お待たせしました、スペスズです。アニメ世界線だと思っていて下さい。
今年の年越しは、数年ぶりに実家で過ごすことになった彼女は、久しぶりに出会った育ての親とのひと時を思うがまま過ごしていた。
母親の仕事の手伝いをしたり、お隣さんへの挨拶を済ませたり、地元の友人と出会ったり……生まれ故郷だからこそできることをしていた。
今やトゥインクル・シリーズで知らぬ者はいない大スター、『日本総大将』とまで呼ばれるスペシャルウィーク。どこに行っても人だかりができるほどの人気だが、今は家のコタツでのんびりと雑煮(スペシャルウィーク専用超特大丼)を食べていた。
一月一日。元旦をのんびりと楽しんでいた。
「相変わらずよく食べるねぇ……気合い入れておせちやら用意しといて良かったよ」
「おかあちゃん! 今年のお雑煮すっごく美味しいよ!」
「そりゃあ良かった」
自分用の普通サイズの雑煮を作ってきたスペシャルウィークの母親は、とんでもない勢いで消えていく彼女の雑煮(推定七キロ)を見て、おかわりを用意しておくべきだろうかと頬を引き攣らせながら対面に座る。
昔からよく食べる娘だったが、トレセン学園に入学してからさらによく食べるようになった。
「そうそう、年賀状来てたわよ。多分あんたの向こうでのお友達から」
「本当? 見る見る!」
一応自分の住所は帰ってくる前に伝えてはいたスペシャルウィーク。今どきの若い子達では珍しい年賀状でのやり取りが、彼女達の周辺では行われていた。
母親は、ポケットの中に入れていた何枚かの年賀状を取り出す。先に中身を確認した彼女は、中々個性的な友人がいるのだな、と微笑ましさを感じていた。
年賀状を受け取ったスペシャルウィーク。彼女の目の前の雑煮は、既に中身が空っぽになっていた。彼女のお腹は、若干ぷっくりと膨れていた。
「えーっと……テイオーさんと、スカーレットちゃんとウオッカちゃんと、マックイーンさんからも! これは……ゴールドシップさんのかなぁ?」
トウカイテイオーとシンボリルドルフのツーショットという、人によってはお宝物の年賀状に、可愛らしいデフォルメされた虎の絵が描かれた年賀状。筆ペンで描かれたエキセントリックな虎の年賀状と、何故か一面金ピカに輝く年賀状。
個性的な面々が集まったチームスピカ、年賀状も個性的だった。
その他の年賀状も、ペットのマンボと共に写ったエルコンドルパサー、やたら達筆な『謹賀新年』と書いたグラスワンダー、王冠を被った虎のイラストを描いたキングヘイロー、シャープペンシルでたった一言『あけおめー』と書いたセイウンスカイなどなど、同期のウマ娘からもまた個性的な年賀状が送られていた。
そして、一番下。まさか彼女から送られて居るとは思ってもみなかった。
「スズカさんからだ……!」
サイレンススズカ。今はアメリカのレースに参加しているチームスピカの先輩にして、寮の同室のウマ娘。
スペシャルウィークが、一番尊敬しているウマ娘だ。
「スズカって……あのサイレンススズカかい? 今向こうで大活躍らしいじゃない」
「うんっ! 来年にはこっちに帰ってくるらしいんだ!」
「おっ、そりゃあ楽しみだねぇ」
……自分の娘とはいえ、これで気付かないって相当じゃないか? と母親は考えていた。元々そこまで頭のいい子では無かったけど、将来詐欺師に騙されて壺を買わされないか不安である。普通に考えたら、アメリカから日本の年賀状は送れるわけがないだろうに。
思わずため息が出そうになった母親はそれを噛み殺し、ちらり、と後ろに目をやる。部屋の入り口の向こう側から、栗毛の耳が見えた。
「しかし、スペは随分サイレンススズカさんの事が好きなんだねぇ」
「うんっ! 私の憧れで……大好きな人だよ!」
ドタンっ!
