自分が一番好きなCP、フラウンスです。異常に筆が捗りました。
「…………あの、スカイさん?」
「んー? ふらわー……もうちょっとぉ……」
「い、いえ! それは全然構わないんですけど……」
心臓の音がうるさいよぉ、とニシノフラワーは眉を下げる。実家への帰省を終え、トレセン学園に帰ってきたのが一ヶ月ほど前。
久しぶりに会う友人たちに新年の挨拶をしていた所、本当は真っ先に会いに行こうと考えていたセイウンスカイの姿を見つけた。
どこかぼーっと上の空だったセイウンスカイに話しかけると、腕をガシッと掴まれた。そのまま彼女の寮の自室へと連れ込まれてしまった。何が起こってるのか分からないままベッドの上に連れ込まれ、抱き枕にされてしまった。
その時は三時間ほど抱き締められた後解放されたが、今でも一週間に一回抱き枕にされてしまうようになった。
嫌という訳では無い。ニシノフラワーだってセイウンスカイにはかなり特別な感情を持っている。彼女の匂いに包まれた布団で背中から抱き締められると、もう幸せすぎてどうにかなってしまいそうになる。
だから今日も、彼女の抱き枕になっていた。既に一月も下旬、二人が入った布団の中は、ぽかぽかと暖かった。
「あの……なんで私の事を、こう抱きしめるんですか?」
「えー……嫌?」
「嫌では無いですけど……」
「じゃあ……もうちょっと……」
こんな日は、セイウンスカイの満足が行くまで抱き枕にされてしまう。最初こそ無理矢理だったが、今では事前にきちんと許可をとって居た。今日も昼食後に突然頼み込まれたのだ。だから、極論今日はこのままずっと抱きしめられていても問題は無い。
だけど、今日はこのままなあなあで流される訳には行かないと、ニシノフラワーは一人気合いを入れていた。
今日こそは心を鬼にしてセイウンスカイにこの行動の意味を聞くのだと、意気込んでいたのだ。結果は既に二時間抱きしめられて、若干眠気が襲ってきている始末だが。
「あのっ、スカイさん! ちゃんと説明して欲しいです! なんの説明も無しに抱きしめられたら……す、スカイさんだからいいですし、許可も貰ってますけど……それでも、ちょっと困るんです!」
お腹に回された手にそっと自分の手を当てる。ニシノフラワーよりも一回りくらい大きな手はぴくりと動き、背中からセイウンスカイの動揺が伝わってきた。
しばし、二人の間に沈黙が流れる。二人の呼吸音と布が摩れる音が部屋に響くのみ。
やがてふぅ、と一つセイウンスカイが息を吐いたかと思うと、ニシノフラワーの頭に顎を載せるように密着度を増してきた。
「……笑わないでよ」
「笑いませんっ!」
若干食い気味に返事をしてきたニシノフラワーに苦笑しつつ、セイウンスカイはニシノフラワーの手に自分の指を絡めていく。普段なら、のらりくらりと躱していたのだろう。だが、今日のセイウンスカイはいつもよりも気分が落ち込んでいたし、ニシノフラワーはいつもよりも気合が入っていた。
まぁ、ここまで理由を聞かれなかった方がおかしかったか、と自嘲気味に笑う。
「……フラワーってさ、色んな人に優しいじゃない」
セイウンスカイは見た。ニシノフラワーが授業の理解度が低いクラスメイトのウマ娘に自分のノートを見せてあげているところを。
セイウンスカイは見た。ニシノフラワーがアグネスタキオンに弁当を作っているところを。
セイウンスカイは見た。ニシノフラワーがタイキシャトルと遊んであげているところを。
彼女にだって友達は当然居る。その付き合いの邪魔なんてできるわけもないし、そもそもニシノフラワーはセイウンスカイのものなんかでもない。
分かっている。そんな当たり前の事実は。だから、今セイウンスカイが抱いてる感情は、とんでもなく子供っぽいとしか言えない、情けない感情だと理解していた。
「誰が相談してきても自分の事のように悩んであげるし、こうしたら相手が喜ぶかなって、相手のことを考えてあげれて……凄いよ、フラワーは……」
抱きしめる手に力が入る。分かっているのだ、ニシノフラワーにとって自分がどれほど大切な存在なのかは。そうでなければ、自分の頬にキスを落としてあんなに真っ赤になる理由が無い。まだまだ初心なニシノフラワーが、そういった行為に慣れていないことも見通していた。
だが、それはそれとして、不安にもなる。
「……フラワーが、他の誰かのものにならないかって。私がこうやって抱きしめられない所に行っちゃうんじゃないかって」
告白もしていないのに、自分のものですら無いくせに、とんでも無い思い上がりだと、セイウンスカイは鼻の奥がつんと痛くなるのを感じた。泣く権利なんてあるわけも無いし、ニシノフラワーの前で涙を零すなんて論外だ。
だから、彼女はニシノフラワーを後ろ向きに抱く。自分の酷い顔を、ニシノフラワーに見られないように。
……再び、二人の間に沈黙が流れる。先程と比べても、明らかに重たい空気。セイウンスカイはもう一言も喋らないし、ニシノフラワーも黙ったままだった。
