オグタマ、その後です。ネタバレになってしまいますが、デジたんが死にます。
朝。
「タマ、おはよう。今日も早いな」
「ひっ……せ、せせせせ、せやな! ほな、ウチは朝練あるから!」
「あ、ああ……頑張ってくれ」
昼。
「タマ、一緒に食べても……」
「むぎゅむぎゅむぎゅむぎゅ、ごきゅん! ごっそさんでした! すまんオグリ、急ぎの用事あるからまた後でな!」
「む、そうか……すまない」
夜。
「ふう、いい湯だった……タマ? もう寝ているのか?」
「おう、もう寝とるでー」
「そうか……邪魔してすまない」
こんな感じの日が続くこと、早二週間。オグリキャップの精神は段々と疲弊していった。想いを寄せている相手にこうも避けられていては、そうなるのも無理はない。最近はそのせいで日常生活に支障が出てきてしまっており、以前は二桁行っていたおかわりも、今ではその半分ほどにまで減ってしまっており、見るからに元気が無さそうだった。
これに気付かない担当トレーナーなど居る訳なく、更に言えばそれに気付かない友人も居る訳ない。
「どうすればいいですかねぇ……」
「全く……いくら何でも追い込まれすぎじゃねぇかい?」
「今はまだ大丈夫だが、いつレースに影響がでるか分からないからなぁ……」
オグリキャップのライバルとして名高いスーパークリークとイナリワン、そしてオグリキャップの担当トレーナーが集結していた。皆、例の『オグリキャップ公開告白事件』については知っており、オグリキャップがどうしてこんなに落ち込んでいるのかは把握済みである。
今現在、彼ら三人と件のオグリキャップは、トレーナー室に集合しており、緊急ミーティングを開いていた。
「いいんだ……あんな目に合わせたウマ娘、嫌いになって当然だ……」
とんでもない勝負根性で有名なオグリキャップは見る影もなく、耳も尻尾もへにゃりと垂れてしまっており、ソファに座っているスーパークリークの膝に顔を埋めて寝転んでいた。スーパークリークの口角が上がっているのは、決して気のせいではないだろう。
相変わらずなスーパークリークにため息をつきながら、トレーナーとイナリワンは腕を組む。
「そんな訳ないだろ……兎に角、一回きちんとタマモクロスと話をした方がいい。このまま会話も出来ずに終わってしまうなんてこと、あっていいはずがない」
「それはそうかもしれないが……絶対に逃げられてしまうんだ……ははっ、タマは凄いな……逃げは苦手なものだと思いきっていたが、まさかこの私が差し切れない程の逃亡者だったとはな……」
おめーが差し切れてねぇのがわりーんだよ。
トレーナーとイナリワンは全く同じことを考えたが、口に出さなかったのはこれ以上話をややこしくしないための配慮だった。実際問題、オグリキャップはそれはそれは弱ってしまっていた。そんな彼女をこれ以上落ち込ませてしまったら、もう絶対に取り返しがつかなくなってしまう。
それは兎も角、目下の命題は判明した。『タマモクロスを捕まえる』である。
「……イナリワン、スーパークリーク。このままじゃ埒が明かない。多少手荒な真似することになるけど、構わないか?」
「てやんでぃっ! 大事なダチの為だ、一肌脱ごうじゃあないかっ!」
「ええ、勿論です。オグリちゃんとタマちゃんが仲良しじゃないと、こっちも悲しくなってしまいますからね」
快諾してくれたイナリワンとスーパークリークに感謝を述べたトレーナーは、自身のスマホで彼の友人……タマモクロスのトレーナーにメッセージを入れる。
タマモクロスのトレーナーは、「こちらからもお願いする」というメッセージが返ってきた。
────────
「はぁ……そろそろ、無視し続けるのは無理やな」
夕方のトレセン学園。帰路に就いていたタマモクロスは、大きく大きくため息をついていた。
悩みの種はもちろん、盛大な告白をかましてくれた同室のライバル、オグリキャップについてである。
あまりの恥ずかしさに逃げ出して以来、どうにも顔を見て話せなくなってしまった。ずっと彼女を避けての生活に限界を感じてきていたタマモクロス。しかし、どうしてもオグリキャップのことを見ると心臓の鼓動が激しくなり、顔が熱くなってしまう。
一体これは何なんだ、と初心なタマモクロスは悩み続ける。うんうん目を瞑って歩いていると……ぽふんと、なにかにぶつかった。
「おお、すまんな。ちょっち考え事しとった、わ……何しとんのや? クリークにイナリ。それに……オグリのトレーナーはん?」
タマモクロスの目の前に立っていたのは、グラサンにマスクという明らかに怪しそうな出で立ちになっている親友二人と度々世話になっていたトレーナー。
一体なぜこんな格好で、しかも道のど真ん中で仁王立ちしていたのか、タマモクロスは分からなかった、が……禄でもないことになりそうな予感は、プンプンしていた。
「スーパークリークっ! イナリワンっ! やーっておしまいっ!」
「了解しましたー」
「すまんな、タマっ! これもお前のためでいっ!」
変装した意味が欠けらもあらへんがな! ……そうツッコミを入れようとしたタマモクロスだったが、いつの間にか目の前が真っ暗になった。
なんやこれは!? と軽くパニックになっている間に、タマモクロスは三人に担ぎ上げられ……えっほえっほとどこかに連れ去られてしまう。皆様お察しの通り、タマモクロスは麻袋を被せられていた。
