガッチリとホールドされており、身動きの一つも取れない。しかし、左脚はあまり拘束が強くなかった。

 

 ただでさえ体力が衰えている彼女は、少し動いただけで息切れを起こしてしまった。

 

 

 

「ぐぅっ……カフェ、なんの真似だい? 珍しいでは無いか、君がはっきり私の邪魔をしてくるなんて」

「えぇ。今のあなたは見ていられません。あなたのトレーナーさんからも無茶しないように見ていてくれと頼まれましたし……いい加減寝てもらいますよ?」

「ふゥん……? それじゃあ寝かしてみせるがいいさ!」

 

 

 

 寝て無さすぎて正常なテンションでは無いのか、アグネスタキオンは高笑いをしてみせる。その目は焦点が合っていないように見え、初めて出会った時と比べても明らかに狂った色をしていた。

 

 はぁ、と再びため息をついたマンハッタンカフェは、普段は絶対に立ち入らないアグネスタキオンのスペースに入り、棚の中からひとつの瓶を取り出す。幾度か飲まされかけ、危ない目に遭いかけたからよく覚えている。

 

 

 

「……それは!」

「ええ、睡眠薬です。これの強さはよく知っているでしょう?」

「当然だとも! 即効性に全てをかけすぎたせいで、飲むと悪夢を見るという薬だよ!」

 

 

 

 何故か誇らしげに胸を張るアグネスタキオンに苛立ちながら、マンハッタンカフェはその瓶から二粒錠剤を取り出す。

 

 マンハッタンカフェが虚空に向かって、お願いと一言呟くと、アグネスタキオンの口がぱかんと開く。何者からか無理やり開けさせられていて、閉じようと思っても閉じられない。

 

 マンハッタンカフェはそんなアグネスタキオンの口内に錠剤を放り込み、背中を勢いよく叩く。

 

 

 

「んぐっ、ぐきゅん……あのさぁカフェ? もう少し優しく飲ませてはくれないのかい? 口移しで飲ませてくれるとかさぁ!」

「いえ、私の唇はそんなに安いものでは無いので。せめてもう少しロマンチックな状況でなら、考えないでもないですが」

「ふゥん……え、それは……つま、り……」

 

 

 

 マンハッタンカフェの言葉の端々から読み取れた彼女の意図に、アグネスタキオンは彼女の顔を見ようとした。

 しかし、ただでさえ圧倒的な寝不足だったことも助けたのか、アグネスタキオンの瞼はゆっくりと落ちていく。

 

 最後に彼女が見たのは、相変わらず呆れたように目を細めているマンハッタンカフェの姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すいませーん、タキオンさん。トレーナーさんからお弁当を預かってきまし……………………」

「ん、ああ、デジタルさんでしたか。すいません、タキオンさんはこの通りぐっすりで……」

 

 

 

 アグネスデジタルは絶句した。

 

 最近部屋にいる時もずっと作業をし続けており、明らかに寝不足気味だったアグネスタキオンが、マンハッタンカフェの膝枕で眠っていることを。彼女は何故かうんうんとうなされており、あまり熟睡はできていないようだった。

 

 ただでさえ、二人の共同スペース等というこっちを殺す気か? と言わんばかりの距離感の二人の膝枕。アグネスデジタルはこれは現実なのかと自分のほっぺたをつねった。普通に痛い。

 

 

 

「……デジタルさん?」

「ひゃ、ひゃいっ! そ、そうでしたか……でも、タキオンさん、やっと寝てくれたんですか……」

「……そんなに寝ていないのですか?」

「それはもう! ずっと自身の今後のプランの再計算とカフェさんのトレーニングプランの構築をしていて……あっ」

 

 

 

 あまりの尊い光景に少し混乱が続いていたアグネスデジタルの脳内は、カフェには黙っていてくれとタキオンから念押しされていた事を零してしまう。

 

 ぴくり、とマンハッタンカフェの耳が動いた。

 

 

 

「……全く、本当に不器用な人ですね、この人は」

「す、すいません……今のは、聞かなかったことにしてもらってもいいですか……?」

「もちろんです。しかし、そうですか……そんな事をして寝不足に……」

 

 

 

 ふふっ。

 

 

 

 アグネスデジタルは、確かに見た。

 

 マンハッタンカフェが、自身の太腿を枕にして眠っているアグネスタキオンの頭を撫でながら、微かに微笑んだ瞬間を。

 

 

 

 

 

 

 そこから先のアグネスデジタルの記憶は、無かった。

 

 翌朝、アグネスタキオンとアグネスデジタルは自室のベッドの上に寝巻き姿で寝かされていた。アグネスタキオンのベッドは悪夢を見た事による寝汗で、アグネスデジタルのベッドは吐血による血により、それぞれ濡れていた。

 




ご閲覧ありがとうございます。ついに年内の更新はあと一回、それまでに評価バーが全部点灯してくれないかなぁ、なんて思ってたりします。

感想、評価、お気に入り登録等していただくと、明日が最高の一日になります。

それでは、また次回。
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