──引かれちゃったよね、そりゃ。
何も言ってくれないニシノフラワーを、セイウンスカイは手放そうとする。元々無理矢理抱きしめていたのだ、ハナからこうなっていてもおかしくはなかった。
これで、私とフラワーの関係は終わり……セイウンスカイは、自分の気持ちを遠くに投げ捨てようとしていた。
ニシノフラワーは、そんな彼女の手を取った。彼女にしては珍しく、少し強く手を握る。
「……フラワー?」
「……スカイさん。私は今怒っています」
珍しく怒気を含んだ声に、セイウンスカイはびくりと体を震わせる。幾ら手を離そうとしても、ニシノフラワーは全く離してくれそうにない。
セイウンスカイは、彼女の顔が見れない。相手の顔が見えないことがこんなに怖いことなのかと、心がどんどん苦しくなっていくのを感じた。
「私が……私がそんなに、移り気なウマ娘だと思ってたんですか?」
「……しょうがないじゃない。私は……タキオンさんみたいに頭が良い訳でも、タイキみたいに明るく引っ張れる訳でもない。好きな子にちょっかい出して、部屋に連れ込んで何も言わずに数時間あすなろ抱きにするような人だよ? ……嫌われても、おかしく、ないって」
「……勝手に決めつけないで下さいっ!!」
ニシノフラワーの怒鳴り声を聞いたのは、これが初めてだった。彼女は勢いよく起き上がったかと思うと、セイウンスカイの上に四つん這いになる。
泣いていた。
慣れない怒りで、慣れない激情で。ニシノフラワーはセイウンスカイの上で泣いていた。彼女が零した涙が、セイウンスカイの頬に落ちてきた。
「ふ、フラワー……?」
「私がっ……私がそういう意味で好きなのは、スカイさんだけですっ! 確かに、タキオンさんもタイキさんも、バクシンオーさんだって大好きですよっ! だけど……卒業したあとも一緒に過ごしたいって、おばあちゃんになった後も一緒に居たいって思うのはスカイさんだけですっ!」
「フラワー……」
「こんなことしなくても、言ってくれたらいくらでも抱きしめていいですし、他にも色々してもいいですっ! 何も言わずに何も聞かずに、勝手に私を決め付けないで下さいっ!!」
はぁはぁと、激しく息切れをするほど叫んだニシノフラワー。涙でいっぱいの彼女の瞳には……セイウンスカイしか、映っていなかった。
セイウンスカイは、また情けなくなってしまった。大好きなニシノフラワーを、こんなに泣かせてしまったことを。
気が付いたら、セイウンスカイも泣いていた。あれだけ我慢していた涙が、今はとめどなく溢れてしまう。そのまま自分の胸の上に崩れ落ちてきたニシノフラワーを、強く、強く抱きしめる。後ろからではなく、正面から。
「ごめん……ごめんね、フラワー……っ!」
「スカイさん……っ、スカイさん……っ!」
「私……フラワーが好きっ……ぐずっ、大好き……っ、そつぎょう、しても……大人になっても、おばあちゃんになっても……ずっとずっと、そばにいて……っ!」
「はいっ……はいぃ……」
とうの昔にお互いに同じ気持ちだった二人は、お互いに傷つきながらも、ようやくお互いの気持ちを交わした。
これを知っているのは、彼女たち以外誰も居ない。
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「キングさんっ! ニシノフラワーさんを見かけませんでしたか? トレーナーさんが呼んでいまして……」
寮内の休憩室。寝落ちしてしまっているハルウララに膝枕をしてあげているキングヘイローに、思わず尊死してしまいそうになりながらも、何とか耐えるアグネスデジタル。自分がここで死んでしまったら、ニシノフラワーのトレーナーさんに迷惑がかかってしまうと。
興味がなさそうにテレビを眺めながらハルウララの頭を撫でていたキングヘイローは、静かに声をかけてきたアグネスデジタルに目を向ける。その目はどこがぼんやりとしており、彼女も眠たそうなのが見て取れた。
「ニシノフラワーさんなら……スカイさんの部屋に呼ばれてましたわよ……最近よくスカイさんフラワーさんを連れ込んでるから……あれ、デジタルさん?」
ただでさえ結構いっぱいいっぱいになっていたのに、急にそんなとんでも爆弾を落とされて死なないアグネスデジタルが居るのだろうか? いや、居ない。
全く反応のないアグネスデジタルに対し不審に思ったキングヘイローは、自分の横に立つアグネスデジタルへと目を向ける。
──そこには、両手を胸の前で合わせ、真っ白に燃え尽きてしまっているアグネスデジタルが立っていた。
フラウンスがずっと幸せになるボタン
ご閲覧ありがとうございます。最早説明不要だとは思いますが、セイウンスカイ号とニシノフラワー号の墓は隣同士です。
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それでは、また次回。