「お前らっ! 一体どこに連れてく気やっ! こんな誘拐まがいのことしてっ!」
「しょうがないじゃないですかー。タマちゃんがちゃんと話さないのが悪いんですからー」
「タマ、さっさと腹を決めろっ!」
「……ちょっと手を離すぞ……こちらF、標的を捕獲した。直ぐにそちらに着く、どうぞー」
「なんでオグリのトレーナーはんだけきちんと偽名使っとんねんっ! 全員分用意せぇやっ!!」
どんな状況になってもツッコミだけは忘れない。そんな関西人の魂のようなものを見せつけるタマモクロス(麻袋の姿)。
やがて、一行は目的の部屋に辿り着く。先頭だったオグリキャップのトレーナーが部屋に入り、壁際の椅子にタマモクロスを座らせる。当然ながら、タマモクロスは何が起きているのか一切分かっていない。
やがて、タマモクロスに被せられていた麻袋が取り払われる。そこは、よく見知った自分の担当トレーナーの部屋だった。
「ぷはっ! ほんま息苦しい、かった、わ……っ!!?」
「……久しぶりに顔を見た気がするよ、タマ」
座らされた椅子の前。まるでタマモクロスに覆い被さるかのように立ちはだかっていたのは、最近の彼女の悩みの種、オグリキャップであった。その顔はどこが影があり、覇気がなさそうにも見えた。
ドクン、と心臓が跳ね上がる。
苦しい、見ていられない……そう考えたタマモクロスはいつものようにすぐに逃げ出そうとした。が、右腕をスーパークリーク、左腕をイナリワン、両足を百合の波動を感じて教室の周辺までやって来ていたアグネスデジタルが取り押さえていた。なお、アグネスデジタルは既に瀕死寸前である。
「くっ、離せやお前らっ!」
「ダメですよー、これはタマちゃんのためでもあるんですからー」
「一回きちんと顔見て話やがれってんだ!」
「……私はロープ私はロープ私はロープ私はロープ私はロープ私はロープ私はロープ私はロープ私はロープ私はロープ私はロープ私はロープ私はロープ私はロープ私はロープ私はロープ私はロープ私はロープ私はロープ私はロープ私はロープ私はロープ私はロープ私はロープ私はロープ……」
「おうおうおうおう! 一人危ないのがおるでぇ!」
如何にタマモクロスがパワー自慢のウマ娘であったとしても、三人相手に勝てるわけは無い。やがてオグリキャップがタマモクロスの横の壁に手をつき、グイッとタマモクロスに顔を近づける。いわゆる壁ドン。お互いに息がかかってしまう程の近距離だった。
ちょうど間に挟まる形になったアグネスデジタルは、ここで既に死んでいた。しかし、言いつけを守らんと、その手を離さない。
「ひっ……お、オグリ……?」
「……タマ、この前は、その、すまなかった……君の気持ちを全く考えないで、自分一人で突っ走ってしまった」
タマモクロスは、自分を追い詰めているはずのオグリキャップのその表情を見て、頭を鈍器で殴られたかのような衝撃が走った。
目の前のオグリキャップは、トレーニングで限界まで追い込んだかのような苦しそうな表情を浮かべ、その両目からボロボロと涙を零していた。
思わず言葉を失っていると、オグリキャップはそれでもなお笑おうとしていた。酷い顔だった。
「……迷惑だったのなら、あの日のことは全部忘れてくれて構わない。これまで通りに……なんて、ことは、無理だろうが……それ、っでも、友人として……せっして、くれたらっ……それで、いい」
「……迷惑な訳あるかいなっ!」
タマモクロスは、必死だった。自分がきちんと気持ちに向き合わずに逃げ続けた結果、目の前のライバルを泣かせてしまっている事実を。
自分の気持ちには、未だに折り合いはついていない。だけど、オグリキャップを泣かせていい訳がない……それだけははっきりと分かっていた。
あまりの大声に皆が目を見開いていると、タマモクロスは必死に捲り立てる。
「お前さんからのそんな気持ちが、迷惑な訳あらへん、絶対に! 今はまだどうすればええか分からんけど……いつか絶対、きちんと返事するっ!」
「……嫌っている訳では、ない、のか?」
「当たり前やろっ!? お前さんの『好き』とはまだ違うかもしれんが、確かにウチはオグリキャップのことが好きや、大好きやっ!」
だから、そんな顔せんといてくれ!
タマモクロスのその声は、しっかりとオグリキャップの鼓膜を震わせ……そのまま、オグリキャップ自身を震わせた。
オグリキャップは再び涙を流す。悲しみの涙ではなく、喜びの涙で。
「分かった……ありがとう、タマ……いつか絶対、君にも私のことをそういう意味で好きになってもらうから、覚悟しておいてくれ」
「おうおう、上等や! もうウチは絶対逃げへん、真正面からお前を受け止めてやるさかい、覚悟しとけや!」
約束だ、と二人は笑い合う。そんな二人を見てイナリワンとスーパークリークは涙を流し、アグネスデジタルは真っ白な灰になっていた。
数週間前に開催された『タマ、まだ告白の返事を聞いていないぞステークス』は、まだまだ続くのであった。
ご閲覧ありがとうございます。はい、まだ続きます。この後オグリキャップの猛烈な追い込みからタマモクロスは逃げ切ることができるのか? 乞うご期待。
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それでは、また次回。