廊下から誰かが倒れるような音が聞こえてきたが、スペシャルウィークは気付かない。
彼女のその表情は、完全に今ここにはいないと思い込んでいるサイレンススズカの事を想っている顔。明らかに先輩を慕う後輩、という表情ではない。
「そ、そうかい……どんなところが好きなんだい?」
「~っ!?」
背後から『異次元の逃亡者』の声にならない悲鳴が聞こえてきた。スペシャルウィークは未だに気付かないのか、照れたように笑顔を浮かべながらくねくねと身をよじる。
明らかに恋する乙女である。
「スズカさんは……走ってる姿がすっごく綺麗なの!」
頬を赤らめながら、回想するかのように目を閉じるスペシャルウィーク。初めて彼女のレースを見た東京レース場。圧倒的なスピードで一度も先頭を譲らずゴール板を駆け抜けた彼女に、言ってしまえば一目惚れしてしまった。
その後も一緒のチームになったり、寮で同室になったりと、普段から傍に居る生活になった。
初めこそ、この感情はただの憧れ。だが共に過ごすにつれ、サイレンススズカに対する感情は次第に変化して行った。
「初めて会ったときはクールな人なんだろうなって思ってたんだけど……実はすっごくお茶目で、面白い人だったの!」
物静かと言えば確かにその通りだが、実は茶目っ気もあり改めて見るとすごい面白い人物だと、スペシャルウィークは彼女を評していた。
そして……誰よりも熱い信念を持った人だ。とスペシャルウィークは熱く語る。『夢を与えるウマ娘になりたい』という彼女の夢は、間違いなく叶っているのだろうと、後に彼女らのトレーナーは語っていた。
「それに……スズカさんは、自分の目標に向かってストイックに努力できる人なの」
何よりも走ることが、先頭の景色を見ることが大好きなサイレンススズカは、それを見続けるためにひたすらに努力を積める。
そんな彼女のストイックな姿に、スペシャルウィークは……夢中になった。そんなサイレンススズカを見て、いつか彼女に並ぶウマ娘に……日本一のウマ娘になりたいと、幼少期からの夢がより一層強くなった。
「いつか……いつか、スズカさんと一緒に走りたい……そのために、今一生懸命頑張ってるの!」
「……そうかい」
スペシャルウィークの様子を見て、彼女の母親は少しだけ寂しそうに笑う。今の彼女の表情は、彼女がこの十数年のうちに一度も見たことがないものだった。
スペシャルウィークにとって、サイレンススズカがどれほど特別な存在なのか……それを確かめた母親は、スペシャルウィークの丼を持って立ち上がる。
「それじゃあ、そんなサイレンススズカさんにはしっかりと新年の挨拶をしないとねぇ」
「うん! …………うん?」
母親は丼を持ったまま廊下に出て、そこに座っていたウマ娘……先程からずっと話題に出ていたウマ娘、サイレンススズカに目配せする。スペシャルウィークのサプライズのため、年末年始に合わせてアメリカから帰国した彼女は、スペシャルウィークの母親に言われてずっと廊下で待機していた。
──暫く台所に居るから。あまりハメを外さないようにね?
そう声を掛け、母親は静かに居間から立ち去る。
背後から聞こえてきたスペシャルウィークの歓喜の声とサイレンススズカの戸惑うような声を背後に受けながら彼女は、寂しさを紛らわせるように冷蔵庫の中から缶ビールを取り出した。
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「……はぅあっ!!」
「なしたデジタルっ!」
ここは香港。年末にあったG1レースを勝利した彼女は、そのまま香港に滞在し年越しを済ませていた。ホテルで朝食を食べている時、アグネスデジタルがなにかの電波を感知したかのように北東の方向を振り返る。対面に座る彼女のトレーナーは、その方向にウマ娘カップルでも居たのかと警戒する。
しかし、そこに居るのは清掃夫のお爺さん。どこが居所が悪そうに、そそくさと立ち去って行った。
「今……北海道の方からウマ娘ちゃん達の気配を感じましたっ! これは……先輩と後輩の数年ぶりの再会の味……あはー!」
「…………お前怖いよ」
「あっあっあっ! そんな大胆に抱き合って…………オホーっ!!!」
「……あ、店員さん。ティッシュ二箱お願いできますか?」
もはや日常茶飯事なアグネスデジタルの反応に、彼女のトレーナーは死んだ目をして近くを歩いていた店員に言付けをする。
彼らの机は、既にアグネスデジタルの鼻血により真っ赤に染まりつつあった。こんなのが香港カップの優勝ウマ娘なのだと知ったら、周囲の人間がどんな反応をするのか気になるところである。
ご閲覧ありがとうございます。さすがに二十日連続で三、四千字書く生活をし続けていると滅茶苦茶疲れました。というわけで、残りの三が日は休みます。一月四日にお会いしましょう。
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それでは、また次回。